『気になる相席』

 恵比寿の和食屋で昼飯を食った。満員だったのでテーブル席で相席となり、先に陣取っていたおばさんふたりと4人で正方形のテーブルの2辺を使って1辺にふたりずつ並んだ(なんか算数の問題みたいだ)。
 おばさんたちのお膳にはおいしそうな鯖の塩焼き定食が乗っていたので友人ともども同じ物を注文した。
 定食がでてくるまで時間がかかったので、友人と話し込みながらあたりをキョロキョロしていたら、どうもおばさんたちふたりが窮屈そうで仕方ない様子。なんでだろ、おかしいな、結構大きめのテーブルで楽に大人ふたりが座れるスペースなのに、なんでだ。確かにひとりのおばさんは先日亡くなったプロレスラーの三沢選手みたいな顔と体格だったが、それでもスペースは十分なはずだ。うーん、この窮屈さって…。
 あ、このおばさんたち箸の持ち方がそれぞれ右と左で、肘がぶつかりそうだ。だったらふたり入れ替わって座れば互いの箸は外側になるのに、なんという工夫のないことよ。それともふたりは古くからの友人関係で横並びに座る位置がこれでなけりゃ気持ち悪いのだろうか?恋人同士でもベッドでは右側とか左側とか暗黙の了解みたいなのがあったり、腕枕は必ず右腕とかあるもんな。気持ちがわからないでもないが、それでも思いっきり窮屈そうなので思わず席を替わったらいかがですかとアドバイスしようと思ったが、そんなことをしたらせっかくの鯖塩がマズくなってしまうだろうからやめた。
 けど、やっぱり軽く肘がぶつかるというか、軽くこすれ合ってる。しかもふたりともみそ汁の椀を持って視線はお椀に隠れて肘に意識がいっていない。このままではどちらかのみそ汁がこぼれて洋服に飛び散って気分を害するばかりかクリーニング代を請求したりされたりと、ふたりの長年の仲にヒビが入ってしまう可能性もある。
 あー、そわそわ。気になる。
 でもこうやって何十年も肘こすりあってみそ汁飲んできたんだろうなと妙に納得。それからはおばさんふたりのことなど一向に気にならなくなって、友人と美味しく鯖塩定食たべました。




都会の真ん中で天然鮎をやくダイスケ。
向こうには豪雨のなか郡上踊りが繰り広げられている。




『さよならマイケルⅡ』

 マイケルが死ぬ数時間前にはファラ・フォーセットが死んでいた。2日後には石川遼くんが激的なチップインイーグルを決めて全英オープン出場を決めた。沖縄では梅雨が明け、サラリーマンにはまたやりきれない平日が始まった。この3日の間にフラれたやつもいれば結婚した人もいて、車にハネられた人もいれば宝くじを当てた人もいる。豪雨だった日曜が明け、東京には夏の陽射しが戻った。
 地球は周り人は生きている。マイケルが死んだことは現実であるが、そればかりを騒いでばかりいてマイケルは喜ぶだろうか。彼を悼む気持ちがあれば、その分自身を強く生きて欲しいと、彼はきっと願っているに違いない。
 彼の死に「謎」を付け加えて伝説にしたがるのはわかるが、メディアも警察も総出で犯人探しをしているような気がしてならない。こんな不快な空気のなかで彼はネバーランドへの旅立てるのだろうか。そろそろ本気で彼を安らかにしてあげてはどうだろう。
 ほんの少しでいいから、彼の死から商魂を切り離して欲しいと願う。



『さよならマイケル』

「マイケルジャクソンは少年ではなく幼児。心を許した瞬間にそこにいる人のベイビーになれる人。計算のない甘え方は、甘えられる方をドキッとさせる」

 10年以上前に、マイケルと深い親交を持つ女性に聞いた言葉である。
 男と女ではなく大人と子供でもなく親と子ともちょっと違う、喩えるならば他のほ乳類の母子愛に似た、そんな異次元的な親愛に抱かれることを夢見て彼は生きた。
 こんな汚れた惑星では彼のピュアな心は理解されなかったかもしれないが、旅立った先の星では彼の思い描く純愛が享け入れられることを願う。
 スキャンダルが尽きない彼であったが、まぎれもなく彼は天使だった。のびやかに羽根を広げられる宇宙へ飛び立ったことは当然のことだ。ただ、もう少し地球でゆっくりして欲しかった。
 さようなら。心おきなく本物の月でmoonwalkしておくれ。



『老けんぞ』

 中学の同級生の圭子と久しぶりに飲んだ。あいつは同級生の中でも1、2を争う美人だったので、周りの人に「この人46歳」と紹介すると、みんなギョエーッと4コマ漫画の吹き出しのようなリアクションをとって驚く。それを見て圭子は手のひらを団扇のようにパタパタして電線マン音頭の振り付けみたいな動きをしながら「いえいえそんな」とおばさん丸出しの恥じらいを見せる。まんざらでもないようだ。
 同級生が若く見られるのは嬉しいものだ。それだけで自分の価値が上がる気がする。逆にめちゃめちゃ老けてたり死神みたいな相をかもしだす同級生といるとやりきれなくて猫背になる。人生47年もやってると、突貫工事では若く見せたりハツラツとした雰囲気を出せない。時間と経験の積み重ねが若さをつくり、また老けにも化ける。どれだけ意味のある経験を積んだか、それが結果、見た目に出る。
 老いと老けは違う。しのびよる老いに身を任すのもありだが、老いながらも老けに逆らうことはできる。なにも極端なことをするのではない。毎日をそれなりにハツラツと楽しみながら生きればそれで十分だ。
 そのためにと言ってはなんだが、飲む。飲んで愚痴るのではなく、愚痴るために飲むでもなく、飲んでアホになる。いや、アホになってしまう。結果、それがサイコウにピーハツとなる。ピーハツはすなわち老けの特効薬。これでいいのだ。
 木曜日だ。今日も飲もう。




この人は老けているのでしょうか。




『るすでん』

「もしもし、あしたテストやけん、がんばるけん、もうおこらんといて…」
 15分後。
「もしもし、さっきも話したけどな、あしたがんばるけん、おこらんといて…」

 見覚えのない電話番号からの留守電ふたつ。その方言の出所は広島か愛媛あたりだろうか。小学生らしき女の子はきっと両親のどちらかと間違えてダイヤルしたのだろう、それとも担任の先生か。そのせつない声の裏側にどんな事情があるか知らないが、胸がしめつけられて苦しくなった。
 名前も知らない子だけど、良い点が取れましたように。怒られなかったように。
 そう祈るしかない。




2009/06/30

『気になる相席』

2009/06/29

『さよならマイケルⅡ』

2009/06/26

『さよならマイケル』

2009/06/25

『老けんぞ』

2009/06/24

『るすでん』
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