『女子と一級河川』

 カフェめしを食ってたら隣のテーブルの若い女子がボールペンとメモ用紙を手に取りながらなにやら真剣な模様。魚とお肉が一品ずつ乗ったランチプレートをむしゃむしゃやりながらモゴモゴと話している。
 なにやら楽しそうなだ。こういう空気が半径2メートル以内にあると俺の地獄耳は作動する。きっと彼氏の話とかスケベな話を基本に旅行の相談でもしているのだろう。問題はこのふたりで出かけるのかそれともそれぞれアベックで行くのか、ひょっとしたらスリーパーソンプレイにチャレンするのかもしれないなどと勝手な妄想を走らせてすぎて俺のランチプレートは一向に減らない。
 するとひとりの女性がなにやら書物を出した。地図帳である。「地球の歩きかた」とか「るるぶ」とか、そういう類いのものではなく、明らかに地図帳!中学高校で使うあのくすんだマットの茶色の表紙でA4サイズのやつ。日本地図がそれぞれ見開きに6分割されて、地理的情報に加え都道府県のあらゆるデータがぎっしり網羅されたあの地図帳だ。

「せっかくだから一級河川めぐりしない?」
 なんだかとても学習的だが、そのロマン溢れる言葉に俺は反応した。
「まずは北海道からでしょ」
「じゃ石狩川とか十勝川とかからじゃない?」
 地図帳は北海道のページが開かれ付せんが貼られた。
「えーと、こうやって下るでしょ。だったら宿はこのあたりでとらなくちゃね」
「本州にはどうやって渡る?飛行機じゃつまんないでしょ」
「そりゃ青函連絡フェリーでしょ」
「じゃ東北はやっぱり青森の岩木川から入るの?」
「メジャー感を考えるとやっぱ北上川にするか、それとも山形方面に出て最上川からとか…」

 通だ。この人たちものすごく派手なネイルつけてとんでもなくシブい話をしている。ケータイなんかスパンコールでTMレボリューションみたいなのに、話題は一級河川めぐりだ。シビレすぎる、参った。
 しかしこの分で行くと鹿児島県の川にたどり着くまでに1ヶ月以上かかってしまうぞ。君たちなんとなく社会人みたいだけど大丈夫か?GWぐらいの日程じゃとうてい無理だぞ。

「問題は日本最大の流域面積の利根川をどう攻略するかだよね?」
「それって関東圏だしつまんなくない?私はどっちかっていうと信濃川派だな」

 流域面積。信濃川派。
 もうどうでもよくなってきたので俺はカフェを出た。



『花粉症完全終了報告』

 花粉症の期間は約100日。1月下旬からGW明けまでビッシリ、これが毎年繰り返される。その期間はクシャミと鼻水が止まらず集中力と向上心を欠くばかりではなく他にも代償がある。確実に体重が増えるのだ。
 僕は毎朝鼻で深呼吸をする。とにかく布団から出たらスーハー。出張先でも狭いビジネスホテルの安ベッドの上に立ってスーハー。たまに実家に帰ったらキレイに刈り込まれた芝生の上でスーハー。事務所で朝を迎えたら酒気の消えた山手通りを眼下にスーハー。朝の俺はスーハーマンなのだ。
 ところが花粉症期間は鼻呼吸が遮断されるため、通常時よりも10分の1ぐらいしかスーハーできないのである。ハーに限ってはほとんど鼻水のシャワーで、こちらも放出されるのは水分だけで二酸化炭素は微々たるもの。通常生活においても鼻呼吸を補うために口が超多忙になり、朝から晩まで唇からのどの奥までカラッカラである。
 こうなるともちろん運動が出来なくなる。特段すごいことをしているわけではないが、昨年から朝の友となったバランスボールも呼吸困難となりリタイア。向上心も欠落しているので我が家のバランスボールは単なる趣味の悪いオブジェと化している。
 何より問題なのは食事である。こればかりは不思議とやる気満々で、呼吸へのストレスが食欲に化けてものすごい量を摂取してしまうのだ。とはいえ鼻の気道が遮断されているため、口を動かしながら口で呼吸するジャグリングみたいな技術が要求されるため、これまた集中して食うことが出来ない。しかもジャグリングで疲れ果ててしっかりと咀嚼しないまま食道を通過させてしまうという悪循環が働き、胃袋の中での252(消化活動)が存分に果たされない。だからこってりと脂肪分が置き忘れられてしまうことになる。
 結果、GW明け2500gオーバー。あれだけ必死で6kg落としてちょっと体力的に問題アリと判断した上で計画的に2キロ増やしてナイスバランスをキープしていたのに…。都合シェイプアップ前と比べたった-1.5kg。もったいない。
 なので、花粉症が癒えたGW明け早々から夏のシェイプアップキャンペーン実施中です。
 今回は週2のウォーキングと同じく週2のバランスボールと、毎朝バージョンアップされた鼻深呼&お腹ペコリ術(メロリンキューと引っ込めるやつ)。あとは酒をちょっとだけ控えめに…。
 アマタツの天気予報を見ながらこんなことを真剣にやってるとどこから見ても主婦だが、なにを言われようが俺は本気だ。
 
 ここまで書いたところでJ-WAVEからこんな情報が流れてきた。
“花粉症でいちばんクシャミをするのは佐賀県民”。
 一体どうやって調べたんだろう?



『清志郎のミッション』

 少し時間が経ったので忌野清志郎のことを書こうと思う。僕は彼のファンでもないし曲もそれほど知らないしカラオケで唄ったこともないけど、いつも気になる存在だった。
 矢沢ファン特有の「俺はヤザワ好きだから他は興味ねー」的な時もあったので、同じロックシーンで活躍するアーティストのことを敵だと思ったこともあっけど、清志郎だけはちょっと違った。同じロックでも抜群にハッピーだったからだ。なんかこう、地響きをたてて天にシャウトするようなものでも音速を超えるようなものでもなく、ただただ初夏の草原の中で飛び跳ねているようで、そりゃ悩みはあるだろうけど唄おうぜー的な抜群に気もちいい音楽をやっていたからである。
 もちろん悲しい旋律もあるけれど、どこか闇を抜けて明日への扉をゆっくり開くように、どんな曲にも光が射し込んでいたような気がする。
 彼が亡くなってからの報道を見ると、誰もが泣きじゃくっているんだけれど、もちろん寂しさはあるのだろうが、どこか感謝の気持ちに満ち溢れていて、ちょっとだけ笑顔も混じっているというか、ハッピーな気分が散りばめられているというか…この人に会えて幸せだったというような思いが溢れ出ているような感じがしてならない。
 正直、死んだ気がしない。まだ生きているんじゃないかというよりは、もともと居なかったんじゃないかと思えるほどドロついた哀しみがない。ロックスターというよりは、神様というか天使というか、宇宙人ではないな、やっぱ天使だ。きっと背中に白い羽根をつけていつもの調子で天から叫んでいるのだろう。
「愛し合ってるかい!」。哲学よりも深い言葉である。こんなことを何十年も言い続けられる人は、やっぱり天使しかいない。忌野清志郎という名前をそのまま戒名にして天に昇って、ボロボロになりつつある地球にあきれながらも、叫びつづけてもらいたい。この星の住民にはどこそこの偉い人の言葉よりも、天使の叫びがいちばん効くんだから。まだまだ清志郎さんのミッションはこれからです。
 そうかよろしくおねがいします。



『イジり道』

 イジりはするけどケンカはしない。イジりはコミュニケーションのためのツールだ。イジっちゃいけない人は絶対にイジらない。だからヤ○ザみたいな人が前方からグワシッと歩いてきたらもちろん道を開ける。チンピラでもヤンキーでも同じ。モメることは好きじゃない。ただ、通り過ぎてしまったことを確認したら、発見してから通り過ぎるまでの妙な緊張感をイジる。それもまだ奴らの背中がそこにあるうちに。あまにも向こうに行ってしまってからでは緊張感に欠けてイジりにドキドキ感がなくなるからだ。
 イジることは大切だ。場が和やかになる。誰か主役を設定して、茶目っ気たっぷりにからかい、笑い、そして考えさせて、最後にはちょっとしたアイドルに仕立てる。その人に対する心理状態を的確に描写し、それを周りに居る人と共有することで、かならずチームワークは確立する。イジリは『ともだちのワッ!』なのだ。
 そのためにも、誰をイジるのか?どうイジるのか?どんなシーンでイジるのかを徹底的に研究して、つまんない日々にうんざりしている人たちに活力を与えてあげてほしいと願うのだ。
 そして人はイジり方次第で、いやイジられ方ひとつでスターになれる。弁護士がいっぱい出てくる番組やおバカタレントとか格付け女云々というような番組なんて、タレントの腕ではなく、司会者のイジりによって成立しているだけではないか。つまりイジられる側は登竜門、どんな潜在能力が備わっているかを誰かのイジりに委ねればいい。イジる側は、言うならばプロデューサーというとこだ。
 ただしイジられ方に腹を立てたら一瞬にして夢もチームワークもこなごなになってしまうのでご注意を。
 
 もひとつだけ注意ですが、電車の中とかで明らかに『ヅラ』な人を見かけても、絶対に誰かに同意を求めたり見ぃ~つけたアピールなどしないように。コンプレックスとプライドが混ざってますので、かなり厄介な問題に発展します。



『舌打ちする女』

 イベント会場で、眉間にシワを寄せて肩で人にぶつかり「チッ」と舌打ちしている中年女性がいた。多忙なのだろうが、見るからにマイナスオーラ満載である。
 その女性がゲストを誘導しながら僕の方に向ってきた。人がごった返していたので道を存分に開けてあげられず、のけぞるようにして動線を確保したのだが、その女性には不満だったらしく、彼女はまた「チッ」と言いながら僕に対して右手の甲で「シッシッ」と野良猫を払うようなポーズをした。
 気分が悪くなったが、なにか言うともめるので凝視するに留めたが、彼女は僕の正面で立ち止り不機嫌極まりない顔で「あなた誰?」と言った。僕は条件反射のようにこう言った「あなたは誰?」
 すると女性は「私はこのイベントのエグゼクティブなんちゃかんちゃらで…」と言ったので、「それでどうかしましたか?」と返した。
「だからあなたね、邪魔なのよ」
「それでシッシッですか?」
 そう言ったところで、彼女はクライアントらしきおっさんを発見したらしく、「あらー、どおーもー、ごぶさたですーう」と、野良猫も恥ずかしくなるほどゴロゴロと喉を鳴らしていたので、思わず笑いを漏らしたら「なにが可笑しいのよ」とまた般若の顔に戻して僕を見た。
「すみません、すべて僕がいけないんです。それにしてもあなたは今日のイベントよりも面白い」と言い残してその場を去った。
 僕の耳には、周りにいた人たちの幸福な失笑が微かに聞こえた。
 下らないことで怒るのは損だ。怒りをイジリに換えれば空気は変わる。
 あーおもしろかった。




2009/05/15

『女子と一級河川』

2009/05/14

『花粉症完全終了報告』

2009/05/12

『清志郎のミッション』

2009/05/11

『イジり道』

2009/05/08

『舌打ちする女』
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