『さくら、さき、まい、ちりぬるを…』

 葉桜が芽吹いてきた。新旧交代、それともコラボレーション、最後の晩餐か。
 今年の桜は粘り強かったな。満開手前でぐっと堪えて舞い、そしてワーッと花を開かせた。わずか一週間で何度も衣替えして最後は春風を味方につけて桜吹雪、これも見事だった。
 桜の花は下を向いて咲いているので、ベスポジは木の下で寝転がって空を見上げるといいらしい。そこにカワイ子ちゃんの膝枕があればさらによし。
 風に舞う花びらを追うこともなく定点観察で向こうから運ばれてきた花びらを視界に入れる。花びらの舞はまるで五線譜、頭の後ろの方でメロディーが流れる。誰かが唄う「さくら」でもなく、聴いたこともないけれどなんとなく知っているメロディーがそよそよ。
 季節が変わったばかりなのに小刻みに季節は流れている。単調な毎日だってきっと、そういうものだと思う。
 これから横須賀。とっておきの季節の中で大好きな唄を聴きに行こう。




日比谷にいるゴジラ。




『マロン鍋』

 昨日は事務所で鍋をやった。鶏肉をどっさり入れ、あとは白菜とキノコ類わさわさのいわゆる水炊きである。
 そこそこの人数になったのでサイドメニューもこしらえた。キャベツとじゃこの焼きサラダ、アスパラとトマトのサラダ、なすのサラダ、サラダばかりだがサラダは手間がかからなくて都合がいい。
 あとは明太子とのりの佃煮をねりこんだ卵焼きと、菜の花のおひたしと豚バラ生姜焼きと、メインに焼豚を豪快にドカン。
 全部作った。立派だ。味もそこそこ自信はあったしみんなも喜んでくれた。
 あとはビール60本と焼酎4升をぐだぐだ飲み、ついでにドンペリ。
 歩いて45秒もすれば桜の名所だが、もう花見気分は過ぎたので、ひたすら春呑みである。

 店での飲み会もいいが、忙しいやつらを招くとどうしても五月雨的な集合になってしまう。ならば事務所でだらだら呑みながら好きなときに来て好きなときに帰ってもらった方がいい。小倉から電話で参加したやつもいて20人の男鍋になったが、気付けばいつもどおりの7時スタート3時アップという、いー感じのマロン鍋になった。
 ただ後片付けは大変だった。しゃーないな、そこまでが「鍋」ということで、ひとつよろしく。



『またしても感服、ユーミン』

「機嫌がいい女は いい女」。ユーミン最新の名言である。
「機嫌がいい」とは精神力の問題で、どんなに辛いことやつまらないことがあろうとも、人と接するときには機嫌のいい女を演じるのだそうだ。そうすれば接した人は少なくとも不機嫌にはならない。逆に機嫌の悪さを露呈すれば相手もなんとなく不機嫌めいた感じになり、それがまた自分に跳ね返り不機嫌さに輪をかけた状態になって双方の関係は崩れてしまう。
 どうあがいたところでこの星の人間という生き物は対人関係なくして生活はありえない。人に対しては自分の身勝手な不機嫌は無理してでも隠すべきで、そうすることで不機嫌だった自分を省みなさいという修行なのだと。
 滲みるわ。考えさせられる。即興でそれが言えるユーミンは神である以前に誰よりも人間である。人間なんて大人と子供で構成されている多感でわがままな生き物だが、場面に応じて大人と子供を使い分けられれば、それがもっとも人間らしいのかもしれない。
 人生の中のほんのちっぽけな瞬間でも人への気遣いはある。それに翻弄されることは馬鹿げた話だが、そんなちいさなことも自分の人生の一部だと気付くことが、自分を大切にするためには不可欠なのだろう。



『個室のウォータースライダー』

 コウンをするときはなぜかいつも穏やかで、もう限界点にまで達して駆け込んでも座った瞬間に小鳥のピヨピヨを聞いてしているような緩やかな瞬間が訪れる。そんな精神状態の中での行為は集中力に富み、かなりの割合で大物を出産することができる。
 そしていつも俺はどれぐらいのブツかを確認する。股間から便器を覗いて、太腿が視界を邪魔するので少しばかり腰を持ちあげ柔らかなスクワットのような状態で、さらに腰を屈ませ軽いS字のような格好となり、かなりみっともないが、でもなければなかなか正しく確認ができないのである。
 ついさっきの話であるが、上記のような検証ポーズで便器を覗いたところ、ブツがない。こういう場合はブツがウォータースライダーのように便器のブラックホールにスルッと消えたことを意味する。それほどに完璧な形状と重量感とスピードが一致した、逆転満塁ホームラン級の当たりだったことを裏付ける証拠なのだ。
 俺の体内から押し出した感は満点なのだが、そこにブツが横たわっていないといささか寂しさはある。けれど、それも極上の一品を産み落としたのだからしかたないのだと納得しながらもほのかな刹那に包まれた。
 ウォータースライダー級のブツって、拭き取った紙にも証拠がつかないんだよね。
 たかがコウンの話だけど、なんでこんなに嬉しいんだろ?
 春だな。



『春の珍事故』

 「止まれ」を無視して突っ込んで来たおばさんカーと接触しそうになった。これ以上ないというほどの急ブレーキで約60センチのところでなんとか止まったが、車体の後ろ側が持ち上げられるようなつんのめるカタチになった。温厚な俺もさすがにブチっと来てクルマを降りておばさんに駆け寄った。
 結構なブレーキ音がしたので5、6人のギャラリーが集まって「T」の字になった2台のクルマの周りを囲んだ。
 おばさんが降りてきて興奮した口ぶりで言った。「私は一時停止したのに、この人が猛スピードで突進してきたのでぶつかりそうになった。」
 そのうちに目撃者が口を挟んでくれると思い、とりあえずおばさんに喋らせといたが、おばさん、結構演技派で見ぶり手振りを交えてかなりの危機感をアピールしながら女優を演じていた。
 ありもしないおばさんの名演を見て反論するタイミングを失いそうになったが、どう考えても時速20キロぐらいで究極の安全運転をしていた俺が悪者になってしまうので、正しい状況説明をした。
 ただ俺まで興奮すると嘘っぽくなるので努めて穏やかに話していたら、ギャラリーのおばさんA(芸人の「ものいい」の“ちがうかっ!”って言う方に激似)が、「あなた、本当だったらなんでもっと怒らないの!」なんてめっちゃくちゃなことを言うもんだから、他のギャラリーの俺に対する視線がさらに厳しくなり、それでも興奮するのは恥ずかしいから「あのね、おれ、まったく悪くないの。猛スピードで突進したらブレーキの痕がつくでしょ。ほらみて、どこにある?」
 余裕しゃくしゃくで場の空気を一気に切り替えた俺におばさんB(さして特徴はない)が「そういう問題じゃないでしょ」とまたまたむっちゃくちゃなことを切り出し、そのひと言で理不尽なことにギャラリーが同調してしまい、無実の俺はわけがわからないまま大ピンチに。
 もう怒りとか興奮とか、そんなもんどっかへいってしまい、ただ「なんで?なんで?」って、こればっかり頭の中に出てきて、?顔になった俺はどうしていいのかわからなくなってしまった。
 落ち着け、冷静になれ、怒るな、無実を立証させてこの場を立ち去ろう。後続車も道を遮られて迷惑している。ただやっかいなおばさんとバカなおばさんギャラリーたち…。もうやんなった。
 そこへ「どう考えてもこの女性が悪い。この青年は安全運転で左右確認もしていた。あなたのウソに対して怒りも抑えている。この青年に謝りなさい。」
 ロマンスグレイとはいかないが、そこそこダンディなおじさんの登場で俺の立場は逆転した。
「いや、いいですよ。後ろも詰まってるみたいだし、これからは運転に気をつけましょうね。」とだけ言い残し、助けてくれたおじさんに会釈をして俺はヒーローのように立ち去った。
 バックミラー越しに現場を見ると、おばさんがまだ「わたしは悪くないっ」って感じの手振りをしてるが、もうギャラリーはいなかった。
 正義は勝つ。別にどうってことない話だが、俺はおじさんの「この青年」というフレーズがたまらなく嬉しかった。
 息を整えふと側道に目をやると、桜が満開になっていた。

 春の珍事故4月3日版。「完」




2009/04/09

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2009/04/08

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2009/04/07

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『個室のウォータースライダー』

2009/04/03

『春の珍事故』
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