『あーあの巻き』

 NYへ出張していた社員とシゲとクワタを迎えに行こうと思って高速を飛ばし、事務所に電話をして成田着は何時だと聞いたところ、「関空到着となってます」と冷静に言われた。サプライズで迎えに行ってやろうと思ったのに、似合わないことするもんじゃないね。といって、もう江戸川超えて千葉県に入っちゃったし、あーあ。
 計画性のない自分に呆れています。ばかばかばかっ!




高速ビューンもムダ骨。




『同級生と先輩と飲む』

 昨日は築地で某ナショナルクライアントの来期のプロモーション会議をした。俺に与えられる役割はいつも同じで、何でもいいから自由に話しまくってください、というものである。ロジカルな人たちはみな、あらゆる条件を計算式にのせて、だからこうなり、こうなるからああなるわけで、そうなればこれはきっとこんな効果を生み出すと思われるのです、となる。
 確かに分り易く、なんとなく安心できる感じにはなるが、その手慣れた「感じ」にパワフルさが足りなくてなんだかもどかしい。何億円も使うんでしょ?ならばまずは自由論議だろ。知識ではなく知恵を使え。経験でも聞いた話でも理想でもなんでもいい。知恵を開放しながら伸び伸びと話されたし。善い悪いは後から論議しようじゃないか。
 結局、俺ときたらジャイアンツやボーイスカウトの話ばかりをして、いったい何だったんだろという思いだったのであるが、そんなところから始まるから企画とはオモローなのである。さてさて、どうなりますやら、いつもちょっとだけ人事だと思っているので、行く末が楽しみでなりません。
 そんな話を3時間ばかりやってから中目黒で飲んだ。昨日のメンツは小学校時代からの同級生といっこ上の先輩。先輩は出張で来ていて、同級生は単身赴任で浦和に住んでいいて、んじゃ飲もか、である。
 その居酒屋はいつも大繁盛で、昨日も満席で大にぎわいを見せていた。リーズナブルな値段設定で客には若者が多く、サラリーマン5年生から10年生あたりの奴らと、売れないバンドマンみたいな自由な格好したやつらでごった返していた。明らかに俺たちは最年長に近い存在だったのに、小学生から知っているもんだからして、いくらスーツ着てネクタイしてても、俺にはニキビ面の中学生にしか見えないのである。そのクセ、アタマだけはしっかりハゲていて、気分としては朝刊紙の三面記事の左隅にある4コママンガなのだ。
 ま、それがホッとするわけで、人から見たらただのおっさんにしか見えないだろうけど、俺から見ればガキが背広着たとっちゃん坊やというか、つまりガキデカなのである。
 楽しかったなぁ。やっぱ出るよな、下らん話。誰が不良で誰と対立してて、体操部の部室はいつも煙がモクモクしてたとか、○○先生は○子のことが好きで、ラブレター書いたけどフラれて、それからは授業中に○子にめちゃめちゃ厳しくなっていやがらせばっかしたとか、あいつは校舎裏の八百屋で金ちゃんヌードルをネコババしたとか、そういうどうでもいい話を46歳になっても覚えてるから可笑しい。きっとみんな会社では一目置かれる存在で、本部長だの支店長だの立派な肩書きもらって、社員とすれ違う時にはぺこっと挨拶されて、しばらくしたら振り向かれて背中にあっかんべーされて、大変な毎日を過ごしているのに、飲み屋に入ったらネコババ事件のことばっか話すんだもんな。でも最高に楽しかったので、これからも本気で中学時代の話を繰り広げたいと思っています。
 一夜明け、外回りをしてから、腹が減ったので中目黒駅前の『松屋』に入ると、奥の方から「圭ちゃ~ん!」とハツラツな声が飛んできた。昨日飲んだ先輩が手を振りながら嬉しそうに笑っている。どうみてもホモっぽい光景で、せめて俺はノン気っぽい態度で、「どうも」と答えた。先輩はすでにトマトハンバーグを8割以上食べていて、少しお腹も落ち着いた様子だった。
「で、圭ちゃん何食べるの?」
 だからそれがホモっぽい。
 そして先輩は俺がカレー牛を完食するまで待っててくれて、俺たちはそれぞれ別方向に歩いていったのでした。盆過ぎだったけど、ちょっとだけ帰省した感じで嬉しかったです。




本来あるべきDNAのままに成長したプードル。
「トイ」ではないからかなり巨大。このサイズこそスタンダード。
人間よ、犬を勝手に小さくしてはいかんぞ!




『明け方のせつない空』

 夏の夜明けは気持ちがいい。アスファルトに滲み込んだ熱が放出されて、なんか深呼吸しているみたいだ。昼間の猛暑で蓄えた熱は深夜になっても冷めきらないが、それでも夜が終わって朝が始まる前のつかの間のひとときには暑さを忘れさせてくれる涼がある。
 俺はときどき深夜にフラつく。飲んで帰ってきてもういちど外に出る。缶ビール片手に幹線道路沿いの歩道の適当な場所に腰掛けてビールを飲みながら走り去るクルマをただ眺めてる。
 腹の出たお巡りさんの自転車のライトに照らされて、どうなさったんですか?とよく聞かれる。本当は、何してるんだ?と言いたいのだろうが、昨今のお巡りは評判も悪く、きっと口の聞き方も指導されているのだろうか、以前のように調子に乗った口調で言うこともなく、俺の心も穏やかなままである。
 4時を過ぎた頃から分刻みで空が変わっていく。夜が終わったばかりなのに、もう朝の準備をしなければならなくて、夏の空は忙しい。逆に冬は働かなさすぎるんじゃないの?夕方5時から朝6時半までお休みなんて、ちょっとムシが良過ぎるんじゃないの、空くん。
 明け方の空は恋の匂いがする。あの頃のせつない気持ちが、この時間にだけ漂っている。どんな恋だったのか、どんな人のどんなところを好きになったのかはちょっと忘れてしまったけれど、なんかどうしようもない恋のせつなさが空全体に漂っている。両思いというよりは片思いかな。満たされなくて溜め息ばかりついていたあの気持ちが、夏の明け方にはある。
 道端に座るのも手にした缶ビールも何も変わらない。変わったのは、あの頃せつなくて飲んだ苦いビールの味が、今ではそんな思い出を肴にしてのどごし良く俺の食道を通過することぐらいだ。
 歳をとると辛かった思い出さえ愛しくなる。いつまでもこんな夏の気持ちを大切にしたいものだ。




せつない空。




『土佐礼子』

 土佐礼子が気の毒でならなかった。もともとレース中に1キロ走れば1歳ずつ歳をとっていくような顔になっていたのに、昨日のレースでは一気に老婆になってしまったようだった。
 土佐の頑張りには目を見張るものがあり、先頭集団から脱落してテレビ画面から消えてもレース終盤には必ず映り込んでいるという驚異的な粘りを見せて、どんなレースでも必ず入賞を果たしてきた。どこで仕掛けるとかいうのではなく、誰が仕掛けようがどんなレースになろうがゴールするまで粘り尽くすというド根性にいつも感動させられた。
 昨日のレースもそれを期待していたのだが、とても走れる状態ではなかったのだろう。そして彼女は走ることをやめた。
 すべてをかけて勝ち取った五輪の切符だが、それが重圧となり自分を苦しめ潰れていく選手は多い。あれだけ出場したかった五輪に、大会終了後「出なければ良かった」と嘆いた友人もいる。それが五輪という無情である。五輪切符を掴んだ時の興奮はどこへやら、体調不良や練習不足などから不安を誘い、そうなると国民の期待は計り知れない負のプレッシャーとなる。結果が伴わなければ、出場したことさえ素直に喜べないという気持ちもわからんでもない。それを、かけがえのない財産と思えるまでには時間が必要だろう。
 野口が欠場していなかったら、土佐は出場しただろうか。野口の分までという気持ちが返って彼女の足に負担をかけたのではないだろうか。辞退したくてもできないマラソンという呪縛に、犠牲になったのは土佐であり野口である。
 あれだけの功績を収めた彼女たちが、たった一度の失敗で、そこことばかりが印象づけられて苦しみながら生きていくことがとても辛い。オリンピックに出場することがどれだけ立派でどれだけ尊敬しなければならないことかを我々はもっともっと理解すべきである。
 せめてしばらくの間は、走ることも悩むことも忘れて、普通の人として過ごさせてあげたい。



『お盆』

 あー帰りてーなー。お盆だよ。精霊流ししなきゃ。枝豆ととうもろこし茹でてスイカ食べて腹こわさなきゃ。縁日でとなりの中学の奴らとやりあわなきゃ。先祖に手をあわせていつまでもちっとも成長していない自分を申し訳なく思わなきゃ。そう思った矢先に同級生から誘われて近所のスナックに行ってべろんべろんに酔っぱらわなきゃ。いつまで経っても中学時代にツッパってたことを自慢するバカをおちょくって本気でケンカしそうにならなきゃ。中学時代にマジ惚れしていた子を30年振りに見て、何とも言えない気持ちにならなきゃ。逆に俺もそう思われて少し落ち込まなきゃ。知らないうちに手を合わせるのは先祖だけじゃなくなっていることに気付かなきゃ。戦争もののテレビを見て、そろそろ本気で考えなきゃ。そしてまた昼間から仲間と飲まなきゃ。お袋の美容室に顔出して、何十年振りに会ったおばさんに「あれまぁ、あんた大きいなったねぇ」って言われて、「まぁ大きいならへんよ」って返さなきゃ。カレーと茶碗蒸しとうなぎを一緒に食って、最高に満腹にならなきゃ。ちょっとだけ、ずっと田舎にいたいなって思わなきゃ。
 お盆にはやることがいっぱいある。今年は東京だけど、ちょっとだけ時期外れのお盆を企画しながらニヤニヤしているところであります。




なんとなくお盆なので。





2008/08/21

『あーあの巻き』

2008/08/20

『同級生と先輩と飲む』

2008/08/19

『明け方のせつない空』

2008/08/18

『土佐礼子』

2008/08/15

『お盆』
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