『さよなら花粉症』

 雨が降っている。今日の千葉のロケはどうなるんだろう? 海だし。雨は人の予定を狂わせるから大変だ。ほんとダダっ子みたい。
 ところがここ2、3日の雨は嫌いじゃない。寒いけど凍えはしない。冷たいけど温もりがある。
 なぜなら、もうすぐ夏が始まるから。真夏は嫌いだけど、真夏に向って準備を始める初夏が訪れるから。なんでそんなに初夏がいいって聞かれても…新緑が眩しいからとか、匂いが気持ちいいからとかあるけど、やっぱ杉花粉がなくなるからでしょ。
 思えば今年もやっぱり3ヶ月間苦しんだ。鼻の奥の細道をアルゴンプラズマという高圧ガスを吹きつけて粘膜を焼く手術をしたけどやっぱりダメだった。去年の夏からヨーグルトを食べ続けたけど、まるで効き目なかった。もう春先はバリバリの重症患者でいるしかないと覚悟した。
 そして季節とさよならの瞬間がやってくる。雨が連れて来てくれる。一雨ごとに僕の鼻の奥にそよ風が吹きはじめる。今はまだ霧のかかった草原だけど、朝露をふりはらえば無限大の爽快感が訪れる。
 もうすぐそこ。花粉症じゃない人にしたら“なにそれ”だろうけど、僕にとってはときめきの季節。
 さよなら花粉症。もうすぐお別れだね。心から、さようなら。



『女優の涙』

 写真家の笠井と飲んだ。途中で合流した女優とは長い付き合いで、彼女のプライベートがどしゃ降りの雨だったので、しばらくみんなで場を盛り上げながら飲んだ。それでも女優の心の天候は雨が降り続いたので、結局フグが朝の8時まで一緒に飲んだらしい。
 朝の8時にバーの扉を出た時はショックだったろうな。外では新しい一日が始まっていて、昨日の延長線上にいるのは自分だけという思いに苛まれ、どこか取り残されてしまったような気がして落ち込んだに違いない。普通の仕事をしている人なら一生ありえないことだろうけど、僕らにとってはさほど珍しいことではない。でも8時はちょっと珍しいか。飲み過ぎだな。
 女優はおいてけぼりになった一日に何を思ったのだろう。撮影がなければきっと昼の3時頃までは眠るのだろうが、目が覚めて酔いも冷めたときには、また雨がどしゃ振ったのだろうか。3時からの一日とはいえ、せつない気持ちで過ごす日はとてつもなく長い。ちなみにフグはこれ以上顔色悪くなることあるの?という限界点ギリギリのどす黒い顔を披露しながらもど根性でなんとか一日の仕事をこなしていた。
 テレビや映画で彼女の泣き顔を見たことはあったが、目の前でしかも酒の飲みがら号泣されるとさすがにびっくりした。ここしばらくは辛い思いを抱えながらカメラの前では笑わなければならないんだろうな。
 女優って大変だ。だけど頑張れ女優!



『涙の歌謡曲』

 ハノイの夜に僕の部屋で同い年の編集者と酒を飲んだ。ともに昭和の歌謡時代を過ごしたせいか、どうしようもなく歌謡曲を聴きたくなり、i-Podに収めてある松本隆大全集をベトナムビールを飲みながら聴いた。
 なつかしいなぁ。これは中学何年の頃の曲だよな。これは化粧品会社のキャンペーンソングだよな…同じ時代にニキビをつくったやつとは甦る映像もきっと似ているのだろう。曲が変わるたびに脳裏に映し出されるシーンを確認し合いながら、僕たちはビール缶を何本も空けていった。
 松本隆の曲も15曲を過ぎた頃、斉藤由貴の「卒業」が流れた。それまで盛り上がっていた彼の口がぴたりと止まり、彼は突如うつむいた。しばらくすると彼は肩を振るわせ、折り曲げた右手の人差し指の第二関節あたりを目頭に添えた。口元からはかすかに嗚咽が洩れ、それを気付かれまいとさらに顔を垂らすのだが、そうするほどに嗚咽は音量を上げながらこぼれ、顔面が床に近づいた頃には明らかに嗚咽から泣きじゃくりに変わっていた。
 あまりの可笑しさに、僕は声を出して明るく笑ったが、不思議なことに笑いながらにして泣けてきたのである。もう完全なもらい泣き。ばかばかしい話だがほんとうに泣けて仕方なかったのだ。
 音楽というものの素晴らしさ、ばかばかしさ、恥ずかしさ、淡さ、どれもこれもがミックスジュースになって僕の頭の中で勝手な妄想を築き上げ、バカな男の涙を見ながら僕も泣いた。
「45歳にもなって歌謡曲聴いて泣けてくるとは思わなかったよ。しかもなんでハノイなんだよ。だけど嬉しいよ、たまらなくせつないよ」
 完全にバカ過ぎる言葉だが、僕は感動した。僕たちはこういう気持ちで仕事をしなければならないのだと一方的に思ったし、そいつもきっとそう思ったに違いない。
 涙が一段落した頃、「木綿のハンカチーフ」が流れた。また涙が流れた。今度は恥も外聞もなく、いきなり号泣である。しかもショルダー&ショルダー。ガッチリ肩を組んでスクラムトライである。
 その光景は、たぶん俺たちふたり以外の誰が見ても果てしなく気持ち悪いに決まっているが、それでも俺たちだけは美しい草原の中で肩を組んでいるような気分だった。
 
 妄想というものは本当に不思議だ。歌詞の中に描かれてある経験などしたこともないのに、あたかも自分の実体験のような錯覚を起こさせそして涙を流させる。
 そんなデタラメな妄想を感動的な過去にすり替えてしまう音楽という魔法。
 ただ僕たちは、ほんとうに素敵な歌謡曲を聴きながら大人になれてよかった。




ベトナムハッピー♡




『岸さん』 

 ハノイはずっと霧に包まれ、幻想的な空気の中で過ごしました。というのは良く言い過ぎで、単に天気が悪く、しかも公道を歩いているだけで確実に一日に4回程度は死にそうになるほどバイオレンスな交通環境でギリギリの撮影をこなしたわけです。
 ところが神は我々を見捨てません。天候が悪ければ日差し以外の何かで恩恵を与えてくれました。
 岸さんというコーディネーターの方です。岸さんは元フランス大使館に勤務されていたエリートです。そんな肩書きなので、ちょっと気取った人なのかなと思いきや、びっくりするぐらい気さくで愉快な方で、最後の1日は岸さんの物真似で11人のクルーが大盛り上がりして泣き出したぐらい個性的な方だったのです。
 岸さんは江戸っ子です。ゆえに歯切れのいいしゃべくりが小話のように心地よく、人情や小ネタなども混ぜながら僕たちに気を配り、かるく笑いをとり、ちょっぴりセンチなストーリーもブレンドし、その会話と行動で僕たちの疲れを癒してくれました。
 岸さんは僕と同じ年齢でした。僕が偉そうにロケバスの座席に座ってあくびをしているときに岸さんは真っ先にカメラマンの機材を運び、現地のアシスタントに指示を出し、そしてきびきびとした動きの中にも笑いをとりながら、僕らを誘導してくれました。“いかん、出遅れた”と心の中で呟きながらも、なかなかカラダを動かそうとしない僕とは大違いで、岸さんは何かを思う前にカラダを動かしていました。
 「偉い」「立派」「尊敬」の意味にはこういうものもあるのだなと痛感させられたハノイの旅。
 岸さんと同い年ということもあり、僕にとってはいろんな意味で忘れられない旅になりました。
 今度地球上のどこかで会ったら、同い年ということなのですべて無礼講として、タメ口でどっぷりと酒を飲もうという夢のような約束をしました。けれど絶対に実現しそうな気がするのであります。たぶん岸さんも同じことを思ってくれていると思います。やっぱいいね、旅は。




ハノイの子供。




『ベトナムにいます。』

 ベトナムのハノイにいます。撮影が終了してホテルの部屋でのんびりと歌謡曲聴いてます。海外ではこういう時間が一番好きです。 ベトナム料理、フランス料理、チャイニーズ、コリアン、どれもおいしかったけど、昨晩はたまらずスーパーで味噌汁を買い込んでしまいました。そして今朝のバイキングにはなんと赤味噌の味噌汁があり嬉しくなりました。しかも恵比寿の定食屋並に美味かった。
 飛行機に乗るまでしばらく自由時間。ホテルにはレイトチェックアウトを頼んであるので、プールサイドでビールでも飲みながら本でも読んバカンス気分を満喫しようと思ったけど、本読むの嫌いだし昨日お腹こわしてシャーシャーになったので、このまま歌謡曲聴きながら昼寝でもします。
あっ、キョンキョンの曲かかった。もう最高です。




ホテルの窓からの景色です。





2008/04/19

『さよなら花粉症』

2008/04/18

『女優の涙』

2008/04/16

『涙の歌謡曲』

2008/04/15

『岸さん』 

2008/04/14

『ベトナムにいます。』
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