『苗場のユーミン』

 苗場に行って来た。ユーミンの苗場である。
 ユーミンに会うといつもなにかを感じる。それは特別なものではなく、僕の中にある僕が忘れていた何か。それをユーミンに気付かされ、どきっとしてしまうと同時に、こんなに単純なことを忘れていたのかと自分が情けなくなってしまう。
 ユーミンがいつまでもトップで居続けられることは、きっと自分の中にある単純なことや当たり前のことを見逃さず見落とさず大切に向き合っているからだと思う。人間だからいろんな悩みや迷いや不安はあるだろうが、それでもいつだって人前に立つユーミンはキラキラとしている。決して見失ってはならない何か、自分のなかにある当たり前のことたちが、いつも自分の目の届くところにちゃんとある。あの人はきっとそんな人なのだと思えて仕方ないのである。
 ひとつのことに燃え尽きて空っぽになって、けれどそこに何かを埋めなくてはならなくて、かといってそこに埋めるものは何でもいいということではなくて、埋めなければいけないものは必然としてあるわけで。
 もちろん空っぽから満タンになるまでにはいろんなことがある。時には満タンになる前にステージに立たなければならないこともあるだろうが、目の前にいる人々の心だけは満タンにしなければならない“ユーミン”という運命。それを何度も経験して、今日もユーミンは苗場のステージいる。
 ユーミンから教えてもらうことは、誰にとってもあたりまえなこと。
 ほんとうにありがたいことだ。




深夜の苗場ゲレンデ。




『ふるさと関市のこと』

 関市の「ふるさと懇談会」に出てきた。関市とは僕のふるさとである。だから「ふるさと懇談会」。
 新しい市長は県会議員を何期か務めたキャリアを持つ、いわば地元の名士で、前任の市長より15、6歳は若い。といっても61歳(と言っていた)。
 市長のことはよく知っている。親父が死ぬ前日に見舞いに来てくれて、ベッド際で親父に「頑張れ」と言ってくれたので印象は悪くない。
 確かどこだか大学の応援団長だったのである意味では筋が通ってる人だと思うし、元々やんちゃじゃなければその時代に大学の援団のしかも団長になんかならないだろうから、そんな背景からも何かを期待している。
 僕のふるさとは良い町であるが、実は何が良いかは誰も知らない。漠然と“良い町”なのだ。周りの町村が合併して人口が10万人を超え、面積もとんでもなく広くなってしまって、もう少しで福井県ということろまで広がってしまったので、あまりピンとこない。そんな規模的なことも含めて今では単なる田舎町ではなくなってしまっているが、かといってちっとも都市ではないから、まぁやっぱ田舎か。

 昔からの市民と新しい市民とではいろんなものが違う。都会の人にはわからないだろうが、田舎っていうのは5キロ離れたら方言も違うし、みそ汁の味も違う。同じ味噌を使っていても味が違うのは不思議だが、そもそもそれが田舎の個性であり主張なのだ。
 ゆえに、新しく関市民となった人たちは、きっと心のどこかで面白くないと思っているに違いないし、ずっと関市民だった人の心の中には、そんなに拡げる必要あるの?との思いがあるに違いない。
 伝統や背景や産業や農業が違うんだからあたりまえなのだが、だからこそやることはひとつ。
 始まったばかりの関市の中で、あたらしいふる里づくりをする以外ないのだ。

 それには、ふる里の何が良いか、どこが良いかを、市民の誰に聞いても同じ答えが返ってくるようなキーワードを持つ事が必要であり、それがなければ作るだけのことだ。いつわりなく、オリジナリティあふれるキャラクターを「ふる里」に浸透させることである。
 ちょっと前まで別々の町村だったのが、ある日を機会にひとつ屋根の下の行政下にまとめられる。 
 地方行政の、しかも田舎町の市政というものは本当に大変だと思う。

 僕は田舎に帰ろうなんてこれっぽっちも思ってないが、死ぬまで市役所に務めた親父のせがれなので、今度市長とゆっくりと話しをしようと思う。




おじさんおばさんで大盛り上がりのふるさと懇談会。




『遠いところにいるともだちへ』

 友よ、北国の春はまだ遠いですか?東京は冬と春が交互にステップを踏みながら軽やかなタップダンスを踊っています。ウソ、やっぱりまだ全然冬です。かなりさびーです。
 お母さんは元気ですか?寒い処の人は忍耐強いといいますが、それでも歳をとると弱気になって強がりなんて捨ててしまいたいと思う時もあるでしょう。人はそんな時に一気に老け込んでしまうものかもしれませんね。そしてそれをあなたが感じ取ってしまったときに、あらためて時間の流れというものを感じるものでしょう。
 お母さん孝行の君のことです。お母さんを幸せにしてあげることはあなたの大きな仕事です。仕事という言い方は変ですね。仕事よりも大切なこと、と言い換えます。
 ふる里に帰って東京に戻ってきたときのあなたはいつも活き活きとしていました。ただでさえ澄んだ瞳がより透きとおって、目が合うとこちらが恥ずかしくなってしまうような純粋さを感じたものです。けれどしばらく東京での暮らしが続くと、瞳の上に霧のようなものがかかって、もちろん感覚的な話ですよ。だって瞳の上に霧なんてありえない、せいぜい泪か血管の充血ぐらいのものでしょう。
 夢を叶えるために上京して、夢のど真ん中ではないけれど、端っこぐらいは自分の力でつかみ取ったあなたが、夢の職場で働く中、人間環境で傷ついて、それを癒そうといろんな努力をして、そしてまた傷ついて。
 そんな暮らしの中であなたは東京をどう感じたのでしょう。夢が叶った現実の暮らしをどう感じたのでしょう。そして今、あなたは遠い北国の町で、東京をどう想っているのでしょう。
 ぼくたちはいつもの場所でいつも通りに過ごしています。ご承知のように喧嘩や言い争いや泣いたり叫んだりは日常茶飯事で、それでもやっぱりいつも通りに過ごしています。
 そして時々、君のことを話したりします。
「元気かなぁ?」って。これだけですけど、そんなことを呟く誰かの思いが溜め息に現れて、やっぱり会いたくなるのです。
 人には人の人生があるものです。放っておくのも人生ですが、会いたい人に素直に会いたいと思うのも人生です。ただ、元気でいてくれたらそれでいいのですが、いかんせん心配性なので、元気でいることがわからないと、不安は募るばかりです。
 元気ですよね? 
 
 ともだちがこの日記をどうか見てくれていますように。








『ともだち』

 仕事をともにすることがきっかけとなって友人になるのはいいことだが、もともとの友人と仕事をするのはどうかと思う。「価値観」とは友人関係におけるシーンと仕事関係におけるシーンとでは大いに違うからだ。
 友人関係の場合は、価値観がまったく違うことさえも価値となることが多いが、仕事としてパートナーシップを組むとなると、価値観の違いは致命的だ。仕事とはあるひとつのゴールイメージを設定しなければならず、その方向性が違ってしまうとチームは混乱し、ゴールは遠くなるばかりか成果さへ薄くなりリスクを背負うことになる。したがって仕事的にはバツだ。
 
 同級生は僕に「仕事をしよう」と持ちかける。僕は「いやだ」と即答する。同級生は言う。「ともだちだろ」。僕は答える。「ともだちじゃなくなる可能性がある」。
 
「ともだち」とは特別な存在だと思っている。特別だから僕には少人数しかいない。その中からともだちじゃなくなってしまう人が出てくる可能性があると思うとゾッとする。そういう人が遠ざかって行くのは堪えがたい。
「ともだち」は作ろうとして作れる関係ではない。気付いてみれば「ともだち」になっているだけのことなのだ。それは恋に似ている。いつしか誰かを好きになってしまった気持ちとなんら変わらないのだ。
 そいつと会いたい。会って話したり飲んだりしたい。そいつといれば心地よい。そんな、ゆるいけれど特別な関係。だから仕事よりも大切なのだ。

 逆に仕事を通してともだちになった人とは、友情をそっちのけにしてでもガンガンやればいいと思う。
 僕もそのつもりでやっている。ほとんどが僕のわがままだけど、そいつらとやりあうことで僕の中にあるものがさらに大きく膨らんでいく。結果として儲からないことがほとんどだが、それでも特別な価値感は獲得できる。
 
 たまにこんなことを考えないと、というより自分に言い聞かせないと、ダメになりそうな時がある。




楽しい仕事は財産となる。




『季節の中で』

 昨日はまた雪だった。けれど嫌じゃなかった。ちょっと前の日記に「雪くん」と書いたが、あれ以来、本気で雪に話しかけている自分が怖いのだけれど、僕が話しかけた瞬間に雪が僕に向ってきてダッフルコートの肩口あたりに着地するから不思議である。そして雪はゆっくりと形を変えながらコートの中に沈んでいく。
 雪が降るのは真冬の気候を声高に謳っているのではなく、春の訪れを知らせているような気がしてならない。気温が低くなければ降るはずもないのに、その寒さにはどこか温もりがある。そして雪の中に温もりを見つけた人にだけ、もう春ははじまっている。
 人は誰もが季節の中で生きている。嫌われ者の冬を大切に思う人には、きっと特別な春がやってくる。





   角がギザギザになっているのを見て
  「高いでしょ、この名刺」という人が多いが、
   実はギザギザばさみでせっせと切っているのです。





2008/02/15

『苗場のユーミン』

2008/02/13

『ふるさと関市のこと』

2008/02/12

『遠いところにいるともだちへ』

2008/02/08

『ともだち』

2008/02/07

『季節の中で』
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