『安い』

 中目に500円でランチを食わせるキッチンがある。しかもそこそこお洒落。
 今日はじめて入店したのだが、広さにして8畳敷き程度のスペースを、それなりにディスプレイして、手を伸ばせばどこにでも届くではないが、マスターにとってはとても使い勝手のよさそうな店内となっていた。
 メニューは「カレー」「ロコモコ丼」「オムライス」「タコライス」「パスタ」の5種類。それに珈琲かお茶か紅茶がちいさなグラスに注がれる。すべてのランチに野菜が配合され、かといって健康を主張するわけでもなく、ワンプレートに淡々としたオリジナリティを表現しているのが粋である。
 店の名前は『なかめくん』。だっけ?33歳の僕より一回り年下の寅年男がやっている。
 カレーとオムライスが売り切れていたので、僕はタコライスを注文したのだが、美味しさ指数的には70点を超えたと思っている。500円だからということもアドバンテージになっていると思うが、あれが850円であっても、たまには食いたい。
 僕は嬉しくなって、ついついいつものように、初対面の店主に親し気に話しかけた。
「素晴らしいね、500円メシ」
「ありがとうございます」
「注目すべきは安さではなく、美味さだという美学がある」
「そんな」
「いや、いい。とにかくすばらしい」
「この近くの方ですか?」
「通りすがりの者だ。近所だけど」
「はは…」
「またゆっくり話そう」
 
 ランチを500円で食えたという喜びから、勢いで携帯電話を買い替えた。これで俺もワンセグラーの仲間入りだ。ただ、安売り屋の罠により、到底使わないであろうさまざまなオプション契約をさせられたことを社員に報告すると、「3000円ぐらい損してますよ」とサラっと言われた。

 『安い』という言葉の中には、感動もあるが反省もある。








『Wii Fit』

 友人の蔡ちゃんの家で新年会をした。豪華な邸宅だった。かなり稼いでんな。ったく。
 蔡ちゃんという人はWEBマガジン『フィナム』の編集長であり、サイトを運営する会社の社長でもある。彼とはフリーランス時代に『ポパイ』編集部でデスクを並べた仲間で年齢も一緒。ともに独立してからは、似ているようで全然違った仕事をやっていたような気がする。
 彼はアパレルを中心としたビジネススタイルを確立し、オリジナルブランドを作って店鋪を構えたり、松見坂近くには飲食店を経営するなど多方面で大活躍し成功を収めた。他にも今では巨匠と呼ばれるスタイリストたちをまとめてマネジメントしたり、様々なジャンルでプロデューサーとして手腕を振るうなど、そのキャリアを並べればきりがない。つまりそれだけ才能に溢れた優秀な実業家なのである。
 彼の紹介はこれぐらいにしておいて、そうそう、蔡ちゃん家で4人だけの新年会を開いたのです。
 蔡ちゃんと彼の友人が夕方あたりから料理を作り、後発の僕はワインの調達係という大役を仰せつかった。あと、塩とバターを急遽買い込みに行かされたり…
 深夜の3時まで続いた宴は、4人で赤ワイン4本と白ワイン1本、それに少々の芋焼酎を呑み込み、かなーりいい感じに酔っぱらっちゃったのであります。

 蔡家には「Wii Fit」なるものが置いてあり、上記の酒をほぼ完飲したころで、「Wii Fitやろうよ!」という彼の号令のもと、急遽エクササイズゲームが始まったのです。
 Wiiどころかファミコンさえやったことがない僕にとって、それは宇宙への旅だった。ところがこの体重計みたいな踏み台に乗ったら最後、大量に酒を流し込んだ肉体はごろんごろんに揺さぶられ、もちろん赤と白のちゃんぽんワインは逆流し、芋焼酎は少し遅れてまた重力に逆らい噴火口へと向ってくる。
 劣悪なコンディションの中、僕をもっともムキにさせたのは、“自慢の運動神経が試される”ということだった。業界では、僕はものすごい運動神経の持ち主ということになっていて、そういう話を聞く度に僕は否定もせず、「まぁちょっとだけね」とはにかみながらスマイルをおくることに決めている。そんな背景もあるからにして、お腹の中でチャポンチャポンしようがなにしようが、ガンバらなくっちゃプライドが立たないからであった。
 結果、それほど大した成績は収められなかった。
 が、である。スコアとは対照的に、そのパフォーマンス能力は存分に認められ、3人からは「やれば上手くなる」というお墨付きを戴いた。デビュー当時の清原が三振しても、そのスイングスピードに圧倒される相手ピッチャーのアレと同じだ。
 単純な僕は、なんだかものすごく燃えてしまって、その白い体重計みたいなやつに1時間ほど乗り続け、記録もどんどん更新して、みんなにも「さすがだね」と言ってもらい、喉が渇いたからといってはまたワインをガブ飲みし、その結果として、現在お昼の2時ちょっと過ぎ、完全なる抜け殻状態なわけです。
 それにしても、キツ&キモ。
 これからプレゼン行ってきます。




Wii Fitの中で頑張ったマロンさん。




『清水圭とモゾモゾ』

 清水圭さんからDVDが送られて来た。ついでに直筆の履歴書も入っていたが、これは芸人のシャレみたいなもので、笑いを誘う可笑しなものだった。彼にとってペンを持つことは寄席のステージに立つことと同じことなのかもしれない。
 DVDの中味は、彼が昨年初監督した短編映画『second hand』。一足のスニーカーを主人公にした青春群像劇で、彼(スニーカー)を巡る奇妙な人間関係を描いた、なかなか粋なストーリーだった。
 内容はともかく、映像には圭さんの思春期が視えた。僕と歳が1っこ違いでほぼ同じ時代に育ったということもあり、思わず頷いてしまったということもあるのだが、なんだか僕まで嬉しいのか恥ずかしいのか苦しいのかわからない、どこかモゾモゾとした気持ちになったのである。
 それは単なる肉体的な反応ではなく、心のモゾモゾ。無性に何かをやりたいんだけど、何をすればいいのかわからないモゾモゾであり、こんなことを分って欲しいのに、どう喋ったらいいのかわからないモゾモゾでもあり、そんなじれったくて曖昧なニキビ味にさっぱりと味付けされていたことがとても心地よかった。
 
 今、僕らはモゾモゾしているだろうか。モゾモゾを誤摩化していないだろうか。
 モゾモゾすることを拒否していないだろうか。
 モゾモゾは素直な心のサインだ。人間らしくあることのリトマス試験紙だ。
 大人になった今、率先してモゾモゾしなさいとは言わないが、
 せめてモゾモゾがやって来たら素直に享け入れよう。
 還ることなど許されないあの頃だけど、せめて心の動きだけはあの頃に戻してくれるかもしれない。
 そして、モゾモゾしたら、また今日からなにかをはじめよう。
 すくなくとも僕たちは、あの頃の延長線上にいるのだから。






          アディダスさんに作ってもらったテニスシューズ。
          ただしテニスで履いたことはない。
          今年は履きます。




『ビルゲのランチ』

『マハカラ』のランチが復活した。メニューは親子丼2種類のみ。どちらも絶品である。
 ひとつが鶏の親子で塩味。もうひとつが牡蠣をとじた醤油味。はて、牡蠣と玉子では親子じゃないぞ、このウソつき。
 その美味さは丸ビルや東急百貨店の食品街で特別メニューとしてオファーがかかるほどのもので、つまり抜群にウマい。
 店主のビルゲの料理はいつだって美味い。ちなみにビルゲの名前の由来は、『超人バロム・1』に登場した、クチビルゲという極めて醜くて、しかもかなり弱い悪役怪獣から付けられた。で、なんでクチビルゲかというと、巨大な唇で人間を食べる食欲の固まりのようなバカ怪人で、顔は唇だけでできていて、口を開くと風が吹いてなんでも吸い寄せてしまうという大変ショッキングなキャラクターなんです。
 今時の子供からしたらとても悪い奴には思えない馬鹿馬鹿しくて悩ましいい怪人ですが、当時はクチビルゲと聞いただけで逃げだしてしまうくらい怖かったことを記憶しています。
 そういえば、クチビルゲは顔はすごい迫力あったけど、下半身は色付きのタイツを穿いてただけでひ弱だったなぁ。確か他の怪人もバロム・1もみんなバレエの男の人みたいなルックスだったわ。あれじゃ迫力ないはずだよ。衣装さんもっと頑張ればよかったのに。
 そのクチビルゲの唇と似ているから『ビルゲ』という、まったくありがたくないニックネームを付けられたビルゲ店主が作る親子丼が抜群に美味いという話を今日は書いたまでです。




メディコムトイからのハッピーニューベアー。




『書道』

 書道のセットを買った。新しい年になったのでなにかをやらねばならんというようなことではない。けれどどこかにあるな、そんな気持ち。前々から書道をやりたいと思っていた。特に習いたいわけではないけど、とにかく墨をすって筆で文字を書きたかったのだ。
 近所の画材屋さんを尋ねた。習字道具ぐらいあるだろうと思って入ったら、やっぱり主力商品ではなかったらしく、店の奥の方の戸棚の奥からおばさんが椅子に乗っかって取ってくれた。筆は太筆と細筆を一本ずつ選び、硯と文鎮と半紙も買った。墨汁を勧められたが、小学校の頃に習っていた書道塾の安田関石先生が、「墨の色も自分で作ることが大切」と言っていたことを思い出して、パスした。
 画材屋に一緒に行ったデザイナーの山路君の「筆おろしは緊張しますよね、えへへ」という言葉に店のお姉さんらしき人が過敏にネガティブ反応したので、「普段から卑猥なことばかり考えてるからそんな下品な想像になるんだよ」と答えて空気を和ませようとしたら、僕の言葉の方がダメだったらしく、電卓を叩く手を止めてギロリと睨まれた。その空気を察したベテランのおばさんは、「まぁ、上手いこと仰って」と、画材店らしく穏やかな中にもチクリとしたものを折り混ぜて僕に返した。
 きっとこの画材店では、今までにも何度となくこんなやりとりがされたのだろう。
 商品が筆だけに。

 僕は早速墨をすり、筆をとった。
 昨日の日記に書いた藤井先生の言葉がずっとリフレインしていて、「明るく元気」と書きたかったのだが、どうも縦長の半紙には納まりが悪い。なので、「明るい人 元気な人」と縦二列に書こうとしたけれど、字数が多過ぎて元気さがなくなってしまう気がしたのでこれもボツ。「明るい」だけでは、何が?誰が?となってしまうので、最終的に「元気」と書くことにした。
 そこで僕は考えた。「明るくて元気」なことがいちばんなのだが、果たして明るくなくても元気に振る舞えるのだろうか?元気だからこそ明るくできるのだろうか?そんなことをしばし。
 待てよ、明るくなくてもきっと元気に振る舞えるだろうが、それは見せかけの元気。逆に元気じゃなくてもきっと明るく振る舞えるだろうが、これもイミテイションに過ぎない。「明るい」と「元気」は密接な関係にあり、どちらが欠陥していても真の明るさや元気さは得られない。そして最終的に辿り着いた(僕の中での)答えは、やっぱり明るさも元気のうちで、元気であれば少々の苦痛があってもきっと明るくなれるし、やっぱいくら明るくても心や体が元気じゃないとダメだよね。というこということで「元気」と書くことに決定した。
 筆を走らせた。元気の「気」という文字がかすれてしまったのは、僕の気持ちの問題だろうか。
 墨のすりかたも甘くて薄い。墨色に力強さが入っていない。
 見た目はどうだろう?客観的に見れないのは気持ちが入っていないからかもしれない。

 いろんなことを思ったり考えさせられる書道であるが、ここから何かを学ぶとか感じ取ろうなんて思ってはいない。ただ、書きたいと思った時には書きたいと思った言葉を書こう。失敗作は無しだ。一発勝負。

 ただそれだけの話です。





おそまつさまでした。





2008/01/12

『安い』

2008/01/11

『Wii Fit』

2008/01/10

『清水圭とモゾモゾ』

2008/01/09

『ビルゲのランチ』

2008/01/08

『書道』
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