『ベトナムのみやげ話、その②』

(はじめてご覧になる方は、昨日のNIKKIからご覧になることをおすすめします)


 ホーチミンのホテルは存分な広さはあるがベッドは湿っぽく部屋の灯りはネガティブだった。貧乏旅行を決めこんだゆえ、酒も基本的には持ち込みの焼酎とスコッチがメイン。足りない分は中学校の保健室みたいなスーパーで、オリジン弁当2人分の予算で7人分のビールとつまみを余裕で買い込みホテルへ戻った。
 夜の酒は昼間に食った屋台メシを刺激して、みんななんとなくそろーりそろりと便所へ駆け込んだ。
 用意周到の元電鉄会社車掌のKさんが名薬正露丸をリュックから取り出した時には大喝采が起き、すぐさまひとり3粒ずつ配給された。
 ジャンク料理が大好きなデザイナーYと、昨日の日記にも登場するカメラマンHは、ベトナム料理に著しくやられたらしく、何度も配給をうけていた。
 Hの胃袋のコンディションは最悪だったが、旅となるとその土地の文化や食に関してうんちくを語らずにはいられず、迫り来る便意に逆らいながら、誰も耳を傾けないうんちく話にセルフで酔いしれながら語り続けていた。
 一方Yはやや強めのメキシカンみたいな酒と目から火が出るようなビーフジャーキーをワイルドに飲み食いし、いい感じでタテ揺れに酔っぱらっていた。
 Yはのどがカラカラになった。あのメキシカンとビーフジャーキーのせいだろう。それまでかたくなに手放さなかったウィスキーグラスをテーブルに置き、ヘアメイクEに、「みず!」とリクエスト。Eは冷蔵庫の中を確認した後に、「1本20円らしいですよ」と伝えた。
 Yは少し考え込んだ末、「やっぱいーよ」と言うと腰を上げ、洗面所へと向かった。
 しばらくしてスッキリした顔で戻って来たYにEが聞いた。「ションベンですか?」。Yは答えた「ううん、水飲んで来た」。さらにE「どこの?」。Y「水道の」。一同「えーっ? マジでーっ?」。さらにY「ひとくちだけならダイジョーV!」とVサイン付きのしたり顔。

 10分後、猛烈な腹痛がYを襲った。床に倒れ込み、突然エビの踊り食いのような動きをやるもんだから我々はかなり焦った。一見、新種のエクササイズに見えなくもないが、形相が形相だけにそんなポジティヴな解釈は誰ひとりとしてしなかった。
 Yはもんどりうちながら、「せーろがんせーろがん」と連呼したが、それを聞いたKさんがポツリ。「きのうHさんがお腹痛いというので、全部飲まれましたよ」
 Yのエビダンスはさらに激しさを増し、冷や汗をかきながら「こらっH、なんで全部飲んじゃうんだー。誰のせーろがんだとおもってんだっ!」
 するとH「Kさんのでしょ。お腹いたかったからいっぱいもらっちゃった」

 またしても20円の悲劇。哀しい、哀しすぎるぞマイフレンド。

 (後記)
 ケチは友情にヒビを入れるが、旅そのものは盛り上がる。
 おしまい。
 
 
 



『ベトナムのみやげ話 その①』

 みんなでベトナム旅行に行ったときのこと。物価が安いからベトナム!と決定したホーチミンをメインに4泊6日の行程を組んだ。
 さすがベトナム、安い。安すぎる。屋台のチキンライスが20円。フォーも20円。安すぎて腰が抜けそうになった。しかし、その安さになれると、50円のフォーが高く思えてくる。東京では1000円もするクソまずいラーメンを食っているのに。環境とは恐ろしいもので、たった2日の滞在で価値観さへも変えてしまうのだ。
 3日目。みんなでサイゴン川をフェリーで渡りビーチに出た。汚い海だったがそれなりに異国情緒もあって気分は悪くなかった。しつこく流れるアイスクリーム売りの気味の悪い音楽さえなければもっと快適だったが、それはひとまず。
 汚いビーチで泳ぐにはゴーグルが必要だった。タイミングよく塩沢トキみたいな髪型をしたおばさんがアイスクリームとゴーグルを売りに来たので、カメラマンHが早速日本円で50円のゴーグルを買おうとしたところ、小銭の持ち合わせがなかったヘアメイクEが、”Hさん、僕の分まで買って来てください”と言った。Hは鼻歌まじりに了承し、ゴーグルを2つ持ってスキップで帰って来た。
 さっそく海に飛び込もうと、Eがゴーグルをかけようとした瞬間、ゴーグルのゴムがブチッと切れた。
 あまりにも粗野なゴーグルに腹を立てたEは、”こんなゴーグルに金は払えん!”とHに怒りをぶちまけた。するとHは”そんなの俺の知ったことか!カネ払え!”と怒り返した。
 結局それからの3日間、EとHはひと言も口をきかないままベトナムを後にした。

 10年以上の友人であるEとHの仲がたった50円で引き裂かれてしまうなんて…。
 もしも20円のチキンライスを食べてなかったら、フォーを食わなかったら50円ぐらいどうってことないと思っていただろうに…。

 あれから3年。久しぶりに鍋会で顔を合わせたEとH。初めは気恥ずかしさも手伝ってか、よそゆきの言葉で会話をしていたが、酒が入った途端「テメー、50円かえせーっ!」「あんなゴーグル買ってくるおめーがワリーっ!」
 
 以上、泣きたくなるほどちっぽけで哀しい話でした。
 おしまい。

 (予告編)明日はその②を書くよ。
 



『役割』

 3ヶ月ちかくかけて準備を進めていた仕事が中止になった。残念でならない。やりきれない気持ちを誰かにぶつけても、そんなこと知ったこっちゃないとそっぽ向かれるのがオチである。
 被災者の方たちを思えばこれぐらいでメゲていたらバチがあたる。俺たちは確実に恵まれていることを忘れちゃいけない。思い通りにならないことや予想が外れることは多々あるが、その程度で感情的になれること自体が恵まれた環境なのである。

 あの悲惨な映像を目ん玉に焼き付けるのだ。
 
 今日をちゃんと、いつも通りに生きる。そして誰かの役に立てることがあれば、それを速やかに実践する。どちらも俺たちの役割だ。
 



『いま』

 なんか、書けませんね。
 なにかしなければ。
 それを見つける。
 役割を。



『おやじ』

 名店「ふじ」の名物おやじ。故郷に帰ったようなとか心安らぐとかその程度の場所ではない、ここはひとつの宇宙である。引力とか磁力とかから解放された無重力のような店。
 ふじ豆腐とぱんぱら焼きとちりめんキャベツとメンチと最後にけんちん汁となによりおやじのスケールのでかいエピソード+栃木弁。これで重力もストレスもすべて解放。明日があることを実感させられる宇宙ステーションなのである。

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おやじと。




2011/03/17

『ベトナムのみやげ話、その②』

2011/03/16

『ベトナムのみやげ話 その①』

2011/03/15

『役割』

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『いま』

2011/03/10

『おやじ』
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