『明宝村、里山にて』 

 郡上八幡の奥の奥、明宝村の山里にある古民家に泊まった。地元の人を中心とする林業関係者20人と囲炉裏を囲んでの懇親会である。
 みなさん山と森と木と水のことをいっぱい話されていた。それぞれに論調が違うけれど、誰もがちゃんと山と木々と人との共存共生を考えられていた。なにかと言えばeco eco言うような軽いものじゃなく、「生活」という軸に基づいた生真面目な話であった。
 そこにオレがいる理由はよくわからなかったが、それでもオレなりにちゃんと考えたり思ったりして、仲間に入れてもらった。途中、ボス的な人と一触即発になりかけたらしいが、そんなことはまったく憶えていない。とにかく飲んで飲んで呑まれて飲んだので、細かいディティールなどまるで記憶がないのである。
 以前から「メシと酒は地元のものでもてなします」と言われていたとおり、里山ならではのジビエ料理が振る舞われた。
 熊汁。これにはたまげた。とん汁の「とん」が「熊」になっているのである。つまり熊の肉が鉄鍋の中でグツグツと音を立てていたのだ。美味かった。熊の肉は焼き肉にもなり、手強い食感ではあったが味わい深いものだった。
 鹿肉の刺身とタタキは究極の美味だった。マグロの赤身とクジラ肉の中間ぐらいの食感、クセのない味覚、口溶けとともに広がるハーモニー。これをレモン汁と塩コショーでパクリとやる。まさに絶品。そしてエンドレスでどぶろく。
 薪ストーブの横で寝袋に入って寝た。寝ている間に気温は氷点下に…。寒さで目を覚ますと、目の前には斧が横たわっていた。何がなんだかわからず外に出ると、立ち込めた霧空の下で、さっきまで飲んでいたひとたちが薪割りをしていた。
 簡単に言ってしまえば不器用な人たちなのだろう。けれど、その分、じわじわと、寄り道をするように温かさが伝わって来た。一発触発のおじさんとは別れ際には抱き合ったいたそうだ。
 また行きたい場所が、もうひとつ増えた。



『巧妙なエロメール』

 近頃のエロメールの手口はなかなか巧妙で感心する。”そういえば鈴木さんも言ってましたよ。アイツ元気かって。会ったらよろしく言っといてくれ”って。貴方の間接的な知り合いです的な文言なのである。
 鈴木さんというところがミソで、日本人なら誰でも5〜6人の鈴木さんは知ってるだろうし、そのうちの2人ぐらいはしばらく音信不通というところに心当たりがある。
 敬語ベースな文体ながら語尾には「ね」をいい塩梅に使って、馴れ馴れしすぎず遠すぎずを見事に演出しながら場所指定をしてデートのアポをとりつけようとするのだ。
 誰が考えるのかわからないが、なかなか見事な文章でやもすれば尊敬したりもする。30代はじめの女子が使いそうな言葉、行間からはしぐささへ伝わってきて、ちょっとだけイイ女を連想してしまうのだ。
 たぶん書いているやつはボサボサの変態男だろうが、それがわかっていたとしても、そこそこイメージしてしまう自分が怖い。
 しばらくメール返信しまくって敵のアジトをつきとめたろかな?
 

 



『E.YAZAWAな夜』

 永ちゃんの武道館初日を観てきた。ボス御年61歳。還暦越えにしてあの爆裂ロック、頭が下がる。
 初めて武道館でボス観たのはハタチだったな。ケツの裏側から脊髄を駆け上るような衝撃に耐えきれなくて倒れそうになった。
 もう150回は観た。観れば観るほど味わい深くなる人だ。味わい深くなる条件に必要なのは新鮮さである。いつ観てもフレッシュでなければならない。毎回毎回、微妙に表情を変える鮮度が重なりあって深みをつくる。まるで上質の恋愛と同じである。
 ライヴ後に今話題の西麻布へ飲みに行った。例の事件現場のニアピンである。そこで知り合ったばかりの大人4人と一緒に軍鶏を食いながら、のべ2時間半にわたって永ちゃんショーをやった。みんな泣いて喜んでくれて嬉しくなり、WアンコールでアイラブユーOK.を歌ったところで、店の人から”そろそろ…”と渋い顔をされた。
 お会計を済ませていると店のバイトの女のコが”ウチの母もヤザワさん大好きなんです”と微笑んできた。ちっちゃな嬉しいことがたくさんあってサイコーな夜になった。
 



『IKEA そのワケ』

 IKEAに萎える10の理由。

 理由①広すぎてどこに何があるか分からないうちに萎える。
 理由②順路がわからず同じ場所を巡回しすぎて萎える。
 理由③出口がわからず、あんなに広いのに閉所恐怖症になって萎える。
 理由④値段の安さに嬉しくなるが、別に今買うこともないか、シラけて萎える。
 理由⑤子連れのヤンママがカラフルな椅子や照明を指差して「このコ」というから萎える。
 理由⑥住宅展示場みたいに部屋の間取りに合わせて見事にディスプレイしすぎてあるから萎える。
 理由⑦商品が山ほどあるのにバーゲンみたいにオババが血眼になってダッシュするから萎える。
 理由⑧本当に欲しい物は案外高いから萎える。
 理由⑨2時間いると7kmウォーキングしたぐらい疲れて萎える。
 理由⑩とかなんとか言ってまた行ってしまうオレに萎える。
 



『老犬、完結編』

 路地裏にある老犬の小屋に、ちっちゃな花瓶に花が添えられていた。死んだんだ。
 たった一度しか見たことのない犬だったけど、その姿が頭から離れない。誇り高くグルグル回って、足腰フラついて腰くだけになって、鼻と見えない目でオレの存在確認して、そしてまた誇り高くグルグル。 花瓶の花を見ながら手を合わせた。路地を通る人に不思議がられて恥ずかしかったが、しばらくそのままでいた。
 老犬、18年前に死んだケンタに似ていた。オレが生涯で一番愛した犬だった。ケンタは33年前にテレビで放映された「ROOTS」のクンタ•キンテから文字って名付けた。
 ケンタのことを思い出させてくれてた分、長く手を合わせたけど、辛いからもう路地を通るのはやめる。
 おつかれさま、名前も知らない老犬くん。




2010/12/22

『明宝村、里山にて』 

2010/12/17

『巧妙なエロメール』

2010/12/16

『E.YAZAWAな夜』

2010/12/15

『IKEA そのワケ』

2010/12/14

『老犬、完結編』
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