『緊迫の目黒署』

 目黒署の前に何十人もの報道陣がカメラ構えて陣取っている。エビゾーを殴打した26歳男性の出頭を待ち構えているのだ。それにしても、なんとも言えない物々しさだ。ピーンと張りつめた空気が歩行者の背中や顔にビンビン突き刺さってゾクゾクっとするのである。
 このタイミングでニット帽にグラサン、腰ばきジーンズかシャカパンにウォレットチェーン付きの長財布的なスタイルで署に入ったら、一斉にフラッシュの嵐だろうな。
 



『あしたのジョー』

 あしたのジョーの試写会を観て来た。たまらなかった。40年前に少年マガジンで見たものと同じだった。ジョーも力石も段平のとっつぁんもマンモス西も葉子お嬢様も、どれひとつとっても裏切りはなかった。
 あれから40年経って段平と同じぐらいの歳になったけど、ジョーを初めて読んだときの思いはなにひとつ変わらない。男は心のどこかにジョーを置いて生きているのだろうか。ジョーのようになれたら、ジョーみたいに変われたら、そんなことを今でも思ってしまうのである。
 ある意味、観なきゃ良かったのかも、とも思う。まだまだジョーは遥か遠く、オレは泪橋を渡ることさえ出来ずにいる。余力があるのに立ち上がろうともせず、都合よく横を向き、いつも自分を中心に生活を組み立てていて、上手くいかなければまた目を反らす。
 ヤマピー、伊勢谷、カッコ良すぎる。ヤツら、完全にジョーと力石だ。香川照之凄すぎる。段平さんにそっくりすぎて涙が出る。それぞれの役者魂は、まさしくあしたのジョーだった。
 「オレたちも反省して、まずは腹筋から鍛えなきゃな」と言いながら編集者Mと一緒に五反田の焼き肉屋に行ってしまった。



老犬、その後

 1ヶ月ぐらい前に路地裏で見かけた老犬の小屋を覗いたら、首輪にかけられる金属製のチェーンがフックからぶらんと下がっていた。老犬、死んじゃったのだろうか。張り切ってグルグル回って、なんとなくプライド感じたんだけど、旅立っちゃったのかも。
 もしそうだとしたらちゃんと飼い主に「逝くよ」と告げられたんだろうか。それともそっと抱かれて眠りの中で旅立ったのだろうか。
 まだ決まったわけじゃない。年老いたから家の中で飼っているのかもしれない。だとしたら慣れない家の中で階段やタンスにぶつかったりしていないだろうか。エアコンの風に戸惑いを感じてないだろうか。テレビの音におびえてないだろうか。
 まったく知らない家だから老犬がどうなったかなんて聞けるはずないし。
 気になる。あとでまた行ってみよう。ひょっとしたら散歩に出ていたのかもしれないし。
 老犬…なんでこんなに気になるんだ。



ラッシュ時の女たち

 朝の田園都市線のラッシュ具合は乗車する女性の顔に出る。誰もがこれでもかというぐらい”なんでこんな電車に乗らなきゃならないのよ”と不満たらたらな顔なのである。
 朝の、電車の、ラッシュの女は本当に怖い。性格は知り得ないが、とにかく顔が恐すぎる。眉間の縦ジワ、くっきりである。いくらアンチエイジングを施しても、石橋貴明並みの眉間縦ジワでは台無しである。
 各駅停車は2本に1本の割合で桜新町に停まる。ほとんど誰も降りないから、ずっと立ったままの状態が続く。それが納得いかなくて縦ジワはより深くなり、それにともなってため息を漏らす。
 たまに座席に座っていた人が降りると、椅子取りゲームのようにダッシュして座席を確保しようとするが、その争いに敗れると一段と縦ジワが深くなり吊り革を握ると同時に、これみよがしにフルボリュームでため息を吐き出す。
 そんな女達の朝を目の当たりにすると、たとえ目の前の座席が空いたとしても、あえて立つことを選んだように振る舞わなければならない。
 運良く座った女も決して緊張感を切らない。座っても不満たらたらな顔をして縦ジワを崩さない。そこでラッキーな顔などしたら、面前の縦ジワたちの鋭い視線の餌食になるからだ。だから、座っても縦ジワ。「私は今日、たまたま座れたけど、気持ちは立ってるみんなと同じよ」的なオーラを放ち、決してひとりだけ座れたことを媚びないのである。
 三軒茶屋でラッシュはピークになり、おしくらまんじゅう状態のままクライマックスの渋谷まで車内は戦場となる。少しでも押されたり寄りかかられたりしたら縦ジワと鋭い視線が喉元を切り裂き、万が一手のひらなどが肉体に触れようものなら…想像しただけで恐ろしくてたまらないのである。
 男達はとにかく右手は吊り革、左手はポケットに。それが朝の掟である。鞄なんて床に転がったって踏まれたっていい。とにかく、朝の、電車の、ラッシュ時の女を怒らすな。
 本当に怖かったんだから、今朝。
 
 



アイドル郷ひろみ

 つくづくというか、かえすがえすというか、どこまでもというか、郷ひろみという人のすごさを実感してやまないのである。40年間アイドルを続けるということがどれだけの偉業か? 答えは歳月だけではない。アイドルの掟は『決して裏切らないこと』にあるからだ。
 彼は40年もの間、ファンを裏切ることなく、堂々とその場所に居続けている。単なる歌手としてではなく、アイドルとして居続けることは困難極まりない。ビジュアルや声帯が変化し、実力を要求されるとともに存在として鮮度が伴わなければならないからだ。
 たとえチヤホヤからはじまったキャリアであったとしても、徐々に質を見出し、価値をつくり、ファンに勇気と励みを与え信頼関係をつくりあげた。もはや絆といっても過言ではないファンとの関係性の中で、55歳になった今日もあたりまえのようにアイドルとしてそこに立つ。ファンでない人は口をそろえて言う。「本当に55歳?」。これが郷ひろみとしての証明である。
 いつしかファンは、郷ひろみを支援していたことに誇りを憶え、その思いを自らの力とした。そして郷ひろみもまた40年間、信頼あるファンに支えられ進化を重ねてきた。
 世界中でも40年間もアイドルを続けたのはミッキーマウスとスヌーピーぐらいだろう。
 ギネス級のアイドルでありながらKING OF DINNER SHOW
 ほんとにほんとに、つくづくというか、かえすがえすというか、どこまでもというか…
 

 




2010/12/06

『緊迫の目黒署』

2010/12/03

『あしたのジョー』

2010/12/02

老犬、その後

2010/12/01

ラッシュ時の女たち

2010/11/30

アイドル郷ひろみ
このサイトに掲載のイラスト
写真・文章の無断転載を禁じます

Copyright © 2001-2010 MaroonBrand