『寒い夜』

 東京はまた冬です。どうしたんだろうね地球。何かが狂っちゃったんだろうか、いや本気で。桜が散った後でダウンジャケット着てんだから尋常じゃない。おかげでコタツをしまえないでいる。
 いつまでコタツに埋まって膝を抱えて眠ればいいのだ。といいつつ、これほど気持ちいい寝方はないが。
 深夜、観もしないテレビをただただ眺める。チーカマとかシャケの水煮とかの缶詰を食いながら麦の水割りか白ワインを飲む。眠くなる。歯磨こうかな、でも面倒くさいな、とりあえず横になりながら考えよう。気がつくと2時間経ってる。靴下を履いてシブシブ歯を磨く。コタツの上にチーカマとシャケ缶を放置したまま「明日の朝かたづけよっ」と誓う。肩までコタツに埋もれる。コタツの中で足の指だけで靴下を脱いで、右足と左足をすりすり。テレビを消してかすかな静電気の音を聞きながら本寝する。朝起きる、鼻の穴がやけに寒い。腰が痛い。コタツで寝なきゃよかったと軽く後悔。でもまた深夜、繰り返す。
 これができる分、寒いのもアリか。




なんで丸の内を馬車が走ってるんだろう。




『還暦剣士の淡い恋話(こいばな)』

 還暦を超えたM氏は学生時代に全国の剣道のタイトルを15も獲った剣豪である。
 M氏は中学時代から無敵だった。何事にも一直線の性格が剣道にも向いていたのか、いつも無心で相手をバッタバッタと倒し、他校からも怖れられる存在だった。
 そんなM氏があるとき、練習試合で他の中学校の女子剣士と対戦した。
 県下でNo.1のM氏に名もなき女子剣士が挑戦する。誰もが一方的な展開でM氏の一本勝ちを予想したが、結果はあっという間の一本負け。決まり手は不覚の抜き胴。
 還暦を過ぎるまで一切その話題に触れなかったM氏が、なぜ負けたかを初めて打ち明けてくれた。
「面をつけて目と目が合ったら恥ずかしくなってな。目を反らした瞬間、ガラ空きになった胴をスパッと抜かれた」
 純情負けである。M氏は続けた。
「練習試合前から顧問の先生になんとなく心を読まれていた気がした。他校の女子剣士に思いを寄せていたことを気づかれたんだと思う。その上であえて対戦させ、平常心のまま戦えるかどうかを試されたんじゃないかな。結局、彼女の面を打つことができずに俺が胴を抜かれた。胴というより、心をスパッとな。今もその傷跡は心の中に残っているよ。わっはっは」

 いい話である。純情すぎて涙がこぼれる。M氏はさらに続けた。
「先日、地元の剣道の連中の同窓会があってな、例の彼女も来ていたんだが、そりゃぁもうびっくりするぐらいのおばーちゃんになっててな。なんで俺はこの人に胸キュン負けしたんだろうと不思議でならなかった。思い出は心の中だけにしまっておいた方がいいときもある。思春期の恋愛は特にな」

 さらにM氏の後日談。
「結局、彼女が俺の剣道を強くさせてくれたんだと思う。あれで目が覚めたというか、剣道と恋を分けて考えられるようになった気がする。そのお礼を先日、45年経ってはじめて彼女に伝えようと思ったけど、まぁ俺の心の中だけにおいとけばいいかと思ってな。でも誰かに言いたかったから、お前に聞いてもらった。お礼に今日の飲み代は俺が出す」

 男同士の他愛もない話。けれど、なによりも尊い素敵な時間。



『キトキトとやま丸の内クルージング』

 昨日、丸の内ハウスで富山県のイベントのオープニングパーティが行われた。毎度のことながらいつも始まりは不安でならない。そもそも12日間にも及ぶイベントの答えを開催初日で求めようとするのは無理だが、せめて会心のスタートダッシュを見せたいといつも願っている。おかげさまで今回も100名を超えるゲストのみなさんとともに、美味しくて楽しいレセプションになったことは嬉しかった。
 酒は本当にすごい。酒が人と人を繋ぐという意味もようやくわかってきた。そして肴であるが、そのあたりは富山の食材が言うまでもなく、最高のカップリングを見せてくれて、ゲストの感嘆を誘い出してくれた。まったくもって食は宴の主役であり、それを酒が盛り上げる、もちろんその逆も。
 県知事と室井滋さんとのクロストークはなかなか面白かった。酒のある場所で自分たちの故郷を雄弁に語る。決して大げさではなく、等身大に語られても余りある富山の魅力。
 地域の最大の資産は人だ。そこに集う人がその地域の象徴である。食も酒も、人々の手によって人の口元へ届けられる。誰もが地元を好きだからよく飲み、よく話す。酒好きな県民性なのだろうか、だからメシが美味いのだろう。話好きな県民性なのだろうか、だから集いが楽しいのだろう。勤勉な県民性なのだろうか、だから酒が旨いのだろう。
 7Fフロアには僕らに出来る限界点まで富山県を散りばめた。富山県の人たちは喜んでくれるだろうか。富山県外の人は喜んでくれるだろうか。
 そんなドキドキする時間も楽しいものである。



『言葉の師匠。松本隆さん』

 松本隆さんのトリビュートアルバムが発売される。松本隆さんこそが僕の言葉の師匠だと勝手に思っていて、9年前にどうしてもその気持ちを伝えたくて、友人のテレビプロデューサーにお願いして中目黒の焼き肉屋で会わせていただき、思いを語らせていただいた。
 当時、マロンが発行していたフリーマガジンに松本さんが原稿を書いてくれることになったときは、天にも昇るような気持ちになった。そしてもうひとり言葉の師匠がいる。ユーミンである。
 アルバムでは松本さん作詞、ユーミン(呉田軽穂)作曲の『赤いスイートピー』を綾瀬はるかが歌い、同じくおふたりの共作である『瞳はダイアモンド』を徳永英明が歌う。原曲はともに松田聖子。どちらも曲の中から想い出が溢れ出すぎて後悔するほど胸が傷む。
 こんなに切なくなるのなら聴かなきゃよかったと思うけれど、もし聴かなかったらこんな気持ちになれることさえ知らなかった。
 なに言ってんだ俺。と言いつつ、また切なさに埋もれるために松本隆さんの詞(うた)に入り込んでしまうのである。



『さくら、散らず』

 春らしくない天気にとまどい、桜もいつ花びらを散らせば良いのか戸惑っている。露店の人々は、散りそうで散らない桜に、いつまで店を開けていればいいのか困惑している。“そんなこと知るか!”と桜は言うだろうけれど、いつまでもダラダラと咲いていたって桜らしくない。
 かれこれ2週間。いつが満開かわからないまま腹八分目のままで桜は咲いている。なんかそれほど嬉しくないのは僕だけか。
 桜は春のアイドルなんだから飽きられちゃダメだ。もう散っちゃったの?って心残りを持たせなければ桜じゃない。 
 桜の次にも季節は順番待ちをしているのだから、そろそろ葉桜と新緑にタスキを渡しておくれ。
 大丈夫、来年も全力でキミを愛でるから。
 ただ儚さだけは、そっと残して。そこに人々は人生を重ねるのだから。




2010/04/16

『寒い夜』

2010/04/15

『還暦剣士の淡い恋話(こいばな)』

2010/04/14

『キトキトとやま丸の内クルージング』

2010/04/12

『言葉の師匠。松本隆さん』

2010/04/09

『さくら、散らず』
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