初出勤日、3月3日。

おひなまつり。
マロンブランド初出勤の日。

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いよいよ10時に初出勤!
・・・のはずが、
目が覚めると13時になってた。

・・・という夢を見ました。
本当に目覚めたのは6時。
起きてすぐはどれが現実なのかわからなかった。
あせった。夢でよかった。


昨日、花屋で白桃の枝を買いました。
半分は会社に。
もう半分は新居にポトス(観葉植物)と一緒に飾っています。
たまには女の子らしいことをするのもいいものですね。
桃のつぼみを見ていると、なんだか自分の気持ちもほっこりしました。

このつぼみと一緒に成長していけたらいいな。
花開くかな〜。


これからよろしくお願いします。



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾

〜一回生の章〜 拾


 入学して何が何だか分からない間に一ヶ月が経とうとしている。ただ確実に分かる事は応援団に入りあの二人に翻弄されているということだ。彼等にとって俺達はこのうえないオモチャに違いない。“このままでいいのか?これが夢と希望を抱いていた高校生活か?俺には灰色の”葛藤の日々が流れていた。“はぁぁぁぁ、今日もお唄の練習と発声練習か”。まるで長唄か詩吟を習っているような気分に姿勢は自然と丸くなり、お稽古場、いや部室に向かう俺。部室を目掛け知能指数0で全力疾走する運動部員達とは明らかに覇気が違っていた。

 トロ〜ンとした目で部室を見ると何やら二回生が慌ただしく部室を出入りしてる。
 “なにやっとんだ?熊さん(顧問)のガサ入れでもあんのか?”
 俺はいかにも校舎からダッシュしてきたかのように全身にターボチャージャーのシグナルを送り部室前へ飛び込んだ!
「ハァ、ハァ、押忍!先輩何かあるんですか?」。太鼓台を出し無表情のナカシマに聞いた。
「おう、今度の春季大会にOBの方が試合を見に来るらしい。だから今日からは通し練習だ!団旗を揚げて体育館の階段を球場のスタンドに見立て実戦形式の練習だ。ちゃっと回ししろ!(すぐ用意しろ)」
 細い目をカッと開きまくし立てるちょっとイカすナカシマであった。
 続々と集まる一年にその旨を伝え練習の準備をしていると、あの二人が苦虫をかみ砕いたような形相で部室へと消えた。中から聞こえるのは苛立つような声と困惑するアホ声のデュエット。しばらくして二人がジャージに着替え外に出て来た。俺達はそそくさと急ぎ足で体育館前へ向かう二人の後を大奥の女中のように厳かに追う(足袋はいてスリ足でね!)

 体育館前に着くとまず横隊番号。次いで団長ヨ〜シダの言葉。
「ええきゃ、来週から始まる春季大会に応援団のOBがぎょうさんござるらしいわ(たくさん来る)、うるしゃぁ奴ばっかだでビシッとせえよ!…ところでOBって分かるわなぁ?英語で言うオールドボーイだがや!けどなぁ、うちのOBは“オメデタイバカ”でOBだがね、ハッハッハッ!」
 まるで来年自分が卒業し、そう言われるのを分かっていない発言に“あんたがメデタイ”と思ったのは俺一人ではないだろう。この日からの練習は今までのものとはガラリと変わり実戦モードに入った。
 まずは校歌、次いで団長エール。そして攻撃を想定して「かっ飛ばせ中京やかっ飛ばせ〇〇」といった選手の名前を入れてのエール。
 先輩達の振るエールに俺達一年は声を張り上げ拳を揚げたり、手拍子を打ったり、いわゆる『バック』と呼ばれるポジションを淡々とこなす。ここで余談だが援団用語として『サチコー』という掛け声がある。なにも団長のナオンや西田でも小林でもない。だがこれが『ハマコー』では調子が悪い。『サチコー』とは観衆に呼び掛ける心を込めた言葉で、『さあ、もう一丁行こう!』が短くなり変型したものだ。
 しかし残念な事に応援団が消滅し、現在の体制(野球部員が応援団)になってからこの掛け声はいつしか『幸来〜い!』と言う認識となってしまった。マスメディアが勝手に活字にして広まったと思われるが、『幸来い』などと
そんな女々しい応援がどこにあるか?そんな言葉で勝てるわけないやろ?
 生徒諸君! 若いOB、並びにご父兄のみなさま、あれは『幸来い』でなく『サチコー』=さあ、もう一丁行こうっ!であります。
 さあもう一丁行こう、これを何度も繰り返し少し早口で言ってみて下さい。20秒後には『サチコー!』になります。たぶん。

 話しを戻そう。我が応援団は空手の組み手を取り入れた、「空手拍手三・三・七拍子」や「空手拍手ニ拍子・三拍子」等がある。そのどれもが団長や副団長が演じるものだ。
 それと全国でも珍しい日の丸扇を使った応援の数々。さすがこのあたりは全国屈指(創部歴全国四位、同年に浪商)である。普段ちゃらんぽらんな二人が真剣に型を振っている。それも一糸乱れぬ動きで、、、。
 “スゲェ、やればできるんや。俺達が三年になってあんなに上手くできるんか?”そんな真剣な二人が格好良く見えた、ちょっとだけね。いや、ちょっとのさらに半分、量にして耳クソぐらい。
 こんな気合いの入った練習が数日続いた、、、俺達はその中で校歌より有名で、選手はもとより生徒いやOBまでも熱くさせる「応援歌」の練習に時間を割いた。この応援歌の副題がなんとも凄いというか威張ってるというか、、『応援歌〜天下の中京』なのである。あの『陸の王者慶應』もぶっ飛ぶタイトルである!俺達はデビューシングル『校歌』に続き、セカンドシングル『応援歌』を来る日も来る日も歌い続けた。
 ちなみに聖子ちゃんのセカンドシングルは『青い珊瑚礁』です。こういうことも応援団にとっては大切な知識なんです。

 そして目前に迫った春季大会。この年の愛知県は後のプロ野球界で活躍する逸材がゴロゴロしていた。その年の春の選抜に出場した大府・槙原(巨人)、愛知・浜田の彦野(中日)、名電の工藤(現横浜)等の豪華な顔ぶれが並んだ。
 そして俺達の初陣は名電戦と決定。
 その日を前に我が応援団は一層力の入った練習を繰り返した。夕陽を浴び初夏のような風を受ける帰りの坂道で、俺達の顔が少し引き締まったように見えた初陣二日前。
 遥か甲子園に続く空が茜色に染まっていた。


<続>

今回は応援歌『天下の中京』を掲載させていただきます。

“天下の中京”
思え天下に中京の
名を響かせし先人の
その華やかな歴史をば
継がんと健児血涙の
錬磨の力悔ゆるなく
示すは今ぞ友よ起て
中京、中京、天下の中京



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 九

〜一回生の章〜 九


 初練習から一週間ほどが経った。来る日も来る日も校歌の合唱。そのうち輪唱ができるんじゃねえかと思うくらい上達している。そんな俺達をよそにあの二人は団長エールや三・三・七拍子等の型を振るでもなく、田中角栄の様に日の丸扇を目出たくパタパタさせている。
「おうオオツカの、今日は栄(名古屋イチの繁華街)でも繰り出すきゃ!」とヨシダが言えば、「待っとったぎゃ、キョーデェー。地下の茶店にえぇナオン発見しちゃったもんね。僕ちゃんとっぴ!(捕った)」などと相も変わらぬ低IQで下半身には高カロリーな話に花を咲かせるとろんとろんな毎日。
“コイツらの本性が分からん。いや分からんほうが幸せか”みたいな、まるでどーだっていい日々を俺たちは送っていた。
 そんなある日の朝、教室へ着くとセイゴとコウタロウ、マコトが一人の男を囲んで話していた。
「ウィ〜ッス。朝からどしたん?恐喝やいじめは級長の僕が見逃さないぞ」と善人ぶってその輪に顔を突っ込むと、クラスでもあまり目立たないチーム所属の「シモムラ」と言う小柄な男が立っていた。
「ニシオ、コイツ応援団に入りたいって言っとるけど、どうする?」
 セイゴがシモムラの肩をポンと叩き言った。
「はぁ〜?お前が応援団?やめとけ、やめとけ」と優しくそいつに言うと、
「なんかオマエら見てたら楽しそうだし、先輩も少なそうだし」
とシモムラはボソボソ。
 そこへ毎朝ヨシダの付き人をしているイナモトが登場。
「はぁはぁ、オッス。まぁあの人ん等にはまいるて。タバコ買い忘れてたら蹴られるし、モンチャン(学ラン)のたたみ方が汚いって殴られるし、やっとれん!ところでみんな朝から何しとん?」
 一気に喋りまくったイナモトは机にへたり込んだが、事の次第を話すコウタロウにイナモトは飛び起き、気合い一発!
「入りゃええが、頭数多い方が何かと都合ええで。あっそうや、俺のおんなじ中学だった奴が商業科におるけどそいつも今日から来るで。みんなで運命共同体や!」
 先輩からの怒りやヤキを分散しようとしているイナモトの浅はかな考えは一目瞭然だったが、入部を口にしてしまったシモムラはその流れに逆らえずその日の放課後部室へ行くハメに…

 部室前に着くと見た事の無い、妙に厳つい男がひとり、日本海の岸壁を連想させるよう演歌チックに直立していた。
「お〜、トンぶぅ〜」
 イナモトが手を振り呼び掛けた。コイツがイナモトのツレか。オッサンみたいやな、眉毛ねぇ〜し少し髭生やしてるし…なんて外見から四の五の詮索していると、そいつが俺達に近付いてきた。
「オッス、トヨダって言うもんや。よろしく」
 低くドスの効いた声と風貌は既に二回生の馬鹿どもの薄っぺらい貫禄を2.5ゲームほどリードしてた。それに比べ我が部のニューフェイス・シモムラときたら、「シモムラです、よろしくお願いします」と生徒会長に立候補した「童貞臭いガリ勉君」の様にペコペコしてた。

「来たぞ!整列っ」
 統制のマコトの声に横隊する俺達。慣れない二人も見よう見真似で列に加わる。
「押忍!」体育館横の通路にあの二人が現れた。ヨシダは巨漢のくせに歩幅が小さく急ぎ足でちょこまか歩き、オオツカの一歩は小学校低学年の幅跳びくらいの迷惑な歩幅で、さらに擦り足がに股で脇目も振らずただ一点だけを見つめダメな武士のように闊歩している。
 今や見慣れた登場シーン、新入部の二人の目にはどう写っているのやら…。
 ヨシダはそんな新入部員に気付く事も無く部室へ、しかしオオツカは普段から張り巡らしている妖怪電波に二人をキャッチしたのか鉄扉前でピタリと止まった。漫画でよくある“ギヌロ”というフキダシがそのまま頭の上につくような視線で新顔をなめ回す様に見ていた。
 あ〜あロックオン入っちゃったよ。本当この人の視線はアナコンダが獲物に巻き付き、今まさにフォークとナイフを用意して無茶苦茶なテーブルマナーで食わんとしている様や。ほんと毎日蛇をツマミにハブ酒でも呑んでんじゃねえか?クワバラ、クワバラ。
 俺の妄想どおり二人に恐怖心を植え付けたオオツカはニヤリと笑い部室に消えた。
 しばらくして部室内へ入るよう、二回生から指示が出た。狭い部室にはタバコの臭いが充満し、ゆっくり煙りが靡いていた。
「おっ!?新入りさんきゃ?よういりゃぁたね(よく来たね)。名前はなんて言ってちょうすきゃ?(名前を言ってくれ)」
 ヨシダの口から発せられる名古屋弁はいつも婆ちゃん言葉で、しかも声が高い。後方に立っていた二人は俺達の間を擦り抜け最前列に立った。
 躊躇する二人に、「僕ちゃん達名前は?それと姉ちゃんか妹、すなわちシスターがいたらそれも知りたいなぁ〜」
 どこから見ても取り立て業者のような質問を浴びせるオオツカ。
 対するニューカマー、最初に口開いたのはトヨダであった。
「一年商業科、トヨダです。よろしくお願いします。小学生の妹が一人います。」
 オオツカの質問に正直に答えるトヨダにヨシダは大笑い。しかしオオツカは真顔で返す。
「小学生きゃ、まだ蒼いなぁ、ちょっとムリかも」
 その本気なコメントからも全身が海綿体で構成されていることが十分にうかがえる、海綿体の金太郎飴みたいなビバ・オオツカ!
「次っ」
「一年普通科シモムラです、よろしくお願いします。姉が一人います。」
 その言葉にオオツカは超反応し横臥していた体を反り返す勢いで起き上がり首をろくろ首の様に伸ばし顔をシモムラに近付けた。
「い、い、今、姉って言ったよな、姉って。お姉様はお幾つなられるのかな?はたまた何をしていらっしゃるのかな?して綺麗きゃ?シモザワ君!」
 あかん、この人まぁはい鼻の下伸びきっとる。完全に時代劇のスケベ代官や。名前も間違えとるし、完全にアホのレッドゾーンはいったわ。
 そんな海綿体代官に下村は生真面目に解答する。
「姉は7つ上で銀行員です。世間では一応綺麗と言われてます。それと僕はシモザワでなくシモムラです。」
“綺麗”と“年上”さえ入力すれば、名前なんてどいうでもいい海綿体先輩は激しいダンスを交えて叫んだ。
「シモザワでもシモムラでもそんなもんどっちでもエエわ!要はちゃん姉よ。なぁ、キョーデェー!」
 今会ったばかりなのに兄弟になるのがオオツカの特技である。ただし年上お姉さんがいる場合に限るが…。
「あーこれこれ、シモムラ君とやら、僕かオオツカ君は将来君の兄になる可能性が出てきた。学校生活で困ったり、ここにいる他の一年のたわけどもにいじめられたら、直ちに僕かオオツカに言いなさい。エエきゃおみゃぁさんたー、今日からシモムラ君は幹部候補だで丁重にもてなせよ。おみゃらは着替えて外周(学校周り)走って来い!ささ、シモムラ君は僕達と将来についてとかお姉様達との合同コンパの予定を立てようじゃないか!まさに君は我が部のドラフト1位指名。ゴールデンルーキーということですね。へっへっへっ」

 馬鹿だ…バカすぎる。シモムラの安否が気になりつつもジャージに着替え外周を走る俺達。坂道ではあの白豚イトウが自慢の鈍足を披露していた汗ばむ陽気の春真っ只中だった。


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 八

〜一回生の章〜 八


 いよいよというか、やっとというか初練習の日が来た。

 仮入部から2週間、応援団らしい事と言えば『押忍』と言う挨拶を覚えた事と毎夕の行列できちんと列んで歩く事くらいか、、、。
 授業が終わりいつものように部室へ急いだ。グラウンドや他の部室はいつもの光景があったが、我が応援団の部室は今までと違うただならぬ雰囲気が漂っていた。
 あの悪魔二人組が早々と部室へ来て、タバコも吸わずジャージに着替え軽いストレッチをしているではないか!

「やあ〜君達、早く着替えて練習をしようじゃないか!」
 前屈しながらヨシダは見せた事もない笑顔で森田健作ばりに爽やかに言った。しかし身体が硬いのか張り出した腹が邪魔なのか、やっぱりデブなのか前屈体操というより軽い会釈にしか見えない動作で額に汗し、先程の爽やかさはぶっ飛び、暑苦しさだけが残った。
 その横ではオオツカが試合前のボクサーのように首を回し、指っをポキポキ鳴らし、時折回し蹴りのような格好を俺達に見せ付け威嚇していた。その眼はまさしく獲物を見つけたアナコンダのようで冷たく光っていた。
 俺達は部室前でパンツ一丁になり急いで着替えをした。

 しばらくすると二回生達も集まり、部室内で着替えを済ませ点呼が始まった。
 中京のジャージは学年別で色分けされていた。それは入学時に決まった色を三年間通して着るのである。俺達一回生はこの春卒業した先輩達の色【緑】三回生は【紺】二回生が一番しょぼく【えんじ】に別れていた。
 そして丸襟、手首、ズボンの側面には【赤、白、青】の通称(中京ライン)があしらわれている。

 総勢20名の点呼が終わりヨシダからの指示が飛んだ。
「よし、今日の練習場は校舎屋上だ。ウチヤマとヤマダ、イナモトは和太鼓と台を持って行け。残りは屋上までダッシュや!校舎横の螺旋階段を上がって行け、2年が後をぼう(追う)から抜かれたらヤキやぞ!行け〜!!」
 ヨシダの号令と同時に俺達は屋上目掛け走り出した。部室から100メーターぐらい走ったところでまたヨシダの声がした。
「行きゃぁせ!!」全力疾走の中振り返ると二回生四人が一斉に走り出した!
「来たぞ!」横を走るセイゴが言った。
「余裕だろ、こなけん(これだけ)距離があるで」
 と余裕のヨッチャンで振り返った俺の眼に恐ろしい現実が映った!?
それは同期で眼鏡でデブで信じられない程鈍足のイトウの姿だった!
“なんだてあのデブ、100メーターもビハインドがあったのに。まぁはい(もう)50メーターぐらい詰められとるだにゃぁか!”
 その後ろを必死の形相で走る二回生に脅威を感じながら俺はセイゴを呼び止めた。
「セイゴ、イトウがヤバイてっ!待っとって連れてこまい!」
 するとセイゴは足を止め、
「イトウ、早よ走れっ!無理ならそこで死ね!」
 激励とも罵声ともとれるセイゴの声にイトウは顔色を変え眼鏡をずらしながらシフトアップした。二回生のムラマツがもの凄い脚力で猛追して来た。
 イトウは体を左右に振り息も絶え絶えで顎を上げ顔を真っ赤にし、今にも転倒しそうだった。
「イトウ〜早よせえや!」セイゴが手を伸ばし叫んだ。
 ムラマツがあと20メートルぐらいと迫った時、俺とセイゴの間にイトウが倒れ込むように体を預けて来た。

「ハァ、ハァすすまん」「喋るな、行くぞ!」
 俺とセイゴはイトウを両脇に抱え螺旋階段に向かった。“階段は狭い、俺とセイゴが壁を作り背後の二回生をブロックしてる間にイトウを先行させれば抜かれずに済む”この超ナイスで古典的な作戦に、後ろからぼって来た(追って来た)ムラマツが金切り声で
「どけぇ〜、お前等!こっすいぞ!(卑怯)」
 と叫びながら俺のジャージに手を掛けた。“何するんだ、この青瓢箪。うっとーしい”それを見たセイゴがムラマツの手を振り払おうと必死だ。
 俺は引きずられながら叫んだ。
「ウオリャ〜!イトウ早よ行きさらせ〜!」
 ジャージが伸び首が絞まりそうになりながら再度叫んだ。“抜かれたら終わりや、なんであの白豚のせいで俺とセイゴが、、、クッソ”怒りの矛先がイトウに向いた時、
「着いた〜!」
 とイトウの声がした。
 上を見上げると螺旋階段もあと半周程で屋上の距離にいた。
「セイゴ行けぇ〜!」命じた声にセイゴは
「アホか一緒に行くぞ!」と俺の腕を掴み階段を駆け上がる。
 俺を掴むムラマツはもう抜く力が残っていないようだった。三段、二段、、、
「ヨッシャ〜!ウォォ〜!」
 屋上に倒れ込みながら二人は叫んだ。
 俺から手を離したムラマツもくたばり果て膝を落としうなだれている。
 俺は仰向けになり猛スピードで深呼吸を繰り返した。目には青い空がものごっつく綺麗に映っていた。そんな小さな感動を感じていると、その青空を隠すようにひとつの影が俺を被った。

「誰や?」逆光で姿が見えない。すると俺の顔に滴がポタポタ落ちて来た。“なんじゃこれ?”生暖かい滴は汗と分かり気持ち悪さで跳び起きると、真っ赤な顔から蒼白になり本物の白豚になったイトウが立っていた。
「ハァ、ハァ、ゴメンな俺のせいで。ハァ、ハァ」
 息まで生暖かいイトウを突き飛ばし
「おみゃぁのせいで、まあちっとでヤキだったがや!セイゴにも謝れっ!」
 激高する俺に一瞬怯んだイトウはセイゴにも頭を下げた。
 そうこうしていると額がナイアガラの滝みたいになった太鼓を担いだタイチとヤマダ、太鼓台を抱えたイナモトに残りの二回生と悪魔二人組が屋上に到着した。
「あ〜あ、ええ天気だなも。練習なんかやっとれえへんわ」
 大あくびと共にヨシダが言えば
「本当だなキョーディ、こんな日はお姉ちゃんとチョメチョメに限るわ」
 と腰を高速回転させながらヘラヘラ笑うオオツカ。“本当この二人は天気同様、脳天気やわ”呼吸を整える俺達にナカシマから号令が、、、

「整列!」
 その声に横一列に並ぶ。続けて、
「横隊番号!」「1、2、3、・・・14。1年14名異常ありません!」
 点呼を終えた俺達をヨシダとオオツカがなめ回すように見ていた。
「1年、抜かれたもんはおれせんのきゃ?」
 統制のマコトが「押忍、おりません」と答えると
「ほうきゃ、優秀だぎゃ」と少し残念そうにヨシダが言った。
 オオツカは俺達を抜けなかったムラマツの前に無言で仁王立ち。オオツカを直視できないムラマツは俯きながら口を開いた。
「押忍、すいません。ニシオとウシダ(セイゴ)が邪魔をして、その、、、」
 そんな言い訳をするムラマツに
「へっへっへっ。ほうきゃぁ〜、邪魔されたきゃぁ〜?役者やのぉ〜」
 と、あの『嗚呼!!花の応援団』の名台詞を吐き捨て睨みを効かせるオオツカ。
 その眼光と迫力に俺達は背筋を凍らせた。しばらくの沈黙の後
「よ〜し校歌だ、おみゃ等覚えたやろなっ!1番、2番をええと言うまで歌い続けろ!ムラマツ!太鼓!」
 ヨシダの命令と共に自然体をとり合図を待った。ナカシマの「校歌〜、よお〜い!」の号令で太鼓が鳴った。(ドン、ドン、ドンドンドン。押忍!)
 初練習である校歌が始まった。最初の1番が終わるや否や、悪魔二人組は二回生のヤスオを屋上の隅っこに呼び、あの“焼肉パーティー”なるへんてこな歌と踊りに爆笑を繰り返し、これっぽっちも俺達を見ていなかった。
“全くあの二人は何を考えているのか、、、。”

 俺達は歌い続けた。30回以上はリピートしただろう。そして頭がぼーっとし声がかすれ始めた頃、
「あれっ?おまえん等まんだ歌っとったんきゃ。そろそろ夕方、ご近所に迷惑だろ。それも下手くそな歌で、お空でカラスがにゃぁとるで、まぁきゃぁってくぞ(帰るぞ)」
 全くジコチューというか適当というかヨシダの言葉に開いた口が塞がらない。
 とどめはオオツカの
「テメェ等、ちゃっと帰るぞ!おはようスパンク見逃したらヤキだでなっ!たわけ!!」
“おはようスパンクだぁ?その顔とキャラで。勘弁してくれよ〜”

 結局二人の暇つぶしに付き合わされた練習初日。【デビルブラザーとヤンキー達】という名でテイチクレコードからデビュー出来るくらい校歌を歌い込んだ。

<続く>


 今回は、今春の選抜高校野球に出場が決まった我が母校を祝し校歌を掲載させていただきます。

『中京高校校歌』
ここ八事山 東海の
大都名古屋の 東に
中京の名を 負ひ持ちて
城と守る 我が学びの舎
凜乎とかざす 真剣味
見よ躍進の 先輩の業績



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 七

〜一回生の章〜 七


 正式な応援団員になって数日、ひとつだけ気になっている事があった。応援団の顧問の先生が誰であるか知らない事だった。
 どうせこの応援団の顧問、教員の中でも1、2を争う猛者だろうと勝手に考えていた。
 それにしても姿を現さないのはどういう事か?そんな疑問をよそに部室では毎日練習をするでもなく、何かを伝授されるでもなく悪魔、二人組の馬鹿話を聞いたり、タバコの火付け係りと見張り番、行列をなしての下校の毎日。たまに笑いがあるとすれば二回生のヤスオ先輩が二人にイジられ意味不明の“焼肉パーティー”というダンスを踊らされているのを見ている時くらいだった。
 俺たちに何か変化があったといえば足元が革靴に変わっていたくらいかな。

 それから数日、いつものようにタバコの見張りで部室前に立っていると校舎の方角から、Yシャツにスラックス、170センチやや痩せ型の先生らしき人物が食堂横(異常報告線)を突破しこちらに向かって歩いて来た。
 どうみても真面目そうな先生で応援団に縁もゆかりもないような先生だったが規則により部室内に報告。部室内から「どんな感じの奴だ?」との問い合わせに「はぁ、七三分けでカッターにズボンのおとなしそうで少しニコニコして歩いてる根菜みたいな先生ですけど」と鉄扉の隙間から応えるや否や、部室の中からナカシマとムラマツが大慌てで外へ飛び出した。室内を見るとまるで火事の火を消すかのようにイナモトとタイチが学ランでタバコの煙を仰ぎ、オオツカはオリンピック日本代表応援団のお爺さん(あの人、きっとすげー金持ちだと思うわ)のように、日の丸扇子で煙を扇ぎ、ヨシダはトイレの消臭剤をスペシウム光線のように煙に噴射してた。
 その光景を見て(ハッ!?もしかして顧問の先生か?)という疑問が頭を過ぎった。
 ナカシマは小声で「1年整列、整列」と普段大仏のような細い目を仁王様のようにカッと見開き指示を出す。ムラマツは自然体で先生を迎える態勢に入り微動だにしない。
 そして先生が剣道場(結界)を通過した時「押忍!」とナカシマが声を張り上げ挨拶、それに倣い俺たちも続けて挨拶をした。

 初めて見る俺たちに少し笑顔を浮かべた根菜先生。(こんなおとなしそうな人が応援団の顧問?)そんな疑問は秒殺された! 先生の顔が一瞬で別人に、、、、眉間には顔面の90パーセントのシワが集まり目つきはオオツカの何百倍も鋭くなって部室前に立った。
「ヨシダァ〜!、オオツカァ〜!」名前を呼ばれた二人は身を寄せ合うようにというかヨシダの巨体に押し出されるように奥から出てきて先生に挨拶をした。
「押忍!」
 俺たちは二人が頭を下げ挨拶をするのを初めて見た。
 部室の中からはタバコの匂いとヨシダが撒き散らした消臭剤(キンモクセイ)の匂いがブレンドされた異臭が放出し変にトリップしそうだった。
 先生は鬼の形相で二人を睨んだ。ヨシダはパンパンに張った面の皮がヒクヒクと動くくらい緊張し、オオツカはモグラが通った跡の土のように額に血管を浮き上がらせ瞳孔をフルオープンさせていた。
 先生は黙ったまま二人を睨んでいたが、暫くして三回生と二回生とともに部室に入った。中からは先生の声は聞こえないが、あの二人と三回生の「押忍」という大声が何度も連呼されていた。

 俺たち一回生は妙な緊張感に包まれ雑談を止め目前の野球部の練習を黙って見ていた。
 俺たちと同じ一回生の野球部員は約130人、1塁3塁側のフェアラインの後ろに並び大声を出し言わば球拾いをしていた。その列は両翼のポール際にまで達する人間フェンスあるいは人間ドミノで、どちらも欽ちゃんの仮装大将で赤ランプに到達する見事さだった。
 数分の後。俺たち一回生も部室に入るよう指示された。3m×3mほどの狭い空間に20人、すし詰め状態の中で先生の挨拶が始まった。

「1年生のみんな初めまして、応援団顧問の熊谷(クマガイ)と言います。僕は3年を受け持っているので君たちとはなかなか接する機会が少ないが、ここで会ったのも何かの縁ということでこれから宜しく。そして応援団というものは一見派手でありますがその活動というのは実は地味で各クラブの応援活動のみです。成績や表彰といったは類は無く地道に母校を勝利に導くための活動ですが、勝利した時の達成感や感動は他ならないものがあります。厳しいこともあるが、頑張って下さい。押忍!」
 
 手短ではあったが見た目と違い男気ある挨拶に武士のような潔さを見た。
「ヨシダ、オオツカ、何もないなら早く帰れよ」
 先生の言葉にヨシダは「押忍」と首を竦め、オオツカは“そりゃごもっともで”と越後屋みたいなウソ臭い笑顔で手を揉み、そのまま部長の接待ゴルフに付き添うセクハラ係長のようになっていた。
 先生が異常報告線を越えるのを確認すると三回生、二回生そして俺とセイゴが部室に入った。
「まいったなぁ〜、兄弟(キョウディヤー)」とオオツカが寅さんのタコ社長のように扇子をばたつかせ、ムラマツから咥えさせてもらったタバコをふかし言えば
「1年、おみゃぁさんたぁよう、なんのために見張りをやっとんだ!ドたわけ!」
と噛んだタバコがふにゃふにゃに見えるくらい上下させてヨシダが言い放った。
 ちなみに「ドたわけ!」はたわけ=バカの最上級であり、これ以上のバカはいないという、御菓子で言うならばモンドブレッソみたいな勲章である。

 俺とセイゴはただただ謝るばかりであった。二人の喫煙タイムが終わると、外にいる一回生全員が呼ばれ一回生の体制と今後の活動について話が始まった。
「1年っ、おみゃぁさんたぁの中でも統制(まとめ役)を選ばなかん。いわば1年の団長だがや。誰ぞやりたい奴はおりゃぁすか?」
 刑務所のサーチライトのように首を左右に振り俺たちを睨むヨシダ。それをよそにオオツカはヤスオをイジって遊んでる。
 誰も挙手しない俺たちに痺れを切らし「ほんなら俺が決めるで、ええかっ!」と言って名前を書いた大学ノートを開くヨシダ。
「ん〜、んんん。ほうきゃイケダおみゃぁさんがやれ!ええきゃ下手うったら即交代アンド焼きアンド連帯責任の3点セットや、ええきゃぁ〜!」
 きゃぁ〜きゃぁ〜と活字の上では可愛いが、これが全部オールバックに剃り込み&眉毛ピューなむさ苦しい男たちの声だから始末なし。
 指名されたイケダ(マコト)は有無も無しに「押忍」と返事。
 俺たちに拒否や固辞と言った言葉や表現は無い、有るのは『押忍』のみだ。
 それを聞いたオオツカは「兄弟、なんでまたイケダなんだ?喧嘩が強いとか唄が上手いとか家族構成で年頃の姉チャンがおるとか?」
 聞いて呆れる質問事項にヨシダの出した答えはそれを遥かに超えるものだった!?
「そんなもんアイウエオ順に決まっとるがね!」
(はぁぁ〜? 中京の応援団が、それも次期団長候補の座の統制をアイウエオ順やとぉぉぉ〜。なんちゅういい加減、なんちゅう適当、そんなんでええのか!)。意見が出来ない俺たちは当のマコトを含め皆目が点。
 しかしそれを聞いたオオツカは「うん、うん。それが一番ええ、アイウエオ順は世界共通、世界は一家、人類皆兄弟。一件落着、よっ名奉行!」(世界共通?人類皆兄弟?名奉行?だめだこりゃ、この二人はおかしい)真剣に二人の脳みそを疑っていると
「そうきゃ、名奉行きゃぁ!」と頭を撫で照れるヨシダ。
(いよいよ重症や、こうなると知能はパンダ以下や)
 落胆し目がうつろになりかけた時
「よし!春季大会にむけて練習でもやるきゃ!あっ、ほんでも今日はエミコん達と茶店行く約束があったで、やっぱ練習は明日からにし〜よせ。はっはっはっ」
 脳超ド天気のヨシダ。パンダを超え虫以下である。

 そしていざ帰るとなると夜逃げのように素早く機敏に部室を出る二人。
 駅へ向かう坂道にはいつものゴキブリ行列が、、、、、
 団長エールを振る第一歩を明日に控えた、夕暮れ。
 サンセットが綺麗な空だった。


 <続>




2008/03/03

初出勤日、3月3日。

2008/02/29

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾

2008/02/19

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 九

2008/01/30

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 八

2008/01/11

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 七
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