7月31日今週の朝礼『8月という哀しみの季節』

 8月。どうですか? 元気にやれそうですか?
 7月を迎えた時にはなんだかとても気持ちよくなりました。訳もなく高揚感に包まれ、カレンダーの日をめくるだけでちょっとした充実感をもったりして。これが7月にしかない夏の魔法なのかもしれません。それもそのはずです、なんせ『夏休み』という特別な時間が迫り来るとあらば、自然と毛穴から体内のバイキンが放出されて、嫌なことなんか全部リセットできるような気分になれたからです。
 ところが8月となると、すでに夏休みも2週間ちかく消化されて、いや、消化にはほど遠い、ただただ怠惰な時間を過ごしただけの話なんですが。とにかく8月の声を聞くと、ちょっとした不安や焦りなんかも発生するんですな。
 つまりこういうことです。これから始まろうとする夏休みを前に、“40日もあるんだ。この夏にはきっといろんな何かが僕を待ち受けてて、その何かのなかで僕は特別な経験を積み、やがて夏休みが終わった頃には、40日前とは格段と違う僕に成長している”という自分勝手な妄想に包まれていたのですが、実際夏休みが10日ほど過ぎたあたりから、“あれ、おかしいぞ。何も変わらん。それどころか、前よりもダラダラで時間が無駄に過ぎてるだけじゃん”というダメダメ包囲網に引っかかって、そんな自己嫌悪地獄から抜け出せない奴は、友だちと会う気力も失せ部屋に閉じこもってカーテン閉めっぱなしでオナニー漬けになるか変態メールを送り続けるか、あるいはリスカ系のネガ小説を読みふけるかのいずれかになってしまうわけです。
 そう思うと部活動ってありがたかったですね。それやってるだけで、緊張したり興奮したり責任感じたりしくじって後悔したり、とても感情的な日々を送ることができるわけですから。まして多数の人たちとの交流もあり、孤独を感じることさえもなく、健やかに時は流れていくのですから。
 
 夏とはそういうものです。夏を迎えようとする時期こそが夏のピークであり、梅雨が明け太陽が毎日頭の真上でギラギラと輝きはじめた頃には、そこにはもう厳しさしか残されていないのです。

 ユーミンはこう言いました。
『夏の中にも12の季節がある。一年をかけて過ぎてゆく時間と景色とそれに揺れ動く感情が、夏という時間の中には詰め込まれている』

 つまり、この夏の中でもう秋風が吹きはじめているのです。
 それをつまらないとか物足りないとかいうことは自由です。
 ただ、そんな12のストーリーを持つ夏の刹那を感じてこそ、この夏はあなたにとってかけがえのない時間となるのです。

 気がつけば僕らはとっくに夏休みとは縁遠い大人になってしまったけれど、それでもずっと心の中に流れる『夏休み』という時間軸の中で、僕らは今年も残された夏を過ごして行くのです。
 夏。残酷な季節の中で、あなたはどんなあなたになっていくのでしょう。
 9月になる頃に、そっと確かめてみてください。

 それでは残酷で素晴らしい8月に、いってらっしゃい!



上がるわ凹むわ剥がれるわ。

 冬の話題をひとつ。
 父の一張羅の勝負ブーツはグッチである。コードバンという立派な馬革製でゴムのソールがついていて、編み上げになっている。
 ある帰り道の夜11時過ぎ、東海道線の車中で父のケータイが震えた。わが家に棲息している中年女性からだ。父は電車の中では基本的に電話には出ないことにしている。
 電話をギュッと握った。止まれ、と念を込めて。止まった。そしてまた震える。もう一度握る。止まれ!
「握る」と「止まる」の間に因果関係はないけれど、なんとなく握ると止まるものだ。「震える」「握る」「止まる」を3回ほど繰り返しているうちに、タイミングをつかんだだけの話なのだろう。たぶん、止まるギリギリのところを見越して握っていたのだ。
 謎の中年女性とて、父が車中では電話に出ないことを知っているはずだ。にもかかわらず3回も4回もかけてくる。ということは……
①何か大変なことが起きた
②謎の中年女性がのシステムがクラッシュした
 ということが考えられる。さらに①も「父が何かをしでかして、その証拠が出てきた」か「それ以外」かに分類できる。またそれによって②が生じることもあり得る。いずれにせよ電話越しなのだから、怒られたって、ライブよりは全然怖くないのだ!
 父は勇気を振り絞ってコールバックした。
 タケダテツが高熱で倒れたという。で、すでに市民病院にタクシーで到達したと。市民病院にはお医者さんがいて、タケダテツの温度をはかったり金属のヘラで舌を押さえたりしてくれるわけで、父が駆けつけたところで、何の戦力にもならんのだが、こういうときは駆けつけるものなのだ!
「とりあえず怒られることがない」というよいニュースと「タケダテツ高熱!」という悪いニュース。父の胃はモヤモヤと痛むのであった。

 救急救命病棟では、タケダテツが見慣れたドラゴンボールのパジャマを着てぐったりしていた。
 39℃。
 ビニールレザーのソファに倒れ込んでいる。寒い寒いと泣いている。ああこりゃいかん、かわいそうに。
 こんなときドラマならば抱きしめてやるのだろうが、これは現実だ。それに父はそもそもそうした陳腐なドラマが嫌いだ。タケダテツの隣に腰掛け、頭に手をやって「大丈夫か」と尋ねた。大丈夫なわけはない。寒泣きしているのだ。
 乳会社ならば。もとい、父が医者ならば注射か点滴の1本も打って、タケダテツと中年女性に対して「もう大丈夫」と言えるのだろうが、父はライターだ。職業的属性をめいっぱい発揮したとして、ちょいと洒落た慰めの言葉をクリエイトするぐらいのことしかできない。でもそんなおしゃれフレーズはリアルではない。タケダテツが日頃欲しがっているものを買ってやる約束をすることで、精神面からのサポートを試みようとも思ったが、やめた。よけい興奮して熱が上がってもいかん。全快したらなんか買ってやろう、うまい棒でも。
 結局「大丈夫か?」と繰り返すことと、いろんな検査の順番待ちにタケダテツの母の話し相手になることと、タケダテツの母がトイレに行くとき留守を守ることで、父の病院における役割は果たされたのだ……ということにしておこう。
 すべてが終わって、すうすう眠るタケダテツを抱きかかえてタクシーで帰路につく。重くてしっとりしている。家に着いたらパジャマを着替えさせてやらねばならない。ポケモンかムシキングのやつにでも。そして父は、タクシーの中で腹ぺこであることに気づいた。夕食を食わねばならない。もう2時だけど。

 ドアを開けた瞬間、赤ん坊の絶叫が聞こえた。うちにはもうひとりいたのだ。たけだりおは放置である。
 アー忘れてた。めちゃめちゃ泣いているじゃないか!父は急いで両足の編み上げブーツの紐を解いた。片足のつま先でもうかたいっぽのかかとを踏んづけ、グイッとブーツから足を抜く。抜けない。ひものほどき方が甘いのか。テツとりおの母はさすがに忘れてはいないらしく、玄関先で「もうちょっと早く帰れると思ってたの。わーゴメンゴメン」とつぶやいた。素早くサンダルを脱いで部屋に上がる。アー待って待って。父は焦ってさらに力強く足を抜こうとした。メリッ。ギャーッ。
 ベビーベッドの間から、今度は中年女性の絶叫が聞こえる。父はマッハで、紐を緩めて丁寧にブーツを広げて片足ずつゆっくり急いで引っこ抜いた。
 たけだりおは母に抱かれて機嫌を取り戻した。濡れた瞳が蛍光灯を反射してキラキラと輝く。口角もグイグイ上がっている。ところがだ、泣いてる最中ずっとベビーベッドの、檻みたいになった柵のところに顔をぎゅーぎゅー押し付けていたらしく、せっかくニコニコ微笑んでいても頭はベコンベコンとところどころ凹んでいるのであった。 
 母の絶叫はそのせいだった。なでなですると笑う。頭はペコペコだけど。タケダテツは高熱など嘘のように「おなかがすいた」と言い、父は結局、無惨にソールが剥がれたグッチのブーツのことを誰に告げることもできなかった。


※ 頭のペコペコは翌日には治りました。
※ グッチのブーツはシーズンが終わったのでそのままです。



7月2日今週の朝礼『じゅらい』

7月という響きが大好きであります。
憎めないんですね、この耳障りが。
7月。たとえばこんな感じ。
風邪引いて寝込んでいて、夜中にうなされて、
汗をダラダラかいて寝苦しい真夜中を過ごしたけれど、
部屋の東側にある小窓のカーテンの隙間から射し込む光に無理矢理起こされて、
しばらくまぶしそうに目をこすっているうちに、気分がスッキリして
「あれ?治った」って、そーゆー感じです。
それぐらい僕の中では7月という響きが好きです。
もちろん根拠もなにもないですよ。夏だって特別好きじゃないし。
けど、やっぱり、もうすぐ夏休み、もうすぐ真夏、
もうすぐなにかが始まるかもしれないという気がして、
この歳になってもう一度グレたくなる気分です。
 
僕はこの夏にどうしてもやらなければならないことがあります。
それはある意味、45歳になろうとする僕にとって「夏休みの宿題」かもしれません。
「ある人と僕たち」という小さな宇宙が永遠であることを確認するために、
僕はこの夏、はじめて本気で宿題にとりかかるのです。

誰もがかけがえのない夏休みの宿題を抱えて、
グッとくる夏をお迎えください。



6月26日今週の朝礼『ミートホープも、また先生』

ミートホープの一件はまさしく人間関係のそれと同じだ。
「多分、大丈夫だろう?」から「大丈夫だ!」に、やがて「大丈夫って言ってるだろ」に変化して、
最後には「大丈夫じゃないけど、なんとかなる」へとシナリオは急展開する。
ひとつのウソからはじまった小さくてバカな物語は、
ゴロゴロと勾配を転げ落ちるほどに手の付けられないところに堕ちてゆく。
恋愛もそうだし友情もそうだ。
最初のほんの小さなウソが最後には命取りになる。
人は誰もが人生の主役。それは好調のときばかりでなく不運のときも同じだ。
せめて人様から後ろ指をさされない人生劇場を演じたいものである。
そう思うと、あのニヤついた社長の姿は、ある意味、この時代の教科書ともいえるかもしれない。

社保庁、コムスン、ミートホープ、つぎはどいつだ?
もう教科書なんか要らないぞ。



写真バカららばい 第1回『卒業』
待ち遠しい夏休みを控え、試練の梅雨に突入。
あーやだやだ、と嘆いてばかりいませんか?
そんな時はほら、思い出してみませんか。ついこの前まで桜が咲いていた頃のことを。
桜咲き、桜散り、桜舞うあの頃には、いろんな物語が誕生しました。
出会いも別れも旅立ちもあきらめも、ぜんぶぜんぶ桜の花びらにくるんでそっと胸に押し充てて、
僕たちはそれを「春」と名づけました。

そんな春にもっとも似合う大切な一瞬があります。
『卒業』
今回はプロのカメラマンたちがそれぞれの卒業を閉じ込めてきてくれました。
あじさいのころに、さくらの気持ちで、ひらひらと、ご覧ください。



今回のお題目は『卒業』
『写らら』編集長マロンブランディーによる評&演出と、グランプリ以下の順位も発表します。



谷口尋彦氏 http://www.d-cord.com/
評&演出
卒業とはその瞬間を丁寧にアルバムに貼付けることではなく、無情に踏みつぶしていくことである。彩り豊かな現実はつぶされた瞬間にモノクロームな過去となる。人生とは、単にいくつもの空き缶を踏みつぶしていくだけのことなのだろう。なぜか尾崎っぽくピッチピチのジーパンにグラサンな気分です。




新保勇樹氏 http://shimboyuki.jugem.jp/
評&演出
わかる。卒業は哀しすぎる。男も女もおんなじだ。じゃ「入学」っていつだったんだろう?と、時の大切さを考えさせてくれる秀作。




笠井爾示氏 http://www.kasaichikashi.com/
評&演出
卒業は特別なアニバーサリーではない。男は卒業の数だけMANになる。今日も卒業明日も卒業、ロマンチックで成績優秀なやつは朝も卒業、昼も卒業、夜もやっぱりまた卒業。たまに悩んで不安になって留年もまた人生。




MOTOKO氏 http://www.mili.jp/motoko.html
評&演出
絶えゆくものへ、それまで一緒に歯を食いしばってきた同志が哀しみの泪を流す。屍(しかばね)はその魂を生き続けるものの中へ注ぎ込む。終わりと永遠は一体である。




鈴木貴子氏 http://www.ehibi.com/
評&演出
今度この桟橋に戻る時、おまえはどうだ?泣いてる場合か?




小泉修氏 
評&演出
桜の花びらの刹那が狂おしいほどに美しい。散ってさらに生を漲(みなぎ)らせるその逞しさは、学び舎を後にした者の泪とおんなじだ。さぁお行き、木綿のハンカチーフをもって。




永瀬圭介氏 
評&演出
今、ぼくは歩かされているけど、もうすこししたら歩けるようになるからね。




稲田平氏 
評&演出
泪を流す場所を求めすぎていませんか?笑顔を振りまける瞬間を探していませんか?青春とは無機質なもの。そこにあるのは錯覚だけ。けれど僕たちは、その先の、さらに先へと向かわねばならない。




平野哲郎氏 
評&演出
保母さんが、無事に小学校へと送り出せることだけを「卒業」とするならば、なんて味気ない教育だろう。もしそれを園児が感じてしまったら、なんてわびしい国なのだろう。優しさの中にも現在の教育を考えさせる秀作。





次回からはプロアマ問わず、これを見ているあなたからの投稿もOKです。
写メール画像でも構いませんので、何でも送ってみてください。


※投稿はこちら maroon@mb-jp.com へお願いします。


『写らら』編集長マロンブランディーが、辛口で批評しつつも素敵に演出してみせます。
グランプリに輝いた方には気まぐれで何かを進呈いたしますので、お楽しみに。


次回のお題は『夏休み』
どうぞ好き勝手に解釈してください。
ただし、ウェブに載せられないくらいのエロ&グロは控えてくださいね。
コドモからオトナまで見てますから。
投稿の締め切りは、7月31日 8月31日(金)到着分までです。


そうそう、感材費などは一切出ませんのでごめんなさい。
画像、紙焼き、ポジなど自由。
ウェブなので発色やリサイズにはある程度寛容にお願いします。


また、本コーナーに掲載した画像に関する著作権は、特に明記がない限りマロンQエストに帰属しますが、原則的に掲載は本サイトのみとし、他媒体への転用はしません。尚、掲載後に投稿者からの削除の申し出があった場合は、内容を検討し適宜考慮します。




それでは、あなたの投稿をお待ちしています。



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