『青春十七歳・初恋列車』第五章

『青春十七歳・初恋列車』(全六章)
 第五章「約束のプラットホーム」


釧路でもユースホステルに泊まった。
夜行が続くと布団の中で眠りたいものだ。
僕は大学生グループと一緒にぬさまい橋を撮影し、
ラーメン屋で食事をした。

翌日、
僕は札幌行きの特急に乗っていた。
いつもの僕だったら、
池田から池北線に乗って、
足寄の松山千春の家を訪ねるか、
ラベンダー畑で有名な、
富良野・美瑛もコースに加えるのだが、
僕の頭の中は彼女の事でいっぱいで
観光コースの設定に力が入らなかった。

札幌駅で夜行が出発するまで時間を潰し、
夜行鈍行で函館に向かった。
列車の中でリュックを整理してみると、
未使用のフィルムがたくさん出て来た。

いつもの僕ならたくさん写真を撮るのに、
今回はほとんど写真を撮っていない。
どうやら頭の中は初日の函館からストップしていて、
写真を撮る状態ではないらしい。

函館には早朝に着いた。
近くの路線をぶらぶら乗って時間を潰し、
彼女と約束した久根別駅に向かった。
時間はまだ15時だった。

久根別駅も七重浜駅と同じ無人駅だった。
誰もいないホームのベンチで、
久根別駅の駅名表を見ていると、
「別」という文字に目に入った。

16時を過ぎた。
夏なのに陽が傾いているように感じる。
あたりの景色がオレンジ色に染まってきた。

僕はとても不安だった。
彼女は本当にやってくるのだろうか?
単に気まぐれで言ったのではないか?
もし、
来たとしても迷惑そうな顔をしたらどうしよう。

僕は落ち着かなくなって、
駅前の自動販売機前に移動した。
僕は自動販売機のお店の人に怪しまれないように、
コーラを買って彼女を待っていた。





16時14分。
久根別駅にオレンジ色のおんぼろディーゼルカーが到着した。
ドアがゆっくり開くと学生がドッと降りてきた。
僕は慌ててホームへ走った。

学生達は見慣れないよそ者の僕を不思議そうに見て、
駅前に止めてあった自転車に乗って行った。
学生らを運んできたディーゼルカーのドアはゆっくり閉まり、
うるさいエンジン音を響かせて発車して行った。

「やっぱり来ないな...」
と思った時、
前方から4、5人の女子高生グループが歩いて来た。

「もしかしてこのグループか?」

でも、
それらしい子は居ない。
溜め息をついて諦めかけた時、
グループの一番後ろに、
白いデッキシューズを履いた女の子がいた。

「住美代ちゃんだ...」

先日は私服で大人っぽく見えたけど、
制服を着ていると少し幼く見えた。
住美代ちゃんは短いスカートを履いて、
手にはつぶれたカバンを持っていた。
夕日のせいか栗色の髪がやや明るく感じたが、
あの白いデッキシューズを履いた姿は、
紛れもなく住美代ちゃんだった。

どうしよう...グループでいる。
僕は迷った。
どんどんグループは近づいてくる。
胸が高鳴ってきた。
住美代ちゃんは楽しそうに友達と話している。

その友達が僕に気付くと、
住美代ちゃんも僕に気付き、
友達に「知り合いなんだ」と言って僕のところにやって来た。

「じゃあね!」
「バイバイ!」

友達は僕の顔を不思議そうに見て去って行った。

「やだぁ、本当に来たんだ!」

あどけない顔をしながら、
人を試すような台詞といい、
大人びた口調は相変わらずだった。

「ねぇ、どこ行ってきたの?」

僕は行った場所を箇条書きの文章を読むようにしゃべった。

「わたしの行ったことがない所ばかりだよ...」
「その後、家出していないよね」
「家出はしてないよ。大丈夫」
「よかった、心配したよ」

会話は一問一答形式だった。
明らかに先日の住美代ちゃんとは受け答えが違っていた。
僕はそれに気付かないふりをして話そうとしたが、
悲しい気持ちが先に出てしまい、
思ったように口が開かなかった。
すると住美代ちゃんが口を開いた。

「宏康くん、ごめんね、これから家庭教師が来るから帰らなきゃ...」

「僕より勉強かよ..」

心の中でそう思った。

今にも歩き出しそうな住美代ちゃんを見て、
僕は僕に心の中で呟いた。

もう行ってしまうんだぞ!
時間がないぞ!
もう一生会えないかもしれないんだぞ!
住美代ちゃんは夜行列車の窓から見えた、
真っ暗闇に浮かぶ家の灯りの住人になってしまうんだぞ!

もうひとりの僕の呟きはいつしか叫びに変わっていた。

気持ちがピークに達した僕は、
何を血迷ったのか、
思いがけない言葉を彼女に言った。

「住美代ちゃんには好きな人がいるの?」

彼女は笑いながら、

「いるよ...」
「誰?」
「家庭教師」
「............」

だから住美代ちゃんは家庭教師が来る前に家出してきたのだ。
住美代ちゃんの家庭教師は頭のいい、
どこかの大学生なのだろう....
勉強を教えてもらっているうちに、
そこに恋が芽生えたのだが、
二人の間に何かが起きて、
家出をしてきたのだろう....
僕は勝手な想像をしていた。
一番したくない想像をしてしまう自分がとても嫌だった。

住美代ちゃんは気まずい顔も見せずに、
煎餅カバンからノート出し後ろのページを開いた。

「手紙書くね、宏康くんの住所を教えて...」

僕は今まで味わったことがない感情に包まれ、
胸が掻きむしられるような気持ちになって、
目の裏側で何かが動いているのが分かったが、
息を大きく鼻から吸ってノートに住所を書いた。

住美代ちゃんはノートをカバンにしまってから、
チェックの紙袋を僕に渡した。

「これ、あげる...」
「何これ?」

僕は時間を引っ張ろうとした。

「あっ、ごめん。ほんと家に帰らなきゃ、じゃ、さよなら!」
「..........」

住美代ちゃんはオレンジ色に染まった街の中へ走って行ってしまった。
このやりとりはわずか3分程だった。


つづく



第5章・出撃

 とうとうその日が来た。もう迷いは無い、暴れるだけ暴れてあとはなるようになれという気分だった。
 俺は学校に行くふりをして、タバコや食料などを買い込んでケイゾウの家に向かった。ヤツの部屋に着くとあらかじめ用意しておいた援団ジャージに着替え、二人で馬鹿話やゲームをやって時間を潰した。
 夕方6時を過ぎた頃にハルやその他のツレが集まってきた。6畳半の部屋にヤンキーが7人、タバコや香水の匂いが入り混じり、まさしく溜り場・悪の巣といった感じだった。
 そんな中、各々が持って来た武器自慢大会が始まった。ある奴は爆竹、ある奴は3段警棒、中にはメリケン(カイザーナックル)と悪の神器を取出し得意満面。俺とケイゾウのブツは定番というか芸が無いというか小学校の修学旅行で買った木刀であった。当然ブツには「東大寺」の焼印が、、、そんな武器を眺めながら「それは使えん」とか「すぐ折れてまう」とかギャアギャアワイワイ騒いでいた。
 ある奴が「ヨウスケはどうした?」と思い出したようにつぶやいた。しかし誰の口からも「電話せえ」「呼ばって来い」などの言葉は出ず、(多分タキグチや先輩らぁとおるんだわ)という事で意見が一致し、ソコに関しては気にするのをやめた。
 時計を見ると午後9時を少しまわっていた。

 集合時間まで1時間を切った。コンビニで買ったおにぎりやパンをかきこみ慌ただしく動く俺たち。
「ボチボチ行こか」
 俺が立ち上がるのを見て、急かされたように準備をする仲間たちの顔にはまだ笑顔があった。
 さてと。各自ケッタに乗り目指すはボーリング場跡地。狭い町道を蛇行し暴走族気取りで疾走する中学生非行日記。途中で俺とケイゾウは隊列を離れとあるマンションへ、、、木刀だけでは心細い俺たちはどこのマンションにも常設してある消火器をぶん捕りに行った。計4本を手にした俺たちは、俄然強気になってニヤリと笑いながら急いで仲間の後を追った。
 しばらくして仲間たちが待つボウリング場に追いついた。
 以前は賑やかだったその場所も、今では真っ暗な哀しき街角。駐車場には雑草が生え、ボウリング場のガラスは無惨に割れ、スプレーで落書きされた壁が悪の牙城にも見えた。しかし車も単車も人影すら見えない。
「まだ早いか?」などと不安混じりに話しながらタバコをふかしていると、、、あちこちから集合管の音やゴッドファーザー、結婚行進曲などのヤンキー御用達クラクションのけたたましい音が辺り一面に響き渡った!
 あれよあれよ、その数は時間と共に増え、集まった4輪15台、2輪20台越とあっという間に駐車場が暴走族の集会場と化した。
 映画やVシネマではない。生、生、超本番の生臭さである。

 しばらくすると少し離れたところで怒声があがった!

「ええか、絶対負けるな!逃げるな!とことんやったれ〜っ!」
「ウオ〜!!!」
 すごい歓声にアドレナリンが逆流する。興奮したバカどもは、手が千切れるほどの握手やハイタッチ、、、中には抱き合う連中もいた。
 今から思うと、あのエネルギーや覚悟を他の事に使えば、どれだけ充実した人生になっただろうと、、、思ったけど、それはそれで面白かったからタラレバは言うまい。

 そんな中、アオさんが俺たちを見つけ近寄って来た。
「おまえら本当に来たんか?今からでも遅くない、帰れ」
 ……俺たちは無言、いや言葉が出なかった。
「ええかっ、ガキの喧嘩やねえぞ!へたしたら大怪我ですまんのやぞ、わかっとるのか」
 大怪我ですまん。その先を想像し、さらに俺たちは固まる。
 
 しばらく沈黙の後、自分を鼓舞するように俺は言った。
「アオさん、みんな気持ちは一緒やよ、絶対やられえへんから連れてって下さいよ」
「アオさん、アオさん」
 俺の言葉をきっかけにみんながアオさんに詰め寄る。
 すがるような、勇気を確かめるような、そんな蒼さを含んだ気持ち。
 怖さや不安があるから青春なんだ。

「判った。けどな、無理すんな。やばくなったら逃げろ!ええか、絶対やられたり、捕まるな!ええ格好すんなよ、本気の喧嘩やぞ!」
 あまりの迫力に後ずさりした俺たちだったが、アオさんのやさしさと強さと本気さを知っことが、なんか嬉しかった。
「ほんなら後でな、全員帰ってこいよ」
 アオさんはそう言って集団の中へ消えて行った。

 間もなくしてあのパンチ男のマサシが号令を掛けた。
「行くで〜っ!」
 俺たちは先輩達の車に分乗し、敵(十○夜隊)の事務所に向かった。
 車の中では緊張と興奮で声も出ず、ただ黙って外を眺めていた。
 車が事務所付近に近付いた。そこには濃紺の街宣車やマイクロバス、黒塗りの車が数台停まっていた。それらの車を取り囲むように4輪や2輪を停車させ車を降り指示を待った。
 見知らぬ男がやって来て俺たちや他の不良たちに指示を出す。
「おまえらここにあるマイクロと車を倒せ、街宣車は赤のスプレーがあるで消防車みたいにしたれ!ええか!」。

 あ、あ、あ、あ、あ、、、、、も、もうっ、やるしかねーっ!

 俺はケイゾウとカズやハルを見てニコっと笑った。
 奴らもニコっと笑い返した。
 もちろん到底笑える心境ではない、けど、でも、これが、ヤンキー魂っていうか、精一杯の覚悟っていうか、、、 とにかく、その強がってこわばった笑顔が、最後の笑顔となった・・・・
 
「イッたれや〜!!!」
「ウオリャァ〜ッ!」

 遂に決して後戻りできない壮絶な喧嘩が始まった! 


(続)



『青春十七歳・初恋列車』第四章

『青春十七歳・初恋列車』(全六章)
 第四章「錆びた線路。人恋しくて…」


利尻号の出発時刻が近づいてきたので列車に戻った。
利尻は札幌から旭川まで函館本線という幹線を走ってきたが、
旭川から終点の稚内までは宗谷本線という偉大な名前の路線を走る。
しかし、本線というのは名ばかりで、
線路も枕木もローカル線程度のレベルなのでとても揺れた。
利尻と僕。ふたりともとても揺れているのだ。
真っ暗闇の窓に寂しそうな自分の顔が映った。
僕はカーテンを後頭部にかけ、
窓に自分の顔が映らないようにした。

車掌のアナウンスで目が覚めた。
列車は最果てのサロベツ原野を走っていた。
同じ北海道でも函館あたりとはかなり雰囲気が違っていた。
雄大というより荒涼という言葉がよく似合う風景だ。
車窓には丘陵が広がり、
辺り一面には熊笹が生い茂っている。
左側に利尻山が見えてくると、
日本最北端の稚内駅に着いた。

稚内駅前には、
鉄道、バイク、自転車、
あらゆる乗り物を駆使して、
この地までやってきた若者がシュラフで寝ていた。
早起きの連中はバーナーでカップラーメンを作っている。

僕は稚内港北防波堤ドームへ向かった。
かつて、
稚内から樺太の大泊へ稚泊航路が出航していた。
今ではそんな当時の面影もなく、
ただの観光地になっている。

帰り道、
宗谷本線の線路が終わっているところを見つけた。
錆びた線路はタンポポの咲く草むらの中でひっそりと途切れていた。
その錆びた線路を見ていると、
最果てに来た喜びよりも、
今まで感じたことがない寂しさが込み上げてきた。

稚内を後にし、
天北線というローカル線で南下した。
列車は観光シーズンというだけあって、
都会並みの車両の長さだったが、
僕の乗った車両は貸し切り状態だった。

僕は窓を全開にして、
窓際の小さなテーブルにコーラを置いた。

列車は大自然を走る。
果てしなく続くサロベツ原野には、
いくつもの熊笹が生い茂り、
熊笹は列車が通るたびに踊っているように揺れた。

時々、原野のアクセントのように、
人の温もりが感じられるサイロが見える。
それと同じくらいに、
荒れ果てたサイロも数多く見かけた。
ここで夢を追い開墾した開拓者たちは、
厳しい自然よりも、
厳しい孤独に耐えられなくなって、
この地を去っていったのだろうか。
夢と現実の狭間での葛藤。
列車に乗っている僕でさえ、
この荒涼たる風景を見続けていると、
人恋しくなってくる有様だ。
僕は開拓者になんて絶対になれない。

天北線は運行システムがコンピューター化されていない。
「コンピューター化」という合理化がされないということは、
この大自然を走る路線は廃止になるという意味だ。
機械化されない原野の駅には必ず駅員がいた。
1日の利用者は数十人もいればマシなほうだろう。
そんな小さな駅を急行列車は風のように通過してゆく。
たったひとりだけの駅員は木でできた短いホームに立って、
通過してゆく急行列車に敬礼をしている。

僕も通過駅の駅員に敬礼をしてみた。
一瞬しか見えない僕の敬礼に気付いた駅員は敬礼を返してくれた。
駅の周りには民家もなく、
列車の本数も数時間に一本なのだ。
駅員も仕事とはいえ、
この駅の勤務はとても寂しいはずだ。
僕は駅員と熊笹に敬礼する天北線の旅を楽しんだ。

列車は旭川に着いた。
ここから網走方面に向かう石北本線に乗り換え、
留辺蘂(るべしべ)駅まで行き、
今夜の宿となる留辺蘂ユースホステルに向かった。
ユースホステルはシーズン中なのでとても活気があった。

ユースホステルでは管理人さんをペアレントと呼ぶ。
一夜だけ僕の親代わりになるという意味だからだ。
ペアレントさんは、
「遠くから大変だったね。温かいごはんができているよ」
と僕を食堂へ案内した。
食堂に行くと一人旅の大学生が、
「いっぱい食べた方がいいよ」
と大盛りごはんをよそってくれた。

兄弟がいない僕にとっては、
ユースホステルで出会う大学生や社会人は、
一夜限りの兄であり姉である。
そんな兄や姉は旅から人生まで、
とても幅広い事を僕に教えてくれた。
今日はごはんをよそってくれた大学生が、
僕の兄貴になっていた。

「何で留辺蘂に来たの?」
「明日、金華駅と生田原駅の間にある常紋信号所に行くのです」
「ひとりで行くの?」
「はい」
「気を付けて行ってきてね」

常紋信号場は列車の行き違いをするだけの施設だ。
かつては信号場の近くにある常紋トンネルから出て来たSLが、
煙をもくもくと吐き出して力強く走っていた。
この付近は有名撮影地として、
すばらしい写真・録音作品が生まれたお立ち台で、
僕はこの場所で列車撮影をしたかったのだ。

翌日、
ユースホステルから自転車を借りて常紋トンネルを目指した。
ペアレントさんは「気を付けてね」と言った。

自転車に乗ってひたすら国道を走る。
道に迷いながらも、
やっと信号場の近くと思われる所まで来たのだが、
どうやって線路まで上がれば良いのかわからず、
笹の中をこいで山を登っていくと、
遠くで「ガサガサ」と音がした。

僕は唾を飲んだ。
その瞬間、
黒くて大きい生き物が、
こちらに近づいてきているのが分かった。

「ガサガサ」
「ブーン」

なんと頭上には大きな蜂の巣がたくさんあり、
大きな蜂は音を出して僕を威嚇していた。
僕は背中に全神経を集中し、
黒くて大きな生き物と蜂から逃げるために、
草薮を転がるように降りて、
自転車のペダルを全速力でこいだ。

血相を変えてユースホステルに戻った来た僕に、
ペアレントさんはこう忠告した。

「ここには来るな!という意味なんだよ」

その言葉には説得力があった
僕は留辺蘂でのミッションを諦め、
網走へ向かった。

網走では番外地を見学し、
「網走刑務所」の木札をお土産に買い、
絶対にここに入るような大人にはならないと誓い、
網走から釧網本線に乗って原生花園を眺めて、
夜霧に包まれた釧路に到着した。


つづく




※天北線は1989年に廃止されました。



『青春十七歳・初恋列車』第三章

『青春十七歳・初恋列車』(全六章)
 第三章「ぼくの銀河鉄道」


列車は函館に着き、
函館から札幌行きの特急北斗に乗った。
北斗号はおんぼろディーゼルカーとは比べものにならないスピードで、
噴火湾に沿って札幌を目指した。
海を見ながら長万部のかにめしを食べ、
僕は優雅な特急列車の旅を楽しんだ。

札幌では待ち時間があった。
東京並みの通勤ラッシュが発生している街に、
夜遅くまで居なくてはならないと思うと憂鬱になった。
それでも札幌駅で列車の写真を撮って、
僕は改札を出て街を歩いた。
街を歩いていると、
ローソンという聞き慣れないコンビニがあった。
福島にはセブンイレブンしかないのだ。

街を少し見ただけで札幌駅に戻ってきた。
今夜は夜行列車に乗ることだけは決まっているのだが、
肝心な行き先が決まっていない。

札幌からは稚内、網走、釧路、函館行きの夜行が出発する。
一瞬、函館に戻ろうかと思ったが、
函館に戻っても住美代ちゃんに会えるわけでもないのだ。
僕は函館以外の街へ行く列車に乗ることにした。
残された列車は、
「21時20分発、急行利尻・稚内行き」
「22時02分発、急行大雪・網走行き」
「22時20分発、急行まりも・釧路行き」
の3本だ。

それにしても国鉄の列車名は、
どれもこれも旅情溢れる名前ばかりだ。
特に北海道の列車名は、
未だ見ぬ地への期待感が、
ふんだんに詰まっているように思える。

僕は函館の“呪文”から自分を解き放つため、
急行利尻・稚内行きに乗ることに決めた。
自由席の乗車口に早々と並び、
美しいブル−の客車に乗り込んだ。
寂しげな機関車の汽笛が聞こえると、
利尻号は稚内を目指し出発した。
真っ暗闇の車窓を眺めていると、
時折、家の灯りが見えてきた。

「あの灯りの家にはどんな人が住んでいるのだろう?
 あの家に住んでいる人とは一生会えないかも知れないし、
 偶然、出会えるかも知れない...」

列車は旭川に着いた。
到着時刻は23時45分で
発車は日付を超えた0時17分だ。
利尻号は稚内に朝早く着かないように、
途中の主要駅で時間を調整してゆく。
僕はその調整時間を利用し、
改札を出て駅前に出てみた。

初めて降りた深夜の旭川は静まり返っており、
暇そうなタクシーの運転手がハンドルに足を乗せて眠っていた。
日常なのか非日常なのかわからない不思議な空間にいると
ふと、銀河鉄道999を思い出した。
999号が惑星に停車している間、
鉄郎とメーテルはその星でさまざまな人たちに出会う。
しかし、
999号は発車時間になると惑星を定刻に発車し、
アンドロメダを目指す。
鉄郎は999号が惑星を出発するたびに、
辛い別れを経験してゆく。

「別れ...」
北海道には「別」という地名が多い。
「別」はアイヌ語で「川」という意味である...
と何かの書物で読んだことがある。
しかし、
僕にとってはの「別」は、
日本語の「別れ」という意味にしか思えなかった。

「今日は家出してないよな...」

ふと、彼女のことを思い出した。
彼女は家出するほど苦しい立場にいる。
それに比べて僕は鉄道旅行を楽しんでいる。
僕は単に通りすがりの旅行者なのだが、
彼女にとって北海道は生活の場なのだ。

間もなく日付が変わろうとしていた。
今日が昨日になってしまう。
住美代ちゃんに出会えた今日という日が、
過去にならないで欲しいと思った。
僕の気持ちは揺れに揺れていた。


つづく



2月8日 今週の朝礼『柳沢問題について』

 柳沢厚生労働大臣、ボコボコですね。なんであそこまでやり込められるんでしょうかね。民主党の元国営放送のアナウンサーだったって女性は、“私も言葉で商売してきたから許せない”というようなことを言ってましたが、それとどんな関係があるんですかね。
 アナウンサーの、しかも国営放送ときたら、言葉は伝える道具ではあるけれど、自分の意志を伝達しているわけではないでしょ?もともとアナウンサーはニュース原稿を読むための職業であって、そこに個人の意志を添えるような立場にはないわけだから、いくら言葉で商売してきたからといって、それを誇張するのはちょっとおかしい気がします。
 もちろん政治家たるもの、私情感情だけで公式発言されては困ります。なにせ議員先生のお給料は我々が払っているのですから。けれど、柳沢発言の社会的現象を見ていると、どこか学校教育における体罰問題と重なって仕方ないのです。
 わかりやすく言うなら、「ヘタなこと言っちゃいけない」という呪縛が強すぎて、議題を進展させるために必要な本音や本質が論議されないようになってしまう懸念があるからです。
 もともと国会議員なんてのは本音を言いたくても言えない立場にあるのに、そこに柳沢問題勃発で、それこそ口先サミットで何の核心にも触れず、一議会につき約一億五千万円以上といわれる国会の費用を我々小市民は負担する事になるのだから馬鹿馬鹿しくて仕方ありません。
 体罰問題だって、とにかく「殴ったらダメ」という部分だけがひとり歩きし過ぎて、それを利用してバカな生徒たちが好き放題に暴れて、学校がむちゃくちゃになったわけでしょ。イジメ問題だって中高生の凶悪犯罪だって、殴られる意味と傷みを知らない世代に圧倒的に多いわけで、つまりは殴ることも教育の一環であるという本質が砕かれ、殴ること=体罰という、わけのわからない定義だけが広告のキャッチコピーみたいになってしまったから始末に負えないんでしょ。
 本音の時代、何処行っちゃったんですかね?確かに行き過ぎたりする場合はあります。
 けれど本当に物事を良い方向へ導こうとする場合、時に殴ることは意味を持ちます。深層真理をつくための本音発言には意味とエネルギーが宿ります。決して柳沢大臣を擁護しているのではありません。確かにあの方は、ちょっと軽卒だと感じました。どういう結果になろうともミソギの旅は続けるべきです。
 それにしても、7月の参議院選挙を睨んで、ピンポイントで与党のアゲアシをとるための国会って一体?
 僕には国会議事堂で議論されていること自体が、「イジメ」であり「教育問題」に映ってしかたありません。




2007/02/16

『青春十七歳・初恋列車』第五章

2007/02/14

第5章・出撃

2007/02/13

『青春十七歳・初恋列車』第四章

2007/02/09

『青春十七歳・初恋列車』第三章

2007/02/08

2月8日 今週の朝礼『柳沢問題について』
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