『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十弐

〜一回生の章〜弐十弐


「ドカ―ン!!」
 鉄扉に物凄い音がした。誰かがぶつかった、いや蹴飛ばされたかブッツ飛ばされたに違いない。
「おうコラッ、なめとんのかテメェら!」
 オオツカの声が響きブロック塀や鉄扉から鈍い音が続く。5分、10分…。その音は一向に鳴り止まない。しばらくすると鉄扉の隙間から、
「おい一年、先公が来たらソッコーで教えろよ、ちゃんと見とれよ!」
 声の主は二回生ナカシマだったと思う。部室外の俺達四人は言われるままに校舎方向を見渡した。
 次いで耳に入ってきたのは「バッシ、バッシ」と叩かれる音。多分あの“精神注入棒”かバットで叩かれているのだろう。俺達四人は音がする度にビクンビクンと身体が反応して外にいても恐怖と激痛が伝わって来た。現場を目撃せず音だけで恐怖を感じるという事は想像力と聴覚を刺激し何十倍もの恐怖を体感し、俺は奴らを部室へ呼んだ事を後悔した。

 そんな《ヤキ》が続く中「おい、あれ先公じゃね?」とシモムラが言った。食堂横をゆっくり歩いてこっちに向かって来るのは、大木を挟んで右隣に部室を構えるウェイトリフティング部の顧問国崎(通称コメ)だった。
 シモムラは直ぐさま鉄扉に近寄り「押忍、コメが来ました」。中から「コメか無視しとけ」と声がした。
 コメが処刑部屋(部室)の僅か2メートルまで接近しウェイトを上下する部員を見ていた。そのコメの耳にヤキの協奏曲が聞こえているのは明白!しかしコメはこちらを見ようともせずまた中からの恫喝や打撃音も止まない…。
 見猿、言わ猿、聞か猿か…そりゃいくら先公でもあの二人に関わりたく無いわな。
 数分後、「じゃ頑張って」とウェイトを上下させる部員に声を掛けそそくさと立ち去るコメ。その間もヤキは続いていた。

 かれこれ一時間が経とうとしていた時、食堂横にまた一人の先公が現れた。そいつは応援団を敵視するバレー部顧問のヤスダだった!俺は一年生の時このヤスダに何十回と殴られ、卒業後二度も死亡説を流された。そんなに嫌いか!
 そのヤスダを見てすかさずタイチが鉄扉に向かい「おおお押忍、ヤヤヤスダがきき来ました」部室内はヤスダの名前に反応し静寂した。部室前でヤスダが立ち止まった!ヤスダは俺達と鉄扉を睨み付けタバコの匂いを嗅ぐかのように鼻をヒクつかせる。
「何やってんだ、オマエラ」ヤスダの甲高い声に固まる俺達。ヤスダは俺達に睨みを効かせバレー部の部室へ向かった。
「ヤっさんは行ったか?」鉄扉隙間からナカシマの声が…。
「押忍、行きました」
 俺が答えると同時に鉄扉が開き中から仲間達がよろめきながらトコロテンのように出て来た。ヤスダが偶然通った事で地獄のショータイムが終わった。

 中から出て来た誰もが憔悴していたが何故か殴られた痕跡は無い、しかし真っ黒の学ランやズボンには靴跡やバットや精神注入棒で殴られたような形跡がくっきり付いていた。腹を押さえる者、足や腕を摩る者、悔し涙を流す者と十人十色で苦痛を表している。
「大丈夫か?」声を掛ける俺に「騙された、ドツボや…」と一番酷くやられた姿のイナモトが息も絶え絶えに呟いた。

 結果、ヤキを入れられた部員は残留を強いられた揚げ句、丸坊主にするよう強要された。せっかく大金を叩いてあてたパーマは一週間の寿命を閉じた。残留組の俺達にも連帯責任として、一年間の食堂使用禁止が命じられた。しかし…この事件を境に奴ら(悪魔二人組)は本性をモロに出し始め、身の回りの世話はもちろん、登下校時のボディーガードや毎日の献金、むしゃくしゃした時の人間サンドバッグに暇な時の人間ジュークボックスとありとあらゆる手段で俺達を痛め付けた。

 そんな悪夢の様な毎日が続き、夏の予選一ヶ月前にまた事件が起きた。それは梅雨が一休みした暑い午後だった…。


<続>




『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十一

あけましておめでとうございます。
2009年もよろしくおねがいします。
それでは、おめでたくないストーリーの続きをおたのしみください。



〜一回生の章〜弐十一


 教室の中からヨシダが笑顔で手招きしていた。俺は周囲の雰囲気に飲み込まれないよう目一杯の声で挨拶をした。
「押忍、一年ニシオ入ります。失礼します!」
 昼寝をしていたガラの悪い輩が飛び起きて、 「なんじゃ餓鬼がぁ~」と機嫌悪い声をあげると、その機嫌悪い輩に、「じゃぁしいわボケ、儂んとこの兵隊だがや。だぁっとれ、ドたわけぇ~」と団長ヨシダ。
 ヨシダに恫喝された輩は直ぐさま寝たふりをした。俺はそれが本当か仕込みなのか疑う余裕もなく、いつも通りの自然体をとり不良達の輪の中に悪寒つきで立っていた。

「おうチビちゃん元気きゃ」。番長ヨシダが笑う。
 その横で団長ヨシダの二倍はある巨漢タカハシがサングラスの奥で目を細めていた(まるで竜鉄也です)。

 緊張のあまり顔を強張らせていると、「おいエイイチ、辞めてかした(訳:辞めていった)連中がえらい羽根伸ばしとるみたいだにゃぁきゃ、どうなっとりゃぁす?(訳:どうなってる)」とおババが使う名古屋弁全開でヨシダが言い放つと、神父の服より長い学ランを捲り、「あいつらパーマネントあてて食堂でランチまでしとる始末…。な、な、なめとんのきゃぁぁぁぁ~!」とオオツカが奇声を発する。(このふたりは本当に息が合うというか、映し鏡と言うか、ひとりが何か言ったらかならず返す、まるでバカな山びこのようだ。ヤッホー、アッホー、なんちゃって…)。

 その圧力にびびりながらも(俺のせいじゃないやろ)と冷静に考え黙り込む俺。しかし黙秘を続ければ殴られるのは必然、なんか言わなかん。

「押忍、どうすればよろしいですか?」
 その言葉にヨシダがニヤリと笑った。
「あいつんたらー(訳:あいつら)に言っとけ。楽しそうな学校生活の感想が聞きたゃぁで明日一度ハウス(部室)に来るようにと…ええきゃ逃がすなよ」。補足するようにオオツカ(山びこ2号)が、
「今日言うだにゃぁぞ、明日の帰り際に全員集めて連れて来い。一人もきゃぁすなよ(訳:帰すな)」と俺の肩を叩いたた。そのいや~な感触は今でも鮮明に残ってる。

 番長ヨシダやその他大勢の不良の方々は“御愁傷様”といった表情だった。(えらい事になった、あいつら殺される)。そんな一世一代の大役を仰せつかった俺は足どり重く悪の巣を出た。
 教室に戻るとイナモトやセイゴ、マコトにコウタロウがこの世を謳歌するように馬鹿騒ぎしていた。
「ニシやんどした?あのデブちゃんなんやって?」。トラボルタみたいに櫛をあて余裕のイナモト。
「あっ、いや別に…」
 言えなかった。いや言ってどうなるものでもなかったと思う。
 放課後タイチとシモムラ、イトウに話の内容を伝えると皆渋い顔をした。

 明けて翌日。浮かない顔でぼーっとしているとまたまたあの悪魔二人のロデム“クキ”が顔を歪めながら教室にやって来て、「おい援部の一年ちょっと来い」と廊下に呼ばれた。
 胸を突くだけで5メーターは吹っ飛びそうな奴だけど、いかんせんあいつ等のロデム、下手に文句や手出しは出来ない。
「何の用っすか?」。ぶっきらぼうに言うと、
「あああ態度悪い、態度悪い。サトル達の前とえらい違う、言うぞ言うぞ。それより今日は辞めた奴達みんな来てんのか?ってサトルが聞いてましたけど」。だからなんで語尾が敬語なんだよ、と思いながら、
「全員来てるはずっスけど。なんなら自分で調べられたらどうっすか」
 少し声を荒げ言うと、「わかったわかった、じゃあ僕はこれで」と逃げるように去って行った。
 嫌な時間が刻一刻と迫って来る。まだなにも知らない連中はいつも通り馬鹿騒ぎ。
 唯一シモムラだけが俺を不安げな目で見ていた。

 昼飯が終わり俺達残留組は元団員がいるクラスを回り部室へ来るようにと伝えて回ると、ほとんどのヤツが理由を聞いてきた。
 俺の口から出た言葉は「正式な退部届けを出してくれと言われた」。出任せにしては説得力のある最高の台詞だった。少々心苦しく思いながら…。
 そんな俺を疑うでもなく皆口を揃え、「そやそや!正式に辞めないつ殴られるかもしれへんで!」と逆に歓迎ムード一色だった。

 放課後、部室前で立っていると退部者達がゾロゾロ歩いて来た。二回生を見てもぺこりと頭を下げるだけで以前のような挨拶は無い。
 そんな態度に二回生ムラマツがへらへら笑ってた。その顔がなんか余裕でムカついた。
 まずは俺達残留組が部室へ呼ばれた。
 ヨシダとオオツカはなぜか満面の笑顔で、
「やあ君達本日の働き大儀である、もはや幹部の君達は外で野球でも見ていなさい。代わりに外に居るゴミ共に中へ入るように言いなさい、へっへっへっ」
 いつものおババ言葉は無い。俺達は外へ出て退部者達に中へ入るよう指示した。
 俺達と入れ代わる様にヤツラが部室に入ると速攻で鉄扉が閉めら
れた。ついで、「てみゃぁら(訳:おまえら)どえらい調こいとらっせるだにゃぁきゃ(訳:すごく調子にのってる)おうコラッ!」とヨシダが叫んだ。

“ザザザ”後退りする無数の足音が聞こえた。

 とうとう地獄のショウタイムが始まった!


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十

〜一回生の章〜弐十


 衝撃の退部勧告事件から一夜明けた地下鉄(上前津)のホーム。昨日まではヨシダにはイナモトがオオツカにはタイチとヤマダが付き添い周囲を威嚇していた。しかし今朝はあの二人とタイチだけ。俺は最後尾のモニターを見ながら違和感を感じていた。
 下車駅から学校へ向かう坂道でコウタロウとマコトを見つけた。その二人の髪形が前日までとガラリと変わっている。二人ともパーマ(カールアイパー)をかけ楽しそうにしゃべっていた。教室に入ると横山やすしバリにアイパーをかけたイナモトが櫛を頭にあてがいどしゃべっていた。
「あーあ、気が楽だわ、あいつ等の顔見んでもええし朝早くから駅で突っ立って鞄持ちもせんでもええし。ええ気分やてー」と意気がっている。
 その横に隣の教室から遠征しこれまたパーマどうよと誇らしげな顔の元団員スズキもいた。意を決意し団に留まった俺とシモムラの方が元気がなかった。
「なあ栄ちゃん、あいつら一気にやり過ぎやねーか?なんもなきゃええけど…」
「せやなー、まあ先輩等がなんもせえへんて言っとらしたで滅多な事ねーやろ」そんな二人の心配をよそに一日、また一日と平穏な生活が続いた。

 残った一回生四人は毎日部室に通いアホ先輩達のアホ話を聞いたり喫茶店に付き合わされたりと振り回されていた。ある日の喫茶店での出来事。悪魔二人とその侍女達と俺とタイチが常店の若草へ。各テーブルのコーナーに大きな観葉植物がありそれがブラインド代わりに、そして俺達二人を立たせているから簡易個室になっていた。それをいいことに二人はそれぞれ侍女を横にはべらかし、たまにソフトタッチ時にブラウスの中に手を入れる等ティーサロンをピンサロにしていた。
 そんなチチクリ合いを見せつけられながらもじっと立っている事が情け無く感じ辞めて行った奴等を羨んでいると
「喉渇いたきゃ?腹減ったきゃ?なんか飲んで食うきゃ?」と思ってもいない優しい言葉が侍女の胸元に手をツッコミニヤニヤしたヨシダから出た。
胸元に手を突っ込まれている侍女は「キャッ、キャッ!」と声を発してる。
“お前等きゃっきゃっ教か!”と呆れていると「押忍、自分喉が渇きました」とタイチが言った。(当時俺達は飲食店へ行っても水すら飲ませて貰えない立場だった。飲み物乞い食い物乞いらももっての外。それなのにタイチが声を出した事には驚いた)「ほうきゃ、喉渇きゃぁたかね」と細い目を一層細め笑った。隣の侍女が「ハイッ」とメニューをタイチに渡そうとした時その手をオオツカが制止した。
「メニューは儂が決めたるぎゃ」アナコンダの眼が光った。そして「アイミル(アイスミルク)とサラダでええな」と言いながら自分達の水のコップにコーヒーに付いてくるフレッシュと砂糖を入れ指で掻き混ぜ、観葉植物の葉っぱを一枚もぎ取り俺達の前に差し出した。
「ほれ飲んで食えよ、栄養取らにゃ!若いんだで」有り得ない光景に目を丸くしてると一人の侍女が「かわいそうだでやめたりゃぁ」と言った。しかし「おい遠慮せんと飲みゃぁせ、喉渇いとんやろ。水だにゃぁぞ、アイミルやて」とヨシダが言い放った。オオツカの眼からは“早よ飲め~”ビームが放たれている。もう躊躇してる暇は無い。俺とタイチは「押忍、ごっつぁんです」と言って白濁に濁った偽アイミルを一気に飲んだ。
“うぇ、まずい”飲み干したコップを見ると底には溶けきってない砂糖が溜まっている。さすがに葉っぱは勘弁と固まっていると無理矢理口に押し込まれた。
 自棄くそになり噛んでいるとなんとも青臭い味が口中に広がり吐き気をもようした。しかし飲み物はもう無い。悔しさと情けなさが怒りに変わり完食してやった。
「旨みゃぁか?ハッハッハッ」笑うヨシダが超悪代官に見えた。
 店を出て奴らと別れた俺達はソッコーで自販機を探した。なんでもいいから口に含まないと葉っぱ臭が酷かった。何を飲んだか忘れたが道に座り込み二人で一気に飲み物を飲んだ。
「やっぱ辞めた奴等が正解か?何が応援団や」タイチが吐き捨てる様に言った。
「本当やな…けどよーここで辞めたらあいつ等のツボやし先に辞めた奴等にやっぱり辞めたかと言われるのも腹立つし…俺達が上になったらこんな事はせんぞ、夏過ぎまでの辛抱やタイチ」肩を叩き帰路に就いた。

 一回生退部から一週間。悪魔二人からの攻撃も無く退部者の気が緩み始めた頃事件が起こった!昼飯が終わり教室でのんびりしていると見た事無い三年生が一人廊下をウロウロし教室の中を伺っている。そいつは恐ろしく青白く顔が少し傾いた弱っちそうな奴、およそ不良ではなく大方使い走りであろうオーラ全開サイクロンだった。しかし最上級生、俺達一年の前では意気がって見せた。開いた窓から「おい、応援部のニシオっておるか?直ぐにサトル(ヨシダ)の教室へ来い…って言ってました…」意気がっていたのに最後は敬語になってしまう変な奴。後にこいつがその時々の使者になるとは…
 俺はそれこそ猛ダッシュでヨシダの教室へ。“なんの用や?殴られるんか?上納か?”不安だらけの俺が着いた教室の中は悪魔二人をはじめ番長ヨシダやその他顔役が揃った巣だった。“生きて帰れるか?いやその前に中に入る事が出来るか?”そんな重苦しい空気と殺気と妖気漂う午後だった。

<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾九

〜一回生の章〜  拾九


 笑顔を絶やさない悪魔二人に何らかの魂胆があるのは、明朗会計のキャバレーより分かり易い。ヨシダはニヤニヤしながら俺達をなめ回す様に眺め、オオツカは二回生相手にジャレていた。一回生の中にもこのダラけた雰囲気にコソコソ話す奴や自然体を崩す奴が…
 その時だった!?
「一年、お前等頑張ったな」
 ヨシダの言葉にオオツカもジャレるのを止めドカリと座り直した。
 そして次にヨシダが発した言葉に俺達は驚き耳を疑った。
「この一ヶ月半、そんで昨日までの二試合を経験して、“もう無理や、辞めたゃぁわ”って奴おるやろ?儂等もOBのたわけん等にぐずぐず言われて夏の大会までには精鋭部隊を作らなかんだわ。ほんだでこの機会に辞めたい奴はどうぞお引き取り下さい。ヤキ入れたり後で追い込む事はあれせんで!」
 思ってもいないヨシダからの退部勧告だった。少しざわつき顔を見合わす一回生。
 そしてオオツカが「よう頑張ってくれたな、でも無理なもんは無理で正直に言えばええぞ。辞めたら俺達に気を使わんでもええし、パーマもかけれるし学食も使えるし」
 オオツカの優しい言葉と笑顔があかずきんちゃんの狼婆さんに見えた。

 ヨシダとオオツカは互いにマクドナルドのスマイル¥0みたいな笑顔を振り撒きやたらと退部を勧める。最後にヨシダが「一日考えて明日返事ちょ、明日集合して返事聞くで今日は逢い引きがあるで解散!」と、言うだけ言って悪魔二人と二回生はさっさと部室を後にした。
 部室に残った俺達一回生15人は一斉に会議に入った。塞きを切ってどしゃべり始めたのはヨシダの付き人であるイナモトだった。
「俺は辞めるて!やっとれんわアホらしてよー。毎日毎日鞄持ちや煙草買いに行かされ、茶店行ってもずっと横に立たされっぱなし。機嫌が悪いと殴られ蹴られ。辞め辞め!」とまくし立てた。
 それにつられるかの様にマコト、コウタロウにセイゴ、マサト等が“辞めよう、辞めよう”の大合唱。
 俺とタイチはただ黙って見てた。
 帰りの地下鉄で退部を決めた奴等が振りまいた開放感ある笑顔が今でも鮮明に思い出される。

 明けて翌日。教室ではイナモトやマコト、コウタロウにセイゴがめちゃくちゃ明るく会話をしていた。
「なあニシやんは辞めんのきゃ?」イナモトが肩を叩き言った。
「ああ、毎日地獄やけど一旦足入れたから続けてみるわ。ほやけどお前等あんま調子こかんほうがええぞ。あの二人の事やで…」
 そんな言葉は何処吹く風とばかり退部希望者達は自由を手に入れた兵士の様にはしゃいでいた。
 放課後…タオカという一回生部員を除き全員部室に集合した。あの二人は前日に引き続きビッグスマイルである。
「さて、辞めたい者はもう帰ってええよ。ご苦労さん。晴れて自由の身や高校生活を思う存分楽しんでくれ!」
 ヨシダの惜別の挨拶と同時に鉄扉が開いた。退部を決めた奴等が一礼して次々と出て行く。そんな連中にオオツカは笑顔でアラレちゃんの“バイちゃ”を繰り返す。
 自然体で立つ俺に「エイイチはええのきゃ?」とヨシダ。
「押忍」と応える俺の頭を撫でるオオツカ。しかしこの時のオオツカからは既に笑顔が消え、部室にケツを向け帰って行く連中を睨んでいた。
 結局残ったのは、俺とタイチとシモムラ。そしてなぜか一番鈍臭い白豚イトウの四人だけだった。
「やあぁ、勇気ある諸君。残った君達で応援団を担ってくれたまえ。もはや君達は明日の幹部候補や!ハッハッハッ」
 ヨシダが声高らかに笑う。その横でオオツカは薄笑いを浮かべていた。
 胸騒ぎがした。なにかある。ないわけがない。
 残った俺達の恐怖感よりも辞めていった奴等への不安感を抱いた冷たい雨の夕刻。この雨が赤く染まらないとように…

<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾八

〜一回生の章〜 拾八


 集合場所へダッシュして横隊するもあのうっとうしいOB達の姿は無く、唯一大寿山そっくりのOBサマノがあんこ腹を摩りながら突っ立っていた。
「押忍」ヨシダの挨拶が飛んだ。それを合図かのように大寿山が喋り出す。「ご苦労さん、一年生は夏の大会までに声・体力ともに鍛えて、二年生はエールの型をしっかり振るように。三年生の二人は指導をしてやってくれ。それから……であるから……以上」
 大寿山いやサマノは友達がいないのか相当長い時間喋りやがった、雨で学ランが濡れて寒くてたまらんのに。他の馬鹿OB達は試合に負けた事と雨が降っているというからという遠足が中止になったみたいな理由で帰っていったらしい。やっぱパーである。

 サマノの大演説の後、顧問のクマさんから応援の労いと解散命令が下った。小言を言いたそうだったヨシダは普段からパンパンに張った顔を2倍に膨らまし、オオツカは睨みと怒声をあげようとしていたが、解散命令に何処を見てどうすればいいか分からず目を白黒させ回していた。
 “そんなに目を回したら倒れるぞ”。クマさんの鶴の一声で解放された俺達は難を逃れホッとして家に帰った。
 翌日、あの脳天気高気圧の二人の事だから、昨日の試合は忘れてまた馬鹿な余興でもさせられるぞ…くらいの気持ちで部室へ向かった。

 俺とセイゴとシモムラが食堂の手前から取って付けた様なダッシュをして角を曲がった瞬間、前から超大股歩きで闊歩する番長ヨシダに遭遇!
「押忍」。急に立ち止まり挨拶する俺の背中にシモムラが顔面ダイブした。
 ニッコリと笑う番長は、「おう、昨日はご苦労さん。今度はマッキー(せんだ似のマキハラ)いわしたるでな、応援頼むよ!それよりおまはんたー(おまえら)なんかやらかしたきゃ?サトルちゃんとノブちゃん血圧振り切っとったで。まぁ、気をつけやぁせよ」
 捨て台詞を放ちタバコの匂いを撒き散らしながら番長は去って行った。
「おい聞いたきゃ、なんか怒っとらっせるらしいぎゃ」。髪をつんつんに起てたセイゴの髪が不安を予知する妖怪電波に見えた。

 普段口数が少なくポーカーフェイスのシモムラが「でら矢場町!」と当時流行っていた(ヤバイ)と(矢場町)を掛けた渾身のギャグを放ったが、番長の言葉に危険を察知した俺は「余裕こくなて」とシモムラをしばいた。
 部室から死角になる場所に身を隠し様子を伺う俺達。時間が経つにつれ恐怖感が増す。震える小動物みたいな俺達に選択肢は二つ。勇敢に部室へ行くか、これも勇敢にブッチ切るか・・・。“三人集まりゃなんとかの知恵”というが、残念な事に俺達は三人で一人分の知恵しか無かった。
「行こまい!どの道怒られるんや、ブッチしたら倍怒られるて。今行っときゃぁ殺されへんて。」
 思えばこの頃は“殺されへんて”が自分を含め皆を納得させるキーワードになっていた。
「よし、行ったるか!」。セイゴの言葉に再び取って付けた様なダッシュをする俺達。そして部室前で自然体をとり横隊、しばらくして残りの一年生部員がこれまた嘘のような真剣な顔と偽ダッシュで集合した。

 統制のマコトが分厚い鉄扉のドアに向かい「一年全員揃いました!」と声を掛けた。鉄扉の隙間からはいつもの様にタバコの煙が僅かに洩れパタパタと扇子を扇ぐ音が聞こえてた。

「入ったれや!!」
 野太いオオツカの声が響いた、まるで地獄の門番の様や・・。ガラガラガラ。重い鉄扉が開いた。煙の向こうにはあの二人が踏ん反り返り、その横では二回生のナカシマ、ムラマツが“ザ・ピーナツ”がモスラを扇ぐが如く扇子で二人をパタパタしていた。
“殿様か?”。タバコの煙が消え二人の顔が見えた。番長からの情報だとかなり怒っていたようだが、なんと驚く事に怒りとは真逆の笑顔がそこにあった!“いや待て、こいつらの笑顔には必ず裏がある。なんか企んでるに決まっとる、しかし本当そんな詐欺師・ペテン師みたいな笑顔がよく出来るなぁ。ヨシダなんて口角まで上げやがって”そんな二人から脚本に無いような言葉が・・・。
「あ~君達、昨日は雨の中ご苦労様でした。風邪なんてひいてないかな?」とヨシダの薄っぺらい言葉に続き、「学生服は乾いたか?革靴は大丈夫か?」と悪代官を前にした越後屋の様に手を擦り目を蒲鉾型にしてヘラヘラするオオツカ。
“怪しい、怪しすぎる”。そんな二人を不審に思いながらも拳やケリが飛んで来ないことに俺達は気が緩み始めていた。
 前日に続く梅雨を思わせるじっとりした蒸し暑い放課後。タバコ臭さより胡散臭さが充満する湿度200%の部室だった。


<続>




2009/02/19

『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十弐

2009/01/08

『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十一

2008/11/20

『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十

2008/11/11

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾九

2008/09/22

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾八
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