『青春十七歳・初恋列車』第二章

『青春十七歳・初恋列車』(全六章)
 第二章「無人駅と片岡義男」


思いがけない展開になって僕はドキドキしていた。
彼女の顔にはあどけなさが残っているが、
タバコの吸い方、
栗色に染めた髪、
媚びない話し方がとても大人に見えた。

彼女は僕のリュックを持って改札に入り、
オレンジ色のディーゼルカーに乗った。
くたびれた車内に入ると、
木張りの床と二重窓が目についた。
北海道の列車は寒冷地仕様のため二重窓になっていて、
僕は初めて見た二重窓を開けたり閉めたりした。

「あなた、何やっているのよ...」
「窓が二重窓だから...」
「そんなの珍しがっているから女の子にモテないのよ」

窓の開け閉めと、
女の子にモテないことは関係あるのだろうか。
でも、
彼女の言う通り、
僕は女の子にモテない鉄道オタクだった。

僕が窓を閉めようとすると、
彼女は暑いからそのままでいいと言い、
僕を進行方向窓側に座らせ、
僕の目の前に座った。

一カ所だけ窓が全開になっている2両編成のディーゼルカーは、
うるさいエンジン音を鳴り響かせ函館駅を後にした。

「北海道の家は玄関が二重になっているんだよ。
そのうち民家が見えてくるから見てみてごらん」

僕は黙って車窓を眺めていた。
別に二重玄関が見たいのではなく、
彼女と目が合うのがとても恥ずかしかったからだ。

「どこまで行くの?」
「七重浜」
「そこに何かあるの?」
「いいから、黙ってなよ」

ディーゼルカーはしばらく市街地を走っていたが、
すぐに閑散としたローカル線の風景に変わっていた。
車窓からは彼女の言う二重玄関が見える。

列車は七重浜駅に着いた。
七重浜駅は函館駅からふたつめの無人駅だったが
海に近いせいか、
寂しさは感じられなかった。
列車からホームへ降りると潮の匂いがした。
この辺りで潮の匂いが届かない所などきっと無い。

彼女はホームをつかつかと歩き出し、
僕は彼女の後をついて行った。
そのせいで会話は途切れたが、
沈黙を行使するにはちょうどいい距離感だと思った。
彼女が履いている白いデッキシューズを見ながら、
静まり返った住宅地を歩いていると、
彼女が自動販売機の前で立ち止まった。

「ね、ジュース買ってよ。あたし切符代しかないんだ」

僕はお腹に隠してあるマジックテープの財布をごそごそと出した。

「あはは!財布どこにしまってんのよ!」

僕は恥ずかしさをこらえながら、
温かい財布から100円玉を2枚取り出そうとした。

「いいよ一本で。あたしコーラがいいな!」

住宅地を抜けると、
羽虫の飛ぶ音が聞こえてきた。
そんな静寂に満ちた道を歩き続けると、
目の前に青色の海が見えてきた。

「着いたよ!」

そこは何もないごく普通の砂浜だった。
目の前には青函連絡船から見えた函館山が、
すっきりと見渡せた。
彼女はデッキシューズに砂が入るのもお構いなしに、
子供のように波打ち際まで走って行った。

「ここは地元民の穴場なの!」
「確かに誰もいないね...」
「えーと、あれが函館山で...」
「夜景がきれいなんでしょ?」
「残念、夜までは付き合えないんだけどね...」
「あ...そんな意味じゃなくて...」
「知ってる?夜景の中に『好き』や『ハート』という文字を見つけると、
幸せになれたり、両思いになれるんだって!」

彼女は嬉しそうな表情で話した。
彼女を砂浜に敷いたバンダナの上に座らせ、
その位置から微妙に離れたところに、
もう一枚のバンダナを敷いて僕が座った。

僕らは体育座りになり、
海と函館山を飽きずに見ていた。
聞こえてくるのは波の音と、
ときどき聞こえてくる青函連絡船の汽笛だけだ。

「私、住美代。あなたの名前は?」
「宏康」
「何年?」
「2年」
「へぇ、ひとつ上なんだ。でもガキっぽいね」
「.......」
「私ね、昨夜から家出してるの...」
「家出?」
「父親が嫌でさぁ、あと勉強も。
 昨日は家庭教師が来る前に家出して来て、
 函館駅で夜を明かしたんだ。
 家を慌てて出て来たからライター持ってこなくてさ...」

彼女は独り言のような言い訳のようなことを話した。
「父親」「家庭教師」
どちらも僕にとっては縁遠い話で、
気の利いた事を言えそうもないので黙っていた。

「あー、学校も家もつまんない。宏康くんは学校とか家が好き?」

「好き」と言うと格好悪いので「嫌い」と答えた。

「宏康くんも嫌いなんだぁ。あたしと一緒だ」
「うん...」
「あーあ、ずっと夏休みだといいのに。
 福島の学校はいつまで夏休みなの?」
「8月いっぱいだよ」
「内地は長くていいね...」

僕らは学校のこと、将来のこと、それと音楽の話をした。
でも、好きな人の話題は出てこなかった。

「ねぇ、片岡義男、読んだことある?」
「誰それ?」
「知らないの?バカだなぁ」
「本は読まないから...」
「じゃ、何読むの?」
「時刻表...」
「そんなんじゃダメだよ...」
「ダメなの?」
「片岡義男を読むと大人になれるし、女の子にもモテるのよ」
「本当にモテるようになるの?」
「本当だよ...」

彼女が放つ大人の世界に完全に翻弄されていた。
「本を読む」「大人」「女の子にモテる」、
今まで足を踏み入れたことのない世界へ、
僕を連れて行ってくれるような気がした。
すると、
彼女は急に立ち上がって僕に近づいてきた。

「目をつぶって...」

ほんの数秒の出来事だった。
僕の体からは魂が抜けてしまっていた。
誰かがグレープフルーツの味がするとか言ってたけど、
少し違うような気がした。

「ねぇ、さっきのコーラちょうだい」

僕はぬるくなったコーラを彼女に渡した。

「あー、ぬるいけど、うまいっ!」

僕は下を向いていた。

「宏康くんも飲めば?」
「一本しか買わなかったよ...」
「じゃなくて、ほらっ!」

彼女は僕にコーラを渡した。
僕は缶に口をつけないようにコーラを飲もうとした。
コーラはほとんど口に入らずに喉のあたりにこぼれてきた。
僕はベタベタになった手でコーラを返そうとすると、
彼女は笑った。

「宏康くん、全部飲んでいいよ」

僕らは何時間も飽きずに青い海を見ていたが、
僕の頭の中はずっと真っ白だった。

「ね、宏康くんは好きな人がいるの?」
「え?」
「ねぇ、いるの、それともいたの?」
「1年の時、ちょっとだけ付き合った人がいたよ」
「えー、宏康くんに彼女がいたんだ?」
「友達の紹介だけど...」
「それで?」
「今年の1月に終わった...」
「いつから付き合ったの?」
「去年の12月...」
「それって、付き合ったって言わないよ」
「いや、倦怠期...」
「倦怠期じゃないよ...それはフラれたんだって!」
「そうなんだ...」

彼女は僕の失恋話を涼しい顔で聞きながら、
僕が失恋した原因の分析を始め、
様々な角度から恋愛のアドバイスをしてくれたが、
僕にはまったく意味が分からなかった。
しばらく沈黙が続くと、

「あたし帰ろうかな」
「そうだね...帰ろう」

僕らは来た道を戻った。
帰り道は来る時よりも早く感じられた。
駅のトイレでコーラでベトベトになった手を洗い、
待合室の列車時刻表を見てみると、
間もなく函館行きの列車が来る時間だった。

「上りはすぐ来るね。私は下りなの...」
「住美代ちゃんの家は近いの?」
「隣の久根別駅だよ」
「ということは下りだね」
「ね、宏康くん、また会おうよ!」

本心なのだろうか?
もし、それが本当ならば、
ずっと函館にいようかな..と冗談を交えて言おうとしたら、
住美代ちゃんは僕から視線を外して何かを指折り数えていた。

「えーと、5日後だな。
 5日後、久根別駅のホームで16時過ぎに待ち合わせね。分かった?」
「分かった...」

カンカンと踏切が鳴りだした。

「ほら、汽車が来るよ。じゃね!」
「じゃ、また..」

やってきたのは二重窓のおんぼろディーゼルカーだった。
僕は低いホームから列車に上がるように乗り、
空いているボックスにリュックを置いて窓を開けた。

「じゃ、気を付けて行ってきてね!」

彼女はそう言うと、
一度だけ小さく手を振って、
すぐに目を反らした。
それがとても大人の仕草に見えた。
僕も何事も無かったように目を反らし座席に座った。
ドアがゆっくり閉まり、
ディーゼルカーは七重浜駅を出発した。
彼女はまたこちらを見て手を振った。
僕も小さく手を振った。

ディーゼルカーは軽快に走っていた。
僕もそのリズムに合わせて“呪文”のように、
「片岡義男、片岡義男」と頭の中で反芻していた。


つづく




※住美代ちゃんと乗った江差線は、1988年3月13日、
 青函トンネルの開通で本州と北海道を結ぶ大動脈路線となりました。
※北海道用の耐寒仕様車輛は二重窓になっており、
 雪が融けた時に滑りにくくするため、床が木張りものが多くありました。
※函館山は夜景の中に「好き」や「ハート」という文字を見つけると
 幸せになれたり、両思いになれると言われているほか、香港、ナポリとともに
 「世界三大夜景」と呼ばれています。



やわらかいからって、何だ!

この背中のところにあぶらが乗ってるのだ。ぷにぷにである。


 わが娘を腕にいだくと、その背中がぷりぷりとあまりにやわらかい。
 8年ほど前からおれんちに住みついている中年女性に「なんかやわらかくない?」と尋ねてみると、「女子のほうが男子よりもやわらかいものだ」と言う。
 年頃の女子の肉体が男子よりやわらかいのは当然だが、そのやわらかみの根っこみたいなものが、ゼロ歳からすでに発しているとは驚いた。
 おどろくと同時に、武者震いするほどしみじみと思った。

かわいいぜベイビー。

 かわいくてやわらかいのはいいのだが、抱いていないと泣く。
 おれはつねづね、全身のバネをくまなく活用して、彼女に快適なだっこ状態をクリエイトする。いや、超快適といってよいだろう。そしてりおはとろ~りとなる。とろ~りを見計らってベビーベッドに置くと泣くのである(置くと泣く件に関しては、ずいぶん前mixiとかいうやつの日記で書きました。参加されてる方は検索して発掘してください。本名登録でございます)。
 泣くのは赤ちゃんの仕事だが、それでも泣き方というものがあろう。
 おれは全身全霊を込めて、まるでイタリア製のソファかのように快適だっこ空間を生み出す父である。つまりだっこ時、りおのステキ指数はプラス100ぐらいはあるはずだ。ベビーベッドに置いたところで、せいぜいそれがなくなる程度。最悪でもプラマイゼロになるだけの話である。
 しかも“置かれてることを意識させない”ように細かなワザを駆使している。ベビーベッドの接触面を体温ぐらいに温めたり、だっこ感を失わないように、置いた瞬間掛け布団(もちろん人肌♡)をかけたり……。

 だが、そんな小手先のワザはりおには1ミリたりとも通用しない。りおというのは、きわめてしたたかな女だ。世間には子どもを床に叩きつけたり、箱に入れてベランダに放置したりする鬼親がいると聞く。りおは、まるでそういう扱いを受けたかのように泣く。ベッドに置かれただけなのに……。
“いまある快適な状況がなくなった”という泣きではなく、生命の危機が近づいているかのような泣き。パンがなければケーキを食べればいいのに、って言った人のことをちょっと思い出す。
 ちょいと背中がやわらかいからといって、調子に乗りすぎである。



『青春十七歳・初恋列車』第一章

『青春十七歳・初恋列車』(全六章)
 第一章「北国の街〜出会い〜」


羊蹄丸の手摺に寄りかかりながら、
夕方から夜へ変わりゆく東京湾の空と海を眺めていた。
埋め立て地の彼方には、
赤と白のクレーンがキリンのように立っていて、
そのキリンの先端で点滅する航空障害灯が目に入ると、
22年前に北海道へ行った時のことを思い出した。



羊蹄丸から見た津軽海峡


汽笛と「蛍の光」(1'39")
再生できませんでした



1985年夏。
僕は夏休みを利用し北海道へ出かけた。
山都駅を午前中の列車に乗り、
山形、秋田を経由し、
青森駅に着いたのは午前0時近くだった。

青森駅の長いホームに降りると一目散に桟橋へ走った。
タラップを渡り青函連絡船に乗り込こむと、
今夜の寝床となるカーペット座敷へ向かった。
この座敷は一人分という区分けが無かったので、
先に荷物などで場所を確保しておけば、
自分の陣地を広くキープできた。
さらに足を伸ばして横になれるので、
グリーン座席よりも快適なことが、
昨年の経験で分かっていた。
カーペット座敷で足を伸ばし、
これから始まる北海道の旅へ期待を込めながら、
美しい青森港の夜景を眺めていた。

出航の汽笛が鳴り響き、
蛍の光が流れ始めると、
青函連絡船3時間50分の航海が始まる。
船が港を離れ安定した運航になると、
船長の放送が始まり、
出航・到着時刻などの案内に続き、
現在の津軽海峡の概況が聞こえてきた。
僕はその案内を聞いているうちに、
海峡の風を浴びたくなり、
座敷を立ち上がって甲板に向かった。

甲板に出ると、
湿った海風に潮の香りが混ざっているのが分かった。
すっきりと晴れ渡った夜空には、
早く流れる白い雲と星たち、
遠くに離れゆく街の光と、
夜空より黒く見える大地が見えた。

甲板には僕と同じ考えの人がいて、
黙って真っ暗闇の海を見つめていた。
手すりに寄りかかり視線を海に向けると、
船首が切り裂いたエンドレスの白い波が海に散ってゆく。
そんな白い波を見ていると、
旅の開放感も手伝ってか、
体と頭から余計な力が抜けてゆくようだった。

しばらく潮風に身を任せていると、
水平線にまとまった光が見えてきた。
恐らく下北半島のどこかの街の灯りだろう。

「あの灯りの中にも、人の生活があるのだ」

などと哲学的になっていると、
海上に鮮烈な灯りが見えてきた。
その灯りはイカ釣り漁船の漁り火で、
漁り火は真っ暗闇の海峡を昼間のように照らし、
その漁り火を瞬きもせずに見てから強く目を閉じると、
漁り火がメンタル・スクリーンに強く残った。

僕は覚えたてのタバコに火を点けたが、
海風のせいでタバコはすぐに短くなってしまう。
今回持ってきたタバコは学校で流行っている、
ラッキー・ストライクというタバコだ。

少し肌寒くなってきた。
僕は階段を降りて船内に戻った。
しばらく船内をうろついているとシャワー室を見つけた。
僕は長旅の疲れを癒すべくシャワーを浴びようと思い、
着替えを持ってシャワー室に行った。
200円を入れて熱いシャワーを浴びていると、
疲れと汗が一気に流れていった。

シャワーを浴びてすっきりした僕は、
カーペットで横になった。
函館到着までの僅かな睡眠時間だが、
これからの長旅に備えてダウンしないよう、
よく眠れるように顔にタオルをかけて目を閉じた。
船の揺れと巨大エンジンの重低音が、
ゆりかごと子守唄のような関係になって
僕は深い眠りに入っていった。

辺りがざわざわしていた。
時計を見た。早朝4時過ぎだ。
津軽海峡の海はどんよりとしたグレー色だった。
窓からは函館山と思われるシルエットと、
奥に連なる山々が見えてきた。
そんな光景を見ていると、
外国に来たような感じがした。
会津から汽車と船に延々と揺られてきた僕にとって、
北海道はまさに外国だった。

僕は洗顔を済まして甲板に出た。
甲板で間近に迫った北海道を見ようと思ったからだ。
港には別の連絡船が停泊していた。
こちらの船が汽笛を鳴らすと、
停泊している船もそれに応える。
この汽笛には何かの意味があるのだろうが、
僕には海に生きる国鉄職員同士の挨拶に聞こえた。

船はゆっくりと桟橋に近づきタラップを降ろす。
僕は一歩一歩意識しながらタラップを渡り、
北海道の大地へ声を出して上陸した。
家を出てから十数時間、
本当にはるばるやって来たぜ、函館なのだ。

僕は大きな荷物を持った旅客に混じって、
函館駅へ向かう通路を歩き始めた。
函館駅から先へ向かう旅客は、
急ぐようにホームの列車へ吸い込まれていった。

僕は行き先を決めていなかったので、
閑散とした待合室に入り、
硬い椅子に腰掛けた。
本来ならば行き先を決めなければならないのだが、
僕はタバコを吸いながらボッーとしていた。
タバコを消して少し寝ようと思って、
目を閉じたその時だった。

「ライターを貸してください」

背後から女性の声が聞こえたような気がしたが、
あまりの眠さで気にも留めないでいた。

「ライターを貸してください」

今度ははっきりとした声が聞こえた。
慌てて振り返ると、
そこにはあどけない顔をした、
高校生ぐらいの女の子が立っていた。

「ライター貸してもらえます?」
「........」
「さっき、タバコ吸っていたでしょ?」

僕は女の子に黙ってライターを手渡すと、
女の子は慣れた手つきでタバコに火を点け、
僕の前に座ってからライターを返してきた。

「ありがとう。内地から来たの?」
「内地?」
「ごめん、本州から来たの?」
「はい...」
「旅行?」
「はい...」
「今の連絡船で来たの?」
「はい...」
「函館観光?」
「いいえ、北海道の鉄道を乗りに来ました」
「列車が好きなんだ。それで、これからどこへ行くの?」
「行き先は決めていないけど、
 5日間ぐらいで札幌、稚内、網走、釧路は行きます」
「へぇ、すごい!」

彼女は僕の頭から足の先まで興味深そうに見てた。
僕も彼女を少しだけ興味深く見た。
彼女の身軽な格好からすると、
とても旅行者には見えなかった。
この人は何をしに早朝の駅に来たのだろうか?

彼女はさっきのタバコを消し、
今度は無断で、
僕のライターでタバコに火を点けた。

「今日はどこ行くの?」
「まだ、決めていないんです」
「じゃ、函館観光すれば?」

僕は疲れていた。
確かに函館近辺ならのんびりできそうだし、
今の状態で長距離列車に乗るのはとても億劫だった。
そんな事を考えながら、
彼女の提案をどうしようかと考えていたら、
僕より先に彼女が口を開いた。

「ねぇ、あなたの家の近くに海はある?」
「山しかないです」
「海、見た事ある?」
「小学校の時と、さっき、船の上から見ました...」
「あんまり見たことがないってことね...」
「はい...」
「今日、ヒマだから案内しようか?」
「え?」
「函館の穴場へ連れて行ってあげるよ」
「汽車に乗れる?」
「大丈夫、汽車にも乗れるから!」
「はい...」
「よし、決まり!」


つづく




*青函連絡船の汽笛の音声ファイルをご提供いただいた
 「想い出の青函連絡船(http://www.geocities.jp/worion_5550/)」
 管理人Orion様に深く感謝申し上げます。
 ホームページでは数々の青函連絡船の写真と音声が発表されています。
*青函連絡船は、1988年3月13日をもって青函トンネルの開通により
 運航を終了しています。



2月2日 今週の朝礼『私小説家』

 我がサイトには「小池さん」と「ニシ」というふたりの小説家がいます。他に「武田篤典さん」という書き手もいますが、彼は今をときめく売れっ子ライターなので、詳細や感想は割愛させていただきます。

 小池さんとニシ。ふたりとも文筆などとはほど遠い職種の人で、そもそもふたりに書いて欲しいと依頼したのは僕の単なる思いつきからでした。
 ところが思いつきなことでも芯を突くことがあるもので、これを直感というのかどうかは別として、とにかく小池さんとニシの文章には味わい深いものがあるから驚きました。
 文章的なことや文法的な事を編集者の僕が言うのもなんですが、基本的には人を傷つけたり誰かに迷惑をかけなければ何を書こうが良いと思っています。でなければ文章のヴァージニティが薄れてしまうからです。プロの書き手ならともかく、ふたりは汚れなき透き通るようなシロウトです。
 
 小池さんとニシ。ふたりには素晴らしい過去があります。勲章をもらったとか、何かで一番になったとか、そういう類いのものではなく、彼らと飲んでいるときに本当に愉快に話してくれる素晴らしい思い出話がたくさんあるのです。
 そんな彼らの朗らかな瞬間を見聞きしているうちに、彼らの言葉には映像がついて、さらにその映像には音楽がつき、流れるような文章がチラついたのです。
 ひょっとしたら言葉というものは文章そのものなのではないのでしょうか? ならば時間とともに記憶から遠ざかり、脳みそにこびりついたとしても事実とすり替わったりする言葉の記憶よりも、文章として記録してみるのはどうでしょう?
 小池さん、ニシくん、文章を書いてみませんか?
「はい、よろこんで」
「ありがとう、では明日からヨロシクお願いします」

 実は僕自身もその昔、あるベテラン編集者のひとことでライターになる決心がついたのです。
「クリちゃん。あなた、そんなにのびのびと愉快にお話できるんだから、そのまま文章にしてみたら?」

 居酒屋でともだちや恋人とお喋りしていることも、家族とこたつを囲んで談笑していることも、すべてが小説なのです。ニュースを見てもネットを見ても暗いことや下らないことばかり。そんな時には自分の記憶の引き出しをかきまわして、ボクやワタシを主人公にした小説やエッセイを書いてみましょう。
 過ぎた自分の時間を旅することは、きっと今起きている現実をより深く視ることにもつながります。

 たとえ今、未来が閉ざされたと思っていてもも、楽しかった過去が在る。
 たとえ今、死にたいくらい哀しい時間を送っていても、楽しかった過去と、そこからつながっている未来が在る。
 思い出したくない過去があったとしても、それを乗り越えて生きている今が在る。
 
 さぁ、文章を書きましょう。自分の人生やあの頃の時間を旅してみましょう。
 すごく人間的なあなたに出会えるはずです。

 読者はあなたひとりでじゅうぶんです。



第4章・安息

 ほぼ1日授業も受けず学校のあちこちでダベっていた俺たちに下校のチャイムが鳴った。丸1日悩んでいても結局結論が出ず、俺たちは学校を出た。
 校舎裏に停めておいたケッタに乗り、フラフラフラフラ走っていると「エイイチ〜」と女子の声が、、、声の主は彼女のヒトミだった。その周りにはヤン姉連合のサトミやトン子もいた。
「なにやっとんだお前等?雁首そろえてよ〜」
 いかにもチェーンやカミソリを持っていそうな女子達に声をかけると
「兄貴(モリ)に聞いたけど、あんたん等も喧嘩行くらしいがぁ〜?マジ?」とヒトミ。
「う〜ん。実際迷っとるんだけどよ〜、タキグチがうるしゃぁで行かなかんだにゃぁかな〜」
 そう答える俺に「ハルも行くの?」と心配顔のトン子がボソッ。
 ハルとトン子は恋仲だった。
「たぶんな。ミチオもカズもケイゾウも行くやろな。あっ、ヨウスケがタキグチの子分気取りで調子こいとるわ」
 そこへ校舎の塀を乗り越えてマリが走って来た。
「ちょっと、ちょっと、ケイゾウに聞いたけどユウジは行かせんの?どうなってまっとるの?」
 チャキチャキ娘のマリが慌ててしゃべる。マリはユウジと恋仲だ。
「ユウジはよ〜、入試もあるしノリ君(兄貴)が行かんでもええって言ったでたぶん行かせんわ」
「なんでぇ、みんな行くんでしょう?ユウジだけ格好悪いがぁ」
 マリは自分の男が喧嘩に参加しない事がカッコワルかったのだろう。
「あのよ〜、行かんで済むならそれが一番ええんだわ。けどそうも言っとれんで行くんだがや」
 俺は正直な気持ちとユウジをかばう気持ちを織りまぜてを話した。
 そんな話が数分続いた後、俺はヒトミを“かおり”に誘った。残りの女子は各々解散しヒトミをケッタの後ろに乗せ俺はかおりに向かった。
 ヒトミをケッタの後ろに乗せて走るのは何日ぶりだろうか?少し前までは毎日こうしていたのに、、、。
 久しぶりの2ケツドライブ。ちょっとだけ嬉しくなってヒトミを茶化した。
「おい、おみゃぁさん、パーマきつ過ぎ(かけすぎ)だにゃぁか?カリフラワーみたいになっとるがや。それとそのメッシュは派手やぞ(笑)」
「あんたが三原順子がええって言うでこうなってまったんだが」
 半分本気でムカついたヒトミのチョークが横腹に入り、その拍子でハンドルが右に左と大きく揺れた。
「キャー、怖いー」「おまえそんな格好してブリッ子すんなや!」
「あんたちゃんと運転しやぁ〜、お兄に言うぞ〜」「ハッハッハッ〜」
 ヤンキー同士だってこんなに可愛い時間はあるのだ。そしてそんな時には、嫌なことなんか忘れて、もちろん喧嘩のことだって頭の中には無い。俺はコイツが好きで、コイツも俺が好き。青春はどんなバカにも平等に与えられる。

 ガラガラガラ。
「いらっしゃい!あれ、エイちゃん今日はアベックだがね」と焼きそばを焼くかおりさん。
「こんちはっす」「先輩こんにちは」横のヒトミもぺこりとお辞儀。
「ヒトミちゃん、ひさしぶりだがね。元気しとった?」
「あっ、は、はい」 
 姉御の一言に固まるヒトミ&ぎこちなく指定席に座る俺たち。
 かおりさんの焼いたお好み焼きは俺たちのぎこちなさを取ってくれる。やっぱりかおりさんのお好みは日本一美味い。
 日本一って言っても名古屋しかしらないから、多分名古屋一。ほんとは名古屋でもかおりさんの店と他に2軒しか知らないけど、そんなことはどうだっていい。要は気持ちだ。ヤンキーに気持ちがなくてどーする? ん? コレって逆ギレ?
 お好み焼きのおかげで止まっていた2人の会話が再開した。
「あの子があーだ、服がどーだ」。機関銃のようにどしゃべるヒトミ。負けじと俺も「どーの、こーの」。はたから見れば学生服とセーラー服着たおばちゃんたちである。
 そんな俺たちを見て「ええねぇ〜あんたら、仲ようて」とかおりさん。
 しばらくして店の外で数人の女子の声が、、、ガラガラガラ。
「こんちは、かおりさん」何者やと振り向いた俺の目に映ったのは、1つ年上のヤン姉たちだった。それもその中に俺の<チェリーボーイ>を奪った先輩(フミエ)の姿が!!!
「先輩、こんちは」席を立ち挨拶するヒトミ。
「あれ、ヒトミだがね。なぁに〜あんたん等付き合っとんの〜?」とニヤリ顔のフミエ。
「フ、フミちゃん、げ、元気しとった?、、、学校、、は?」
 少しバツの悪い俺に「学校?辞めてまったがね。今スナックでバイトしとるで今度来やぁ〜」と、ちょっといじめながら俺に言うフミエ。横にいる先輩女子も冷やかし顔で俺たちを見てた。<いかん、ひじょーに居づらい。いくら俺とフミが昔付き合っていたのをヒトミが知っとってもこういう場面はツラすぎる。一刻も早く脱出せねば、、、>
 緊急事態に頭はパニック!すかさず勘定を済ませ気まずさ全開で店を出た俺たち。
「と、とりあえず家来るか?」
 (居づらかった時間を挽回しようと、ヒトミにゴマをする俺)
「さーね、どーしよーかなっ? ま、ヒマやで行ったげるわ!」 
(ほっ。あーよかった。機嫌直してくれたみたいや)
 なんだかんだ言っても所詮15、6歳のクソガキ。喧嘩の事なんか忘れ、俺の部屋で、今いちばんやりたいことだけしか頭にはないのだ、、、、、

 そんなつかの間のロマンスが、この後起こる大喧嘩の前の最後の安息だった・・・・・・ 

(続)




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