第1章・予感

 あれは中学の卒業を1ヵ月後に控えてた時。私学入学が決まっていた事もあり学校へは行ったり行かなかったり、自由というか自堕落にすごしていた頃、授業が終わる頃になるとケッタ(自転車)で学校へ行き暇そうなヤツを見つけては、ゲーセンやお好み焼き屋に入り浸っていた。
 その日のお伴はユウジ。俺が小5の時大阪から転校してきて最初に仲良くなったヤツだ。
 「おお〜い、ユウジ、かおり(お好み焼き屋)でも行くか〜?」
 ダボダボのズボンを靡かせ校門に向かってくるユウジに声を掛けた。
 「おうエーイチ、おまえ気楽でええなぁ〜。俺なんか一応公立受けるでえらいことだわ。俺も私学単願(私学1本)にせやよかったて」とぼやいた。
 「で、かおりは行くんかて?」
 「ほうだなぁ、喰いに行くきゃぁ。おまえさん私服だで俺も着替えてくわ」
 そんないつものやりとりを交わしながら、ユウジをケッタの後ろに乗せヤツの家に向かった。
 学校からわずか2分のユウジの家は当時珍しい3階建て。内装屋を営んでいるため事務所兼倉庫となっている1階にはいつもヤツの雷親父がいて通過するのが恐かった。
「ただいま」。「チワー」。
 入り口を入った俺たちをギョロと見るなり「ニシオ、おまえちゃんとやっとるのきゃ?高校行ったらちったあ真面目にやらな、ええか」と低い声で話し掛けてきた。
「何言っとるのおじさん俺真面目やよ、ちゃんと高校も行くし」とはいえ、真面目とはほど遠い真っ赤なロンスタ(ロングスタジアムジャンパー・膝まであるやつ)にボブソンのボンタンジーンズを着た俺の姿を見て(解った、解った早よ行け)とばかりに雷親父は手を振った。
ペコリと頭を下げ雷親父の後ろを通り過ぎようとした時「おい、おみゃぁさんタバコ臭しゃぁわ。たわけ」と一喝された。
 やべえと思い急いでユウジの部屋へ。着替え途中のユウジに「おみゃぁの親父は恐いなぁ。いつか殴られるて」と言うと「職人やでなぁ、頑固やでなんともならんわ」としかめっ面。
 似たような格好に着替えたユウジと部屋を出ると、向かいの部屋から兄貴のノリカズ君が出てきた。
 「おう、小チンピラ何処ぞへ悪さしに行くんだ?」とリーゼントに皮ジャンスタイルのノリ君がジャブを打つ。(※ノリ君は俺たちより4つ上。この頃箱スカを乗り回して街中に名を轟かせたバリバリの不良。キャロルにクールス、永ちゃんもこのノリ君の影響が大であった)
 「先輩コンチワっす。今からユウジとかおりに行くんすよ」
 「ほう、かおりきゃぁ、ええなぁ。俺も行こっかなぁ?」
 「ええ〜?まじですか?」(うっそだろ〜?)
 「なんだぁ、迷惑なんきゃぁ!なぁ〜んちゃって、行けせんわ。ほうや行くんなら<かおちゃん>によろしくな!」バシッ。
 頭を叩かれ首をすくめた俺を見ながらノリ君は笑って消えて行った。階段を降りてまたまたあの雷親父の後ろを通過。今度は何も言われなかったが顔を見るたびにビビる何ともいえない重圧感が。おーこえー。
 ハンドルを絞り前に倒した改造ケッタでかおりに向かう俺たち。
 「おいユウジ今日は何喰う?」「せやなぁ、やっぱ餅入りやろ!」「玉煎(玉子煎餅焼き)は喰わんのきゃぁ?」とダベリながらケッタは蛇行。
 「コンチワっす」小さな公園から数人の声がした。後輩のヤンチャ連中がタムロしてる。
 「なにやっとんだ?」「今からユニー行くんすわ。ゲーセンにどっかのムカツク奴がおるらしいで見てきますわ」「喧嘩すんなよ〜(笑)」「言われたないですわ〜(笑)」
 その先に何が起こるとも知らず、俺たちはルンルン気分でケッタはかおりに到着。 
 ガラガラガラ。戸を開けると ジューと焼きそばやお好みを焼く音が。
 「いらっしゃい」店のおばはんがいつものように笑った。
 店内は親子連れやおっさんが数人いた。俺たちは毎度座る指定席(テーブル)に腰掛け、喰うものが決まっているにもかかわらずメニューに目を通した。
 「あんたらなんにするんか?」こてを動かしながらおばはんが聞いてきた。
 「俺は玉煎に餅入りね。」
 ユウジは「俺も玉煎と餅入り。あっチーズも入れてって」(餅入りとはお好み焼きに餅を乗せた人気メニュー)
 「なんだおみゃさん、チーズって。リッチやねーか」
 たかがチーズをトッピングするだけで盛り上がる俺達。
 出来上がるまでに一服とポッケからタバコを取り出し火を点けた。馬鹿話や高校の話をしていると「コラッ!中坊がタバコ吸って、警察呼ぶぞ!」と可愛い声だけどドスが入った台詞が・・・振り向くと店の屋号であり看板娘のかおりさんが立っていた。
 「あっ、かおりさんコンチワっす。」真っ黒のロングヘアーを後ろで縛りゴッデスのトレーナーにジーンズ姿のマドンナが。(かおりさんも同じ中学の出身でバリバリのヤン姉だった)
 「あんたらちゃんと高校行けるの?毎日毎日来るのはええけど・・・・」
 「大丈夫っすよ。俺は中京決まっとるし、ユウジやって私学は受かっとるもん」
 口を尖らし答える俺の横でユウジが「かおりさん、アニキがよろしくって言っとったよ」と。「なに〜、ノリが私の事気にしとるの?可愛いねぇ〜。ノリは私の2こ下でツッパリ君やったもんね。ユウジもノリに似てきたがね」とニコニコ話すかおりさん。
 そんな怖(おそ)がいかおりさんは小林麻美に似ていて、俺たちはびんびんに憧れていた。
 「はい、お待ちどさま」
 テーブル鉄板の上に玉煎が。
 「エイちゃんはマヨいるやろ」「はははい」
 かおりさんに話しかけられると緊張する。
 ふーっ、ふーっ。特大海老煎の上に乗った目玉焼きをほおばる俺たち。
 「やっぱ旨めぇなぁ〜」「ああ、かおりの玉煎が1番旨いて」 
 そんな至福の時にとんでもない勢いで店の戸が開いた。
 「こ、ここにおったんか!」。息も絶え絶えに目をギョロつかせたヨウスケの叫びにも似た声・・・・・
 こんな時には予感が当たる。それも悪くて仕方ない予感が。きっと誰かが誰かにヤられたり、、、そしてヤられたのはきっと俺のツレで、、、そしてきっととんでもないことに発展しそうになりそうな、、、そんな予感だ。
 「どうしたんやて慌ててまって、なんぞあったんか?」
 「ハァハァ、今聞いたんやけどよー、青さん(先輩)がえらい事に・・・」
 息継ぎが出来ないヨウスケ。
 「あんた水飲んではっきりしゃべりゃー。アオキがどうしたんや?」
 水を入れたコップを持つかおりさんの顔が、お姉さんから小林麻美からヤン姉に変わっていた。
 単なる予感が真実味をおびた予兆に変わろうとしていた。
(続)



2006・恋  〜 承前 〜
2歳でこんなに湘南BOYだったのに……
いまは波打ち際恐怖症。慣れるのに小一時間を要する

 タケダテツとその父の生ぬるい日常をぼんやりとつづった『子育て父さん湘南物語』は結局11話まで書かれた。そして途絶えた。話は、3歳を目前にした彼が変身することに夢中になっている、というところで終わっている。  実はその後、父はタケダテツとともにふたりで自転車に乗って鵠沼の海まで出かけた。12話にはその話が書かれるはずであり、実際にも原稿への着手はしてみたのだ。

 それは、ものすごく気持ちのいい初夏の1日で、普通ならば父と母とタケダテツでどこか近場に出かけてちょっとした買い物をして、ときおりタケダテツのヘタレぶりを叱り、それによって彼は泣き、それでもまあまあ満足のいく1日ではなかったかと思い返すような、小市民的な幸福に浸るはずであった。だがなんとなく思い立った。父は「テツと海に行ってくる」と言い、母は「そう」と言った。
 「テツと海に行ってくる」。息子と男2人で海へ……カッコいい。ボーダーシャツとチノパン、素足にデッキシューズ的なカッコよさだ。まさに湘南気分、満喫。この瞬間のために、この町に暮らしていると言ってもよい。これが息子が中学生で、父が漁師ならばNHKのドキュメンタリー的演歌的世界が広がるだろう。『父子舟』とか、そういう類の。
 要は、父にしてみれば「テツと海に行ってくる」というセリフを吐きたかっただけなのかもしれない。ともかく、タケダテツとその父は電動アシストサイクルに2ケツして、鵠沼の海に出かけたのだ。
 あまりに気持ちよかった。道中、別に大したできごともなかった。無尽の幼稚園の園庭を見て「行こうね」と話し合ったり、ものすごく少ない語彙数を駆使してしりとりしたぐらい。日陰に入ると風が少しひんやりして、「ひゃあ」と言うと、タケダテツは後部のチャイルドシートで足をぶらんぶらんさせながら笑った。海に着いたらオムツをぬらしながら、浜に穴を掘り基地を作った。オムツはその数ヵ月後のある朝、目覚めたタケダテツが開口一番「今日からおれ、ウルトラマンのパンツにする」と宣言したことにより撤廃されるのだが、それはまたべつの話。

 父は、この日のできごとを書けなかった。おもしろくてさわやかで心地よかったことを、上手に書くことができなかったのだ。
 で、3年半ほどがすぎた。
 で、書いてみた。上手に書けるようになったわけではなくて、上手に書く必要がないとわかったからだ。年をとってちょっとゆるんだだけかもしれないけど、サラサラ~っと書いた。

 タケダテツは6歳になり、おっさん風な食い物の嗜好は強化され、なぜかヘタレ度合いも強化された。いまでは波打ち際が怖くてなかなか近づけないほどだ。
 それと、うちに新メンバーが加入した。たけだりお3カ月。花のようにかわいい女の子である。



夕暮れ時のミラーボール



「にがい涙」スリー・ディグリーズ
テレビに出てくる外人で日本語を話せるのはロイ・ジェームスとデストロイヤーしかいなかった時代に、突然スリー・ディグリーズが日本語で『見てたっ はずよっ…』って。意味の分からない英語の歌詞ならハハンハハンってリズムに乗って洋楽カブレしてればよかったけど、3人揃いのドレスで生々しい日本語で男と女の隙間みたいなところを歌うもんだから、厳格な父親は「こんな番組見ちゃならん!」とチャンネルを変えた。ところが変えられたチャンネルに映し出されたのは『プレイガールQ』だったりして、親父はどうフォローしていいかわからずブチっとテレビの電源を切って二階の寝室へ直行した。消されたブラウン管に走るチチッっという静電気が、彼女たちの余韻を残していた。


「その気にさせないで」キャンディーズ
キャンディーズは意地悪なお姉さんたちだった。『年下の男の子』とか『内気なあいつ』とか、どこまでも僕らを安心させといて、無邪気にお姉さんの部屋をのぞいたら、ドアの隙間からどこか苦みの混ざったコロンの香りが僕の鼻に木霊した。制服を脱いだお姉さんは僕の手の届かないところに行ってしまうんだ。だったらせめて制服を来たままでいて。それがだめなら、その気にさせないで。これ以上僕らの心を揺らすのは、僕らの脳髄をピンク色に染めるのは、お願いやめて!「そんなつもりじゃないの。でも、傷ついたんだったら、ごめん」。ぺこりと下げた髪の匂いがまたまた僕を破壊した、中学生という純情…


「ファンタジー」岩崎宏美
学校帰りの田んぼ道。あのコと夕暮れの中、家路を辿ってる。手をつなぎたいのに、僕の手のひらときたら恥ずかしがってポケットの中でもぞもぞと照れ隠し。勇気を出してサッと彼女の白い手を奪おうとしたら、焦った手のひらがこともあろうに彼女の胸のスカーフにタッチした。「あ、ごめん」「ううん、へいき」。沈黙と静寂の中で僕の心臓とあのコの心臓が蛙の鳴き声よりも大きな声で泣き出した。キスなんて、まだまだ遠いおとぎ話の夢の中。ファンタジーとメルヘンと、そして現実との狭間で揺れる恋心。『恋ってね、苦しくなることの方が多いんだよ』。歌詞の裏側に隠された岩崎宏美のメッセージに、また恋をした。


「セクシー・バス・ストップ」浅野ゆう子
「いつものジュークBOXかけても、あなたはいないのね」。
心はずむラブソングが、今夜はなんだか哀しい雨音に聞こえるのは、やっぱりあなたがいないから?隣では仲のいいアベックたちがボーリングをして愉しそう。羨ましくなんかないよ。だけど…だめだめ、ラブソングで流す涙は幸せな涙って決まってるんだから。よーし、踊りにいこ。ミラーボールの輝きは悲しみを忘れさせてくれるから。「ねぇ、あなたひとりで来てるの?だったら私と踊ろうよ」。カチューシャをしておでこを見せた浅野ゆう子が私の寂しさを笑顔で埋めてくれた。「じゃ、私の役目はここまでね」。背を向けて去って行った浅野ゆう子の後ろには、あなたが笑いながら立っていた。バカっ、もう一回泣いちゃうからっ。


「リップスティック」桜田淳子
淳子20歳。俺16歳。彼女オトナ。俺ガキ。『白い雨に くちべにだけ赤く』。恋の階段をひとつずつ昇っていく彼女の背中は、恋に憧れているだけの俺には遠すぎる。赤、青、黄色。原色しか知らない俺の感情が、彼女の背中を追うことでいろんな色が混ぜられてすこしずつ切なさが彩られていく。紫色や淡いグリーンやはにかんだピンク色は、戸惑いやもどかしさを憶えたせい?いやだ、パステルカラーなんてわからない。どこまでも原色の恋がしたいのに、何色を足したって俺の思いは薄まらねーぞ。俺の叫びが淳子の背中を通り抜け彼女の心の扉をノックした。「バカね、ほら、私のくちべにだって赤いでしょ」。どんどんはまり込んでいく恋の罠に、僕の心は真っ赤っかに染まった。


「バンプ天国」フィンガー5
曲の出足は何回聴いても『東鳩キャラメルコーン』のCMと聴き間違えてしまうが、アキラくんが歌いだしたら急にソウルフルな雰囲気に包まれて。なんてゆーんだろうなぁ、あのリズム。ジャクソン5じゃ醸し出せないフィンガー5ならではの喉に絡みつくような甘ったるさが、通知表の評価の悪さをどっかへ吹き飛ばしてくれた。フィンガー5のリズムって、とても味覚的で、そうそう、あの甘さってバニラアイスの上にプリンのカラメルソースをかけてちょこっとナッツをのっけた感じ。大人になるまでの僅かの時間の中でしか許されなかったチャイルドソウルだったけど、彼らを知ったおかげで学園は天国になった。


「胸さわぎ」優雅
ディスコティックなサウンドを台湾出身の優雅(ゆうや)が歌うことで、どこか不思議な世界観がつくりあげられ、日本歌謡界は未知なる航海をはじめた。後のテレサテンにつながるプロローグは、日本人には匂いたたせることができないアジアレディの哀しみと逞しさを同時に表現した。不安?そりゃあるわよ。だけどずっとここに居るのなら私は旅に出る。空路でもなく陸路でもなく、ただひたすら波に揺られて東へ向かうの。楽しいだけの恋なんていらない。どんなに苦しくたって私の恋心だけは私を裏切らないから平気なの。信じることで自分を強く持とうとする健気なキミだけど、本当は海よりも優しいコだっていうこと知ってるよ。


「いい娘に逢ったらドキッ」伊藤咲子
伊藤咲子の歌唱力がありすぎて、せつない思いが高速回転で元気な応援歌になってしまったというミラクルな曲。誰もが恋する気持ちの切なさを歌に求めていたときに、まるでジュリー・アンドリュースのように「ドレミファソラシド」って魔法をかけてフォークダンスの世界へと導いたことは恋のノーベル賞に値する。ただ伊藤咲子の歌ってるシーンがどうしても『スター誕生!』の生放送が行われていた渋谷公会堂の客席の一番後ろの扉の前という印象しかなくて本当にごめんなさい。そしてもうひとつ。伊藤咲子と初代コメットさんの見分けがつかなかったのは僕だけでしょうか?


 「ディスコナイツジャパン」(SME)



「Reincarnation(輪廻)」



「見上げてごらん夜の星を」

見上げてごらん夜の星を。
そこには坂本九の笑顔がある。
これ以上の笑顔、どうやったら作れるのというほどの九ちゃんの微笑みが、夜空の真ん中でキラキラ輝いている。

星空を見上げることをしなくなってしまったひとたちの心に笑顔はあるのだろうか?
目を凝らして、ジーッ。ようやく見つけた黄金色の光に君は何を思うのだろう。
スイッチひとつでほとんどのことが可能になった時代、その代償として夜空の星たちはどんどん遠くへ行ってしまった。
見えなくなってしまったから見ないのか、見なくなってしまったから遠くへ行ってしまったのか、星はなんでも知っているけれど、こたえは遥か闇夜の中。

40過ぎともなると大概のことは経験してきた。
あんなこともこんなことも、人が喜んでくれることも困らせてしまうことも、いっぱいいっぱい。
自分を信じて生きてはきたけれど、自信がなくなったり不安になったときに、僕はいつも夜空を見上げてきた。

東の空におばぁちゃんの笑顔をみつけたとき僕は8歳に戻っていた。
万引きをした僕を、怒るのではなく、すこしだけ哀しみを滲ませた笑顔で諭すおばぁちゃんの顔。
「人の物を盗って喜ぶ子が、人に物を盗られたらどんな気持ちになるんやろね」
おばぁちゃん、僕、もうしないよ。僕の中で僕が生まれ変わる。

霧にけむった北の空に親友のシンヤがいる。
死んだときと同じリーゼントにくわえタバコ、口元ゆるめて横目で見てる。
「自分を強く見せるために人を傷つけるやつは、いちばん弱い人間だ」
殴られても裏切られても人を傷つけなかったシンヤが、夜空でキザに笑ってる。
俺、もうぜったいしない。唇と瞼を腫れ上がらせたシンヤの笑顔が僕を生まれ変わらせた。

一生懸命やってきたことに人が喜んでくれたとき、とても幸せな気持ちになった。
月のとなりに月よりでっかいおやじの顔が、生きてるときにはあまり見たことない笑顔がある。
はげあがった額からは強烈な光りが放たれてる。
「生きてる間に褒めてやりたかったな」
死んでからの方が照れくさくなくてよかったよ。

褒められるためにやるのではなく、自分自身に一生懸命になれたことに、月のとなりでおやじは笑ってくれたのだろう。
さっきよりすこし自信が湧いて、僕の中で僕は生まれ変わった。

見上げてごらん、夜の星を。
たとえ星の輝きがなくても、そこでは大切な人たちや想い出の数々があなたを照らし続けてる。
もう会えなくなってしまったあの人が、あなたの中であなたを生まれ変わらせる。
夜空との対話の中で毎日生まれ変わってゆくあなたが、やがて天に昇ったとき、
あなたの輝きと向き合う誰かのなかで、あなたもまた生き続ける。
九ちゃんの笑顔が途絶えることなど、未来永劫ありえないのだ。


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「ROCK'N ROLL」



夢なんてたいてい叶わないもので、夢をもった瞬間から挫折を余儀なくされるものである。
小学校の卒業文集で書いた将来の夢が絶対に叶わないのは、夢を持つことは大切だけど、やがて大人になって夢がかなわないと知ってからの人生の方がもっと大切なのよという教えにほかならない。
卒業文集で書いた夢が叶いっこないと思いはじめたころ、いつしか夢は恋とすり替わる。
はじめて重ねたくちびるに経験したことのない衝撃が脳天をかけめぐり、明日からの人生はそのコと一緒にいることがすべてとなる。とろけるような甘さとせつなさ。喧騒のなかでも聴こえる胸の鼓動。ドキドキと言う心拍音が好き好きと言っているようでしかたない。
だけど恋は儚くいつしかあのコは他の誰かの元へ。僕に残されたものは僕を苦しめる思い出と出口の見えない明日からの人生。
もうぜったいに人なんか好きにならないと固く心に誓ったあの日からわずかひと月、僕はそれまでとは違うあのコのことで心の筋肉がちぎれそうになっている。
恋なんてそんなものだ。ずっと想い続けていればいいというものではない。
あたらしい恋をしたら、昨日までの恋にさらりと別れを告げればいい。
女のことだけ考えていたら、いつしか僕は社会の扉の奥にいた。
恋は順調。仕事はどうだ?夢はどこいった?
恋のはじめは盲目だ。一緒にいられるだけでとてもHAPPY.だけど鮮度をなくした果実はその渋みだけを口元に運ぶ。
「ねぇ、あなたの夢ってなんなの? 収入はどれくらい? どんな家に住みたいの?」
卒業文集で書いた夢のレールから大きく外れた今、明日はあるけど夢などない。
職業とカネで男を評価され、耐えられず選んだ孤独の道。
手にした缶コーヒーが俺の心をネズミ色に染め抜いた。
夢ってなんだ?叶わないことが夢なのか?夢がないとダメなのか?
だけど俺は生きて行く。夢もないし好きな女もいないけど、死ぬ理由もないのでとりあえず生きて行く。
パイロットとか野球選手とかハリウッドスターとか、とんでもないところから始まった俺の空には東から登った希望がため息へとかたちをかえて西の方へと沈んでいく。
今までどれほどの夢を抱いたことだろう?
今まで何人の女を好きになったことだろう?
今までどれだけ傷ついて、どれだけ自分をあきらめかけたことだろう?
だけど僕は生きている。思い通りにならないつまらない人生の中で。
反省のない僕はきっとまた小さな夢を持ち、誰かのことを好きになる。
西に沈んだため息も、朝にはまた希望となって立ち昇る。
こんな僕でも息を吸うために生きてるのではなく、生きていくために呼吸をしているのだ。
ROCK'N ROLLとは、つまりそういうことなのだ。


THE FREE PAPER R




2006/11/30

第1章・予感

2006/11/30

2006・恋  〜 承前 〜

2006/08/19

夕暮れ時のミラーボール

2006/08/19

「Reincarnation(輪廻)」

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