初恋は南沙織だった。
小学校3年の夏、彼女がテレビで『17歳』を唄い出した瞬間から、好きになった。
だけど、初めて人を好きになったのに、その人には会えっこない。
好きになるよろこびと会えない辛さが交錯して脳が破裂しそうになった。
「お兄ちゃん、俺、こんなにシンシアが好きなのに、やっぱ会えんのかん?」
「そんなことあらへん。親父に相談してみろ!」
今思えば、なんで芸能人に会うために親父に相談するのかよくわからんが、とにかく昭和の時代というのは困ったときにはオヤジ頼みだったのです。
「おい、東京連れてったるぞ。『はとバス』と『夜のヒットスタジオ』や」
相談してから1年が過ぎた夏の日に、俺はついにシンシアめがけて東に向かった。
皇居で写真を撮り、東京タワーではろう人形館に入り、NHKでひょっこりひょうたん島と戯れた。
けど、そんなの所詮付録。俺には『夜ヒット』と、その先のシンシアしか眼中にない。
そして遂にフジテレビGスタへ・・・。あのときめき、身震い、緊張感。
忘れられない30年前の俺の胸に打ち寄せたLOVEという名のビッグウェンズデー。
・・うわっ、すげーっ。みんなモノホン。にしきのあきらがいる、森進一がいる、野村正樹も岡崎友紀も、司会の芳村真理とマエタケとダン池田もみんな本物。
でも、ひとりだけ、シンシアだけがいない。
「なんでおらんの?なあ?おとーさん?」
「ここまで来れたんだからもーえーやろ」
「シンシアおるって言ったやん」
「おらんもんしゃーないやろ」
いかにも昭和っぽい親子ゲンカを目のあたりにした<ヒデとロザンナ>のロザンナが、泣きじゃくる俺の元へと歩み寄り、やさしく声をかけた。
「どーしたのボク?」
「シンシアがおらへんの」
「ごめんネ。私が沙織ちゃんだったら良かったのにネ」
ロザンナのマリアっぷりに野球帽をかぶったオヤジは深々と頭を下げ、兄貴は抜けめなく森進一にサインをしてもらっていた。
夜のヒットスタジオ第199回。シンシアに会えなかった哀しみとロザンナの深い愛情と、シンシアに会わせてやれないのに東京まで連れてきてくれたオヤジの複雑な気持ちが、10数年後の俺を業界へと走らせた。
ブームと呼ぶにはあまりにも永過ぎる30年間の想い。
だけど俺には、このせつなさがあるからこそ生きられる。
今でも俺の気持ちは変わりありません。
シンシア、ずっと会えなくてありがとう。
青春白書『青い空。蒼い気持ち』より
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