「17」



 緑が丘中学校伝説の男、通称『バグヂ』。1っコ下の俺たちはバックンと呼んだ。そう呼べるのはバックンが認めた後輩だけで、彼が認めない者はたとえ上級生だろうが『後藤さん』と呼ばされた。とにかくバックンが歩くだけでその場所は気温が3℃は下がり、通り過ぎると5℃は確実に上昇する動くエルニーニョみたいな人である。
 さて、なんでバグヂが伝説なのかを説明すると、とにかく中学3年にして身長180cm体重90kg胸囲120cm足のサイズは28cmときたもんだ。部活は野球部、キャッチャーで4番。場外ホームランはあたりまえ、場外乱闘あたりまえ、おまけに顔はゴジラ(松井じゃなくてホンモノの)とクリソツ。と、こんな怪物中学生だから先生たちも何もいーやしない。
 「こらバグヂっ!」「あっ?」「いや、後藤っ!」「おっ?」「いや、ゴトー君」「なんすか?」「いや、元気かと思って、はは」。こんな調子である。
 バックンは縁日や祭りでも抜群の存在感を誇った。
 中2の提灯祭り。そっちの道にデビューしたての俺は、ライバルの旭中の1ッコ上のそーいう人に絡まれ胸ぐらつかまれ、そーいうことになった。横目でチラっとギャラリーを見るとバックンと目が合いこう口を動かした。「やれ」。
 そっちの人の中ではかなり有名だったその人を俺はぶん投げ、起してはまたぶん投げ、結局×3ぐらい投げまくってその人はノビた。
 「てっめーえ!」。敵の大将が怒り狂って俺に飛びかかろうとしたそのとき、「うらあ、決着はあいつらの中でついたんや」。バックンの強烈な一言で敵の大将はたちまちダルマさんが転んだ状態に。バックンとケンカするくらいなら死んだほうがマシってぐらいに強くて恐すぎるから、まわりは俺に指一本だすことさえできない(ふー、助かった)。
 「おう、カッコよかったぞ」「そうっすか?」。俺、めちゃくちゃ嬉しかった。
 中2の冬。俺はどーしてもバックンに挑戦したいことがあった。
 陸上部だけどやたら球が速かった俺は、どーしてもバックンが卒業するまえに1対1で勝負したかったのだ。「勝負してもいいっすか?」「えーぞ」。
 北風に土ぼこりが踊る2月のマウンドには50人ほどのギャラリーがたむろした。3球勝負のはずが、。俺が超ノーコンのため、10球投げてもストライクはゼロ。ほんとはその時点で惨敗なのだが、バックンはこう言ってくれた。「ボールは無視。ストライクだけで勝負したるから真ん中だけ投げてこい」。
 憶えてる。確か15球までにストライクはたったの2球。そのどれもがファールチップだった。16球目、とんでもない暴投。そして運命の17球目、渾身の力を込めたストレートはウエストラインを通過するど真ん中。
 …「ブンッ」。空振り。三振?
 「おい、17球は多すぎやけどとりあえず三振や」
 「勝ったってことでいーんすか?」
 「たわけっ、17球も投げといて調子こくなボケっ!」
 「すんません!」
 小雪がチラつく寒い放課後だったけど、バックンから奪ったたった一球の空振りが、冷たい北風を初夏のサンタモニカの風に変えた。
 「おいっ、コントロールめちゃめちゃやけど、速かったぞ」
 バットをかついで歩きながら振り向きざまに言ったバックンの言葉は今でも俺の勲章である。
 2年後。17歳のときバックンは甲子園に出た。
 それから6年後。バックンは死んだ。
 今でもバックンは緑が丘中学校の、そして俺の中で伝説として行き続けている。


青春白書『青い空。蒼い気持ち』より



: フリーペーパー LIVE 5



「生きる」



 高校2年の冬。後輩のナンバが血相を変えて俺のところにやってきて鼻息まじりにこう言った。「全面戦争が始まる。チカラ貸して」。なにやら穏やかではない話ではあるが、この街でツッパリ続けるには避けられない。
 話の詳細は隣町のなんとか君とかいう威勢のいい奴が地元のチンピラを数人連れて、ナンバ通う学校に殴り込みをかけたのだが、そこでナンバ返り討ちをしてなんともみっともないことになってしまったらしい。
 ナンバにやられたことを、なんとか地元の暴走族のヘッドに話したら、「そんな奴、俺がしばいたる」というきおとになり、ヘッドの子分がナンバの家に「お前の街に殴り込みをかけてやる」と電話でけしかけたが、「こっちから行ったるわい」とナンバは逆殴り込みを公約した。そこで駆り出されたのが地元のワルども。すでにシンナー吸いすぎて使い物にならない奴もいたけど、抜けた前歯と志賀勝ばりの剃り込みにヴィジュアルインパクトがあったのでとりあえずそいつも採用された。
 俺は親友のナガセと一緒にアディダスのジャージにフレーバーお履き木刀をもって隣町行きの電車に飛び乗った。
 電車で行ったのがマズかった。30分に一本しかない電車の、しかも終着駅だったため、俺らはまんまと数十人に待ち伏せされ固まってしまった。木刀、日本刀、チェーン、ヌンチャク、中にはアメリカンクラッカーボールを持ってる奴までいて、おしっこちびりそうになったけど逃げようにもあと30分待たなきゃ電車は出ない。
  「もうアカン。死ぬかも。」そう思った時だった。「俺がナンバじゃ。俺をしばくと言った奴はどいつや?」「おう俺や」「ちゅーことはおめーが一番強いんか?」「そや」「んならおめーをシメればそれで終わりなんやな。それとももっと強ぇ奴がおんのやったら出てこい」「やかましー」、バゴッ、ボカッ。たった2発。3秒でカタはついた。
 隣町のヘッド、おねんね。そこへ地元の警官がドカドカやってきて、奴らは一瞬にして逃げた。
 帰りの切符を握りしめ電車を待っている俺たちに警官が職務質問した。「お前ら大勢で木刀持って何しに来たんだ!」。喧嘩は強いが口下手なナンバが俺にウィンクして“頼む”とサインを送った。「あの、俺たちみんなで剣道同好会作ってるんですけど、今日はこっちの景色がいいところで素振りしようと思ってやってきたんです。さ、みんな、そろそろ帰ろうか」「オー!」。
 真実を知ってか知らずか、警官は見逃してくれたが、へらへら笑ってるシンナー野郎だけは住所と名前を聞かれていた。
 男として生きるために必要なもの。それは立ち向かう勇気。いつの日か息子ができたらば、ナンバの話をしてやろうと思う。


青春白書『青い空。蒼い気持ち』より



: フリーペーパー  LIVE 4



「青い空。蒼い気持ち」

A.M.I Presents、OFFICE作produceによるフリーペーパー
「LIVE」(2000〜2002)、「R」(2004〜2005)や、
マロンブランド発行のフリーマガジン「Z」にて連載。



Vol.11 「へんしんッの巻」
テレビマガジンという雑誌を買ったら、
おまけについてた「なりきりセット」。
『アバレンジャー』のアバレッドというキャラです。


 我が息子は『トイ・ストーリー』とかが好きで、ウルトラマンとかナントカレンジャーとか言い出さないので、なんとなくおしゃれ的でよいなあとほのかに思っていた。「やっぱりウチのテツはひと味違うぜ」的な、わけの分からん喜びがあった。タケダテツの父はアホ親だ。
 今やタケダテツ、変身しまくり。「ごはん食べや」といえば「へんしんッ!」、「これ! いいかげんにしなさい」と叱れば「へんしんッ!」。何に変身するのか聞いてみたら「らいだぁ」。またあるときは「はーりけんじゃ」。
 『龍騎』(そういう仮面ライダーがいるんですよ)といえばソーセージの一種だと思い、『ハリケンジャー』(『ゴレンジャー』から始まる戦隊もののひとつです)といえば、別のソーセージの一種だと思ってたくせに。『仮面ライダー龍騎』は本放送1回も見たことないくせに、『忍風戦隊ハリケンジャー』は最終回しか見たことないくせに。何を突然変身しとるんだ。
 変身するとき、タケダテツはそのもみじのようなキュートな手(バカ!)を胸の前で交差させる。父も母も「変身」ということばも、変身ポーズも教えた覚えはなかった。いったい誰に習っとるんだ。
 確かに、最新ではない仮面ライダーはウチにいた。父の部屋のデスク近辺に、食玩の本郷猛と仮面ライダー1号がいた。ヤツらは変身ポーズをとっていた。そいつらの名前は教えた。「ほんほんたった」(本郷猛の意)「らいだぁ」とは言えるようになっていた。
 でも、ホント、変身は教えてないんだよねー。たぶん、あらかじめ男子のDNAに「変身」ということが書き込まれているのであろう。
 そんなこんなで、父も母も結構なアホ親なので、ハリケンジャーとか仮面ライダーのビデオを借りてきて見るようになった。ハリケンジャーはとても子ども的なので、タケダテツも楽しく鑑賞し、すぐ歌も歌えるようになった。
♪しゅしゅとと〜、かくかくかく〜、はーりけんじゃ♪
 最初はもっと長く、しっかりと歌っていたのだが、どんどん短くなり、今の形になった。
 仮面ライダーは、とても難しい、大人の人間ドラマであることがわかった。借りてきたビデオはタケダテツ就寝後、父と母とがゆっくり鑑賞している。



Vol.10 「無能の人。の巻」
テツ採集のナゾの石。
父よりイカすシューズはナイキ。


 なぜ石を拾うのかが、わからない。
 毎朝、タケダテツはタケダテツの母とともにみどりがおか公園に出かけていく。天気の悪い日は児童館というところに出かけていく。子どもの脚で往復およそ15分、そこで必ず拾う。父と隣のコンビニに行くときですら拾う。石は、家の玄関に至るまで、幼児用おしゃれモッズコートのポッケに忍ばせている。靴を脱ぐときに、ころりんと靴の横に出す。
 拾った石を観察すると、ますますわからなくなる。テツの母によると、公園では今、BB弾を拾うのが流行しているらしい。ああいう明らかな人工物を拾いたくなる気持ちはわからんではない。芝生の公園だし。目立つし。タケダテツの石も「すげえツルツル」とか「めちゃめちゃ平べったい」とかであれば、まだわかる。でも、もう何ちゅうか、単なる石。ごく普通の石。ブンガク的に言うなら、路傍の石。サイズもフォルムにも共通点が見出せない。
 しかし、どうもヤツのなかには取捨選択のはっきりした基準があるらしい。観察してみた。近所の八百屋、通称『ベイスターズ』に行く途中に、タケダテツお気に入りの採石場がある。採石場っちゅうか、砂利砂利になったエリアなんですけどね。ともかく、タケダテツはそこに至るとしゃがむ。しゃがんでとりあえず、両手で石を拾う。それらを見る。つぶさに見て、片方捨てる。あるいは両方捨てる。両方ポッケにしまうこともある。この瞬間だ。おそらく、タケダテツのまだたぶんツルツルの脳の中では何かがものすごく高速で行き交っているはずなのだ。で、なんらかの審査基準に照らし合わせた結果、「この石はアリ」「こっちはナシ」という命令が発せられているはずなのだ。
 それがまったくわからない。今もってわからない。
 タケダテツは、玄関にキープした石を、出かけるときに「持っちく」(持っていくの意)と主張する。いったい何のために? そこにある以上にたくさんの石が、外には落ちているというのに。仮に持っていっても、それで何かをして遊ぶわけではないのに。と、ここまで書いてみて、父、ふと思いつきました。
 ひょっとして、タケダテツは「究極の石」を探してるんじゃないだろうか。「昨日の石第1位」を今日持っていき、「今日の石第1位」と比べて、勝ち抜き戦をする。今日勝ったは、また明日の1位と戦うことになる、みたいな。
 しかし、もしそうだとしても、今のところ、彼の小さな野望は達成される見込みは薄い。だって、「持っちく」というタケダテツに、「置いていきなさい!」と母が言うから。




2006/08/19

「17」

2006/08/19

「生きる」

2006/08/19

「青い空。蒼い気持ち」

2006/08/18

Vol.11 「へんしんッの巻」

2006/08/18

Vol.10 「無能の人。の巻」
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