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〜一回生の章〜 拾
入学して何が何だか分からない間に一ヶ月が経とうとしている。ただ確実に分かる事は応援団に入りあの二人に翻弄されているということだ。彼等にとって俺達はこのうえないオモチャに違いない。“このままでいいのか?これが夢と希望を抱いていた高校生活か?俺には灰色の”葛藤の日々が流れていた。“はぁぁぁぁ、今日もお唄の練習と発声練習か”。まるで長唄か詩吟を習っているような気分に姿勢は自然と丸くなり、お稽古場、いや部室に向かう俺。部室を目掛け知能指数0で全力疾走する運動部員達とは明らかに覇気が違っていた。
トロ〜ンとした目で部室を見ると何やら二回生が慌ただしく部室を出入りしてる。
“なにやっとんだ?熊さん(顧問)のガサ入れでもあんのか?”
俺はいかにも校舎からダッシュしてきたかのように全身にターボチャージャーのシグナルを送り部室前へ飛び込んだ!
「ハァ、ハァ、押忍!先輩何かあるんですか?」。太鼓台を出し無表情のナカシマに聞いた。
「おう、今度の春季大会にOBの方が試合を見に来るらしい。だから今日からは通し練習だ!団旗を揚げて体育館の階段を球場のスタンドに見立て実戦形式の練習だ。ちゃっと回ししろ!(すぐ用意しろ)」
細い目をカッと開きまくし立てるちょっとイカすナカシマであった。
続々と集まる一年にその旨を伝え練習の準備をしていると、あの二人が苦虫をかみ砕いたような形相で部室へと消えた。中から聞こえるのは苛立つような声と困惑するアホ声のデュエット。しばらくして二人がジャージに着替え外に出て来た。俺達はそそくさと急ぎ足で体育館前へ向かう二人の後を大奥の女中のように厳かに追う(足袋はいてスリ足でね!)
体育館前に着くとまず横隊番号。次いで団長ヨ〜シダの言葉。
「ええきゃ、来週から始まる春季大会に応援団のOBがぎょうさんござるらしいわ(たくさん来る)、うるしゃぁ奴ばっかだでビシッとせえよ!…ところでOBって分かるわなぁ?英語で言うオールドボーイだがや!けどなぁ、うちのOBは“オメデタイバカ”でOBだがね、ハッハッハッ!」
まるで来年自分が卒業し、そう言われるのを分かっていない発言に“あんたがメデタイ”と思ったのは俺一人ではないだろう。この日からの練習は今までのものとはガラリと変わり実戦モードに入った。
まずは校歌、次いで団長エール。そして攻撃を想定して「かっ飛ばせ中京やかっ飛ばせ〇〇」といった選手の名前を入れてのエール。
先輩達の振るエールに俺達一年は声を張り上げ拳を揚げたり、手拍子を打ったり、いわゆる『バック』と呼ばれるポジションを淡々とこなす。ここで余談だが援団用語として『サチコー』という掛け声がある。なにも団長のナオンや西田でも小林でもない。だがこれが『ハマコー』では調子が悪い。『サチコー』とは観衆に呼び掛ける心を込めた言葉で、『さあ、もう一丁行こう!』が短くなり変型したものだ。
しかし残念な事に応援団が消滅し、現在の体制(野球部員が応援団)になってからこの掛け声はいつしか『幸来〜い!』と言う認識となってしまった。マスメディアが勝手に活字にして広まったと思われるが、『幸来い』などと
そんな女々しい応援がどこにあるか?そんな言葉で勝てるわけないやろ?
生徒諸君! 若いOB、並びにご父兄のみなさま、あれは『幸来い』でなく『サチコー』=さあ、もう一丁行こうっ!であります。
さあもう一丁行こう、これを何度も繰り返し少し早口で言ってみて下さい。20秒後には『サチコー!』になります。たぶん。
話しを戻そう。我が応援団は空手の組み手を取り入れた、「空手拍手三・三・七拍子」や「空手拍手ニ拍子・三拍子」等がある。そのどれもが団長や副団長が演じるものだ。
それと全国でも珍しい日の丸扇を使った応援の数々。さすがこのあたりは全国屈指(創部歴全国四位、同年に浪商)である。普段ちゃらんぽらんな二人が真剣に型を振っている。それも一糸乱れぬ動きで、、、。
“スゲェ、やればできるんや。俺達が三年になってあんなに上手くできるんか?”そんな真剣な二人が格好良く見えた、ちょっとだけね。いや、ちょっとのさらに半分、量にして耳クソぐらい。
こんな気合いの入った練習が数日続いた、、、俺達はその中で校歌より有名で、選手はもとより生徒いやOBまでも熱くさせる「応援歌」の練習に時間を割いた。この応援歌の副題がなんとも凄いというか威張ってるというか、、『応援歌〜天下の中京』なのである。あの『陸の王者慶應』もぶっ飛ぶタイトルである!俺達はデビューシングル『校歌』に続き、セカンドシングル『応援歌』を来る日も来る日も歌い続けた。
ちなみに聖子ちゃんのセカンドシングルは『青い珊瑚礁』です。こういうことも応援団にとっては大切な知識なんです。
そして目前に迫った春季大会。この年の愛知県は後のプロ野球界で活躍する逸材がゴロゴロしていた。その年の春の選抜に出場した大府・槙原(巨人)、愛知・浜田の彦野(中日)、名電の工藤(現横浜)等の豪華な顔ぶれが並んだ。
そして俺達の初陣は名電戦と決定。
その日を前に我が応援団は一層力の入った練習を繰り返した。夕陽を浴び初夏のような風を受ける帰りの坂道で、俺達の顔が少し引き締まったように見えた初陣二日前。
遥か甲子園に続く空が茜色に染まっていた。
<続>
今回は応援歌『天下の中京』を掲載させていただきます。
“天下の中京”
思え天下に中京の
名を響かせし先人の
その華やかな歴史をば
継がんと健児血涙の
錬磨の力悔ゆるなく
示すは今ぞ友よ起て
中京、中京、天下の中京
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