今回は、先に行われた〔第91回全国高校野球選手権大会〕に於いて7度目の“全国制覇”を達成した、母校中京大学付属中京高校の栄誉を讃え、
“団長への道・飛翔~遥かなるアルプス”
としてお送りします。
「サードライナー!!、壮絶な試合にピリオドがうたれました~!!」
絶叫するアナウンサーの声。この瞬間母校の43年振り7度目の優勝が決まった!
平成21年8月8日、全国4041校の頂点を目指し第91回全国高校野球選手権大会が開幕した。母校は愛知大会6試合で64得点という超破壊力打線を引っ提げ挑む大会。注目は花巻東の菊池、その怪物を倒すべく抜きん出た優勝候補がいない戦国大会。
8月12日、雨で2日順延になったが母校の甲子園が始まった。俺達は今年初めて揃いのTシャツを作り甲子園に乗り込んだ。春の選抜時にはまだ完成していなかった新しい甲子園が全容を現し俺達を迎えた。ベージュ色の煉瓦タイルの外装は大リーグのオールドスタイルの球場を思わせる。蔦が絡まった壁が懐かしい。そんな甲子園が用意したのは一回戦屈指の好カード対龍谷大平安戦。母校同様に大学付属となり校名が変わったが、オールドファンには堪らない、中京対平安戦である。試合は5-1で母校が勝利、甲子園に5年振りの校歌が流れた。俺はというと愛知大会初戦同様、高速の事故渋滞で試合に遅刻。得点シーンは車中で観戦という失態だった。
8月17日、2回戦対関西学院戦。
地元校であり70年振りの甲子園勝利に湧く相手アルプスいや甲子園球場。3塁アルプス以外は関西学院ファンという超アウェー状態。試合もシーソーゲーム。9回表同点に追いつかれた。俄然盛り上がる甲子園。9回裏先頭打者2番國友が三振に倒れた。次打者は強打者河合。県大会からのバッティングは健在。両アルプスの応援がヒートアップする。そんな中、河合が初球を叩いた!「カキーン」乾いた金属音と共に白球が左中間に飛んだ。低く早い弾道の白球が左中間フェンスに直撃しグランドに戻った!?「走れ~、走れ~!」アルプスから絶叫の声が…。その時、2塁塁審が右手をぐるぐるとちぎれんばかりに回していた!「ホームランか?!ホームランやっ!!」狂乱する3塁アルプス、抱き合い叫ぶ仲間達。河合の打球が早過ぎてスタンドに入りグランドに跳ね返ったのが見えなかったのだ!こんな劇的な勝利は未だかつて経験した事がなかった。自然と溢れる涙を抑え予選から全試合観戦してきた親友のシンカイとがっちり握手した。2度目の校歌は感激ひとしおであった。
8月20日、3回戦対長野日大戦。
この日、平日にも関わらず母校のアルプスは満員。俺の携帯も平日なのに鳴りっぱなし。「ニシやん、頼むから勝たせてくれ」と養老タケシが言えば、「栄ちゃん頼む!」と親友オオサワが言う。メールも同様のものが多方面から入った。それもそのはず、初戦が雨天で2日も順延になったためにお盆に観戦を予定していた者達が未だ甲子園に来れていない。せっかく作ったTシャツも着れないでいる。Tシャツ作製提案者のナオマサもしかりだ。俺はそんな奴等の思いを胸にアルプスに陣取る。母校はその日も先制。5点先制で少し気が緩んだか5回に追いつかれる。春の選抜のままのチームならどうなっていたか分からないが、報徳学園に敗れてから精神的に進歩したチームはそれを跳ね返しその後12点を奪い、15-5の圧勝、準々決勝に駒を進めた。
8月22日、準々決勝対都城商戦。
名神高速も4日目の走行になると甲子園が近く感じて来たと同時に深紅の旗も近づく気がした。そんな名神高速を走る朝一本の電話が…。「ああ、僕だけど今日は僕の母校とですね、よろしくお願いします。でもね問題があって…もし都城が勝ったら大変なんよ。勝てば6000千万いるのよ、だけど現在3000万しか集まってないの。寄附が集まらない…。まあ多分中京が勝つから、お互い頑張って応援しましょう!」電話の主は後輩の九州男からだった。公立校の切なる悩みが漏れてきた。母校の資金は豊富だろう。甲子園が2ヶ月続いたとて大丈夫。そんな小さな物語がある中甲子園に到着。
ここまで勝ち進むとチケットの入手が困難になる。しかし俺達には毎試合チケットを苦労して入手してくれるジンノがいた。試合前日に母校へ出向いて並び、人数分を買って来てくれていた。チケットはどうにかなる、しかしどうにもならないのが座席である。俺はこの日、親友のフトシとアルプス入場門最前列に並んだ。試合開始2時間30分前の事。3塁側アルプス入場門に続々と人が押し寄せて来る。土曜日とあって同級生や先輩後輩も多い。俺とフトシの少し後ろに野球部OB達の姿も見えた。前の試合が終わり入場が始まった。狭い門に数千人が押し寄せる。小さい子供達は息も絶え絶えだ。俺とフトシ、合流したセイジは座席確保にダッシュした。前試合の応援団が退場するのを待ち空いた席にカバンやタオル、ペットボトルにライター、タバコと貴重品以外の物を置き席を取った。50~60人分は確保しただろうか…。そこへ仲間達や先輩後輩が次から次へとやって来る。そんなみんなはあのTシャツを来て嬉しそうだった。試合が始まった。またも先制する中京ペース、途中1点差に詰め寄られるもきっちり駄目押しして、6-2で勝利!4度目の校歌が流れた。あと二つ。26年前の夏、俺達もこの場所までは来たのだ。しかしあと一歩で広商に決勝への道を絶たれた。次はあの花巻東。エース菊池の調子が悪いと聞いたが選抜準優勝校。油断は出来ない。
8月23日、準決勝対花巻東戦。
甲子園へ向かう名神高速には花巻東応援団のバスが沢山走っていた。「何時間かかるんや?大変やな…」この日も3塁側アルプス入場門のほぼ最前列に並んだ。フトシにセイジ、あのアナコンダ先輩にゴリラ先輩も…。第一試合は県岐商対日本文理。心情的には県岐商との決勝を望んだが…。帝京、PLと優勝経験のある強豪校を倒し力尽きたのか、惜しくも惜敗し甲子園を去った。決勝の相手は決まった!日本文理だ。相手はどこでも同じ、その前に目前の花巻東に勝たなければならない。
アルプスの門が開いた!前日にも増して観客が溢れ我先にと階段を駆け上がる。3塁側アルプスにはまだ日本文理の応援団や観客が多数いた。勝った余韻と甲子園を楽しむかのようにのんびりしている。俺達はいつも陣取る場所へ向かった。そこには日本文理と書かれた鉢巻きや帽子を被ったOBやファンがのんびり座り込みバックスクリーンやグランドを眺めてる。甲子園のアルプスのルールを知らんようだ。俺達揃いのTシャツを着た軍団がその団体を囲んだ。ぐるりと囲まれた日本文理の団体はまるで四面楚歌状態に顔色を無くす。「中京さんが来た、中京さんが来た。早く席を空けないと」還暦ぐらいの男性があわてふためき席を立つ。それに合わせ周りの連中も一目散に退場して行った。新潟県の人達ですら中京を知っている。
余談だが一回戦観戦中、何故か次の試合の横浜ナンチャラ高校の若いOB達がアルプスに多数いた。喫煙ブースへ煙草を吸いに行くとあの阪神タイガースもどきのユニホームを着た若造達が地べたに座りモニターを怠そうに眺めていた。その中の一人が「中京って何処よ?強いの?知ってっか?」と仲間に言った。余裕でヤニかましながら(煙草吸いながら)横にいた仲間はニヤニヤしながら「知らね~し!聞いた時ね~し!」と鼻から煙を出しながら…。そんな有り難いお言葉を聞き逃すはずがない!俺と一緒に煙草を吸っていた野球部OBヨゴウの顔が引き攣った!「おう、なんか言っとんな~ニシやん!」わざと若造達に聞こえるようにヨゴウが言った。「おうよ、知らんらしいわ中京を。舶来の人きゃ?」ブース内には中京のオールドファンやOB、後輩達が多数いた。俺の一言に気付いた人達が阪神もどき達を睨んだ。若造達はただ事ではない雰囲気と殺気にフリーズし無言の恫喝はそいつ達を恐怖のどん底へ招待した。横浜ナンチャラ高校よ、甲子園初出場おめでとさん、激戦区神奈川を勝ち抜いた事は大儀であった。だがな、聖地甲子園には暗黙のルールがあるんだよ。分かったか!新参者が吠えたらかんわ…。公の場だが母校を軽視した事と名誉のために言っとくわ!「100年かかっても我が母校の戦歴には勝てんわ!」
ああ、スッとした。
話を戻そう。
ほぼ満員のスタンドが両校の登場を待っていた。うぐいす嬢の先発メンバー発表にどよめくスタンド。菊池の名前がスタメンに無いのだ。よほど調子が悪いのだろう。だがそれも時の運、武運である。決勝に立ちはだかる壁を破る試合が始まった。母校はこの日も先制、不調のエースを引きずり出すのに時間はかからなかった。不調の菊池も懸命に投げたが今の中京の勢いは誰にも止められない!9回表、11-1のスコアを誰が予想したか?あと一人…あと一人で壁を越えられる。そう思うと涙腺が決壊し唇が震えた…。接戦覚悟のこの日、試合前にゴリラとアナコンダと俺はある相談をしていた。「終盤試合がもつれていたら、応援歌や。儂が先陣切るで後はキョーデェーとエイイチで頼むぎゃ!」ゴリラが雄叫びをあげた。
しかし試合は予想外の展開。最終回にゴリラから出た指示は「まっ、今日はえっか!楽勝だでな、はっはっはっ!明日、明日や!明日はめっちゃくちゃやったるがや!」と…。グランドでは最終打者が倒れ試合が終わった。整列を終え母校の今大会5回目の校歌が流れ出したと同時に俺は悪魔二人の間をすり抜けアルプス席に立った!「おい、エイイチ!お前…」後ろでゴリラが言った。俺は先輩を無視して校歌団長エールを振り始めた。止められても、恫喝されても殴られても俺はエールを止める気が無かった。俺にとっては明日じゃない、26年前ベスト4を勝ち抜いたエールを振れなかった思いがある。決勝じゃない、準決勝で勝ってエールが振りたかったのだ。
涙が頬を伝う、足が震える。俺が振りたくて振れなかったエールを43歳になった今現実に振っている。校歌が終わった…。感無量の俺は俯いたまま顔があげれない。しかしまだやる事がある…。悟られてはいけない。「やってまったきゃ」ゴリラが笑う、横で優しく頷くアナコンダ。アルプス前に選手達が並んだ、43年振りの決勝進出に笑顔が輝いていた。俺の周りで仲間達がガヤガヤしてる。その内容は明日の決勝は月曜日、仕事で来れないという嘆き節。
そんな一人オオサワが「えーちゃん、明日来れんで応援歌やってくれ…」と言った。周りもみんな囃し立てる。だが命令無視で校歌エールを振りこれ以上の事をやると流石の悪魔二人も…と思った。しかし校歌エールを振った以上観客に礼と明日決勝を戦う選手達にエールを振らなければ失礼だ。“明日じゃない。俺は今日の為に、今日エールを振る為に卒業以来27年母校を応援して来たんだ。やろう。決勝へ向かう若武者達に”俺は再びアルプス席に立った。アルプス上段を見上げ「中京ファンの皆さん、本日は御声援ありがとうございました。明日の決勝戦も御声援よろしくお願いいたします!」万雷の拍手と仲間からの「よう言った!」の声が…。その拍手と歓声にアルプスの注目が集まった。“さあ、どうする?やるか、止めるか”一瞬の迷いはあったが団長という性が体をグランドに反転させた。「いくどぉ~!中京高等学校の~明日の全国制覇を祈って~。フレー、フレー、ちゅうー・うー・きょーうー、押忍!」「フレフレ中京、フレフレ中京~!」アルプスが一体化した。抱き着いて来る奴、握手して来る奴、肩を叩く奴。俺はもみくちゃにされながら号泣した。若いOBから“ニシオコール”まで起きた。アルプス全体からもらった拍手が今でも耳に残る。帰りの運転中も涙が溢れ鳥肌が立つほどだった。
翌日。母校は大接戦の末、43年振りに深紅の大優勝旗を手中にした。遂に念願の全国制覇を成し遂げたのだ!決勝ではエールを封印した。今度いつ決勝に勝ち進むか分からない。しかし俺は準決勝での勝ち名乗りを目標に来た。一気に決勝でのエールはおこがましい。正規の応援団として甲子園最後の団長、甲子園10勝の団長の誇りを胸に、今度は決勝で優勝エールを振るまで俺はこの先も母校を応援し生涯団長であり続ける。中京大中京高校、優勝おめでとう!!
“団長への道・飛翔~遥かなるアルプス”<完>
「the head・団長への道」を御覧の皆様へ。
いつも御覧いただきありがとうございます。
平成17年、「名古屋ページ」からお世話になっておりましたが、この度マロンQエストでの連載を卒業する事になりました。
皆様には長年大変お世話になり感謝の言葉しかありません。
マロンQエストは卒業しますが、「団長への道」は私の個人ページにて連載を続けます。
最後に長年私の連載編集に携わっていただいた、マロンブランドスタッフの皆様、そして私にこんな大きなステージを与え、公私共に御指導、御鞭撻、叱咤激励をいただきました、栗山圭介氏に最大級の感謝の言葉を、押忍、ありがとうございました!
皆様、またいつかどこかで…ニシ。
~ INFORMATION ~
今後の「団長への道」は、http://www.240.no-blog.jp./にて連載いたします。
続編第1弾は「2009 甲子園、それぞれの決勝戦」で連載スタートです!
元中京高等学校應援團
第59代 團長 西尾栄一
|