『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾四

〜一回生の章〜 拾四


 好投手クドウに連打を浴びせチャンスを広げる母校にスタンドも自然と盛り上がる。それまで単調だった応援にも一層力が入った。
 団長ヨシダが0.1トンの巨漢に似合わぬ機敏な動きで的確な指示を出し、オオツカは俺達の動きに誤りやさぼりがないかとスネークEyeを飛ばし、先程ほざいていた白豚おやじもエールに合わせ声を出している。
 グランドでは母校がランナーを二人置きチャンスを広げ、左バッターボックスには番長ヨシダが不敵に構えていた。団長ヨシダの指示は「かっ飛ばせ!ヨシダ」、得点機を前にスタンドは一段とボルテージがあがる。
「カッセ〜、カッセ〜、ヨシダ!カッセ〜、カッセ〜、ヨシダ!」
 スタンドの野球部員の声も一層大きくなり、俺達も怒声に近い声を出し必死に応援。
 球場の全ての人の視線がバッターボックスに集中していた時事件が起った!?

「ガツン」。鈍い音が響き一瞬にして球場が静まりかえった。事もあろうかクドウが投げたボールがヨシダいや総番のヘルメットを直撃したのだ! 直後に母校スタンドからは怒声と罵声が飛び交い団長ヨシダは金網にへばり付き「テメェ、コラッ!クドウ貴様殺すぞ!」と喚き散らしている。多分相手スタンドから見ると、ニシローランドゴリラが暴れている様にしか見えなかっただろう。
 そんな騒然としたスタンドをよそにバッターボックスのヨシダはバットを持ったまま1ミリも動かない。“痛いのか?動けないのか?”審判の問い掛けにも知らん顔のヨシダがとった行動は、帽子を取って謝るクドウにまず強烈な眼を飛ばすことだった。

 しばしの沈黙。ひょっとしたら乱闘も…そんあことを予感させるほどの迫力&静寂。そしてヨシダは静の迫力を存分に発揮しながらスローモーションで一塁へと向かった。
 そうだよなプロじゃねぇから乱闘は無いよな、と半ばナットク、けれどちょっぴりがっかりした俺の眼に信じられない光景が飛び込んできた。
 クドウに続き帽子をとり一礼する一塁手にヨシダは軽く体当たり(ギリギリ許される範囲)してから何やら耳元で囁いている。何を囁いたかは分からないが一塁手はかなり慌てていた。
 そしてヨシダはリードするフリをして一塁手の足を踏んでニヤニヤしてる(これもバレない程度のギリギリのテクニック)。
“これは高校野球なんかじゃない、喧嘩や!でもここは野球場で審判もいる…子供の頃見たドカベン?いやアストロ球団?違う、ちょっと違う、あっ!アパッチ野球軍そのままや!”。俺は必死に応援しながらも過去の記憶を蘇えらせた自分に果てしない喜びを感じた。

 一発触発の中、次の打者がしぶとくヒットで1点、次いで御家芸のスクイズで2点をあげた。盛り上がるスタンド、沸き上がる歓声!応援初陣の俺は”これが中京野球か、これが応援団の心意気か”と体に震えが走った。
 後続は絶たれたがスコアボードには誇らし気に【2】と書き込まれ、我が中京は確実に勝利へ一歩近付いた。
 俺にとって初の応援だ、絶対勝ちたい! その意欲がさらに声を大きくさせた。
 しかし名電もしぶとく2点を返して来た。そして回は8回中京の攻撃。
 ここで、ニシローランドゴリラいや団長ヨシダから出された指示は「かっ飛ばせ〜〇〇」でもなければ「フレッ中京」でもなく「応援歌」であった。応援歌といえばラッキーセブンに副団長オオツカのエールで歌うのが常だが、何故かこの回は二回生ナカシマがエールを振りそれが始まった。

 俺達は拳を上下させ太鼓に合わせシャウト。応援歌は歌詞の1番だけを歌い、「フレッ中京」のエールを振って終わるのだがちょっと様子が違う。1番を歌い終えると同時にナカシマから発せられた言葉は「もうー丁〜」
 はぁ?もう一丁? 初めて出る指示に戸惑い一瞬手と声が止まり仲間を見ると皆どうしていいか分からず動きがバラバラになっていた。
 それを後頭部にも眼がついているオオツカが察知! 振り向くや否やスタンド狭しと駆け回り一回生の耳元で「続けんか!ボケ〜ェェェ!!!」と、血走った眼で恫喝しジャングルを高速で這うアナコンダの様にまた定位置に戻った。
 怖え〜、マジ怖え〜。歌わな殺される…手を止めたら殺される…。試合後が怖い、いっそ一生試合やっててくれ〜! そんな恐怖心と絶望感に襲われている間に母校にチャンスが訪れていた。
 スタンドでは現役、OB、ファンに一般客が一体となり応援歌の大合唱!それはまるで早慶戦のような盛り上がりだった。
 誰が決勝打を打ったかは記憶に無い。しかしこの回、勝ち越しの1点を取り、初陣を勝利で飾ったことだけは間違いない。
 ゲームセット後の団長エールが終わった。もう体力も無く、声も涸れていた。球場の外へ出て横隊する俺達に無数の拍手が…。なんだかすこしだけヒーローになった様な気分だった。
 だが…
 この後あの悪魔二人組の「今日の一言」とOBからの「本日の小言」という恐怖の時間がある事も知らず、俺はヒーロー気分で集合場所へ走った。
 そんな初陣であった。


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾参

〜一回生の章〜 拾参

 デビュー曲の「校歌」を歌い終え、俺の体力バロメーターはすでに半分となった。あまりの大声で校歌をシャウトしたもんだから脳の酸素が薄くなり半朦朧状態となったが、呼吸を整える間もなくヨシダによる団長エールへと続く。
「それでは〜まずは〜相手側、名古屋電気高等学校の本日の健闘を祈ってぇ〜。フレー、フレー、めーいーでーん、押忍!」
「フレッ、フレッ名電、フレッ、フレッ名電」
 相手校にエールを送ると相手団長は一礼しスタンドからは拍手が起こる。ここで気になる人物がいた。野球部生徒の最前列で背中に日の丸中京の白抜き文字入りアロハシャツを来て手にはこれまた日の丸の旗を持ち笛を吹きまくるおじさん。“OBか?変わった人やな”と思わず笑ってしまった。しかしこの後その人と呉越同舟の仲になるとは…それも40歳を過ぎた今でも…
 
「それでは次に、我等中京高等学校の本日の勝〜利を祈ってぇ〜。フレー、フレー、ちゅ〜、う〜、きょ〜う、押忍!」
「フレッ、フレッ中京、フレッ、フレッ中京〜」
「タイボウ(学帽を被れの意)着席!」
 ヨシダの号令で俺達兵隊は「ありがとうございました」と深々と頭を下げ観客や生徒、OBに礼を告げる。
 試合前の一大パフォーマンスが終わった。ヨシダとオオツカはスタンド最前列から4、5段上がった所で二人して大股を広げ4〜5人前のスペースを確保してから腕組みをして名電応援団を睨み付けた。そしてオオツカはいつものように角栄バリに日の丸扇をパタつかせていた。
 俺達は何事があろうとも常に自然体の姿勢で指示を待つ。しばらくすると名電側から我が校へのエールが始まった。ヨシダから頭を下げろの合図。エールが終わると自然体に戻り敬意の拍手。ウグイス嬢から試合開始のアナウンスが流された。

 ホームベースを挟み両校が挨拶。後攻めの母校のナインがグランドに散った。番長であり正捕手のヨシダが野手達に「プレーィ!」と低い声で両手と片足を揚げ開始を告げた。
 審判の手が揚がると同時に応援が始まった。
 ナカシマが「フレッ中京」のエールを振りスタンドを鼓舞する。学校での練習とは違いスタンドやフェンス、バックスクリーンに反響する声は迫力があった。
 一回の表を終え母校の攻撃に。1番セカンドで主将のシラキがバッターボックスへ。すかさず「カッセ(かっ飛ばせ)シラキ」のエール。マウンドにはあの工藤がいる。シラキ凡退後、2番アサオウ、3番イトウも凡退。試合は中盤まで膠着状態が続く。俺達は「カッセ〇〇」と「フレッ中京」を繰り返した。
 試合同様単調な応援に一人のオッサンが立ち上がり顔を紅潮させ叫んだ。
「応援団なにやってんだ!もっと声出して休まず続けろ、バカヤロー!」
 眼鏡で色白でデブな気色悪いオッサンがまくし立てた。ヨシダとオオツカは鬼の形相で振り返り「なんじゃコラッ!」と言わんばかりの怒りオーラを体いっぱいににじませた。
“誰だあのオッサン?眼鏡で白豚のくせに。ん?眼鏡に白豚?うちの団にも似た奴(イトウ)おるなぁ。よう似とるわ”この変な一致が後日大事件になりイトウの環境を変える事に。
 そのオッサンの言葉に発奮したのかオオツカが日の丸扇を持ち立ち上がり「拍手三・三・七拍〜子 」と低音で威圧的な態度で扇を振った。
 その効果かこの日初めての快音が球場に響いた!

<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾弐

〜一回生の章〜 拾弐

 冷たいコンクリートの階段を上がると目の前に青く繁った芝生が広がっていた。その後ろには手書きで味のあるバックスクリーンが幾多の名勝負を見届けて来たかのように威風堂々と立っている。外野席は全て芝生、のんびりした風景。そして自軍のスタンドに目をやると、のんびりした風景が一変しほぼ満員の観客で埋まっていた。
 なんだ?甲子園の予選でも大会決勝でもないのに…その光景に驚きながら相手(名電側)を見るとなんとガラガラ。昔の川崎球場のようだった。“中京は人気があるんやなぁ”と感心してると二年のナカシマが「配置せえや!」と怒鳴った。
 初陣で右も左も分からず躊躇してる俺達は他の二年に引率されスタンドの階段や通路にバラバラに配置された。

 俺の横には100人を越える野球部の一年が座ってる。同じクラスの野球部員が俺を見てニコリとしてた。新野球部員にとっても今日が初の試合観戦で期待に満ちあふれた表情で座っているが、そいつらが俺達までをも見ていると思うと極度の緊張感に覆われタマキンが天まで上がってしまった(そんなわけあるはずないけどね)。
 ふとスタンド最前列に目をやると例の二人がOBらしき男にペコペコしてる。OBらしき男がニヤリと笑った。“なななんじゃぁ、ありゃ!?”笑った男の歯はその約7割が金歯と銀歯に装飾されロレックスのコンビのように豪華に光っていた、というより“007”の宿敵[ジョーズ]そっくりっていうか。

 俺達が自然体を組み立っているとナカシマからハクタイ(白い手袋)装着の合図。間もなく始まる試合に緊張が高まる。しばらくすると一塁側から黄色のトレーナーに紫の鉢巻きをした名電の応援団風の生徒が3人歩いて来た。名電には応援団が無い、従って生徒会か野球部員から作る急造応援団ということになる。風格も厳つさも全く無い。そんな連中が中京側のスタンドに来るという事はスラム街に迷い込んだ日本人観光客の心境だろう。
 この儀式は応援団間で必ず行われる試合前の挨拶である。挨拶は歴史の古い応援団に歴史が浅い方が出向くのが常である。我が中京は県内はもちろん東海圏でも歴史は一番古く全国でも第四位に位置していた。あの悪魔二人組は第56代にあたる。

 この挨拶で試合前と後のエールの順番を決める。通常先攻チームが先にエールを振り、勝利チームが先にエールを振る。しかし中京にはそんな打ち合わせはいらない。何故なら後攻だろうが負けようが必ず先にエールを振るという不文律が出来上がっているからだ。だから応援団のある古豪、強豪校は「本日は宜しく」と挨拶をして帰るのだが名電の急造応援団はそれを知らずあの二人を怒らせてしまった 「押忍、名電応援団々長〇〇ですが、先攻なので先にエールを振りますがよろしいですか?」
 その言葉に真っ先に反応したのはオオツカだった。目を血走らせ血管がメロンの表面(あるいはキャン玉袋)のように浮き上げ立ち上がった!
「クゥオラ〜、今なんて言ったんだぁぁ〜、あ?この電気坊主〜!」
 ちなみに「電気坊主」とは名電生のあだ名。この電光石火の恫喝に後退りする名電生。
「あの…その…えっ?」
 じわりじわりと詰め寄るオオツカとスタンドの雰囲気に顔面蒼白の三人組。それをニタニタ見ていたヨシダがここぞとばかりに立ち上がる。
「おい、おみゃぁさんたらぁよ〜どこぞの学校にもの言っとりゃぁすきゃ。わしら中京だがね、先攻後攻、勝ち負け関係無しでエールは中京が先に決まっとるぎゃぁ。覚えとけドたわけがぁ〜。分かったらちゃっと帰って応援のまね事でもしとけっ!」
「ししし失礼しますっ」名電生は慌てふためき自軍スタンドへ。
 へっへっへっ、バ〜カ。オオツカが得意満面で笑った。

 グランドでは中京のノックが始まった。初めて見る立ち襟付きのユニフォームは痺れるくらい格好よかった。それとツバが上がった帽子渋すぎる。そんな選手に見とれているとナカシマから次の号令が。「九人エールだ」。九人エールとはその日の先発選手の名前をコールして応援する一発目のエールである。それと同時に団旗を揚げる合図も出る。ピッチャーから順にライトまで最後はフレーフレー中京で締める。
 俺達の初陣が始まった!選手の名前を大声で叫び力いっぱい手を叩いた。両校のノックが終わり最後のグランド整備が始まった頃、団長ヨシダがスタンド最前列中央に立ち上がり、両手を揚げ口上を発した。
「中京ファンの皆さん、並びに先輩生徒諸君。本日は我等中京高等学校に絶大なる御声援をお願いします!」
 この口上を合図に回りの人達に「よろしくお願いします!」と何度も頭を下げ応援をお願いする。万雷の拍手の中「校歌〜、よお〜い!」のヨシダの号令に「ド〜ン!」と太鼓が鳴る。とうとう俺達が練習に練習を重ねたデビュー曲校歌の初披露だ。音程もコブシもビブラートも無い。
 ただただ大声でがむしゃらに歌った。校舎や階段で歌った感覚とは全く違う爽快感が体を抜けた。

 投球練習場のマウンドを見ると未だ現役で頑張る『ハマのオジサン』こと名電のエース工藤が立っていた。
 アンパイアの手が揚がった
「プレーボール!」
 俺達のバカな青春も幕を開けた。

<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾壱

〜一回生の章〜 拾壱


 俺達は初陣となる春季大会を明日に控え最終練習に心血を注いだ。この日は顧問のクマさんも練習に顔を出し、俺達よりもあの二人がふざけないか監視していたようだ。
「集まれっ」。体育館階段に鶴翼に広がっていた俺達はクマさんの号令で急いで横隊の陣をとる。この時のヨシダの動きがワザトラマンエースだった。クマさんまで僅か2、3メートルの距離なのに姿勢を低くしダッシュするのだ。しかも歯を食いしばって。ガキのかけっこでもあるまいし。一番乗りで列んだヨシダの顔は『プロ野球スナック』でホームランカードが当たった時の成績の悪い小学生並みの誇らしげな顔をしていた。

 整列した俺達にクマさんから明日の予定や注意事項が告げられた。
「え〜、明日の試合は熱田球場で開始は朝10時、相手は名電。たぶん向こうは応援団が来ない(名電には正式な応援団が無かった)が、かと言って力を抜いた応援は許されない。OBの先輩方も沢山来られるようだから母校の勝利に向け一生懸命やってくれ。一年生は初めての試合になるが間違えても慌てず大きな声で応援するよう。いいな!それとヨシダ、オオツカ。おかしな学ランは禁止だぞ!特にオオツカ、聞けばマントのような学ランを着てるそうじゃないか、そんなものは論外!見つけたら切るぞ。いいか!そしてヨシダ、お前身体がデカイからといって大きいサイズの学ランを買ったら丈も長かったなどとくだらない事言うんじゃないぞ。決められた制定服で来いよ!」
 図星の二人は苦笑いを通り越し顔面を引き攣らせて乾いた歯茎に唇が引っ付いて離れなくなっていた。
「それと誰か明日学校に来て太鼓と団旗をタクシーで球場まで運んでくれないか?一人じゃ大変だから二人で」
 クマさんの問いに二年のナカシマが挙手した。
「押忍、自分が学校から一番家が近いので一年のウシダと運びます。押忍」
 突然の指名に戸惑うセイゴ(ウシダ)。しかし仕方がない。なんせナカシマとセイゴはおな中だから。クマさんからタクシーチケットを受け取り伝達事項が終わった。練習もここで切り上げ部室へ。長椅子にセイウチの様に横たわるヨシダが翌日の連絡事項をおさらいする。
「明日は9時に熱田に集合だぁ〜。球場横に俺に無断でデカシタ(造った)断夫山古墳(だんぷやまこふん)ちゅう原始人の墓があるでその下のベンチ前に集まれや。分からん奴は地図で調べやぁせ」
 そこでヨシダはタバコを一服。オオツカはマント学ランがバレている事にうろたえ、タバコを吸うどころかシガレットチョコレートのようにかみ砕いていた。
「よし、きゃぁるぞ!」。毎度ヨシダの気まぐれな号令に帰り支度を急いだ。グランドでは明日の試合に備え野球部が金属音を響かせていた。

 明けて当日。鏡の前でソリと眉毛を整えていると「何時からやねん」と親父の声。剃刀と毛抜きを駆使しながら「10時」と面倒臭く言うと「見に行ったろか」と予期せぬ言葉。「学芸会でもあるまいし、来んでええからな」の模範解答に「さよかぁ」と笑う親父。
 次いで玄関で慌てて靴を履いていると「あんた気張りや」と言う声とカン、カンと乾いた音が耳に響いた。振り向くとお袋が石を擦り笑ってた。ヤクザの出入りじゃあるまいに。
「ほな行って来るわ」
 俺はバスと地下鉄で球場へと向かった。

 球場の最寄り駅で地下鉄を降りると老若男女の人の波、波、波。出口が分からない俺はその人波について行った。
 地上に出てしばらく歩くと熱田神宮公園の看板と共に『春季高校野球愛知大会』の横断幕が目に入った。その幕をくぐり奥を見るとバックスクリーンが見えた。先程の人の波はみな球場へ向かっている。俺は指定された古墳を探すも見当たらない。青々と繁る木々のトンネルを進んでいくと、ようやく数人の団員の姿を見つけた。
「お〜い」。タイチ、マコト、マサトの港三銃士が手を挙げて俺を呼んだ。「早いな、で古墳てどこよ?」。俺の問いに「この後の山が古墳らしいわ」とマサト。「へぇ〜」大阪にある古墳と比べると小さいが目前にある古墳だけはスケールがデカかった。そうこうしながらベンチ前でぶらぶらしてるとセイゴが走って来た。
「誰か太鼓と団旗運ぶの手伝って」。国道に止まっているタクシーにダッシュする俺達。そこに背も無い、目も無い、華も無いナカシマが“テメエラ遅いぞ”とばかりに仁王立ち。しばらくすると残りの一年と二年が到着し古墳下ベンチ前であの二人を待つ事に。俺達の前にはまだ途切れない人の波が続いている。そしてその人の波は俺達を好奇の眼で見ている。
「押忍!」。突然ナカシマが大声を張り上げ挨拶をした。
 はっ? 誰に? 何処に?。辺りを見渡すも人波で何が何だか分からない。ただその一般ピープルの彼方から異様な雰囲気が近付いて来ることだけはこの一ヶ月の訓練で感じられた。

 あの二人か?。予感はノストラダムスやサイババよりも的中した。一歩が5ミリの女中歩きのヨシダと一歩が百歩のガリバー歩きのオオツカの登場だ!
 パンピーは恐れて道を空ける。完全にヒールや、世界最強タッグのブッチャー&シーク組より完全に弱いし華もないが、二人は“今この瞬間は僕たちだけのステージ”と言わんばかりに派手に威張って歩いていた。
「おう、揃っとるきゃ。いざ出陣といきゃぁすか!その前にヤニッ!」

 しばらくするとクマさんもやって来た。試合開始30分前、俺たちはクマさんに引率され正面口から球場へと入った。古い球場だが愛知高校野球のメッカだけあってズシリとした歴史を感じる。
 このおんぼろ球場の冷たいコンクリートの階段に一歩足を踏み入れた時から俺の真の団長への道が始まった。
 これから二年半、幾度となく上ることになる階段。もちろん団長として上がる階段になろうとはこの時は微塵も考えていなかった。というよりオシッコに行きたくて堪えられなかった試合直前であった。


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾

〜一回生の章〜 拾


 入学して何が何だか分からない間に一ヶ月が経とうとしている。ただ確実に分かる事は応援団に入りあの二人に翻弄されているということだ。彼等にとって俺達はこのうえないオモチャに違いない。“このままでいいのか?これが夢と希望を抱いていた高校生活か?俺には灰色の”葛藤の日々が流れていた。“はぁぁぁぁ、今日もお唄の練習と発声練習か”。まるで長唄か詩吟を習っているような気分に姿勢は自然と丸くなり、お稽古場、いや部室に向かう俺。部室を目掛け知能指数0で全力疾走する運動部員達とは明らかに覇気が違っていた。

 トロ〜ンとした目で部室を見ると何やら二回生が慌ただしく部室を出入りしてる。
 “なにやっとんだ?熊さん(顧問)のガサ入れでもあんのか?”
 俺はいかにも校舎からダッシュしてきたかのように全身にターボチャージャーのシグナルを送り部室前へ飛び込んだ!
「ハァ、ハァ、押忍!先輩何かあるんですか?」。太鼓台を出し無表情のナカシマに聞いた。
「おう、今度の春季大会にOBの方が試合を見に来るらしい。だから今日からは通し練習だ!団旗を揚げて体育館の階段を球場のスタンドに見立て実戦形式の練習だ。ちゃっと回ししろ!(すぐ用意しろ)」
 細い目をカッと開きまくし立てるちょっとイカすナカシマであった。
 続々と集まる一年にその旨を伝え練習の準備をしていると、あの二人が苦虫をかみ砕いたような形相で部室へと消えた。中から聞こえるのは苛立つような声と困惑するアホ声のデュエット。しばらくして二人がジャージに着替え外に出て来た。俺達はそそくさと急ぎ足で体育館前へ向かう二人の後を大奥の女中のように厳かに追う(足袋はいてスリ足でね!)

 体育館前に着くとまず横隊番号。次いで団長ヨ〜シダの言葉。
「ええきゃ、来週から始まる春季大会に応援団のOBがぎょうさんござるらしいわ(たくさん来る)、うるしゃぁ奴ばっかだでビシッとせえよ!…ところでOBって分かるわなぁ?英語で言うオールドボーイだがや!けどなぁ、うちのOBは“オメデタイバカ”でOBだがね、ハッハッハッ!」
 まるで来年自分が卒業し、そう言われるのを分かっていない発言に“あんたがメデタイ”と思ったのは俺一人ではないだろう。この日からの練習は今までのものとはガラリと変わり実戦モードに入った。
 まずは校歌、次いで団長エール。そして攻撃を想定して「かっ飛ばせ中京やかっ飛ばせ〇〇」といった選手の名前を入れてのエール。
 先輩達の振るエールに俺達一年は声を張り上げ拳を揚げたり、手拍子を打ったり、いわゆる『バック』と呼ばれるポジションを淡々とこなす。ここで余談だが援団用語として『サチコー』という掛け声がある。なにも団長のナオンや西田でも小林でもない。だがこれが『ハマコー』では調子が悪い。『サチコー』とは観衆に呼び掛ける心を込めた言葉で、『さあ、もう一丁行こう!』が短くなり変型したものだ。
 しかし残念な事に応援団が消滅し、現在の体制(野球部員が応援団)になってからこの掛け声はいつしか『幸来〜い!』と言う認識となってしまった。マスメディアが勝手に活字にして広まったと思われるが、『幸来い』などと
そんな女々しい応援がどこにあるか?そんな言葉で勝てるわけないやろ?
 生徒諸君! 若いOB、並びにご父兄のみなさま、あれは『幸来い』でなく『サチコー』=さあ、もう一丁行こうっ!であります。
 さあもう一丁行こう、これを何度も繰り返し少し早口で言ってみて下さい。20秒後には『サチコー!』になります。たぶん。

 話しを戻そう。我が応援団は空手の組み手を取り入れた、「空手拍手三・三・七拍子」や「空手拍手ニ拍子・三拍子」等がある。そのどれもが団長や副団長が演じるものだ。
 それと全国でも珍しい日の丸扇を使った応援の数々。さすがこのあたりは全国屈指(創部歴全国四位、同年に浪商)である。普段ちゃらんぽらんな二人が真剣に型を振っている。それも一糸乱れぬ動きで、、、。
 “スゲェ、やればできるんや。俺達が三年になってあんなに上手くできるんか?”そんな真剣な二人が格好良く見えた、ちょっとだけね。いや、ちょっとのさらに半分、量にして耳クソぐらい。
 こんな気合いの入った練習が数日続いた、、、俺達はその中で校歌より有名で、選手はもとより生徒いやOBまでも熱くさせる「応援歌」の練習に時間を割いた。この応援歌の副題がなんとも凄いというか威張ってるというか、、『応援歌〜天下の中京』なのである。あの『陸の王者慶應』もぶっ飛ぶタイトルである!俺達はデビューシングル『校歌』に続き、セカンドシングル『応援歌』を来る日も来る日も歌い続けた。
 ちなみに聖子ちゃんのセカンドシングルは『青い珊瑚礁』です。こういうことも応援団にとっては大切な知識なんです。

 そして目前に迫った春季大会。この年の愛知県は後のプロ野球界で活躍する逸材がゴロゴロしていた。その年の春の選抜に出場した大府・槙原(巨人)、愛知・浜田の彦野(中日)、名電の工藤(現横浜)等の豪華な顔ぶれが並んだ。
 そして俺達の初陣は名電戦と決定。
 その日を前に我が応援団は一層力の入った練習を繰り返した。夕陽を浴び初夏のような風を受ける帰りの坂道で、俺達の顔が少し引き締まったように見えた初陣二日前。
 遥か甲子園に続く空が茜色に染まっていた。


<続>

今回は応援歌『天下の中京』を掲載させていただきます。

“天下の中京”
思え天下に中京の
名を響かせし先人の
その華やかな歴史をば
継がんと健児血涙の
錬磨の力悔ゆるなく
示すは今ぞ友よ起て
中京、中京、天下の中京




2008/06/09

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾四

2008/05/20

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾参

2008/04/28

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾弐

2008/03/14

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾壱

2008/02/29

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾
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