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どれくらい眠っただろうか、、、微かな記憶では昨日の夜中に眠ったはずなのに、起きても外は暗いままだった。不思議な気持ちで時計を覗くと夜の10時過ぎ。眠りに就いたのが10時すぎだったから、かれこれ丸一日は寝ていたことになる。
ふと頭に手をやると巻かれていた包帯が取れてマフラーのようになっていた。壮絶な記憶に背中を持ち上げるように体を起こすと全身に激痛が走りベッドから転げ落ちるように床に落ちた。
その痛みから思わず出た大声にお袋が部屋に飛び込んできた。
床に転がった俺を見て「やっと起きたんかいな、お腹減ったやろ、ご飯食べ」
俺はてっきり喧嘩の事で小言を言われると思っていたから少し気が抜けた。
頭を押さえ足を引きずりながらリビングへ行くと笑いながら俺を待っていた親父がいた。
「どや、ようやられたなぁ。まあそんな事もあるわいや」
バレてた。
「そやけど先輩のアオキって言う奴はえらいやっちゃ。きちんと頭下げて帰ったで、自分の責任や言うてな」
しかもすべて見抜いてる。
「さあ飯喰えや」
この男には一生かかっても勝てないだろう。
翌朝、全身の痛みを引きずりながら学校へ向かった。通学途中で会う連中は俺と目が合うと「どうやった?」「勝ったんか?」と声を掛けてくる。具体的な勝敗の行方が判らなかった俺は「えらい喧嘩やった」と答えるので精一杯だった。
教室に入ると俺の席にヒトミが座っていた。
「あんた大丈夫?」。半泣きの顔が可愛かった。「よう殴られたて」無言で手を握るヒトミの瞳から止め処なく涙が、、、担任の先生は何も言わず授業に入った。
放課後になるとユウジとカズがやって来た。カズはサビオをデコと目尻に貼り笑ってた。ユウジは喧嘩に行けなかった事を謝っていたがそんなことはどうでも良かった。またこうして笑えるのだから、、、互いの傷を笑い合っているとハルがこれまた足を引きずりながら登場。しかし、やつの顔には笑顔が無かった、、、。
「どしたんハルよ、元気ねえなぁ」。中々口を開かないハルを問い詰めると、思いもよらぬ言葉が!?どうやら先輩のタキグチが俺とケイゾウに殴られた事を逆恨みして全く違う話をでっちあげ後輩や仲間に吹きまくっていると言う。内容は俺やケイゾウ達が喧嘩に参加せず、後で先輩達に見つかってヤキを入れられたという作り話。どこまでも腐った奴だ。
「気にせんでええやろ、本当の事はすぐ判るで」。そう言って一笑したがこれが後に遺恨を残す事になってしまったのだ。狭い地域のことだ、それも超地元意識の強い土地柄、言った者勝ちみたいな風習がはびこり、後から吠えても受け入れられない土地体質とタキグチの話術と金に流され、真実は数年迷宮に入る事に、、、。
こんなセコイ奴等と連るむのは御免だ。
俺はこの時、地元を捨てたかもしれない。
それから卒業までの日々は学校へ行く事もあまりせず、ほとんど家でボーっとしていた。
そんな俺を両親は何も言わずそっとしておいてくれた。
卒業式があと2日と迫った日、ケイゾウが家に来た。いつもの笑い顔ではなく慌てた顔で息を切らし手からは血を流していた。
「どしたんやケイゾウ、怪我しとるがや」
部屋に入り事の成り行きを聞くと、公園でタムロしていたヨウスケと後輩達に声を掛けたところ裏切り者呼ばわりされ、ブチ切れてどつき回して来たのだという。そしてその中の一人に一生残る大怪我を負わせ、それが原因でケイゾウは卒業式に出ることなく地元を離れることになった。そして同時にケイゾウはワルの世界からも身を引いていった。
やりきれない気持ちのまま迎えた卒業式には10台程のパトカー、職員室には私服の刑事、体育館の周りにも警官が陣取り、異様な光景となった。目出たい儀式のはずが精神状態や周囲の状況で最悪の一日に。式が終わり学校を出る俺とユウジ、ハルやカズのもとに一人の刑事が近づいて来て、ケイゾウの居場所や先日の喧嘩について問いただしてきた。
「解らない」「知らない」を繰り返す俺たちに手を焼く刑事。押し問答の末やっと開放された俺達は腹を空かせ、いつもの『かおり』に向かった。
お好み焼きや玉煎をほおばり、かおりさんと喧嘩の事や今までの楽しかった事をべらべら喋りまくった。そして俺たちは『かおり』からも卒業した。
高校入学までの春休みに俺は大阪の友達を訪ねた。数年ぶりに大阪弁で喋りガキの頃よく行った駄菓子屋でたこ焼きを喰い、名古屋での嫌な想い出を払拭しようと必死だった。
とにかく忘れたかった。なんとかして忘れたかったのだ。
高校入学前のある日、俺とハルがアオさんやモリに呼ばれた。今置かれている俺たちの状況や今後の事をやさしく話してくれた。そこにタキグチも遅れてやって来た。アオさんはタキグチを一喝したが、それ以上こらしめることはせず、俺たちとタキグチに「仲良くやれ」とやや強い口調で言った。
渋々握手する俺とタキグチ。それを見届けるとアオさんが口を開いた。それはとんでもない言葉だった。
「こないだの喧嘩の代償がどえらい大きいんや。車、事務所、怪我人・・・あれだけの責任を数えたら幾らになるかわからんぐらいや。それでな、それで…俺が奴等の下で下働きするということで許してもらった。だから俺は此処を出て行く。後はモリに任せるでな。とにかくお前等に手打ちしてもらいたかったんや。それが俺からの最後の頼みや」
突然の話に愕然としたが、俺たちをかばって責任をとるアオさんに涙が止まらなかった。それから間もなくアオさんは地元を離れ、俺たちが牙を剥いて喧嘩した十○夜隊の上部組織<愛国青○会>の一員になり、あの喧嘩の代償として体を張り続ける日を送った。
俺はといえば、なんともやるせない気持ちのまま高校に入学したものの、所詮15歳のガキのこと、新しい仲間が出来れば辛い想い出などだんだんと頭から離れていき、新鮮で楽しい毎日を始めていた。ただ地元については無関心を通し、集まりや走りにも参加はしなかったた。時折ユウジやハル、カズ達と遊ぶものの心は完全に地元から離れていった。
高校生活は馬鹿な友達と馬鹿をやり、応援団でしごかれる毎日を有意義に過ごした。そんな毎日が嫌な想い出を忘れさせたのだが、2年夏の甲子園から帰った暑い夜、一本の電話が入り悲しい過去に引き戻された。
「もしもしエイイチか?アオさんがな・・アオさんがな・・・・・」
声の主はユウジだった。
「アオさんが、アオさんが」
とてつもなく嫌な予感が走る。「アオさんがどしたんや!ユウジ!」
「……」
言葉にならないユウジからいつしか兄のノリ君が受話器を奪い取っていた。
「よう聞けよチビッ。アオキが死んだんや!アオキが死んだんや〜!」
「えっ? アオさんが? ノリ君、どういう、事?」
長い沈黙の後、ノリ君はアオさんが車の事故で死んだと話してくれた。葬儀は身内だけですでに済ましたということも一緒に。
俺は受話器を落とした。
「アオさん」「アオさん」「アオさん」……。何度も何度もアオさんの名前を腹の底から叫び号泣した。手も口も足も、体中全部が震えていつまでも止らなかった。
それから数日が過ぎ、ニ学期が始まって間もなくモリ先輩から集合命令が出た。場所は地元の『すかいらーく』。あの喧嘩以来ほとんど顔を出さなかった集会に顔を出すと当時の後輩達が一端のやんちゃに成長していた。
「コンチワッス」。
あの頃俺やケイゾウを裏切り者扱いしていた連中がどういうワケか頭を下げ挨拶してくる。訳が解らないままとりあえず空いた席に腰を下ろした。
しばらくするとユウジやハルもやって来た。辺りを見るとあの喧嘩に参加したマサシや他の先輩連中や他校の不良達も顔を揃えた。店内にはさらに続々と猛者が集まり、その数は店のキャパをはるかに超え、総勢百数十人を数えた。
不思議な事にその中にはどんなに捜してもあのタキグチの姿はなかった。
百人ものワルを前に、モリ先輩の口が開かれた。
アオさんの本当の死因やこれまでの話、アオさんの意志ともとれる言葉が、次々に、そして静かに発せられていく。店のあちこちですすり泣きが響く。
次いでモリの腹心のヨシモトから『送り火走行』をやるという案が出された。アオさんが風を切り、あの頃突っ走ったロードをもういちどだけみんなで走ろうというのだ。もちろん皆は賛同し、友好チームや他のチームにも声を掛け盛大にアオさんを送ることで意見がまとまった。
集会が終わり、店内が帰る者でごったがえす中、俺はヨシモトにタキグチの事を尋ねた。するとヨシモトは地元から奴が逃げたことを教えてくれた。後輩への執拗な集金(上納金)や先輩達へのウソやでまかせが仇となり、どうにも居られなくなったという話だった。
俺の居ない一年半余りで状況はかなり変化していたのだ。そんな話をしていると数人の後輩達がやってきて俺に頭を下げた。
「先輩、すいませんでした。タキグチ君の話を鵜呑みにして先輩やケイゾウ君の事を悪く言ったりして。本当にすいませんでした」
何度も何度も頭を下げて謝り続ける後輩達に俺は言葉を掛けることはしなかった。いや、声を掛ける気がしなかったというのが本音だ。そんなことはもうどうだっていい。ただ真実が判って良かったなと、客観的な感想を持ったぐらいで、これで潔白になったとか、スッキりしたとか、そんな特別な思いなんてなにもなかった。
一週間後。あの喧嘩の時に集合したボーリング場跡地に無数の単車と4つ輪が集合した。その数は200を超えていただろう。
驚いた事に、その大群の中にはあの(青○会や十○夜隊)文字が入った車や街宣車もいるではないか!しかもその街宣車の上にモリとヨシモトが立ち拡声器で叫んでいる。
「今日は暴走じゃない、アオキ先輩を送るために、あの凄い先輩を忘れないために走るんだ!ルートは23号を走り鍋田埠頭へ行き海に送り火を流す。わかったなっ!」
「おおお〜!!!」
合図と共に国道へ流れる200台のマシン。ルート23とゼロヨンの聖地・鍋田はアオさんがもっとも大好きなルートだった。
唸るようなエンジン音を止め、埠頭には静寂が訪れた。暗く静かな海に200人がそっと送り火を流した。俺は水面に揺れる火とアオさんの顔を重ねながらただただ涙を流し、そして無理矢理アオさんに別れを告げた。他の200人の大半も俺と同じことをしていた。
その夜のルート23には、アオさんの冥福を祈るようにホタル(テールランプ)が延々と灯り続けた・・・・。
アオさん、今もどこかで俺を見守ってくれてますか?俺はアオさんが言っていた事を守れてますか?生きていれば45歳ですね。きっと何度も一緒に酒を呑んでるでしょうね。俺は今でも貴方の背中の大きさを忘れません。いつまでも貴方の背中が見えるからつまらん人生は歩きません。ボチボチでいいからしっかり生きて行こうと思います。アオさんの言っていた「武漢道」を貫くためにも、俺らしく、っていうかそれしかできないんで、絶対俺らしく生きて行きます。じゃ、アオさん、また。
最高の武漢、アオキに捧ぐ
実録!武漢道・完結
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