団長への道 ~特別編~

 今回は、先に行われた〔第91回全国高校野球選手権大会〕に於いて7度目の“全国制覇”を達成した、母校中京大学付属中京高校の栄誉を讃え、

“団長への道・飛翔~遥かなるアルプス”

としてお送りします。




「サードライナー!!、壮絶な試合にピリオドがうたれました~!!」

絶叫するアナウンサーの声。この瞬間母校の43年振り7度目の優勝が決まった!


 平成21年8月8日、全国4041校の頂点を目指し第91回全国高校野球選手権大会が開幕した。母校は愛知大会6試合で64得点という超破壊力打線を引っ提げ挑む大会。注目は花巻東の菊池、その怪物を倒すべく抜きん出た優勝候補がいない戦国大会。
 8月12日、雨で2日順延になったが母校の甲子園が始まった。俺達は今年初めて揃いのTシャツを作り甲子園に乗り込んだ。春の選抜時にはまだ完成していなかった新しい甲子園が全容を現し俺達を迎えた。ベージュ色の煉瓦タイルの外装は大リーグのオールドスタイルの球場を思わせる。蔦が絡まった壁が懐かしい。そんな甲子園が用意したのは一回戦屈指の好カード対龍谷大平安戦。母校同様に大学付属となり校名が変わったが、オールドファンには堪らない、中京対平安戦である。試合は5-1で母校が勝利、甲子園に5年振りの校歌が流れた。俺はというと愛知大会初戦同様、高速の事故渋滞で試合に遅刻。得点シーンは車中で観戦という失態だった。

 8月17日、2回戦対関西学院戦。
 地元校であり70年振りの甲子園勝利に湧く相手アルプスいや甲子園球場。3塁アルプス以外は関西学院ファンという超アウェー状態。試合もシーソーゲーム。9回表同点に追いつかれた。俄然盛り上がる甲子園。9回裏先頭打者2番國友が三振に倒れた。次打者は強打者河合。県大会からのバッティングは健在。両アルプスの応援がヒートアップする。そんな中、河合が初球を叩いた!「カキーン」乾いた金属音と共に白球が左中間に飛んだ。低く早い弾道の白球が左中間フェンスに直撃しグランドに戻った!?「走れ~、走れ~!」アルプスから絶叫の声が…。その時、2塁塁審が右手をぐるぐるとちぎれんばかりに回していた!「ホームランか?!ホームランやっ!!」狂乱する3塁アルプス、抱き合い叫ぶ仲間達。河合の打球が早過ぎてスタンドに入りグランドに跳ね返ったのが見えなかったのだ!こんな劇的な勝利は未だかつて経験した事がなかった。自然と溢れる涙を抑え予選から全試合観戦してきた親友のシンカイとがっちり握手した。2度目の校歌は感激ひとしおであった。

 8月20日、3回戦対長野日大戦。
 この日、平日にも関わらず母校のアルプスは満員。俺の携帯も平日なのに鳴りっぱなし。「ニシやん、頼むから勝たせてくれ」と養老タケシが言えば、「栄ちゃん頼む!」と親友オオサワが言う。メールも同様のものが多方面から入った。それもそのはず、初戦が雨天で2日も順延になったためにお盆に観戦を予定していた者達が未だ甲子園に来れていない。せっかく作ったTシャツも着れないでいる。Tシャツ作製提案者のナオマサもしかりだ。俺はそんな奴等の思いを胸にアルプスに陣取る。母校はその日も先制。5点先制で少し気が緩んだか5回に追いつかれる。春の選抜のままのチームならどうなっていたか分からないが、報徳学園に敗れてから精神的に進歩したチームはそれを跳ね返しその後12点を奪い、15-5の圧勝、準々決勝に駒を進めた。

 8月22日、準々決勝対都城商戦。
 名神高速も4日目の走行になると甲子園が近く感じて来たと同時に深紅の旗も近づく気がした。そんな名神高速を走る朝一本の電話が…。「ああ、僕だけど今日は僕の母校とですね、よろしくお願いします。でもね問題があって…もし都城が勝ったら大変なんよ。勝てば6000千万いるのよ、だけど現在3000万しか集まってないの。寄附が集まらない…。まあ多分中京が勝つから、お互い頑張って応援しましょう!」電話の主は後輩の九州男からだった。公立校の切なる悩みが漏れてきた。母校の資金は豊富だろう。甲子園が2ヶ月続いたとて大丈夫。そんな小さな物語がある中甲子園に到着。
 ここまで勝ち進むとチケットの入手が困難になる。しかし俺達には毎試合チケットを苦労して入手してくれるジンノがいた。試合前日に母校へ出向いて並び、人数分を買って来てくれていた。チケットはどうにかなる、しかしどうにもならないのが座席である。俺はこの日、親友のフトシとアルプス入場門最前列に並んだ。試合開始2時間30分前の事。3塁側アルプス入場門に続々と人が押し寄せて来る。土曜日とあって同級生や先輩後輩も多い。俺とフトシの少し後ろに野球部OB達の姿も見えた。前の試合が終わり入場が始まった。狭い門に数千人が押し寄せる。小さい子供達は息も絶え絶えだ。俺とフトシ、合流したセイジは座席確保にダッシュした。前試合の応援団が退場するのを待ち空いた席にカバンやタオル、ペットボトルにライター、タバコと貴重品以外の物を置き席を取った。50~60人分は確保しただろうか…。そこへ仲間達や先輩後輩が次から次へとやって来る。そんなみんなはあのTシャツを来て嬉しそうだった。試合が始まった。またも先制する中京ペース、途中1点差に詰め寄られるもきっちり駄目押しして、6-2で勝利!4度目の校歌が流れた。あと二つ。26年前の夏、俺達もこの場所までは来たのだ。しかしあと一歩で広商に決勝への道を絶たれた。次はあの花巻東。エース菊池の調子が悪いと聞いたが選抜準優勝校。油断は出来ない。

 8月23日、準決勝対花巻東戦。
 甲子園へ向かう名神高速には花巻東応援団のバスが沢山走っていた。「何時間かかるんや?大変やな…」この日も3塁側アルプス入場門のほぼ最前列に並んだ。フトシにセイジ、あのアナコンダ先輩にゴリラ先輩も…。第一試合は県岐商対日本文理。心情的には県岐商との決勝を望んだが…。帝京、PLと優勝経験のある強豪校を倒し力尽きたのか、惜しくも惜敗し甲子園を去った。決勝の相手は決まった!日本文理だ。相手はどこでも同じ、その前に目前の花巻東に勝たなければならない。
 アルプスの門が開いた!前日にも増して観客が溢れ我先にと階段を駆け上がる。3塁側アルプスにはまだ日本文理の応援団や観客が多数いた。勝った余韻と甲子園を楽しむかのようにのんびりしている。俺達はいつも陣取る場所へ向かった。そこには日本文理と書かれた鉢巻きや帽子を被ったOBやファンがのんびり座り込みバックスクリーンやグランドを眺めてる。甲子園のアルプスのルールを知らんようだ。俺達揃いのTシャツを着た軍団がその団体を囲んだ。ぐるりと囲まれた日本文理の団体はまるで四面楚歌状態に顔色を無くす。「中京さんが来た、中京さんが来た。早く席を空けないと」還暦ぐらいの男性があわてふためき席を立つ。それに合わせ周りの連中も一目散に退場して行った。新潟県の人達ですら中京を知っている。

 余談だが一回戦観戦中、何故か次の試合の横浜ナンチャラ高校の若いOB達がアルプスに多数いた。喫煙ブースへ煙草を吸いに行くとあの阪神タイガースもどきのユニホームを着た若造達が地べたに座りモニターを怠そうに眺めていた。その中の一人が「中京って何処よ?強いの?知ってっか?」と仲間に言った。余裕でヤニかましながら(煙草吸いながら)横にいた仲間はニヤニヤしながら「知らね~し!聞いた時ね~し!」と鼻から煙を出しながら…。そんな有り難いお言葉を聞き逃すはずがない!俺と一緒に煙草を吸っていた野球部OBヨゴウの顔が引き攣った!「おう、なんか言っとんな~ニシやん!」わざと若造達に聞こえるようにヨゴウが言った。「おうよ、知らんらしいわ中京を。舶来の人きゃ?」ブース内には中京のオールドファンやOB、後輩達が多数いた。俺の一言に気付いた人達が阪神もどき達を睨んだ。若造達はただ事ではない雰囲気と殺気にフリーズし無言の恫喝はそいつ達を恐怖のどん底へ招待した。横浜ナンチャラ高校よ、甲子園初出場おめでとさん、激戦区神奈川を勝ち抜いた事は大儀であった。だがな、聖地甲子園には暗黙のルールがあるんだよ。分かったか!新参者が吠えたらかんわ…。公の場だが母校を軽視した事と名誉のために言っとくわ!「100年かかっても我が母校の戦歴には勝てんわ!」


 ああ、スッとした。
 話を戻そう。


 ほぼ満員のスタンドが両校の登場を待っていた。うぐいす嬢の先発メンバー発表にどよめくスタンド。菊池の名前がスタメンに無いのだ。よほど調子が悪いのだろう。だがそれも時の運、武運である。決勝に立ちはだかる壁を破る試合が始まった。母校はこの日も先制、不調のエースを引きずり出すのに時間はかからなかった。不調の菊池も懸命に投げたが今の中京の勢いは誰にも止められない!9回表、11-1のスコアを誰が予想したか?あと一人…あと一人で壁を越えられる。そう思うと涙腺が決壊し唇が震えた…。接戦覚悟のこの日、試合前にゴリラとアナコンダと俺はある相談をしていた。「終盤試合がもつれていたら、応援歌や。儂が先陣切るで後はキョーデェーとエイイチで頼むぎゃ!」ゴリラが雄叫びをあげた。
 しかし試合は予想外の展開。最終回にゴリラから出た指示は「まっ、今日はえっか!楽勝だでな、はっはっはっ!明日、明日や!明日はめっちゃくちゃやったるがや!」と…。グランドでは最終打者が倒れ試合が終わった。整列を終え母校の今大会5回目の校歌が流れ出したと同時に俺は悪魔二人の間をすり抜けアルプス席に立った!「おい、エイイチ!お前…」後ろでゴリラが言った。俺は先輩を無視して校歌団長エールを振り始めた。止められても、恫喝されても殴られても俺はエールを止める気が無かった。俺にとっては明日じゃない、26年前ベスト4を勝ち抜いたエールを振れなかった思いがある。決勝じゃない、準決勝で勝ってエールが振りたかったのだ。
 涙が頬を伝う、足が震える。俺が振りたくて振れなかったエールを43歳になった今現実に振っている。校歌が終わった…。感無量の俺は俯いたまま顔があげれない。しかしまだやる事がある…。悟られてはいけない。「やってまったきゃ」ゴリラが笑う、横で優しく頷くアナコンダ。アルプス前に選手達が並んだ、43年振りの決勝進出に笑顔が輝いていた。俺の周りで仲間達がガヤガヤしてる。その内容は明日の決勝は月曜日、仕事で来れないという嘆き節。

 そんな一人オオサワが「えーちゃん、明日来れんで応援歌やってくれ…」と言った。周りもみんな囃し立てる。だが命令無視で校歌エールを振りこれ以上の事をやると流石の悪魔二人も…と思った。しかし校歌エールを振った以上観客に礼と明日決勝を戦う選手達にエールを振らなければ失礼だ。“明日じゃない。俺は今日の為に、今日エールを振る為に卒業以来27年母校を応援して来たんだ。やろう。決勝へ向かう若武者達に”俺は再びアルプス席に立った。アルプス上段を見上げ「中京ファンの皆さん、本日は御声援ありがとうございました。明日の決勝戦も御声援よろしくお願いいたします!」万雷の拍手と仲間からの「よう言った!」の声が…。その拍手と歓声にアルプスの注目が集まった。“さあ、どうする?やるか、止めるか”一瞬の迷いはあったが団長という性が体をグランドに反転させた。「いくどぉ~!中京高等学校の~明日の全国制覇を祈って~。フレー、フレー、ちゅうー・うー・きょーうー、押忍!」「フレフレ中京、フレフレ中京~!」アルプスが一体化した。抱き着いて来る奴、握手して来る奴、肩を叩く奴。俺はもみくちゃにされながら号泣した。若いOBから“ニシオコール”まで起きた。アルプス全体からもらった拍手が今でも耳に残る。帰りの運転中も涙が溢れ鳥肌が立つほどだった。

 翌日。母校は大接戦の末、43年振りに深紅の大優勝旗を手中にした。遂に念願の全国制覇を成し遂げたのだ!決勝ではエールを封印した。今度いつ決勝に勝ち進むか分からない。しかし俺は準決勝での勝ち名乗りを目標に来た。一気に決勝でのエールはおこがましい。正規の応援団として甲子園最後の団長、甲子園10勝の団長の誇りを胸に、今度は決勝で優勝エールを振るまで俺はこの先も母校を応援し生涯団長であり続ける。中京大中京高校、優勝おめでとう!!





“団長への道・飛翔~遥かなるアルプス”<完>



「the head・団長への道」を御覧の皆様へ。
いつも御覧いただきありがとうございます。
平成17年、「名古屋ページ」からお世話になっておりましたが、この度マロンQエストでの連載を卒業する事になりました。
皆様には長年大変お世話になり感謝の言葉しかありません。
マロンQエストは卒業しますが、「団長への道」は私の個人ページにて連載を続けます。
最後に長年私の連載編集に携わっていただいた、マロンブランドスタッフの皆様、そして私にこんな大きなステージを与え、公私共に御指導、御鞭撻、叱咤激励をいただきました、栗山圭介氏に最大級の感謝の言葉を、押忍、ありがとうございました!
皆様、またいつかどこかで…ニシ。


~ INFORMATION ~
今後の「団長への道」は、http://www.240.no-blog.jp./にて連載いたします。
続編第1弾は「2009 甲子園、それぞれの決勝戦」で連載スタートです!

元中京高等学校應援團
第59代 團長 西尾栄一



『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十六

〜一回生の章〜 弐十六


 満員に近い店内で棒立ちする俺達4人を店員は空席待ちの若いヤンキーとしか見ていなかったであろう。まさかこの4人がちびっ子ギャングになろうとは…。

 しかしギャングになるには丸腰で、顔を隠すわけでも変装するでもなし。揚句、もろ中京の学ラン。あるのは勢いだけの青二才。長居は無用、一気呵成に仕事をするのがギャングと映画を見て分かっている。店員はまだ俺達の大作戦に気付いていない。俺達は空席待ちを装い一旦外に出て作戦会議を開いた。

「セイゴ、お前サッカーやっとってバランスええでくそ汁係な。マコト、お前ちょっと鈍臭いで正当に牛飯持てよ。イナモト、お前箸入れと紅生姜と醤油と七味の備品関係な。俺は漬物とサラダ持ってケツ持ちやるわ。店員がぼって(※ぼって=追って)来たら蹴散らすで…。ほんで俺はマイショップ寄って卵1P買ってくで。店出たらイナモトはダッシュやぞ!セイゴとマコトは堂々とゆっくり急いで歩け。なんせイナモトのブツは強奪品やでな!」
 一気にまくし立てた俺にセイゴが冷静に言った。
「ニシやん湯呑みと灰皿は?」
 ハッ!湯呑みと灰皿があったか…。
「湯呑みは牛飯待っとる間に茶が出るやろ、茶飲んでポケットインや、灰皿はカウンターの裏に積んだるで隙みてちゃばったれ(※ちゃばったれ=パクったれ)最悪灰皿は無しや!」
 4人足しても1人分の脳ミソには程遠い俺達にしては素晴らしい作戦会議が終わった。

 会議の途中数人の客が帰ったようで店内にいくつかの空席が出来た。
「行くかエーチャン!」イナモトが鼻息荒く言った。無理も無い、イナモトは備品強奪係で競馬で言えば先行逃げ切り馬。
「いや少し待とう。満員で店員がバタついとる時がええで。それとイナモト、備品は大人しそうなセイガクかリーマンの席の備品にしろよ。正義君みたいな奴がおったら厄介だでな」
たかが牛丼、いや牛飯買うのに何でこんなドキドキヒヤヒヤするんや。半ば馬鹿馬鹿しくなって来た時数人の大学生が入った、それも弱っちそうな奴等が…。
「今や!セイゴ、お前と俺の演技力が大事やでな、ヘタ打つなよ!」

 この強奪最大の難題は丼と椀、備品を持ち帰る事である。作戦は俺とマコトが今正に喰わんとした瞬間に、セイゴが店に乱入し職員室呼出しの急を告げ牛飯やくそ汁を容器に移し変える時間を無くし、その混乱のさなかイナモトが備品をちゃばるという学園ドラマ張りの作戦であった。

「よし、行くか!」
 俺とマコト、イナモトが店内へ。セイゴは尾行するデカのように外から見張った。運良く厨房から一番離れた席が二つ空いていた。マコトに目配せし席に着いた。イナモトは空席待ちを装い備品と客をチェックしてる。頭の中で映画撮影のカチンコが鳴った!
「アクション!」

 店員が注文をとりに来た。
「ご注文どうぞ」
 30くらいの運動神経マイナス君みたいな奴だった。俺はニヤリとして「大盛り二つとみそ汁二つ」と注文。店員は厨房に向かいオーダーを叫んだ「大盛り二ちょう、みそ汁二杯」その間に熱い茶を飲み湯呑みをポケットへ。次にケースを開け漬物とサラダ各2個をテーブルに乗せた。ここまでは順調だ。イナモトは強奪する備品と客の因果関係を見分けている。1分も経たないうちに牛飯とくそ汁が運ばれた。

 ここで一発演技を入れた。
「なあ、俺達には茶がねーのきゃ?」先程の店員は疑う事なく「すみません」と新しい茶を出した。“ハン、馬鹿め。これで湯呑みは楽勝、後はセイゴとイナモトや”イナモトは獲物を視界に捕らえていた。さあセイゴや。牛飯とくそ汁を前に演技で割り箸を割り、軽く七味を振り今喰おうとした時!!ガッシャーン!硝子戸を物凄い勢いで開けた音が…。
「おいお前等、何暢気に飯喰っとんだて!先公が直ぐ職員室来いって発狂しとるて。何やらかしたんだ!?」セイゴ迫真の演技だった。そしてやらかしたんじゃなく、今からやらかすんだよね!

「なんやて?バレてまったか?いかんがやどつかれてまうな!」
 俺も危機迫る演技。
「はよ行かな殺されるぞ!」俺とマコトは立ち上がり
「おい、持ってくで袋くれ!」と店員に言った。店員はマニュアル通り「じゃあ移し変えますから」と言った。
「ボケか!こっちは先公から的かけられとんやぞ、このまま持ってくでラップしろよ!」
 怒鳴る俺に店長が
「困ります、持ち出しは困ります」と困惑顔。それでも怯まない俺達に「わかりました。明日にでも返して下さい、それならいいです」と白旗を振った。店長自ら牛飯とくそ汁、漬物にラップをした。

 俺達の強奪は苦もなく正当に終わった。問題はイナモトだ。イナモトが居た方を見ると奴の姿が無い。振り向くと奴は既に店外にいた。背中を丸くしながら…。後は会計だ。牛飯、くそ汁、漬物にサラダ各二人前分を払い威風堂々と店を出た。

 しかしここからが大変。リミット15分をクリアしなければ、ゴリラとアナコンダが暴れる。その前に立ちはだかる学校までの急な坂道をどれだけで走り切れるか!

 セイゴはくそ汁がこぼれないよう慎重に競歩。マコトは両手に牛飯をぶら下げ駆け足。イナモトは左手に紅生姜、右手に箸入れ、ポケットに醤油を入れスーパーダッシュ!俺は漬物とサラダをぶら下げマイショップへダッシュ!
「卵買ってくで先行ってくれよ、落とすなよ!割るなよ!こけるなよ!それと喰うなよ!」
「オオーッ!」皆作戦とちょっとしたスリルの成功に満足顔だった。俺もマイショップで卵を買い心臓破りの坂へ。頂上付近に奴らの背中を確認しダッシュした坂道。

 部室に戻ると欠食児童みたいなゴリラとアナコンダが待っていた。牛飯を見たゴリラは胸を叩き雄叫びをあげ、生卵をほお擦りするアナコンダは今にも丸呑みしそうな恍惚の表情だった。少しタイムオーバーしたものの満腹感に浸っている二人からお叱りはなかった。そして…
「よーし、腹も膨れたできゃぁるか!なあ、キョーデェー」
「そうだなキョーデェー、おはようスパンク見なかんでなぁ」
“はぁ?帰る?おはようスパンク?帰るなら途中の店で喰って帰れよ。何がおはようスパンクや頭パンクのくせに…。”

 短縮授業初日、授業より命が短縮された暑い日だった。


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十伍

〜一回生の章〜 弐十伍


 突然の統制交代から数日が経ったが、変わったのは横隊で並ぶ順番だけ。統制とは名ばかりで連帯責任の代表みたいなもんや。

 タイチの背中の傷は夏場という時期とあまりにも無数にあるために治りが遅い。練習で汗をかくとまた痛むのだ。
 ある日練習が終わると悪魔二人は、それはそれは残念そうに話し始めた。
「え~諸君、明日からの期末テスト期間だが明日と明後日は部活は休みだ。休みだからといって遊びほうけないでしっかり予習して赤点を取らないように。そしてテスト明けからはバンバン練習や!家で練習しとくように。」ヨシダは昨日家で復唱したような台詞を俺達に投げた。オオツカは腕組みしギロリと睨みを効かせている。
「ほんなら今日は解散」
 珍しくあっさり帰る二人、多分俺達より勉強しなかんのはあの二人やろな。お世辞でもお利口さんじゃなさそうやし…。

 ここで!中京式テストの紹介。
 普通の学校ならペーパーテストは100点満点だが我が中京は80点満点!残りの20点は《平常点》というとても有り難いハンディがあった。この20点は減点方式で、忘れ物や授業態度が悪いと減点されるキンダーガーデン並みのものであった。従って平常点が満点あればペーパーテストで15点取れば赤点は免れる。揚句、答が解らなくても解答欄になんらかそれに近い事が書いてあれば三角(1点)が貰える先生もいた…。アホなはずや。あ、現在は違いますよ。今ではオール4以上無いと入学出来ないようです、名誉のために。

 話しを戻そう。俺は早々に帰宅するのが馬鹿馬鹿しくなりセイゴの地元(御器所・ゴキソ)へ遊びに行く事にした。比較的学校に近い御器所からセイゴはケッタで通っていた。そのケッタに二ケツして鼻唄交じりにタンデム。着いた先はセイゴの家でなく先輩の家。そこにはセイゴの同級生や後輩達がいた。
 いわばたまり場。6畳一間に7~8人、煙草の煙で視界は悪くジュースの缶や菓子袋が散乱し衛生環境最悪の場所。だが当時はこういう場所が憩いの広場、その後しょっちゅう通う事に。尾崎じゃないが盗んだバイクを乗り回したり、近くの高校の女子のテニスコートを覗きに行ったり。そんなはちゃめちゃな連中の中に一人無口でリーゼントを決めた男がいた。セイゴと同じ中学でライバル校の享栄に通うそいつはマルヤマ。後の享栄高校応援団長になる男であった。
 二年後の夏に甲子園を懸けた一戦を共に団長として戦うなど、本人達はもとより周りのヤンキー達も想像しなかっただろう。
 それにしても運命の出会いであった事は間違いない。そして今でもマルヤマとの付き合いは続いている。リーゼントが無理な頭になっちまったが…。結果、休部の3日間は俺は毎日そこにいた。

 そして休部が解禁。3日振りに見たヨシダは少ない脳をフルに使ったのか頬がコケてげっそりし、オオツカは色白が青白になり病人みたいになっていた。“この人達は本当漫画みたいやな”そんな二人は体力を取り戻すべく食に走った。

「おい一年、誰が足早や~んだ?イトウ(白豚)は却下でな」
 誰や?誰や?と話していると、
「統制!お前は行くのは決まり。あとはセイゴ、マコト、イナモトおみゃぁさんらが行け!」結局勝手に人選された。
「よ~し、決まったら牛野家行って来い!」
“はぁ?牛野家?吉野家じゃなく?学食じゃねぇのかよ。それに4人てなんや?たかだか牛丼二つで…”疑問だらけの俺達にまたもや無理難題が!?
「キョーデェ~何食べやぁす?わし大盛で牛野家フルセットだぎゃ!」
 鼻息荒くヨシダが言うとオオツカも
「わしもそれいっとくわ」と…。
“牛野家フルセットって何や?それに吉野家やろ、店の名前すら覚えれんのか?”意味が分からず
「押忍、牛野家フルセットって何でしょうか?」とヨシダに尋ねると、
「ええ質問だぎゃ、さすが統制!あのよー牛野家フルセットちゅうもんわな、牛飯(うしめし)大盛に、くそ汁(味噌汁)に漬物とサラダと卵のフルオーダーだぎゃ!ほんでこっからが重要だでよう聞いとりゃぁせよ。ちゃんと丼と碗で牛飯とくそ汁持って来い。持ち帰り容器は臭っさいでよ。ほんでだな、紅生姜もテーブルにあるやつまるごと、七味も容器ごと、箸も爪楊枝もケースごと、ついでに湯呑みも2個!要はこの部室が牛野家になるっちゅう事や。店員が文句言ったら中京の応援団やと言え。あっこの店長はよう知っとるで。ああ、ほんで金はおみゃぁさんら持ちやでな!へっへっへっ」

 ヨシダは得意満面で笑い、喰い物を想像しただけでコケた頬がふっくらしてきた様に見えた。“何?それは万引き、いや強盗やないか!それをイケシャァシャァとよう言うなあ”困惑顔の俺達に日の丸扇子を振りかざし
「15分で帰って来い、行け~!」
 空腹ゴリラが叫んだ。俺達選ばれた4人は一礼し部室を飛び出そうとした時、今度は空腹アナコンダが叫んだ。
「待て~、待ちやがれ~!」
 その甲高い声にフリーズする。恐る恐る振り向くと獲物を前にトグロを巻き威嚇する大蛇がいた。
「お前達、この時期の牛野家のシステム知っとんきゃ?夏場はな、夏場はな、卵の持ち帰りが出来んのじゃ!卵は坂道の下にあるマイショップでワンパック買って来い!栄養のため卵飲むんじゃ!それとサトル(ヨシダ)は言い忘れとるが牛野家の醤油も持って来るんやぞ!それこそが牛野家スペッシャル・ワンダホー・フルセット、サトちゃんノブちゃんハッピーセットじゃ!分かったら行きさらせや~!」
“アホや銀河系レベルのアホや、情けない…。卵飲む?ほんまもんの蛇やないけ”だがNOとは言えない。
「押忍」と挨拶し部室を飛び出した。

 ダッシュの傍ら仲間の財布事情を確認。なんとか金は都合がつく。それより物品の略奪はどうする?そんな悩みを抱えつつ吉野家、いや奴らの言う牛野家に到着。店内は近所の大学生やリーマンで一杯。
さあこの状態でどうやってミッションを成功させる?口下手なマコトにイケイケのセイゴとイナモト…やっぱ俺か。
 大会目前の超暑い午後、それより熱い牛野家フルセット略奪戦の幕が切って落とされた!!


(応援団と何も関係あらへん、漫画バレーボーイズみたいになってきたわ。・・・筆者談)

<続>



左から筆者、中セイゴ、右タイチ。昨年末の忘年会より。



『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十四

〜一回生の章〜 弐十四

 部室前に並ぶ俺達の耳に入って来たのはオオツカの怒声と竹刀を土間に叩きつける乾いた音。時折タイチやエスパーの「押忍」と言う力無い返事が…。目の前のグランドの網にはカビが入った団旗が無情に靡いていた。

「おみゃぁら、団旗を何だと思っとるんだぁ!団の顔、団の命やぞ~!どたわけが~!!」
 オオツカが万を持してキレた。と同時に竹刀で制裁を加え始めた。
「バシッ、バシッ」
 竹刀で体を打つ音とブロック塀にぶつかる音。
「うぁ~、ああ~、押忍すいませんでした~」
 見事なまでのSMショーである。
 タイチ達の悲痛の声が鉄扉の隙間から聞こえる。20分、30分休む間もなくショウ、もといヤキが続く。俺達は先公の監視と、いつ中に呼ばれるかという緊張と恐怖で震えていた。

「ガラガラ」鉄扉が開いた。中から竹刀を抱えたムラマツとナカシマが出て来た。
「終わったか…」
 ホッとしたのも束の間、息を切らしたオオツカが叫ぶ。
「おいナカシマ、ありったけの竹刀持って来い!足りにゃ練習で使っとる竹刀も取り上げて来い!ムカイ(剣道部主将)がほざいたらついでに呼んで来い!行け~」
 オオツカの目は血走り額には無数の血管が浮いていた。そしてナカシマとムラマツが抱える竹刀を見るとその全てがバキバキに折れていた!それを見た俺達は顔面蒼白、元々色白で白豚イトウなんかは青豚という予想外の珍獣になっていた。

 恐る恐る振り向き部室を覗くとカッター姿のタイチ、エスパー、スズキがふらふらになりながら立っていた。そして皆の背中にはうっすらと血が滲んでいた。しばらくしてナカシマとムラマツが数本の竹刀を持ち帰って来た。その後ろには剣道部主将ムカイの姿が…。そのムカイが、
「おい、サトル(ヨシダ)何をやっとるんだ?全部折れてまっとるし打ち込み中の奴の竹刀も持ってってまうとは。これは問題にさしてもらうぞ!」
 語気をあらげるムカイに、
「まあまあ、そう言やあすなて。コウスケ(剣道部顧問)にはパンダが来てかじってまったって言っとけ」
と吉本新喜劇でも言わないような駄ジャレを真顔で言うヨシダ。
“パンダが来るわけねーし、パンダは竹喰うけど竹刀じゃなく笹竹だし…。この人の脳みそはビッグバンしとるわ”剣道部主将として乗り込んで来たムカイだったが尋常じゃないオオツカの姿と餌食になっている奴等を見て、
「あんま無茶せんといてくれよ、ちょっとやり過ぎやろ…」
 と退散した。再び鉄扉が閉められ制裁が始まった。竹刀の打撃音とうめき声が止んだのは陽が傾きかけたころだった。外で立つ俺達を中に入るよう手招きするヨシダ。オオツカの顔は獲物を丸呑みして腹一杯のアナコンダみたいに満足気だった。

「ええきゃ、おみゃぁんたー。団の物は全て宝物のように扱え!ほんでなぁ今回の事はお前等一年の連帯責任じゃ、頭丸めて来い。それとイケダ、一年統制のお前がだりー(だるい、やる気ない)でこうなるんだて。」
“統制が悪い?あんたがアイウエオ順という一番ポピュラーな決め方で決めといてよう言うわ、あほらしい…次はじゃんけんかアミダか?”とあんぐりしていると、
「エイイチ、おみゃぁさんがやれ。ここしばらく見とったらおみゃぁさんが一番《心技体》が揃っとるみたゃぁだでよ。なぁ、キョーデェー」
 話しを振られたオオツカは未だ興奮覚めやらぬ顔で相槌を打った。“はあ?俺?なんで?それに心技体って何!いくらあんたが太ってるからって横綱審議委員会みたいな事言うなよ…”。突然の、人の意見も入れ札も無しに決められた事態に戸惑う俺。そんな重要な人事も30秒程で片付け、ゴリラとアナコンダは二年生を従えさっさと帰って行った。

 部室に残った一年はタイチやエスパーの背中に付いた無数のミミズ張れの跡を見て無言になってしまった。また脱落者が出そうな雰囲気に「なんかわからんけど統制になってまったみたいや。何をしてええかわからんけど後二ヶ月もしたらアイツラ引退や。それまで頑張ろうや」精一杯の就任挨拶をやった。

 干してあった団旗を片付け帰路に就いた駅までの坂道。タイチやエスパーに肩を貸すイケダやイナモトを後ろから見ていると胸が熱くなってきた。そんな映画のワンシーンみたいな友情の光景に水いや氷水を差すような馬鹿がいた。顔面凶器で声がアニメーシヨンなトヨダだ。
「なあニシオ、いやいや統制。統制といえば一年の団長やろ?このまま行けば末は本物の団長や!そうなったら俺を副団長にしてブイブイいわしたろうぜ!そん時はこのトヨダを是非とも副団長に。へっへっへっ」
 お前は悪党回船問屋か?こういう奴に限ってケツ割るんだよな(実際トヨダは夏休み後、団を退部し進級出来ず退学していったバカちんである)。
 夏の予選を三週間後に控えた夕刻、急遽任された統制という役目、未来への団長への始まりだった。


<続く>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十参

〜一回生の章〜弐十参

 名古屋の梅雨は湿気が多く暑苦しい。狭い部室は若い男子が出す異様なフェロモンと煙草の臭いが入り交じる異臭空間。ある放課後、そんな嗅覚がおかしくなりそうな部室を飛び出して悪魔二人組は俺達一年数人を従え学校から二駅隣の御器所(ごきそ)にあるセイゴの行きつけの喫茶店へ出向いた。
 その喫茶店も奴らの行きつけ(喫茶・若草)同様、店の奥に死角となるソファー席があり、これまたその席に侍女をはべらせてコーヒー一杯で延々とチチクリあっていた。そんな光景を常連のオバハン達が白い眼、いや自分もチチクリして欲しい眼で見ていた。

 怠い時間がダラダラ続き太陽が傾きかけた頃、店内に緊張が走った!
 店の正面と裏口から二人のオッサンが入って来て店内を物色し始めた。“どっかで見たオッサンやな?”
 その時だった!ヨシダとオオツカが大慌ててテーブル上の灰皿と煙草を隠した。“チャリ(警察)? いやジャージ着たチャリはおらんな…はっ!先公や!!”
 そのオッサンをよく見るとそれはバスケ部監督のゴリラことアオキだった。もう一人は印象が薄く忘れたが先公だった事には間違いない。
 俺達一年と侍女達はその場で保釈されたが悪魔二人は学校へと連行された。結果、夏の予選目前で二人は無期停学、部活は無期で休部となり応援団存続が危ぶまれる事件となった。
 それから約二週間、俺達は伸び伸びと学校生活をエンジョイした。

 二人の停学と休部が明けて部室に集まった初日。ヨシダとオオツカは停学の罰として丸めた頭を掻きながら
「おみゃぁさんたぁ、今日からは真剣モードで練習だでなぁ!」とヨシダが吠えれば、
「よし、団旗揚げて練習じゃぁぁぁ~」とオオツカが奇声をあげた。
「押忍!」の返事と共に太鼓や扇、団旗を持って校舎屋上へダッシュした。梅雨の晴れ間の下、久々に声を張り上げ準備運動だけで体力が無くなっていく感じがした。
「よ~し、団旗揚げて実戦練習じゃ!団旗揚げたれやぁ~!」ヨシダの声に機敏に動く親衛隊。
 二年生カコの身体に団旗ベルトを取り付けるスズキ。団旗ポールに団旗を付けるタイチとエスパー(ヤマダ)。団ベル(団旗専用ベルト)にポールを差し込みタイチとエスパーは団旗を抱え準備が整った。
「団旗揚げ~」「ドン!」
 二年生ムラマツが打つ太鼓を合図に団旗が揚がった。久々に揚げられた団旗は初夏の風に靡き緊張感が体に走った。
「校歌~、よ~い!」
 ヨシダが今まさに団長エールを振ろうとしたその時!
「待て待て、待ちやがれ~っ!」怒声を上げオオツカが団旗に迫った。風に靡く団旗をわしづかみにし「なななな、なんじゃこりゃぁ~!」とジーパン刑事のように叫んだ!
「おお、大変じゃ大変じゃ!どエライ事しでかしたなぁ、おみゃぁら~!」
 狂気しながらタイチに跳び蹴りを入れた。続いてエスパーには鉄拳、スズキには回し蹴りをかまし三人はその場に芸人のように勢いよく倒れ込んだ。事態を把握出来ないヨシダは、
「キョーデェー(義兄弟)どうしやあたぁ~!」と巨体なのに欽ちゃん走りで団旗に駆け寄った。
「見やぁせキョーデェー!」
 オオツカが広げた団旗を見てヨシダの眼がぐるぐる回った。
「なんじゃこりゃ、てみゃぁら前の試合の後団旗干してにゃぁんきゃ!練習中止、部室集合じゃ!」

 道具を片付け螺旋階段を走る俺達は「どうした?」「何があった?」と訳が分からず部室へ向かった。時折見えたオオツカは顔面蒼白で怒りのあまり震えていた。部室に戻り全員が中に入った。走った後なのでいつにも増して異臭が漂う。

 二年生が団旗を広げた。えんじ色に白抜きで[中京高]の団旗はいつもと変わらない様に見えた。暫くの沈黙の後、
「おみゃぁら、やってくれたな。団の顔に…カビ、カビが生えとるだにゃぁかぁ~!OBになんと説明するんじゃ、死ね!死んで償え~!」
 オオツカは狂ったように言い放った!団旗をよく見ると旗全体にカビが増殖していた。いくら後輩の手入れのせいとはいえ団旗の保管整備は現親衛隊々長 であるオオツカの全責任になるから穏やかではない。
「一年の統制と親衛隊以外は外へ出ろ、二年、お前らは剣道部に行って道場にある竹刀を全部持って来い!行け~!」オオツカの雄叫びに続き、
「他の一年、いつにも増して先公見張っとれ!ええきゃ!」とヨシダはゴリラのように胸を叩いた。

 部室前に並ぶ俺達の眼に入ったのは竹刀を抱き抱えた二年生。その数は40本はあっただろう。これから部室内で起こる事は察知できた。今まで幾度と入れられたヤキより壮絶になる事も肌で感じた。
 青空が消え夕立でもきそうな暗雲立ち込める夕暮れだった。



『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十弐

〜一回生の章〜弐十弐


「ドカ―ン!!」
 鉄扉に物凄い音がした。誰かがぶつかった、いや蹴飛ばされたかブッツ飛ばされたに違いない。
「おうコラッ、なめとんのかテメェら!」
 オオツカの声が響きブロック塀や鉄扉から鈍い音が続く。5分、10分…。その音は一向に鳴り止まない。しばらくすると鉄扉の隙間から、
「おい一年、先公が来たらソッコーで教えろよ、ちゃんと見とれよ!」
 声の主は二回生ナカシマだったと思う。部室外の俺達四人は言われるままに校舎方向を見渡した。
 次いで耳に入ってきたのは「バッシ、バッシ」と叩かれる音。多分あの“精神注入棒”かバットで叩かれているのだろう。俺達四人は音がする度にビクンビクンと身体が反応して外にいても恐怖と激痛が伝わって来た。現場を目撃せず音だけで恐怖を感じるという事は想像力と聴覚を刺激し何十倍もの恐怖を体感し、俺は奴らを部室へ呼んだ事を後悔した。

 そんな《ヤキ》が続く中「おい、あれ先公じゃね?」とシモムラが言った。食堂横をゆっくり歩いてこっちに向かって来るのは、大木を挟んで右隣に部室を構えるウェイトリフティング部の顧問国崎(通称コメ)だった。
 シモムラは直ぐさま鉄扉に近寄り「押忍、コメが来ました」。中から「コメか無視しとけ」と声がした。
 コメが処刑部屋(部室)の僅か2メートルまで接近しウェイトを上下する部員を見ていた。そのコメの耳にヤキの協奏曲が聞こえているのは明白!しかしコメはこちらを見ようともせずまた中からの恫喝や打撃音も止まない…。
 見猿、言わ猿、聞か猿か…そりゃいくら先公でもあの二人に関わりたく無いわな。
 数分後、「じゃ頑張って」とウェイトを上下させる部員に声を掛けそそくさと立ち去るコメ。その間もヤキは続いていた。

 かれこれ一時間が経とうとしていた時、食堂横にまた一人の先公が現れた。そいつは応援団を敵視するバレー部顧問のヤスダだった!俺は一年生の時このヤスダに何十回と殴られ、卒業後二度も死亡説を流された。そんなに嫌いか!
 そのヤスダを見てすかさずタイチが鉄扉に向かい「おおお押忍、ヤヤヤスダがきき来ました」部室内はヤスダの名前に反応し静寂した。部室前でヤスダが立ち止まった!ヤスダは俺達と鉄扉を睨み付けタバコの匂いを嗅ぐかのように鼻をヒクつかせる。
「何やってんだ、オマエラ」ヤスダの甲高い声に固まる俺達。ヤスダは俺達に睨みを効かせバレー部の部室へ向かった。
「ヤっさんは行ったか?」鉄扉隙間からナカシマの声が…。
「押忍、行きました」
 俺が答えると同時に鉄扉が開き中から仲間達がよろめきながらトコロテンのように出て来た。ヤスダが偶然通った事で地獄のショータイムが終わった。

 中から出て来た誰もが憔悴していたが何故か殴られた痕跡は無い、しかし真っ黒の学ランやズボンには靴跡やバットや精神注入棒で殴られたような形跡がくっきり付いていた。腹を押さえる者、足や腕を摩る者、悔し涙を流す者と十人十色で苦痛を表している。
「大丈夫か?」声を掛ける俺に「騙された、ドツボや…」と一番酷くやられた姿のイナモトが息も絶え絶えに呟いた。

 結果、ヤキを入れられた部員は残留を強いられた揚げ句、丸坊主にするよう強要された。せっかく大金を叩いてあてたパーマは一週間の寿命を閉じた。残留組の俺達にも連帯責任として、一年間の食堂使用禁止が命じられた。しかし…この事件を境に奴ら(悪魔二人組)は本性をモロに出し始め、身の回りの世話はもちろん、登下校時のボディーガードや毎日の献金、むしゃくしゃした時の人間サンドバッグに暇な時の人間ジュークボックスとありとあらゆる手段で俺達を痛め付けた。

 そんな悪夢の様な毎日が続き、夏の予選一ヶ月前にまた事件が起きた。それは梅雨が一休みした暑い午後だった…。


<続>




『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十一

あけましておめでとうございます。
2009年もよろしくおねがいします。
それでは、おめでたくないストーリーの続きをおたのしみください。



〜一回生の章〜弐十一


 教室の中からヨシダが笑顔で手招きしていた。俺は周囲の雰囲気に飲み込まれないよう目一杯の声で挨拶をした。
「押忍、一年ニシオ入ります。失礼します!」
 昼寝をしていたガラの悪い輩が飛び起きて、 「なんじゃ餓鬼がぁ~」と機嫌悪い声をあげると、その機嫌悪い輩に、「じゃぁしいわボケ、儂んとこの兵隊だがや。だぁっとれ、ドたわけぇ~」と団長ヨシダ。
 ヨシダに恫喝された輩は直ぐさま寝たふりをした。俺はそれが本当か仕込みなのか疑う余裕もなく、いつも通りの自然体をとり不良達の輪の中に悪寒つきで立っていた。

「おうチビちゃん元気きゃ」。番長ヨシダが笑う。
 その横で団長ヨシダの二倍はある巨漢タカハシがサングラスの奥で目を細めていた(まるで竜鉄也です)。

 緊張のあまり顔を強張らせていると、「おいエイイチ、辞めてかした(訳:辞めていった)連中がえらい羽根伸ばしとるみたいだにゃぁきゃ、どうなっとりゃぁす?(訳:どうなってる)」とおババが使う名古屋弁全開でヨシダが言い放つと、神父の服より長い学ランを捲り、「あいつらパーマネントあてて食堂でランチまでしとる始末…。な、な、なめとんのきゃぁぁぁぁ~!」とオオツカが奇声を発する。(このふたりは本当に息が合うというか、映し鏡と言うか、ひとりが何か言ったらかならず返す、まるでバカな山びこのようだ。ヤッホー、アッホー、なんちゃって…)。

 その圧力にびびりながらも(俺のせいじゃないやろ)と冷静に考え黙り込む俺。しかし黙秘を続ければ殴られるのは必然、なんか言わなかん。

「押忍、どうすればよろしいですか?」
 その言葉にヨシダがニヤリと笑った。
「あいつんたらー(訳:あいつら)に言っとけ。楽しそうな学校生活の感想が聞きたゃぁで明日一度ハウス(部室)に来るようにと…ええきゃ逃がすなよ」。補足するようにオオツカ(山びこ2号)が、
「今日言うだにゃぁぞ、明日の帰り際に全員集めて連れて来い。一人もきゃぁすなよ(訳:帰すな)」と俺の肩を叩いたた。そのいや~な感触は今でも鮮明に残ってる。

 番長ヨシダやその他大勢の不良の方々は“御愁傷様”といった表情だった。(えらい事になった、あいつら殺される)。そんな一世一代の大役を仰せつかった俺は足どり重く悪の巣を出た。
 教室に戻るとイナモトやセイゴ、マコトにコウタロウがこの世を謳歌するように馬鹿騒ぎしていた。
「ニシやんどした?あのデブちゃんなんやって?」。トラボルタみたいに櫛をあて余裕のイナモト。
「あっ、いや別に…」
 言えなかった。いや言ってどうなるものでもなかったと思う。
 放課後タイチとシモムラ、イトウに話の内容を伝えると皆渋い顔をした。

 明けて翌日。浮かない顔でぼーっとしているとまたまたあの悪魔二人のロデム“クキ”が顔を歪めながら教室にやって来て、「おい援部の一年ちょっと来い」と廊下に呼ばれた。
 胸を突くだけで5メーターは吹っ飛びそうな奴だけど、いかんせんあいつ等のロデム、下手に文句や手出しは出来ない。
「何の用っすか?」。ぶっきらぼうに言うと、
「あああ態度悪い、態度悪い。サトル達の前とえらい違う、言うぞ言うぞ。それより今日は辞めた奴達みんな来てんのか?ってサトルが聞いてましたけど」。だからなんで語尾が敬語なんだよ、と思いながら、
「全員来てるはずっスけど。なんなら自分で調べられたらどうっすか」
 少し声を荒げ言うと、「わかったわかった、じゃあ僕はこれで」と逃げるように去って行った。
 嫌な時間が刻一刻と迫って来る。まだなにも知らない連中はいつも通り馬鹿騒ぎ。
 唯一シモムラだけが俺を不安げな目で見ていた。

 昼飯が終わり俺達残留組は元団員がいるクラスを回り部室へ来るようにと伝えて回ると、ほとんどのヤツが理由を聞いてきた。
 俺の口から出た言葉は「正式な退部届けを出してくれと言われた」。出任せにしては説得力のある最高の台詞だった。少々心苦しく思いながら…。
 そんな俺を疑うでもなく皆口を揃え、「そやそや!正式に辞めないつ殴られるかもしれへんで!」と逆に歓迎ムード一色だった。

 放課後、部室前で立っていると退部者達がゾロゾロ歩いて来た。二回生を見てもぺこりと頭を下げるだけで以前のような挨拶は無い。
 そんな態度に二回生ムラマツがへらへら笑ってた。その顔がなんか余裕でムカついた。
 まずは俺達残留組が部室へ呼ばれた。
 ヨシダとオオツカはなぜか満面の笑顔で、
「やあ君達本日の働き大儀である、もはや幹部の君達は外で野球でも見ていなさい。代わりに外に居るゴミ共に中へ入るように言いなさい、へっへっへっ」
 いつものおババ言葉は無い。俺達は外へ出て退部者達に中へ入るよう指示した。
 俺達と入れ代わる様にヤツラが部室に入ると速攻で鉄扉が閉めら
れた。ついで、「てみゃぁら(訳:おまえら)どえらい調こいとらっせるだにゃぁきゃ(訳:すごく調子にのってる)おうコラッ!」とヨシダが叫んだ。

“ザザザ”後退りする無数の足音が聞こえた。

 とうとう地獄のショウタイムが始まった!


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十

〜一回生の章〜弐十


 衝撃の退部勧告事件から一夜明けた地下鉄(上前津)のホーム。昨日まではヨシダにはイナモトがオオツカにはタイチとヤマダが付き添い周囲を威嚇していた。しかし今朝はあの二人とタイチだけ。俺は最後尾のモニターを見ながら違和感を感じていた。
 下車駅から学校へ向かう坂道でコウタロウとマコトを見つけた。その二人の髪形が前日までとガラリと変わっている。二人ともパーマ(カールアイパー)をかけ楽しそうにしゃべっていた。教室に入ると横山やすしバリにアイパーをかけたイナモトが櫛を頭にあてがいどしゃべっていた。
「あーあ、気が楽だわ、あいつ等の顔見んでもええし朝早くから駅で突っ立って鞄持ちもせんでもええし。ええ気分やてー」と意気がっている。
 その横に隣の教室から遠征しこれまたパーマどうよと誇らしげな顔の元団員スズキもいた。意を決意し団に留まった俺とシモムラの方が元気がなかった。
「なあ栄ちゃん、あいつら一気にやり過ぎやねーか?なんもなきゃええけど…」
「せやなー、まあ先輩等がなんもせえへんて言っとらしたで滅多な事ねーやろ」そんな二人の心配をよそに一日、また一日と平穏な生活が続いた。

 残った一回生四人は毎日部室に通いアホ先輩達のアホ話を聞いたり喫茶店に付き合わされたりと振り回されていた。ある日の喫茶店での出来事。悪魔二人とその侍女達と俺とタイチが常店の若草へ。各テーブルのコーナーに大きな観葉植物がありそれがブラインド代わりに、そして俺達二人を立たせているから簡易個室になっていた。それをいいことに二人はそれぞれ侍女を横にはべらかし、たまにソフトタッチ時にブラウスの中に手を入れる等ティーサロンをピンサロにしていた。
 そんなチチクリ合いを見せつけられながらもじっと立っている事が情け無く感じ辞めて行った奴等を羨んでいると
「喉渇いたきゃ?腹減ったきゃ?なんか飲んで食うきゃ?」と思ってもいない優しい言葉が侍女の胸元に手をツッコミニヤニヤしたヨシダから出た。
胸元に手を突っ込まれている侍女は「キャッ、キャッ!」と声を発してる。
“お前等きゃっきゃっ教か!”と呆れていると「押忍、自分喉が渇きました」とタイチが言った。(当時俺達は飲食店へ行っても水すら飲ませて貰えない立場だった。飲み物乞い食い物乞いらももっての外。それなのにタイチが声を出した事には驚いた)「ほうきゃ、喉渇きゃぁたかね」と細い目を一層細め笑った。隣の侍女が「ハイッ」とメニューをタイチに渡そうとした時その手をオオツカが制止した。
「メニューは儂が決めたるぎゃ」アナコンダの眼が光った。そして「アイミル(アイスミルク)とサラダでええな」と言いながら自分達の水のコップにコーヒーに付いてくるフレッシュと砂糖を入れ指で掻き混ぜ、観葉植物の葉っぱを一枚もぎ取り俺達の前に差し出した。
「ほれ飲んで食えよ、栄養取らにゃ!若いんだで」有り得ない光景に目を丸くしてると一人の侍女が「かわいそうだでやめたりゃぁ」と言った。しかし「おい遠慮せんと飲みゃぁせ、喉渇いとんやろ。水だにゃぁぞ、アイミルやて」とヨシダが言い放った。オオツカの眼からは“早よ飲め~”ビームが放たれている。もう躊躇してる暇は無い。俺とタイチは「押忍、ごっつぁんです」と言って白濁に濁った偽アイミルを一気に飲んだ。
“うぇ、まずい”飲み干したコップを見ると底には溶けきってない砂糖が溜まっている。さすがに葉っぱは勘弁と固まっていると無理矢理口に押し込まれた。
 自棄くそになり噛んでいるとなんとも青臭い味が口中に広がり吐き気をもようした。しかし飲み物はもう無い。悔しさと情けなさが怒りに変わり完食してやった。
「旨みゃぁか?ハッハッハッ」笑うヨシダが超悪代官に見えた。
 店を出て奴らと別れた俺達はソッコーで自販機を探した。なんでもいいから口に含まないと葉っぱ臭が酷かった。何を飲んだか忘れたが道に座り込み二人で一気に飲み物を飲んだ。
「やっぱ辞めた奴等が正解か?何が応援団や」タイチが吐き捨てる様に言った。
「本当やな…けどよーここで辞めたらあいつ等のツボやし先に辞めた奴等にやっぱり辞めたかと言われるのも腹立つし…俺達が上になったらこんな事はせんぞ、夏過ぎまでの辛抱やタイチ」肩を叩き帰路に就いた。

 一回生退部から一週間。悪魔二人からの攻撃も無く退部者の気が緩み始めた頃事件が起こった!昼飯が終わり教室でのんびりしていると見た事無い三年生が一人廊下をウロウロし教室の中を伺っている。そいつは恐ろしく青白く顔が少し傾いた弱っちそうな奴、およそ不良ではなく大方使い走りであろうオーラ全開サイクロンだった。しかし最上級生、俺達一年の前では意気がって見せた。開いた窓から「おい、応援部のニシオっておるか?直ぐにサトル(ヨシダ)の教室へ来い…って言ってました…」意気がっていたのに最後は敬語になってしまう変な奴。後にこいつがその時々の使者になるとは…
 俺はそれこそ猛ダッシュでヨシダの教室へ。“なんの用や?殴られるんか?上納か?”不安だらけの俺が着いた教室の中は悪魔二人をはじめ番長ヨシダやその他顔役が揃った巣だった。“生きて帰れるか?いやその前に中に入る事が出来るか?”そんな重苦しい空気と殺気と妖気漂う午後だった。

<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾九

〜一回生の章〜  拾九


 笑顔を絶やさない悪魔二人に何らかの魂胆があるのは、明朗会計のキャバレーより分かり易い。ヨシダはニヤニヤしながら俺達をなめ回す様に眺め、オオツカは二回生相手にジャレていた。一回生の中にもこのダラけた雰囲気にコソコソ話す奴や自然体を崩す奴が…
 その時だった!?
「一年、お前等頑張ったな」
 ヨシダの言葉にオオツカもジャレるのを止めドカリと座り直した。
 そして次にヨシダが発した言葉に俺達は驚き耳を疑った。
「この一ヶ月半、そんで昨日までの二試合を経験して、“もう無理や、辞めたゃぁわ”って奴おるやろ?儂等もOBのたわけん等にぐずぐず言われて夏の大会までには精鋭部隊を作らなかんだわ。ほんだでこの機会に辞めたい奴はどうぞお引き取り下さい。ヤキ入れたり後で追い込む事はあれせんで!」
 思ってもいないヨシダからの退部勧告だった。少しざわつき顔を見合わす一回生。
 そしてオオツカが「よう頑張ってくれたな、でも無理なもんは無理で正直に言えばええぞ。辞めたら俺達に気を使わんでもええし、パーマもかけれるし学食も使えるし」
 オオツカの優しい言葉と笑顔があかずきんちゃんの狼婆さんに見えた。

 ヨシダとオオツカは互いにマクドナルドのスマイル¥0みたいな笑顔を振り撒きやたらと退部を勧める。最後にヨシダが「一日考えて明日返事ちょ、明日集合して返事聞くで今日は逢い引きがあるで解散!」と、言うだけ言って悪魔二人と二回生はさっさと部室を後にした。
 部室に残った俺達一回生15人は一斉に会議に入った。塞きを切ってどしゃべり始めたのはヨシダの付き人であるイナモトだった。
「俺は辞めるて!やっとれんわアホらしてよー。毎日毎日鞄持ちや煙草買いに行かされ、茶店行ってもずっと横に立たされっぱなし。機嫌が悪いと殴られ蹴られ。辞め辞め!」とまくし立てた。
 それにつられるかの様にマコト、コウタロウにセイゴ、マサト等が“辞めよう、辞めよう”の大合唱。
 俺とタイチはただ黙って見てた。
 帰りの地下鉄で退部を決めた奴等が振りまいた開放感ある笑顔が今でも鮮明に思い出される。

 明けて翌日。教室ではイナモトやマコト、コウタロウにセイゴがめちゃくちゃ明るく会話をしていた。
「なあニシやんは辞めんのきゃ?」イナモトが肩を叩き言った。
「ああ、毎日地獄やけど一旦足入れたから続けてみるわ。ほやけどお前等あんま調子こかんほうがええぞ。あの二人の事やで…」
 そんな言葉は何処吹く風とばかり退部希望者達は自由を手に入れた兵士の様にはしゃいでいた。
 放課後…タオカという一回生部員を除き全員部室に集合した。あの二人は前日に引き続きビッグスマイルである。
「さて、辞めたい者はもう帰ってええよ。ご苦労さん。晴れて自由の身や高校生活を思う存分楽しんでくれ!」
 ヨシダの惜別の挨拶と同時に鉄扉が開いた。退部を決めた奴等が一礼して次々と出て行く。そんな連中にオオツカは笑顔でアラレちゃんの“バイちゃ”を繰り返す。
 自然体で立つ俺に「エイイチはええのきゃ?」とヨシダ。
「押忍」と応える俺の頭を撫でるオオツカ。しかしこの時のオオツカからは既に笑顔が消え、部室にケツを向け帰って行く連中を睨んでいた。
 結局残ったのは、俺とタイチとシモムラ。そしてなぜか一番鈍臭い白豚イトウの四人だけだった。
「やあぁ、勇気ある諸君。残った君達で応援団を担ってくれたまえ。もはや君達は明日の幹部候補や!ハッハッハッ」
 ヨシダが声高らかに笑う。その横でオオツカは薄笑いを浮かべていた。
 胸騒ぎがした。なにかある。ないわけがない。
 残った俺達の恐怖感よりも辞めていった奴等への不安感を抱いた冷たい雨の夕刻。この雨が赤く染まらないとように…

<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾八

〜一回生の章〜 拾八


 集合場所へダッシュして横隊するもあのうっとうしいOB達の姿は無く、唯一大寿山そっくりのOBサマノがあんこ腹を摩りながら突っ立っていた。
「押忍」ヨシダの挨拶が飛んだ。それを合図かのように大寿山が喋り出す。「ご苦労さん、一年生は夏の大会までに声・体力ともに鍛えて、二年生はエールの型をしっかり振るように。三年生の二人は指導をしてやってくれ。それから……であるから……以上」
 大寿山いやサマノは友達がいないのか相当長い時間喋りやがった、雨で学ランが濡れて寒くてたまらんのに。他の馬鹿OB達は試合に負けた事と雨が降っているというからという遠足が中止になったみたいな理由で帰っていったらしい。やっぱパーである。

 サマノの大演説の後、顧問のクマさんから応援の労いと解散命令が下った。小言を言いたそうだったヨシダは普段からパンパンに張った顔を2倍に膨らまし、オオツカは睨みと怒声をあげようとしていたが、解散命令に何処を見てどうすればいいか分からず目を白黒させ回していた。
 “そんなに目を回したら倒れるぞ”。クマさんの鶴の一声で解放された俺達は難を逃れホッとして家に帰った。
 翌日、あの脳天気高気圧の二人の事だから、昨日の試合は忘れてまた馬鹿な余興でもさせられるぞ…くらいの気持ちで部室へ向かった。

 俺とセイゴとシモムラが食堂の手前から取って付けた様なダッシュをして角を曲がった瞬間、前から超大股歩きで闊歩する番長ヨシダに遭遇!
「押忍」。急に立ち止まり挨拶する俺の背中にシモムラが顔面ダイブした。
 ニッコリと笑う番長は、「おう、昨日はご苦労さん。今度はマッキー(せんだ似のマキハラ)いわしたるでな、応援頼むよ!それよりおまはんたー(おまえら)なんかやらかしたきゃ?サトルちゃんとノブちゃん血圧振り切っとったで。まぁ、気をつけやぁせよ」
 捨て台詞を放ちタバコの匂いを撒き散らしながら番長は去って行った。
「おい聞いたきゃ、なんか怒っとらっせるらしいぎゃ」。髪をつんつんに起てたセイゴの髪が不安を予知する妖怪電波に見えた。

 普段口数が少なくポーカーフェイスのシモムラが「でら矢場町!」と当時流行っていた(ヤバイ)と(矢場町)を掛けた渾身のギャグを放ったが、番長の言葉に危険を察知した俺は「余裕こくなて」とシモムラをしばいた。
 部室から死角になる場所に身を隠し様子を伺う俺達。時間が経つにつれ恐怖感が増す。震える小動物みたいな俺達に選択肢は二つ。勇敢に部室へ行くか、これも勇敢にブッチ切るか・・・。“三人集まりゃなんとかの知恵”というが、残念な事に俺達は三人で一人分の知恵しか無かった。
「行こまい!どの道怒られるんや、ブッチしたら倍怒られるて。今行っときゃぁ殺されへんて。」
 思えばこの頃は“殺されへんて”が自分を含め皆を納得させるキーワードになっていた。
「よし、行ったるか!」。セイゴの言葉に再び取って付けた様なダッシュをする俺達。そして部室前で自然体をとり横隊、しばらくして残りの一年生部員がこれまた嘘のような真剣な顔と偽ダッシュで集合した。

 統制のマコトが分厚い鉄扉のドアに向かい「一年全員揃いました!」と声を掛けた。鉄扉の隙間からはいつもの様にタバコの煙が僅かに洩れパタパタと扇子を扇ぐ音が聞こえてた。

「入ったれや!!」
 野太いオオツカの声が響いた、まるで地獄の門番の様や・・。ガラガラガラ。重い鉄扉が開いた。煙の向こうにはあの二人が踏ん反り返り、その横では二回生のナカシマ、ムラマツが“ザ・ピーナツ”がモスラを扇ぐが如く扇子で二人をパタパタしていた。
“殿様か?”。タバコの煙が消え二人の顔が見えた。番長からの情報だとかなり怒っていたようだが、なんと驚く事に怒りとは真逆の笑顔がそこにあった!“いや待て、こいつらの笑顔には必ず裏がある。なんか企んでるに決まっとる、しかし本当そんな詐欺師・ペテン師みたいな笑顔がよく出来るなぁ。ヨシダなんて口角まで上げやがって”そんな二人から脚本に無いような言葉が・・・。
「あ~君達、昨日は雨の中ご苦労様でした。風邪なんてひいてないかな?」とヨシダの薄っぺらい言葉に続き、「学生服は乾いたか?革靴は大丈夫か?」と悪代官を前にした越後屋の様に手を擦り目を蒲鉾型にしてヘラヘラするオオツカ。
“怪しい、怪しすぎる”。そんな二人を不審に思いながらも拳やケリが飛んで来ないことに俺達は気が緩み始めていた。
 前日に続く梅雨を思わせるじっとりした蒸し暑い放課後。タバコ臭さより胡散臭さが充満する湿度200%の部室だった。


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾七

〜一回生の章〜 拾七


 スタンドに入ると相手側の応援席にカラフルなポンポンを持ったチアガールとハチ巻き姿に学ランの応援団が早くも陣取り試合に備えていた。今春選抜大会に出場し、あのアルプスで応援した自信の表れか、、、。
 それを見てヨシダは「ジャァシーわ、大府ごときが」と吐き捨てた。母校の応援席には昨日見たOB達が雁首揃え座ってる。
“お前等野球部関係者より威張り腐ってんな”
 ヨシダ、オオツカがそいつらに一礼し俺達は配置に着いた。
 暫くすると相手応援団々長はじめお供の団員がやって来て悪魔二人組に挨拶。ヨシダの殺人ビームを受けながらも笑顔で応えていた。
 いつもならそんな相手を威圧するオオツカの姿が無い?俺たちは神出鬼没を得意とするオオツカを探した。するとオオツカは今日団旗持ちを命じたタイチの前に立ち何やら死に物狂いでしゃべっていた。
「ええきゃぁ~、何があっても下ろすなよ!団旗地べたに付けたらぶっ殺すぞ!」
 オオツカは観客がいるのも気にせず殺人予告を掲げていた。この模様は文章では表現できないぐらいマンガ的です。

 タイチは初めて装着する“団ベル”(団旗専用ベルト)相手に悪戦苦闘してる。団ベルは革製で2本のショルダーベルトに腰回りに20センチ位の極太ベルト、そしてコチン前に団旗ポールを差し込む筒状のカップが付いていた。よく分からない方は、巨人の星に出てきた“大リーグボール養成ギブス”をイメージしてね!余計にわからんという人はサラッと読み流してください。
 ヨシダが「全員起立、脱帽」と声を張り上げた。
 校歌を斉唱し相手校へのエールを送った。そして大府高側からは俺達以上の声でエールが送られて来た!
 この光景にいらつくOB達。
 ともあれ試合が始まった。俺はタイチが心配で時折スタンド上段を見上げた。そんな心配をよそに団旗は勢いよく靡いていてる。試合前からあやしい雲行きだったが二回を終わる頃にとうとう雨が降り出して来た。「あ~あ、中止になりゃええのに…」そんなやる気なさをよそに試合は淡々と進んで行った。

 マウンドから豪速球を投げるマキハラ(元巨人/せんだみつお似)に活路を見出だせない母校。前年の選手権予選、秋季大会と大府に二連敗中の母校に回を追うごとに厳しいヤジと俺達応援団に叱咤怒声が飛ぶスタンド。昨日のヒーロー気分は消え失せ、まるでヒールになったような俺達…。
 そんな中、先制点は大府に入った。相手スタンドはポンポンが舞い上がり笛や太鼓が鳴り響く。そんな歓喜の声を“消せ!”とばかりヨシダ自ら“フレッ、中京”のエールを振る。が…勢いづく大府に追加点が入りそのエールも掻き消されてしまった。何とか失点を2で食い止めた中京、しかし攻撃はマキハラの前に凡打の連続でチャンスを掴めない。中盤を終え雨足が強くなり風が強くなってきた。

 ふとタイチを見ると鬼の形相で立っている。
“どした?便所でも行きたいきゃ?”そんな間抜けな考えは瞬時にぶっ飛んだ!団旗が雨に濡れ重さを増し風に煽られ普通に立っていられないのだった。ましてや団旗を付けるポールが昔ながらの桜の樹、硬くて重い…。初めて団旗を持つタイチには過酷な条件が揃いすぎたのだ!
 “頑張れタイチ、落としたら殺されるぞ”。そんな願いも虚しく雨と風が一層強くなって来たゲーム終盤、最前列ではオオツカによる応援歌のエールが始まった。コールドゲームになってもおかしくない天候に母校は意地を見せ同点としてゲームを振り出しに戻した。
 静かだったスタンドは息を吹き返し大声援を送る。しかし今一歩マキハラを捕らえきれずどうしても逆転出来なかった。
 そして最終回、大府は疲れが見えはじめた中京のエース・ニワを攻め虎の子の1点をもぎ取り、最後の中京の攻撃もマキハラ(せんだみつお似)の豪腕で凌ぎ3-2のスコアで母校は敗れた。

 終了後のエールを終えタイチの下へ走ると、憔悴しきったタイチが仲間に支えられぐったりしていた。そんな俺達をよそに先輩やOB達はそそくさと球場を出てあの説教場所へ向かっていた。俺達に送られる労いの拍手も雨に掻き消されるほど雨足が一段と強まった春の嵐の日だった…。

しかし、春の嵐以上の嵐が待ち受けているなどとは…。

<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾六

〜一回生の章〜 拾六


 初陣を勝利で飾ったものの先輩やOB達のボヤキや小言で喜びがぶっ飛び暗い気分で迎えた翌日、気が乗らずダラダラ着替えていると、
「どないしたんや、ダラーっとして。今日も応援やろ、気合い入れて行かんかい!」と内情を知らない親父が新聞を見ながら言った。
「はいはい、そやけどなぁ勝ったのに怒られるし文句言われるしやっとれんで」とぼやく俺に、
「ほなケツ割るんけ?ワレの同級生にええピッチャー(ノナカ)おんねやろ、ワレが団長なって儂を甲子園連れて行ったれや!」と親父はハッパを掛けた。“団長ねぇ~。それより続けられるかどうかが問題やわ”と考えながら球場へ向かった。

 空は昨日とは違い曇天、まるで俺の気分と一緒で試合前から滅入ってしまう。先輩に言われたように2時間前に球場に着いたが、応援団どころか客や学生すら歩いていない。聞こえるのは隣接したグランドから聞こえるママさんソフトの打球音と声援だけ・・・。しばらくしてタイチとマコト、マサトが来た。
「オッス」
「なあ、アイツ等俺んたに2時間前に来いって言ったけど自分んたは来んだろ?」とタイチ。
「来やせん、来やせん。今頃まんだ上前津の茶店におるやろ」とあの二人の分かりやすい行動パターンを解析する俺。するとマコトが、
「交代でヤニ吸いに行こまい」とポッケから“ブンタ”(セブンスターの略)を出してニヤリと笑った。俺とタイチは昨日先輩達がヤニを吸いに行った古墳へ上がった。
ヤンキー座りをしてタバコをふかし互いに昨日の事を愚痴っていると下からマコトが
「まだかて~」と催促。一気吸いをしてマコト達と交代。そこへコウタロウやシモ、セイゴが合流。そして昨日ぼろくそに言われた白豚イトウとヤマダ一号も…。

 試合開始1時間前ともなると駅からの道が人で溢れ始めた。
「そろそろ来るな」統制のマコトの声に横隊する。
「……ん?」イナモトとスズキは太鼓運搬でまだ来ないにしても二、三人足らない。
「おいマコト、カトウとタオカ、それとそれと…あっヤマダ二号は?」と聞くと何も連絡が無いとキョロキョロするマコト。
「辞めたな」とセイゴが言えば
「根性無しが」とタイチがなじる。
「それより無断だったらまたあの人達に怒られるぅ」と昨日の恐怖を甦らせるイトウ。その一言が俺達をブルーにした。ざわつく烏合の衆にマコトの声で緊張が走る。
「来た、いいか…押忍!」マコトの合図に連動し挨拶する。二人は肩で風切り、泣く子は殴る勢いで反社会的人相を全面に出し歩いて来た。ヨシダもオオツカも昨日とは違い少しヘラヘラしてる。おおよそ茶店の女とデートの約束をしたか電車でいい女見たか、駅の階段でパンツを拝んだぐらいだろう。“はぁ、単細胞”しかし…いつまでもヘラつくヨシダに対しオオツカの眼がアナコンダに変貌した!
「一年、何人か足らんだにゃぁきゃ?遅刻きゃ?連絡は?」それを耳にしたヨシダが
「チコツ~?いやチコク~!」とすべりまくりのギャグを交え横隊を見た。
「青白い奴とザクロ顔とタラコくちびるは!」名前を覚えきらないヨシダはそいつ等の特徴を叫んだ。タジタジする俺達に、
「まあええ、明日部室に連れて来い」と冷たく言い放つオオツカ。そしてヨシダは、
「ええきゃ、今日はあのマキハラがおる大府や。去年の夏の予選、秋の県大会と我が校は連敗中や。プラス選抜に出てええ気になっとる。今日は絶対勝たなかんで死にもの狂いでやれ!ええきゃ!」と鼻息を荒くした。

 間もなくして太鼓運搬班のイナモトとスズキ、二回生のナカシマとムラマツも合流した。だが二回生の団旗持ちカコと焼肉ダンスのヤスオがいない。聞くとカコは風邪でヤスオ急用との事だった。俺達は顧問が来るのを待ち三塁側入口で待機した。そこでオオツカからとんでもない言葉が発せられた!?
「ウチヤマ~(タイチ)今日はテメェが団旗持てや!団の顔、ひいては学校の顔やで旗落としたり、地面に付けたりしたら、ぶっ殺すぞ!」と恫喝した。

 押忍としか返事が出来ないタイチは虚ろな眼で空を見上げた。これが後の大事件に発展するとは誰も分からない、雨雲が立ち込めて来た試合前だった。


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾伍

〜一回生の章〜 拾伍


 集合場所で自然体の姿勢で立っていると団長ヨシダと副団長オオツカが苦虫をかみ砕いたような顔で近付いて来た。“おいおい、二人共顔面凶器なんだでにこやかにしてくれよ”と間違っても口に出せない台詞が頭を駆ける。しかしそんな事を考えてる場合ではなかった。
「てみゃぁら、しっかり声出さんでOBにどえりゃぁ言わされたでにゃぁきゃ!ドたわけがぁ~!」
 ヨシダが早口でまくし立てると今度はオオツカが
「二年、貴様等ちゃんと一年に指導しとんのきゃ?特にあの白豚(イトウ)は明日までにビシッとやっとけ!胸クソ悪い…」
 二人共よほどOBに叱られたのか極限に機嫌が悪い。ヨシダはもっと文句を言いたそうだったが、顧問のクマさんとOBが数人やってきたので口をつぐんだ。そのヨシダが顧問とOBに向かい「押忍!」と大声で挨拶した、それに習い他の団員も一礼し横隊をとる。まずは顧問の労いの言葉から始まり次いでOB達の有り難いのかどうでもいいのか分からない説教が始まった。それにトム&ジェリー五話分の時間がかかるとは思わなかった。若干若いOB達は自己紹介と明日の激励程度で終わったが、今の俺達(四十代)のOBになるとまず自己紹介からして長い。

 その中の一人で、七三分けに眼鏡、スリーピースをビチッとはち切れそうに着た今で言うメタボリックなOB。
「あ~諸君、私は昭和〇〇年甲子園出場時の第〇〇代団長のカタオカであります。一回生の諸君は初めてだな、カタオカであります。栄光の我が応援団に入られこれからの活躍を期待する。本日は御苦労」
 広いデコに汗を垂らしながら涼しい顔で喋る姿はさながら選挙演説の代議士のようだったと言うか“本日は御苦労”が先じゃねえのかよ。そいつは続けて喋り始めた。長くなるので抜粋すると、応援のリズム、攻守の切り替え時の空白、適材適所の人員配置、一回生の体力と声の出し方とまぁキリが無いったらありゃしない。
 そいつの癖が悪いのは、一つのテーマが終わると必ず「それからもうひとつ!」と仕切り直し話しを始める事。だからいつまで経っても終りが見えない。俺達の自然体がだらりとなるのを察知したもう一人のOBがそのカタオカをやんわりと止めた。カタオカの台本にはまだまだ台詞があったのだろうがひとまず無理矢理まとめて後ろへ下がった。そのカタオカの暴挙を止めたOBは、
「僕は第〇〇代サマノといいます。顧問の熊谷先生と大学で一緒でした。以後よろしく」
 とカタオカと違いあっさり挨拶を終らせ俺の好感を得てた。さぁ~終りか、やれやれと一瞬気を抜いた時だった。数人列ぶOBの後ろからさっき球場でほざいていた白豚オヤジが姿を現した!?“おいおい部外者、球場内はともかくここは関係者以外ご法度やぜ”と睨んでいると、事もあろうかあのカタオカが体を小さくして「どどどうも、いらしてたのですか?」と梨元ばりに恐縮してる。“誰だあの白豚”余裕こきまくりの白豚は俺達の前に二足立ち、いや仁王立ちしてニヤリッとした。悪魔二人も顔を見合わせ首を傾げてた。白豚オヤジはイチベツすると、
「儂はフジモト、当然OBだ。歴史はそこのカタオカにでも聞いてくれや。それにしても数年振りに応援を見たがなっとらん!全くもってなっとらせん!こんな応援では万一甲子園へ行ったとて恥ずかして披露でけせんわ!明日、いんや今大会は無理とて夏の予選までにはまともな応援が出来るように。特に三回生の二人格好の前に質を付けろや。以上!……あっ、ヨシアキしっかり頑張れ」

 白豚オヤジは最後に意味不明な言葉を残し威風豚々(とんとん)と帰って行った。その後をカタオカ達若輩OBは蝿の様に手を擦り金魚の糞よろしく行列を作り公園を後にした。残った俺達に顧問から解散命令が…。先生を見送り一息とおもいきや悪魔二人が烈火の如く怒り狂った!
「ヨシアキって誰じゃぁ~?あの白豚と何の縁故があるんじゃ~?名乗り出んきゃぁ~!」
 青い森をバックに吠えるヨシダが本当にジャングルのニシローランドゴリラに見え、誰かと疑うオオツカは獲物を仕留めようと樹から身を垂らしたアナコンダのようだった。
「誰だ!出ろ!」
 自分達でない二回生達も声をあらげる。俺達一回生も顔を見合わせていたその時!さっきの白豚オヤジと同じシルエットを持つ奴を発見してしまった!一回生の白豚ことイトウである。顔を紅潮&硬直させたイトウが一歩前に出た。
「おみゃぁ~きゃぁ~!なんだあのクソオヤジは?おみゃぁのなんだて~!」
胸を叩き雄叫びをあげるヨシダに
「おお押忍、叔父であります。母の兄で割り箸の卸し屋で…それで、それで…」
「もうええわっ!てみゃぁの叔父でもOBでも関係にゃぁ~!俺らに文句言いやがって、副団長かなんか知らんが今度会ったらぶっつぶす。お前も辞める覚悟しとけや!気分悪いで帰ってくぞ!明日の集合もここで試合前2時間に集まっとけ、ええきゃ!」
 何振り構わぬニシローランドゴリラは雄叫びをあげアナコンダと共に彼方へ消えた。
 初陣を勝利で飾ったのに大敗の原因を押し付けられたような縦の関係を思い知らされた苦い夕刻だった。


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾四

〜一回生の章〜 拾四


 好投手クドウに連打を浴びせチャンスを広げる母校にスタンドも自然と盛り上がる。それまで単調だった応援にも一層力が入った。
 団長ヨシダが0.1トンの巨漢に似合わぬ機敏な動きで的確な指示を出し、オオツカは俺達の動きに誤りやさぼりがないかとスネークEyeを飛ばし、先程ほざいていた白豚おやじもエールに合わせ声を出している。
 グランドでは母校がランナーを二人置きチャンスを広げ、左バッターボックスには番長ヨシダが不敵に構えていた。団長ヨシダの指示は「かっ飛ばせ!ヨシダ」、得点機を前にスタンドは一段とボルテージがあがる。
「カッセ〜、カッセ〜、ヨシダ!カッセ〜、カッセ〜、ヨシダ!」
 スタンドの野球部員の声も一層大きくなり、俺達も怒声に近い声を出し必死に応援。
 球場の全ての人の視線がバッターボックスに集中していた時事件が起った!?

「ガツン」。鈍い音が響き一瞬にして球場が静まりかえった。事もあろうかクドウが投げたボールがヨシダいや総番のヘルメットを直撃したのだ! 直後に母校スタンドからは怒声と罵声が飛び交い団長ヨシダは金網にへばり付き「テメェ、コラッ!クドウ貴様殺すぞ!」と喚き散らしている。多分相手スタンドから見ると、ニシローランドゴリラが暴れている様にしか見えなかっただろう。
 そんな騒然としたスタンドをよそにバッターボックスのヨシダはバットを持ったまま1ミリも動かない。“痛いのか?動けないのか?”審判の問い掛けにも知らん顔のヨシダがとった行動は、帽子を取って謝るクドウにまず強烈な眼を飛ばすことだった。

 しばしの沈黙。ひょっとしたら乱闘も…そんあことを予感させるほどの迫力&静寂。そしてヨシダは静の迫力を存分に発揮しながらスローモーションで一塁へと向かった。
 そうだよなプロじゃねぇから乱闘は無いよな、と半ばナットク、けれどちょっぴりがっかりした俺の眼に信じられない光景が飛び込んできた。
 クドウに続き帽子をとり一礼する一塁手にヨシダは軽く体当たり(ギリギリ許される範囲)してから何やら耳元で囁いている。何を囁いたかは分からないが一塁手はかなり慌てていた。
 そしてヨシダはリードするフリをして一塁手の足を踏んでニヤニヤしてる(これもバレない程度のギリギリのテクニック)。
“これは高校野球なんかじゃない、喧嘩や!でもここは野球場で審判もいる…子供の頃見たドカベン?いやアストロ球団?違う、ちょっと違う、あっ!アパッチ野球軍そのままや!”。俺は必死に応援しながらも過去の記憶を蘇えらせた自分に果てしない喜びを感じた。

 一発触発の中、次の打者がしぶとくヒットで1点、次いで御家芸のスクイズで2点をあげた。盛り上がるスタンド、沸き上がる歓声!応援初陣の俺は”これが中京野球か、これが応援団の心意気か”と体に震えが走った。
 後続は絶たれたがスコアボードには誇らし気に【2】と書き込まれ、我が中京は確実に勝利へ一歩近付いた。
 俺にとって初の応援だ、絶対勝ちたい! その意欲がさらに声を大きくさせた。
 しかし名電もしぶとく2点を返して来た。そして回は8回中京の攻撃。
 ここで、ニシローランドゴリラいや団長ヨシダから出された指示は「かっ飛ばせ〜〇〇」でもなければ「フレッ中京」でもなく「応援歌」であった。応援歌といえばラッキーセブンに副団長オオツカのエールで歌うのが常だが、何故かこの回は二回生ナカシマがエールを振りそれが始まった。

 俺達は拳を上下させ太鼓に合わせシャウト。応援歌は歌詞の1番だけを歌い、「フレッ中京」のエールを振って終わるのだがちょっと様子が違う。1番を歌い終えると同時にナカシマから発せられた言葉は「もうー丁〜」
 はぁ?もう一丁? 初めて出る指示に戸惑い一瞬手と声が止まり仲間を見ると皆どうしていいか分からず動きがバラバラになっていた。
 それを後頭部にも眼がついているオオツカが察知! 振り向くや否やスタンド狭しと駆け回り一回生の耳元で「続けんか!ボケ〜ェェェ!!!」と、血走った眼で恫喝しジャングルを高速で這うアナコンダの様にまた定位置に戻った。
 怖え〜、マジ怖え〜。歌わな殺される…手を止めたら殺される…。試合後が怖い、いっそ一生試合やっててくれ〜! そんな恐怖心と絶望感に襲われている間に母校にチャンスが訪れていた。
 スタンドでは現役、OB、ファンに一般客が一体となり応援歌の大合唱!それはまるで早慶戦のような盛り上がりだった。
 誰が決勝打を打ったかは記憶に無い。しかしこの回、勝ち越しの1点を取り、初陣を勝利で飾ったことだけは間違いない。
 ゲームセット後の団長エールが終わった。もう体力も無く、声も涸れていた。球場の外へ出て横隊する俺達に無数の拍手が…。なんだかすこしだけヒーローになった様な気分だった。
 だが…
 この後あの悪魔二人組の「今日の一言」とOBからの「本日の小言」という恐怖の時間がある事も知らず、俺はヒーロー気分で集合場所へ走った。
 そんな初陣であった。


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾参

〜一回生の章〜 拾参

 デビュー曲の「校歌」を歌い終え、俺の体力バロメーターはすでに半分となった。あまりの大声で校歌をシャウトしたもんだから脳の酸素が薄くなり半朦朧状態となったが、呼吸を整える間もなくヨシダによる団長エールへと続く。
「それでは〜まずは〜相手側、名古屋電気高等学校の本日の健闘を祈ってぇ〜。フレー、フレー、めーいーでーん、押忍!」
「フレッ、フレッ名電、フレッ、フレッ名電」
 相手校にエールを送ると相手団長は一礼しスタンドからは拍手が起こる。ここで気になる人物がいた。野球部生徒の最前列で背中に日の丸中京の白抜き文字入りアロハシャツを来て手にはこれまた日の丸の旗を持ち笛を吹きまくるおじさん。“OBか?変わった人やな”と思わず笑ってしまった。しかしこの後その人と呉越同舟の仲になるとは…それも40歳を過ぎた今でも…
 
「それでは次に、我等中京高等学校の本日の勝〜利を祈ってぇ〜。フレー、フレー、ちゅ〜、う〜、きょ〜う、押忍!」
「フレッ、フレッ中京、フレッ、フレッ中京〜」
「タイボウ(学帽を被れの意)着席!」
 ヨシダの号令で俺達兵隊は「ありがとうございました」と深々と頭を下げ観客や生徒、OBに礼を告げる。
 試合前の一大パフォーマンスが終わった。ヨシダとオオツカはスタンド最前列から4、5段上がった所で二人して大股を広げ4〜5人前のスペースを確保してから腕組みをして名電応援団を睨み付けた。そしてオオツカはいつものように角栄バリに日の丸扇をパタつかせていた。
 俺達は何事があろうとも常に自然体の姿勢で指示を待つ。しばらくすると名電側から我が校へのエールが始まった。ヨシダから頭を下げろの合図。エールが終わると自然体に戻り敬意の拍手。ウグイス嬢から試合開始のアナウンスが流された。

 ホームベースを挟み両校が挨拶。後攻めの母校のナインがグランドに散った。番長であり正捕手のヨシダが野手達に「プレーィ!」と低い声で両手と片足を揚げ開始を告げた。
 審判の手が揚がると同時に応援が始まった。
 ナカシマが「フレッ中京」のエールを振りスタンドを鼓舞する。学校での練習とは違いスタンドやフェンス、バックスクリーンに反響する声は迫力があった。
 一回の表を終え母校の攻撃に。1番セカンドで主将のシラキがバッターボックスへ。すかさず「カッセ(かっ飛ばせ)シラキ」のエール。マウンドにはあの工藤がいる。シラキ凡退後、2番アサオウ、3番イトウも凡退。試合は中盤まで膠着状態が続く。俺達は「カッセ〇〇」と「フレッ中京」を繰り返した。
 試合同様単調な応援に一人のオッサンが立ち上がり顔を紅潮させ叫んだ。
「応援団なにやってんだ!もっと声出して休まず続けろ、バカヤロー!」
 眼鏡で色白でデブな気色悪いオッサンがまくし立てた。ヨシダとオオツカは鬼の形相で振り返り「なんじゃコラッ!」と言わんばかりの怒りオーラを体いっぱいににじませた。
“誰だあのオッサン?眼鏡で白豚のくせに。ん?眼鏡に白豚?うちの団にも似た奴(イトウ)おるなぁ。よう似とるわ”この変な一致が後日大事件になりイトウの環境を変える事に。
 そのオッサンの言葉に発奮したのかオオツカが日の丸扇を持ち立ち上がり「拍手三・三・七拍〜子 」と低音で威圧的な態度で扇を振った。
 その効果かこの日初めての快音が球場に響いた!

<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾弐

〜一回生の章〜 拾弐

 冷たいコンクリートの階段を上がると目の前に青く繁った芝生が広がっていた。その後ろには手書きで味のあるバックスクリーンが幾多の名勝負を見届けて来たかのように威風堂々と立っている。外野席は全て芝生、のんびりした風景。そして自軍のスタンドに目をやると、のんびりした風景が一変しほぼ満員の観客で埋まっていた。
 なんだ?甲子園の予選でも大会決勝でもないのに…その光景に驚きながら相手(名電側)を見るとなんとガラガラ。昔の川崎球場のようだった。“中京は人気があるんやなぁ”と感心してると二年のナカシマが「配置せえや!」と怒鳴った。
 初陣で右も左も分からず躊躇してる俺達は他の二年に引率されスタンドの階段や通路にバラバラに配置された。

 俺の横には100人を越える野球部の一年が座ってる。同じクラスの野球部員が俺を見てニコリとしてた。新野球部員にとっても今日が初の試合観戦で期待に満ちあふれた表情で座っているが、そいつらが俺達までをも見ていると思うと極度の緊張感に覆われタマキンが天まで上がってしまった(そんなわけあるはずないけどね)。
 ふとスタンド最前列に目をやると例の二人がOBらしき男にペコペコしてる。OBらしき男がニヤリと笑った。“なななんじゃぁ、ありゃ!?”笑った男の歯はその約7割が金歯と銀歯に装飾されロレックスのコンビのように豪華に光っていた、というより“007”の宿敵[ジョーズ]そっくりっていうか。

 俺達が自然体を組み立っているとナカシマからハクタイ(白い手袋)装着の合図。間もなく始まる試合に緊張が高まる。しばらくすると一塁側から黄色のトレーナーに紫の鉢巻きをした名電の応援団風の生徒が3人歩いて来た。名電には応援団が無い、従って生徒会か野球部員から作る急造応援団ということになる。風格も厳つさも全く無い。そんな連中が中京側のスタンドに来るという事はスラム街に迷い込んだ日本人観光客の心境だろう。
 この儀式は応援団間で必ず行われる試合前の挨拶である。挨拶は歴史の古い応援団に歴史が浅い方が出向くのが常である。我が中京は県内はもちろん東海圏でも歴史は一番古く全国でも第四位に位置していた。あの悪魔二人組は第56代にあたる。

 この挨拶で試合前と後のエールの順番を決める。通常先攻チームが先にエールを振り、勝利チームが先にエールを振る。しかし中京にはそんな打ち合わせはいらない。何故なら後攻だろうが負けようが必ず先にエールを振るという不文律が出来上がっているからだ。だから応援団のある古豪、強豪校は「本日は宜しく」と挨拶をして帰るのだが名電の急造応援団はそれを知らずあの二人を怒らせてしまった 「押忍、名電応援団々長〇〇ですが、先攻なので先にエールを振りますがよろしいですか?」
 その言葉に真っ先に反応したのはオオツカだった。目を血走らせ血管がメロンの表面(あるいはキャン玉袋)のように浮き上げ立ち上がった!
「クゥオラ〜、今なんて言ったんだぁぁ〜、あ?この電気坊主〜!」
 ちなみに「電気坊主」とは名電生のあだ名。この電光石火の恫喝に後退りする名電生。
「あの…その…えっ?」
 じわりじわりと詰め寄るオオツカとスタンドの雰囲気に顔面蒼白の三人組。それをニタニタ見ていたヨシダがここぞとばかりに立ち上がる。
「おい、おみゃぁさんたらぁよ〜どこぞの学校にもの言っとりゃぁすきゃ。わしら中京だがね、先攻後攻、勝ち負け関係無しでエールは中京が先に決まっとるぎゃぁ。覚えとけドたわけがぁ〜。分かったらちゃっと帰って応援のまね事でもしとけっ!」
「ししし失礼しますっ」名電生は慌てふためき自軍スタンドへ。
 へっへっへっ、バ〜カ。オオツカが得意満面で笑った。

 グランドでは中京のノックが始まった。初めて見る立ち襟付きのユニフォームは痺れるくらい格好よかった。それとツバが上がった帽子渋すぎる。そんな選手に見とれているとナカシマから次の号令が。「九人エールだ」。九人エールとはその日の先発選手の名前をコールして応援する一発目のエールである。それと同時に団旗を揚げる合図も出る。ピッチャーから順にライトまで最後はフレーフレー中京で締める。
 俺達の初陣が始まった!選手の名前を大声で叫び力いっぱい手を叩いた。両校のノックが終わり最後のグランド整備が始まった頃、団長ヨシダがスタンド最前列中央に立ち上がり、両手を揚げ口上を発した。
「中京ファンの皆さん、並びに先輩生徒諸君。本日は我等中京高等学校に絶大なる御声援をお願いします!」
 この口上を合図に回りの人達に「よろしくお願いします!」と何度も頭を下げ応援をお願いする。万雷の拍手の中「校歌〜、よお〜い!」のヨシダの号令に「ド〜ン!」と太鼓が鳴る。とうとう俺達が練習に練習を重ねたデビュー曲校歌の初披露だ。音程もコブシもビブラートも無い。
 ただただ大声でがむしゃらに歌った。校舎や階段で歌った感覚とは全く違う爽快感が体を抜けた。

 投球練習場のマウンドを見ると未だ現役で頑張る『ハマのオジサン』こと名電のエース工藤が立っていた。
 アンパイアの手が揚がった
「プレーボール!」
 俺達のバカな青春も幕を開けた。

<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾壱

〜一回生の章〜 拾壱


 俺達は初陣となる春季大会を明日に控え最終練習に心血を注いだ。この日は顧問のクマさんも練習に顔を出し、俺達よりもあの二人がふざけないか監視していたようだ。
「集まれっ」。体育館階段に鶴翼に広がっていた俺達はクマさんの号令で急いで横隊の陣をとる。この時のヨシダの動きがワザトラマンエースだった。クマさんまで僅か2、3メートルの距離なのに姿勢を低くしダッシュするのだ。しかも歯を食いしばって。ガキのかけっこでもあるまいし。一番乗りで列んだヨシダの顔は『プロ野球スナック』でホームランカードが当たった時の成績の悪い小学生並みの誇らしげな顔をしていた。

 整列した俺達にクマさんから明日の予定や注意事項が告げられた。
「え〜、明日の試合は熱田球場で開始は朝10時、相手は名電。たぶん向こうは応援団が来ない(名電には正式な応援団が無かった)が、かと言って力を抜いた応援は許されない。OBの先輩方も沢山来られるようだから母校の勝利に向け一生懸命やってくれ。一年生は初めての試合になるが間違えても慌てず大きな声で応援するよう。いいな!それとヨシダ、オオツカ。おかしな学ランは禁止だぞ!特にオオツカ、聞けばマントのような学ランを着てるそうじゃないか、そんなものは論外!見つけたら切るぞ。いいか!そしてヨシダ、お前身体がデカイからといって大きいサイズの学ランを買ったら丈も長かったなどとくだらない事言うんじゃないぞ。決められた制定服で来いよ!」
 図星の二人は苦笑いを通り越し顔面を引き攣らせて乾いた歯茎に唇が引っ付いて離れなくなっていた。
「それと誰か明日学校に来て太鼓と団旗をタクシーで球場まで運んでくれないか?一人じゃ大変だから二人で」
 クマさんの問いに二年のナカシマが挙手した。
「押忍、自分が学校から一番家が近いので一年のウシダと運びます。押忍」
 突然の指名に戸惑うセイゴ(ウシダ)。しかし仕方がない。なんせナカシマとセイゴはおな中だから。クマさんからタクシーチケットを受け取り伝達事項が終わった。練習もここで切り上げ部室へ。長椅子にセイウチの様に横たわるヨシダが翌日の連絡事項をおさらいする。
「明日は9時に熱田に集合だぁ〜。球場横に俺に無断でデカシタ(造った)断夫山古墳(だんぷやまこふん)ちゅう原始人の墓があるでその下のベンチ前に集まれや。分からん奴は地図で調べやぁせ」
 そこでヨシダはタバコを一服。オオツカはマント学ランがバレている事にうろたえ、タバコを吸うどころかシガレットチョコレートのようにかみ砕いていた。
「よし、きゃぁるぞ!」。毎度ヨシダの気まぐれな号令に帰り支度を急いだ。グランドでは明日の試合に備え野球部が金属音を響かせていた。

 明けて当日。鏡の前でソリと眉毛を整えていると「何時からやねん」と親父の声。剃刀と毛抜きを駆使しながら「10時」と面倒臭く言うと「見に行ったろか」と予期せぬ言葉。「学芸会でもあるまいし、来んでええからな」の模範解答に「さよかぁ」と笑う親父。
 次いで玄関で慌てて靴を履いていると「あんた気張りや」と言う声とカン、カンと乾いた音が耳に響いた。振り向くとお袋が石を擦り笑ってた。ヤクザの出入りじゃあるまいに。
「ほな行って来るわ」
 俺はバスと地下鉄で球場へと向かった。

 球場の最寄り駅で地下鉄を降りると老若男女の人の波、波、波。出口が分からない俺はその人波について行った。
 地上に出てしばらく歩くと熱田神宮公園の看板と共に『春季高校野球愛知大会』の横断幕が目に入った。その幕をくぐり奥を見るとバックスクリーンが見えた。先程の人の波はみな球場へ向かっている。俺は指定された古墳を探すも見当たらない。青々と繁る木々のトンネルを進んでいくと、ようやく数人の団員の姿を見つけた。
「お〜い」。タイチ、マコト、マサトの港三銃士が手を挙げて俺を呼んだ。「早いな、で古墳てどこよ?」。俺の問いに「この後の山が古墳らしいわ」とマサト。「へぇ〜」大阪にある古墳と比べると小さいが目前にある古墳だけはスケールがデカかった。そうこうしながらベンチ前でぶらぶらしてるとセイゴが走って来た。
「誰か太鼓と団旗運ぶの手伝って」。国道に止まっているタクシーにダッシュする俺達。そこに背も無い、目も無い、華も無いナカシマが“テメエラ遅いぞ”とばかりに仁王立ち。しばらくすると残りの一年と二年が到着し古墳下ベンチ前であの二人を待つ事に。俺達の前にはまだ途切れない人の波が続いている。そしてその人の波は俺達を好奇の眼で見ている。
「押忍!」。突然ナカシマが大声を張り上げ挨拶をした。
 はっ? 誰に? 何処に?。辺りを見渡すも人波で何が何だか分からない。ただその一般ピープルの彼方から異様な雰囲気が近付いて来ることだけはこの一ヶ月の訓練で感じられた。

 あの二人か?。予感はノストラダムスやサイババよりも的中した。一歩が5ミリの女中歩きのヨシダと一歩が百歩のガリバー歩きのオオツカの登場だ!
 パンピーは恐れて道を空ける。完全にヒールや、世界最強タッグのブッチャー&シーク組より完全に弱いし華もないが、二人は“今この瞬間は僕たちだけのステージ”と言わんばかりに派手に威張って歩いていた。
「おう、揃っとるきゃ。いざ出陣といきゃぁすか!その前にヤニッ!」

 しばらくするとクマさんもやって来た。試合開始30分前、俺たちはクマさんに引率され正面口から球場へと入った。古い球場だが愛知高校野球のメッカだけあってズシリとした歴史を感じる。
 このおんぼろ球場の冷たいコンクリートの階段に一歩足を踏み入れた時から俺の真の団長への道が始まった。
 これから二年半、幾度となく上ることになる階段。もちろん団長として上がる階段になろうとはこの時は微塵も考えていなかった。というよりオシッコに行きたくて堪えられなかった試合直前であった。


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾

〜一回生の章〜 拾


 入学して何が何だか分からない間に一ヶ月が経とうとしている。ただ確実に分かる事は応援団に入りあの二人に翻弄されているということだ。彼等にとって俺達はこのうえないオモチャに違いない。“このままでいいのか?これが夢と希望を抱いていた高校生活か?俺には灰色の”葛藤の日々が流れていた。“はぁぁぁぁ、今日もお唄の練習と発声練習か”。まるで長唄か詩吟を習っているような気分に姿勢は自然と丸くなり、お稽古場、いや部室に向かう俺。部室を目掛け知能指数0で全力疾走する運動部員達とは明らかに覇気が違っていた。

 トロ〜ンとした目で部室を見ると何やら二回生が慌ただしく部室を出入りしてる。
 “なにやっとんだ?熊さん(顧問)のガサ入れでもあんのか?”
 俺はいかにも校舎からダッシュしてきたかのように全身にターボチャージャーのシグナルを送り部室前へ飛び込んだ!
「ハァ、ハァ、押忍!先輩何かあるんですか?」。太鼓台を出し無表情のナカシマに聞いた。
「おう、今度の春季大会にOBの方が試合を見に来るらしい。だから今日からは通し練習だ!団旗を揚げて体育館の階段を球場のスタンドに見立て実戦形式の練習だ。ちゃっと回ししろ!(すぐ用意しろ)」
 細い目をカッと開きまくし立てるちょっとイカすナカシマであった。
 続々と集まる一年にその旨を伝え練習の準備をしていると、あの二人が苦虫をかみ砕いたような形相で部室へと消えた。中から聞こえるのは苛立つような声と困惑するアホ声のデュエット。しばらくして二人がジャージに着替え外に出て来た。俺達はそそくさと急ぎ足で体育館前へ向かう二人の後を大奥の女中のように厳かに追う(足袋はいてスリ足でね!)

 体育館前に着くとまず横隊番号。次いで団長ヨ〜シダの言葉。
「ええきゃ、来週から始まる春季大会に応援団のOBがぎょうさんござるらしいわ(たくさん来る)、うるしゃぁ奴ばっかだでビシッとせえよ!…ところでOBって分かるわなぁ?英語で言うオールドボーイだがや!けどなぁ、うちのOBは“オメデタイバカ”でOBだがね、ハッハッハッ!」
 まるで来年自分が卒業し、そう言われるのを分かっていない発言に“あんたがメデタイ”と思ったのは俺一人ではないだろう。この日からの練習は今までのものとはガラリと変わり実戦モードに入った。
 まずは校歌、次いで団長エール。そして攻撃を想定して「かっ飛ばせ中京やかっ飛ばせ〇〇」といった選手の名前を入れてのエール。
 先輩達の振るエールに俺達一年は声を張り上げ拳を揚げたり、手拍子を打ったり、いわゆる『バック』と呼ばれるポジションを淡々とこなす。ここで余談だが援団用語として『サチコー』という掛け声がある。なにも団長のナオンや西田でも小林でもない。だがこれが『ハマコー』では調子が悪い。『サチコー』とは観衆に呼び掛ける心を込めた言葉で、『さあ、もう一丁行こう!』が短くなり変型したものだ。
 しかし残念な事に応援団が消滅し、現在の体制(野球部員が応援団)になってからこの掛け声はいつしか『幸来〜い!』と言う認識となってしまった。マスメディアが勝手に活字にして広まったと思われるが、『幸来い』などと
そんな女々しい応援がどこにあるか?そんな言葉で勝てるわけないやろ?
 生徒諸君! 若いOB、並びにご父兄のみなさま、あれは『幸来い』でなく『サチコー』=さあ、もう一丁行こうっ!であります。
 さあもう一丁行こう、これを何度も繰り返し少し早口で言ってみて下さい。20秒後には『サチコー!』になります。たぶん。

 話しを戻そう。我が応援団は空手の組み手を取り入れた、「空手拍手三・三・七拍子」や「空手拍手ニ拍子・三拍子」等がある。そのどれもが団長や副団長が演じるものだ。
 それと全国でも珍しい日の丸扇を使った応援の数々。さすがこのあたりは全国屈指(創部歴全国四位、同年に浪商)である。普段ちゃらんぽらんな二人が真剣に型を振っている。それも一糸乱れぬ動きで、、、。
 “スゲェ、やればできるんや。俺達が三年になってあんなに上手くできるんか?”そんな真剣な二人が格好良く見えた、ちょっとだけね。いや、ちょっとのさらに半分、量にして耳クソぐらい。
 こんな気合いの入った練習が数日続いた、、、俺達はその中で校歌より有名で、選手はもとより生徒いやOBまでも熱くさせる「応援歌」の練習に時間を割いた。この応援歌の副題がなんとも凄いというか威張ってるというか、、『応援歌〜天下の中京』なのである。あの『陸の王者慶應』もぶっ飛ぶタイトルである!俺達はデビューシングル『校歌』に続き、セカンドシングル『応援歌』を来る日も来る日も歌い続けた。
 ちなみに聖子ちゃんのセカンドシングルは『青い珊瑚礁』です。こういうことも応援団にとっては大切な知識なんです。

 そして目前に迫った春季大会。この年の愛知県は後のプロ野球界で活躍する逸材がゴロゴロしていた。その年の春の選抜に出場した大府・槙原(巨人)、愛知・浜田の彦野(中日)、名電の工藤(現横浜)等の豪華な顔ぶれが並んだ。
 そして俺達の初陣は名電戦と決定。
 その日を前に我が応援団は一層力の入った練習を繰り返した。夕陽を浴び初夏のような風を受ける帰りの坂道で、俺達の顔が少し引き締まったように見えた初陣二日前。
 遥か甲子園に続く空が茜色に染まっていた。


<続>

今回は応援歌『天下の中京』を掲載させていただきます。

“天下の中京”
思え天下に中京の
名を響かせし先人の
その華やかな歴史をば
継がんと健児血涙の
錬磨の力悔ゆるなく
示すは今ぞ友よ起て
中京、中京、天下の中京



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 九

〜一回生の章〜 九


 初練習から一週間ほどが経った。来る日も来る日も校歌の合唱。そのうち輪唱ができるんじゃねえかと思うくらい上達している。そんな俺達をよそにあの二人は団長エールや三・三・七拍子等の型を振るでもなく、田中角栄の様に日の丸扇を目出たくパタパタさせている。
「おうオオツカの、今日は栄(名古屋イチの繁華街)でも繰り出すきゃ!」とヨシダが言えば、「待っとったぎゃ、キョーデェー。地下の茶店にえぇナオン発見しちゃったもんね。僕ちゃんとっぴ!(捕った)」などと相も変わらぬ低IQで下半身には高カロリーな話に花を咲かせるとろんとろんな毎日。
“コイツらの本性が分からん。いや分からんほうが幸せか”みたいな、まるでどーだっていい日々を俺たちは送っていた。
 そんなある日の朝、教室へ着くとセイゴとコウタロウ、マコトが一人の男を囲んで話していた。
「ウィ〜ッス。朝からどしたん?恐喝やいじめは級長の僕が見逃さないぞ」と善人ぶってその輪に顔を突っ込むと、クラスでもあまり目立たないチーム所属の「シモムラ」と言う小柄な男が立っていた。
「ニシオ、コイツ応援団に入りたいって言っとるけど、どうする?」
 セイゴがシモムラの肩をポンと叩き言った。
「はぁ〜?お前が応援団?やめとけ、やめとけ」と優しくそいつに言うと、
「なんかオマエら見てたら楽しそうだし、先輩も少なそうだし」
とシモムラはボソボソ。
 そこへ毎朝ヨシダの付き人をしているイナモトが登場。
「はぁはぁ、オッス。まぁあの人ん等にはまいるて。タバコ買い忘れてたら蹴られるし、モンチャン(学ラン)のたたみ方が汚いって殴られるし、やっとれん!ところでみんな朝から何しとん?」
 一気に喋りまくったイナモトは机にへたり込んだが、事の次第を話すコウタロウにイナモトは飛び起き、気合い一発!
「入りゃええが、頭数多い方が何かと都合ええで。あっそうや、俺のおんなじ中学だった奴が商業科におるけどそいつも今日から来るで。みんなで運命共同体や!」
 先輩からの怒りやヤキを分散しようとしているイナモトの浅はかな考えは一目瞭然だったが、入部を口にしてしまったシモムラはその流れに逆らえずその日の放課後部室へ行くハメに…

 部室前に着くと見た事の無い、妙に厳つい男がひとり、日本海の岸壁を連想させるよう演歌チックに直立していた。
「お〜、トンぶぅ〜」
 イナモトが手を振り呼び掛けた。コイツがイナモトのツレか。オッサンみたいやな、眉毛ねぇ〜し少し髭生やしてるし…なんて外見から四の五の詮索していると、そいつが俺達に近付いてきた。
「オッス、トヨダって言うもんや。よろしく」
 低くドスの効いた声と風貌は既に二回生の馬鹿どもの薄っぺらい貫禄を2.5ゲームほどリードしてた。それに比べ我が部のニューフェイス・シモムラときたら、「シモムラです、よろしくお願いします」と生徒会長に立候補した「童貞臭いガリ勉君」の様にペコペコしてた。

「来たぞ!整列っ」
 統制のマコトの声に横隊する俺達。慣れない二人も見よう見真似で列に加わる。
「押忍!」体育館横の通路にあの二人が現れた。ヨシダは巨漢のくせに歩幅が小さく急ぎ足でちょこまか歩き、オオツカの一歩は小学校低学年の幅跳びくらいの迷惑な歩幅で、さらに擦り足がに股で脇目も振らずただ一点だけを見つめダメな武士のように闊歩している。
 今や見慣れた登場シーン、新入部の二人の目にはどう写っているのやら…。
 ヨシダはそんな新入部員に気付く事も無く部室へ、しかしオオツカは普段から張り巡らしている妖怪電波に二人をキャッチしたのか鉄扉前でピタリと止まった。漫画でよくある“ギヌロ”というフキダシがそのまま頭の上につくような視線で新顔をなめ回す様に見ていた。
 あ〜あロックオン入っちゃったよ。本当この人の視線はアナコンダが獲物に巻き付き、今まさにフォークとナイフを用意して無茶苦茶なテーブルマナーで食わんとしている様や。ほんと毎日蛇をツマミにハブ酒でも呑んでんじゃねえか?クワバラ、クワバラ。
 俺の妄想どおり二人に恐怖心を植え付けたオオツカはニヤリと笑い部室に消えた。
 しばらくして部室内へ入るよう、二回生から指示が出た。狭い部室にはタバコの臭いが充満し、ゆっくり煙りが靡いていた。
「おっ!?新入りさんきゃ?よういりゃぁたね(よく来たね)。名前はなんて言ってちょうすきゃ?(名前を言ってくれ)」
 ヨシダの口から発せられる名古屋弁はいつも婆ちゃん言葉で、しかも声が高い。後方に立っていた二人は俺達の間を擦り抜け最前列に立った。
 躊躇する二人に、「僕ちゃん達名前は?それと姉ちゃんか妹、すなわちシスターがいたらそれも知りたいなぁ〜」
 どこから見ても取り立て業者のような質問を浴びせるオオツカ。
 対するニューカマー、最初に口開いたのはトヨダであった。
「一年商業科、トヨダです。よろしくお願いします。小学生の妹が一人います。」
 オオツカの質問に正直に答えるトヨダにヨシダは大笑い。しかしオオツカは真顔で返す。
「小学生きゃ、まだ蒼いなぁ、ちょっとムリかも」
 その本気なコメントからも全身が海綿体で構成されていることが十分にうかがえる、海綿体の金太郎飴みたいなビバ・オオツカ!
「次っ」
「一年普通科シモムラです、よろしくお願いします。姉が一人います。」
 その言葉にオオツカは超反応し横臥していた体を反り返す勢いで起き上がり首をろくろ首の様に伸ばし顔をシモムラに近付けた。
「い、い、今、姉って言ったよな、姉って。お姉様はお幾つなられるのかな?はたまた何をしていらっしゃるのかな?して綺麗きゃ?シモザワ君!」
 あかん、この人まぁはい鼻の下伸びきっとる。完全に時代劇のスケベ代官や。名前も間違えとるし、完全にアホのレッドゾーンはいったわ。
 そんな海綿体代官に下村は生真面目に解答する。
「姉は7つ上で銀行員です。世間では一応綺麗と言われてます。それと僕はシモザワでなくシモムラです。」
“綺麗”と“年上”さえ入力すれば、名前なんてどいうでもいい海綿体先輩は激しいダンスを交えて叫んだ。
「シモザワでもシモムラでもそんなもんどっちでもエエわ!要はちゃん姉よ。なぁ、キョーデェー!」
 今会ったばかりなのに兄弟になるのがオオツカの特技である。ただし年上お姉さんがいる場合に限るが…。
「あーこれこれ、シモムラ君とやら、僕かオオツカ君は将来君の兄になる可能性が出てきた。学校生活で困ったり、ここにいる他の一年のたわけどもにいじめられたら、直ちに僕かオオツカに言いなさい。エエきゃおみゃぁさんたー、今日からシモムラ君は幹部候補だで丁重にもてなせよ。おみゃらは着替えて外周(学校周り)走って来い!ささ、シモムラ君は僕達と将来についてとかお姉様達との合同コンパの予定を立てようじゃないか!まさに君は我が部のドラフト1位指名。ゴールデンルーキーということですね。へっへっへっ」

 馬鹿だ…バカすぎる。シモムラの安否が気になりつつもジャージに着替え外周を走る俺達。坂道ではあの白豚イトウが自慢の鈍足を披露していた汗ばむ陽気の春真っ只中だった。


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 八

〜一回生の章〜 八


 いよいよというか、やっとというか初練習の日が来た。

 仮入部から2週間、応援団らしい事と言えば『押忍』と言う挨拶を覚えた事と毎夕の行列できちんと列んで歩く事くらいか、、、。
 授業が終わりいつものように部室へ急いだ。グラウンドや他の部室はいつもの光景があったが、我が応援団の部室は今までと違うただならぬ雰囲気が漂っていた。
 あの悪魔二人組が早々と部室へ来て、タバコも吸わずジャージに着替え軽いストレッチをしているではないか!

「やあ〜君達、早く着替えて練習をしようじゃないか!」
 前屈しながらヨシダは見せた事もない笑顔で森田健作ばりに爽やかに言った。しかし身体が硬いのか張り出した腹が邪魔なのか、やっぱりデブなのか前屈体操というより軽い会釈にしか見えない動作で額に汗し、先程の爽やかさはぶっ飛び、暑苦しさだけが残った。
 その横ではオオツカが試合前のボクサーのように首を回し、指っをポキポキ鳴らし、時折回し蹴りのような格好を俺達に見せ付け威嚇していた。その眼はまさしく獲物を見つけたアナコンダのようで冷たく光っていた。
 俺達は部室前でパンツ一丁になり急いで着替えをした。

 しばらくすると二回生達も集まり、部室内で着替えを済ませ点呼が始まった。
 中京のジャージは学年別で色分けされていた。それは入学時に決まった色を三年間通して着るのである。俺達一回生はこの春卒業した先輩達の色【緑】三回生は【紺】二回生が一番しょぼく【えんじ】に別れていた。
 そして丸襟、手首、ズボンの側面には【赤、白、青】の通称(中京ライン)があしらわれている。

 総勢20名の点呼が終わりヨシダからの指示が飛んだ。
「よし、今日の練習場は校舎屋上だ。ウチヤマとヤマダ、イナモトは和太鼓と台を持って行け。残りは屋上までダッシュや!校舎横の螺旋階段を上がって行け、2年が後をぼう(追う)から抜かれたらヤキやぞ!行け〜!!」
 ヨシダの号令と同時に俺達は屋上目掛け走り出した。部室から100メーターぐらい走ったところでまたヨシダの声がした。
「行きゃぁせ!!」全力疾走の中振り返ると二回生四人が一斉に走り出した!
「来たぞ!」横を走るセイゴが言った。
「余裕だろ、こなけん(これだけ)距離があるで」
 と余裕のヨッチャンで振り返った俺の眼に恐ろしい現実が映った!?
それは同期で眼鏡でデブで信じられない程鈍足のイトウの姿だった!
“なんだてあのデブ、100メーターもビハインドがあったのに。まぁはい(もう)50メーターぐらい詰められとるだにゃぁか!”
 その後ろを必死の形相で走る二回生に脅威を感じながら俺はセイゴを呼び止めた。
「セイゴ、イトウがヤバイてっ!待っとって連れてこまい!」
 するとセイゴは足を止め、
「イトウ、早よ走れっ!無理ならそこで死ね!」
 激励とも罵声ともとれるセイゴの声にイトウは顔色を変え眼鏡をずらしながらシフトアップした。二回生のムラマツがもの凄い脚力で猛追して来た。
 イトウは体を左右に振り息も絶え絶えで顎を上げ顔を真っ赤にし、今にも転倒しそうだった。
「イトウ〜早よせえや!」セイゴが手を伸ばし叫んだ。
 ムラマツがあと20メートルぐらいと迫った時、俺とセイゴの間にイトウが倒れ込むように体を預けて来た。

「ハァ、ハァすすまん」「喋るな、行くぞ!」
 俺とセイゴはイトウを両脇に抱え螺旋階段に向かった。“階段は狭い、俺とセイゴが壁を作り背後の二回生をブロックしてる間にイトウを先行させれば抜かれずに済む”この超ナイスで古典的な作戦に、後ろからぼって来た(追って来た)ムラマツが金切り声で
「どけぇ〜、お前等!こっすいぞ!(卑怯)」
 と叫びながら俺のジャージに手を掛けた。“何するんだ、この青瓢箪。うっとーしい”それを見たセイゴがムラマツの手を振り払おうと必死だ。
 俺は引きずられながら叫んだ。
「ウオリャ〜!イトウ早よ行きさらせ〜!」
 ジャージが伸び首が絞まりそうになりながら再度叫んだ。“抜かれたら終わりや、なんであの白豚のせいで俺とセイゴが、、、クッソ”怒りの矛先がイトウに向いた時、
「着いた〜!」
 とイトウの声がした。
 上を見上げると螺旋階段もあと半周程で屋上の距離にいた。
「セイゴ行けぇ〜!」命じた声にセイゴは
「アホか一緒に行くぞ!」と俺の腕を掴み階段を駆け上がる。
 俺を掴むムラマツはもう抜く力が残っていないようだった。三段、二段、、、
「ヨッシャ〜!ウォォ〜!」
 屋上に倒れ込みながら二人は叫んだ。
 俺から手を離したムラマツもくたばり果て膝を落としうなだれている。
 俺は仰向けになり猛スピードで深呼吸を繰り返した。目には青い空がものごっつく綺麗に映っていた。そんな小さな感動を感じていると、その青空を隠すようにひとつの影が俺を被った。

「誰や?」逆光で姿が見えない。すると俺の顔に滴がポタポタ落ちて来た。“なんじゃこれ?”生暖かい滴は汗と分かり気持ち悪さで跳び起きると、真っ赤な顔から蒼白になり本物の白豚になったイトウが立っていた。
「ハァ、ハァ、ゴメンな俺のせいで。ハァ、ハァ」
 息まで生暖かいイトウを突き飛ばし
「おみゃぁのせいで、まあちっとでヤキだったがや!セイゴにも謝れっ!」
 激高する俺に一瞬怯んだイトウはセイゴにも頭を下げた。
 そうこうしていると額がナイアガラの滝みたいになった太鼓を担いだタイチとヤマダ、太鼓台を抱えたイナモトに残りの二回生と悪魔二人組が屋上に到着した。
「あ〜あ、ええ天気だなも。練習なんかやっとれえへんわ」
 大あくびと共にヨシダが言えば
「本当だなキョーディ、こんな日はお姉ちゃんとチョメチョメに限るわ」
 と腰を高速回転させながらヘラヘラ笑うオオツカ。“本当この二人は天気同様、脳天気やわ”呼吸を整える俺達にナカシマから号令が、、、

「整列!」
 その声に横一列に並ぶ。続けて、
「横隊番号!」「1、2、3、・・・14。1年14名異常ありません!」
 点呼を終えた俺達をヨシダとオオツカがなめ回すように見ていた。
「1年、抜かれたもんはおれせんのきゃ?」
 統制のマコトが「押忍、おりません」と答えると
「ほうきゃ、優秀だぎゃ」と少し残念そうにヨシダが言った。
 オオツカは俺達を抜けなかったムラマツの前に無言で仁王立ち。オオツカを直視できないムラマツは俯きながら口を開いた。
「押忍、すいません。ニシオとウシダ(セイゴ)が邪魔をして、その、、、」
 そんな言い訳をするムラマツに
「へっへっへっ。ほうきゃぁ〜、邪魔されたきゃぁ〜?役者やのぉ〜」
 と、あの『嗚呼!!花の応援団』の名台詞を吐き捨て睨みを効かせるオオツカ。
 その眼光と迫力に俺達は背筋を凍らせた。しばらくの沈黙の後
「よ〜し校歌だ、おみゃ等覚えたやろなっ!1番、2番をええと言うまで歌い続けろ!ムラマツ!太鼓!」
 ヨシダの命令と共に自然体をとり合図を待った。ナカシマの「校歌〜、よお〜い!」の号令で太鼓が鳴った。(ドン、ドン、ドンドンドン。押忍!)
 初練習である校歌が始まった。最初の1番が終わるや否や、悪魔二人組は二回生のヤスオを屋上の隅っこに呼び、あの“焼肉パーティー”なるへんてこな歌と踊りに爆笑を繰り返し、これっぽっちも俺達を見ていなかった。
“全くあの二人は何を考えているのか、、、。”

 俺達は歌い続けた。30回以上はリピートしただろう。そして頭がぼーっとし声がかすれ始めた頃、
「あれっ?おまえん等まんだ歌っとったんきゃ。そろそろ夕方、ご近所に迷惑だろ。それも下手くそな歌で、お空でカラスがにゃぁとるで、まぁきゃぁってくぞ(帰るぞ)」
 全くジコチューというか適当というかヨシダの言葉に開いた口が塞がらない。
 とどめはオオツカの
「テメェ等、ちゃっと帰るぞ!おはようスパンク見逃したらヤキだでなっ!たわけ!!」
“おはようスパンクだぁ?その顔とキャラで。勘弁してくれよ〜”

 結局二人の暇つぶしに付き合わされた練習初日。【デビルブラザーとヤンキー達】という名でテイチクレコードからデビュー出来るくらい校歌を歌い込んだ。

<続く>


 今回は、今春の選抜高校野球に出場が決まった我が母校を祝し校歌を掲載させていただきます。

『中京高校校歌』
ここ八事山 東海の
大都名古屋の 東に
中京の名を 負ひ持ちて
城と守る 我が学びの舎
凜乎とかざす 真剣味
見よ躍進の 先輩の業績



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 七

〜一回生の章〜 七


 正式な応援団員になって数日、ひとつだけ気になっている事があった。応援団の顧問の先生が誰であるか知らない事だった。
 どうせこの応援団の顧問、教員の中でも1、2を争う猛者だろうと勝手に考えていた。
 それにしても姿を現さないのはどういう事か?そんな疑問をよそに部室では毎日練習をするでもなく、何かを伝授されるでもなく悪魔、二人組の馬鹿話を聞いたり、タバコの火付け係りと見張り番、行列をなしての下校の毎日。たまに笑いがあるとすれば二回生のヤスオ先輩が二人にイジられ意味不明の“焼肉パーティー”というダンスを踊らされているのを見ている時くらいだった。
 俺たちに何か変化があったといえば足元が革靴に変わっていたくらいかな。

 それから数日、いつものようにタバコの見張りで部室前に立っていると校舎の方角から、Yシャツにスラックス、170センチやや痩せ型の先生らしき人物が食堂横(異常報告線)を突破しこちらに向かって歩いて来た。
 どうみても真面目そうな先生で応援団に縁もゆかりもないような先生だったが規則により部室内に報告。部室内から「どんな感じの奴だ?」との問い合わせに「はぁ、七三分けでカッターにズボンのおとなしそうで少しニコニコして歩いてる根菜みたいな先生ですけど」と鉄扉の隙間から応えるや否や、部室の中からナカシマとムラマツが大慌てで外へ飛び出した。室内を見るとまるで火事の火を消すかのようにイナモトとタイチが学ランでタバコの煙を仰ぎ、オオツカはオリンピック日本代表応援団のお爺さん(あの人、きっとすげー金持ちだと思うわ)のように、日の丸扇子で煙を扇ぎ、ヨシダはトイレの消臭剤をスペシウム光線のように煙に噴射してた。
 その光景を見て(ハッ!?もしかして顧問の先生か?)という疑問が頭を過ぎった。
 ナカシマは小声で「1年整列、整列」と普段大仏のような細い目を仁王様のようにカッと見開き指示を出す。ムラマツは自然体で先生を迎える態勢に入り微動だにしない。
 そして先生が剣道場(結界)を通過した時「押忍!」とナカシマが声を張り上げ挨拶、それに倣い俺たちも続けて挨拶をした。

 初めて見る俺たちに少し笑顔を浮かべた根菜先生。(こんなおとなしそうな人が応援団の顧問?)そんな疑問は秒殺された! 先生の顔が一瞬で別人に、、、、眉間には顔面の90パーセントのシワが集まり目つきはオオツカの何百倍も鋭くなって部室前に立った。
「ヨシダァ〜!、オオツカァ〜!」名前を呼ばれた二人は身を寄せ合うようにというかヨシダの巨体に押し出されるように奥から出てきて先生に挨拶をした。
「押忍!」
 俺たちは二人が頭を下げ挨拶をするのを初めて見た。
 部室の中からはタバコの匂いとヨシダが撒き散らした消臭剤(キンモクセイ)の匂いがブレンドされた異臭が放出し変にトリップしそうだった。
 先生は鬼の形相で二人を睨んだ。ヨシダはパンパンに張った面の皮がヒクヒクと動くくらい緊張し、オオツカはモグラが通った跡の土のように額に血管を浮き上がらせ瞳孔をフルオープンさせていた。
 先生は黙ったまま二人を睨んでいたが、暫くして三回生と二回生とともに部室に入った。中からは先生の声は聞こえないが、あの二人と三回生の「押忍」という大声が何度も連呼されていた。

 俺たち一回生は妙な緊張感に包まれ雑談を止め目前の野球部の練習を黙って見ていた。
 俺たちと同じ一回生の野球部員は約130人、1塁3塁側のフェアラインの後ろに並び大声を出し言わば球拾いをしていた。その列は両翼のポール際にまで達する人間フェンスあるいは人間ドミノで、どちらも欽ちゃんの仮装大将で赤ランプに到達する見事さだった。
 数分の後。俺たち一回生も部室に入るよう指示された。3m×3mほどの狭い空間に20人、すし詰め状態の中で先生の挨拶が始まった。

「1年生のみんな初めまして、応援団顧問の熊谷(クマガイ)と言います。僕は3年を受け持っているので君たちとはなかなか接する機会が少ないが、ここで会ったのも何かの縁ということでこれから宜しく。そして応援団というものは一見派手でありますがその活動というのは実は地味で各クラブの応援活動のみです。成績や表彰といったは類は無く地道に母校を勝利に導くための活動ですが、勝利した時の達成感や感動は他ならないものがあります。厳しいこともあるが、頑張って下さい。押忍!」
 
 手短ではあったが見た目と違い男気ある挨拶に武士のような潔さを見た。
「ヨシダ、オオツカ、何もないなら早く帰れよ」
 先生の言葉にヨシダは「押忍」と首を竦め、オオツカは“そりゃごもっともで”と越後屋みたいなウソ臭い笑顔で手を揉み、そのまま部長の接待ゴルフに付き添うセクハラ係長のようになっていた。
 先生が異常報告線を越えるのを確認すると三回生、二回生そして俺とセイゴが部室に入った。
「まいったなぁ〜、兄弟(キョウディヤー)」とオオツカが寅さんのタコ社長のように扇子をばたつかせ、ムラマツから咥えさせてもらったタバコをふかし言えば
「1年、おみゃぁさんたぁよう、なんのために見張りをやっとんだ!ドたわけ!」
と噛んだタバコがふにゃふにゃに見えるくらい上下させてヨシダが言い放った。
 ちなみに「ドたわけ!」はたわけ=バカの最上級であり、これ以上のバカはいないという、御菓子で言うならばモンドブレッソみたいな勲章である。

 俺とセイゴはただただ謝るばかりであった。二人の喫煙タイムが終わると、外にいる一回生全員が呼ばれ一回生の体制と今後の活動について話が始まった。
「1年っ、おみゃぁさんたぁの中でも統制(まとめ役)を選ばなかん。いわば1年の団長だがや。誰ぞやりたい奴はおりゃぁすか?」
 刑務所のサーチライトのように首を左右に振り俺たちを睨むヨシダ。それをよそにオオツカはヤスオをイジって遊んでる。
 誰も挙手しない俺たちに痺れを切らし「ほんなら俺が決めるで、ええかっ!」と言って名前を書いた大学ノートを開くヨシダ。
「ん〜、んんん。ほうきゃイケダおみゃぁさんがやれ!ええきゃ下手うったら即交代アンド焼きアンド連帯責任の3点セットや、ええきゃぁ〜!」
 きゃぁ〜きゃぁ〜と活字の上では可愛いが、これが全部オールバックに剃り込み&眉毛ピューなむさ苦しい男たちの声だから始末なし。
 指名されたイケダ(マコト)は有無も無しに「押忍」と返事。
 俺たちに拒否や固辞と言った言葉や表現は無い、有るのは『押忍』のみだ。
 それを聞いたオオツカは「兄弟、なんでまたイケダなんだ?喧嘩が強いとか唄が上手いとか家族構成で年頃の姉チャンがおるとか?」
 聞いて呆れる質問事項にヨシダの出した答えはそれを遥かに超えるものだった!?
「そんなもんアイウエオ順に決まっとるがね!」
(はぁぁ〜? 中京の応援団が、それも次期団長候補の座の統制をアイウエオ順やとぉぉぉ〜。なんちゅういい加減、なんちゅう適当、そんなんでええのか!)。意見が出来ない俺たちは当のマコトを含め皆目が点。
 しかしそれを聞いたオオツカは「うん、うん。それが一番ええ、アイウエオ順は世界共通、世界は一家、人類皆兄弟。一件落着、よっ名奉行!」(世界共通?人類皆兄弟?名奉行?だめだこりゃ、この二人はおかしい)真剣に二人の脳みそを疑っていると
「そうきゃ、名奉行きゃぁ!」と頭を撫で照れるヨシダ。
(いよいよ重症や、こうなると知能はパンダ以下や)
 落胆し目がうつろになりかけた時
「よし!春季大会にむけて練習でもやるきゃ!あっ、ほんでも今日はエミコん達と茶店行く約束があったで、やっぱ練習は明日からにし〜よせ。はっはっはっ」
 脳超ド天気のヨシダ。パンダを超え虫以下である。

 そしていざ帰るとなると夜逃げのように素早く機敏に部室を出る二人。
 駅へ向かう坂道にはいつものゴキブリ行列が、、、、、
 団長エールを振る第一歩を明日に控えた、夕暮れ。
 サンセットが綺麗な空だった。


 <続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 六

〜一回生の章〜 六


 本入部を明日に控えた日曜日、俺は遅まきながらの入学祝いと食事をご馳走になりに叔父さんに招かれた。場所は人気の焼肉屋。慣れた調子で注文する叔父さんが「一杯呑むか!」と15歳のボーイに“生大”を差し出した。
 小学生から親父の晩酌に付き合い、中学の頃にはマイビールを備蓄していた俺にとって“生大”なんて朝シャン前だった。
 テーブルに咲いた霜降りロースやタン塩の花が俺の腹に収まっていく。まるでギャル曽根、いやゴリ西である。
「ところで栄一、野球はやらんのか?」。
「野球?あぁ、やらせんよ。野球は中学で終りや、たかだか名古屋市で優勝したくらいでは無理や。それに一年だけで百数十人おる。特待はもちろん半特や推薦、県外からもえらい来とるわ。無理、無理っ」
 小ニから野球を始め中京に入って野球をやると思っていた叔父さんはちょっとガッカリ&ちょっと怒って「そんなら何やるんだ?」
 目の前には二杯目の“生大”がダイナミックに用意されていた。
「ああ、とりあえず応援団やろうと思うとるわ」
 この何気ない言葉に叔父さんの動きが止まった。
「応援団?あの“チョンワ、チャンワ、クエッ、クエッ”か!」
(※“チョンワ、チャンワ、クエックエッ”とは、どおくまん作『嗚呼!!花の応援団』の主人公(青田赤道)が絶頂時にとるポーズである)と青田の真似をしながら爆笑した。
 俺はその間抜けな動きを見ながら「いや、たぶんまともやと思う」とテンション低く答えてみたが、青田赤道のキャラが大塚副団長と被り思い出し笑いで噴いてしまった。
 
 肉どもをたらふく喰い、余裕で“生大”を三杯飲み干した俺は、いい気分になり「おう、オジキよ、団長になって甲子園行ったらぁ!」と巻き舌で吠えた。
 まさか、この確信も信念もないガキの遠吠えが、二年半後には現実になるとは誰も思っていなかっただろう。

 明けて月曜日、強烈なニンニク臭と少しのアルコール臭をお供に半寝状態で地下鉄に乗ると、例のミット音が!
“番長や!”。
 その鈍く重い音が俺の中枢神経を叩き起こし現実の世界へと引き戻した。
 二人前の座席にほぼ180°開脚の御仁。
「おお、、押忍」
 まだ慣れないぎこちない挨拶に「おう、チビちゃんおはようさん。ええあんばいきゃ」と流暢なお婆仕様の名古屋弁でニコリ。言葉の意味が見つからない俺は、とりあえず「押忍」と答えた。その横にはいつもの二年生の先輩がSPばりに立っていた。
 この男、兵庫から野球留学で来た、出口という。にこやかな番長とは対称にいつも不動明王みたいに睨みを効かせてた。だが、この男が現在の俺のギャグ魂を形成し、揚句の果てに人生を左右する人物になろうとは知る由も無かった。

 乗り換え駅の上前津に着き、鶴舞線のホーム最後尾に立った。長いホームは通勤・通学客で溢れかえっている。ふとホーム後方に設置されたモニターに目をやると、一台はホーム最前列を、もう一台はホーム中央
を映し出していた。
 最前列のモニターには女子高生がバーゲンセールのワゴン品みたいにわんさかいる。“ええなぁ〜”と心の中でポツリ。さて中央のモニターはどうだ?
 んん? 人影が映ってない? それどころか画面一面真っ黒だ。
 しばらくして自動調整のカメラが引いたのだが、そこに映し出されのはヤクザものの映画を観た後に映画館から出てくるような、眉間にシワがより過ぎて、まるで肛門のようになっている吉田団長と大塚副団長だった!
 ガビ〜ン!! やべっ、あの二人だよ。よりによって同じ電車かよ。俺は悩んだ。挨拶すべきかスルーすべきか? と考えるよりも体が先に反応し、柱の影に身を隠した。それから電車がくるまでの数分は柱からモニターを覗いたりまた柱に隠れたりと、当時の広島カープの古葉監督か、あるいは巨人の星の明子ねえちゃんのように落ち着きつきなく小刻みに動いた。

 プワーンッ。電車がホームへ入って来た。俺は彼等に見つからない様細心の注意を払い電車に乗り込もうとして、最後に入念なチェックと思いモニターを見た。
 すると、なんとモニターの中の大塚副団長と目が合ったのだ!
 ギョエッ〜! バ、バレた、見られた、どうしよう? いや相手からは見えるはずがない。落ち着け、でもあの人ならレンズ越しでも見通すかもしれん。なんせあの眼力だ…全身に悪寒が走り嫌な汗が出てきた。

 学校までの車内はいつも生き地獄だった。降車駅に着けば着いたで彼等にバレないよう、太陽にほえろの山さんみたいな尾行スタイルで校門を目指した。
 なんとか無事教室にたどり着き、まだ朝礼も授業も受けてないのにヘトヘトの俺。
 男子1700人の軍隊式朝礼を終えイナモトやセイゴ、マコト達と本入部について語ると、どうやら皆、一応入部するつもりらしい。そして6時間の授業を終えいざ部室へ向かった。
「あれ?トシは?」いつも後方を歩いてる同じクラスの中村がいない。
「逃げたか?」セイゴが辺りを見ながら呟いた。
「まっ、ええぎゃ。あいつでは無理だて、行こまい、行こまい」
 クールフェイスのコウタロウが言った。

 部室前に着き他の連中を見渡すと、先週より少し人数が減っていた。
「カトウは?」首を傾げながら雑談していると、知らぬ間に2年の中島と村松がものすごいボリュームで怒鳴りだした。
「テメェら挨拶はぁ? あぁ? だべっとんじゃねえぞ! ちゃんと整列しとれボケぇ!」
 明らかに先週までの態度と違う中島。“なんじゃこの目無し、いつも先輩にイジられヘラヘラしとるくせに”。
 軽くガンを飛ばすと、「おい、先輩にとる態度じゃねえな」と村松。
“おい、おい、本入部となるとコレもんかよ。頼むぜ大将”。
 不快感を露わにしていると中島の声が響いた。
「押忍っ!」
 体育館横の通路にあの二人が!俺達も続けて挨拶をする。
「押忍っ!」
 いつもは少し愛想笑いをする吉田団長の顔が強張っている。いつも鋭い眼光の大塚副団長の目は強烈に血走っていた。
“どうしたんや? 今朝の地下鉄の行動がばれたか?”。またまたいやな悪寒が走った。
 部室内の先輩から「1年入れ!」の声が、、
「失礼します」「失礼します」。続々と部室に入る俺達。
 ひと時の静寂の後吉田団長が口を開いた。
「今日ここへ来たと言う事は、どういう事か分かっとりゃぁすか?」
 何故か俺を見た。答えを躊躇する俺に再度、団長の声が響く。
「分かっとりゃぁすか?」
「はいっ。本入部するためです」
 答えるや否や「『はい』だにゃぁ、返事は『押忍』だぁぁぁ」と大塚副団長のソプラノが部室中に響いた。
「まっ、ええぎゃノブヒコ。順を追って教えたりゃぁ」

 早くも吉田&大塚の『飴と鞭作戦』が開始された。そして本入部第一弾の命令が若き兵隊達に告げられた!
「ええきゃ、一週間の猶予をやるで全員革靴を揃えろ。応援に学ラン・革靴は当たり前だ、ええきゃ」と団長命令が下った。

 その後は葬式の記帳のように、氏名、クラス等を大学ノートに記入させられた。そしてなんとか第一日目が終わり帰宅できるのかと思いきや
「よし、全員できゃぁるぞ!(帰るぞ)」と吉田団長。
 部室前に二列に並ばされた俺達は、先頭の団長・副団長、その後ろの二年に続きゾロゾロと歩き始めた。
 それは、大名行列でも凱旋パレードでもなく、目付きの悪いゴキブリの行列のようだった。
 まさかこの行列が毎日続くとは誰も知らない本入部初日。
 それは団長への地獄の階段を登り始めた日でもあった。


<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 伍

〜一回生の章〜 伍


 応援団に仮入部して2、3日が経った。仮入部の俺達は何も考えず毎日のんきに部室へ出入りしていた。その日もただ先輩達の馬鹿話しをしたり、聞きたくもない応援団の歴史等をダラダラと聞かされていた。
 なぜか吉田団長が一本の棒を持ち出し、そのただの棒きれの中に歴史が詰まっているかのようなマジックショーみたいなウンチク話しが始まった。

「ええきゃ、お前さんたぁ〜。これは代々受け継がれてきた精神棒という。この棒には先輩方の汗と血が染み込まれた由緒ある棒や!時に厳しく時に優しくお前達を立派な団員にしてくれる有り難い物だ。粗末に扱うなよ、ええきゃ!」
 そう言ってその棒を手渡された俺達は腫れ物を触るかのようにその棒を回し見した。側面には〈精神入魂〉や校訓である〈真剣味〉の文字が書かれていた。それも恐ろしいほどキタナイ字で。
 そしてそれは小学校の修学旅行で誰もが買い求めた、東大寺の文字入り木刀より粗悪でただの棒きれを誰かが暇にまかせ彫刻刀で削って作ったパチ物だった。
 “こんな棒を由緒あるなんて何考えてるんやろ。『うまい棒』の方が歴史があるわ”と小馬鹿にしながら感心するふりをして見ていた。
 それにしても絞まらない話やなぁ、とふと視線を上げるとあの爬虫類男、いや副団長であり親衛隊々長の大塚先輩がまたまた冷酷な薄ら笑いを浮かべ俺達を見ていた。そしてその棒きれの使い手が大塚副団長だと言う事を後日思い知らされる事になる。

 そうこうしていると部室の重く冷たい鉄扉が軽々と開けられた。
「おるきゃぁ〜!」
 名古屋弁丸出しで威風堂々と登場したのは野球部の正捕手であり総番長の吉田先輩だった。
「おう、サトシどうしゃぁた?」W吉田のサトルがこれまた丸出しの名古屋弁で聞くと「おみぁさんとこの新しい兵隊見に来たんだぎゃぁ」そう言って俺達達にイチベツをくれる。すると「おっ、チビちゃんおみゃぁさん援部に入りゃぁたか。しっかりやりゃぁせよ」と、まるで戦争で旦那を亡くした婆ちゃんが使うような懐の深い名古屋弁で俺の頭を撫でた。
 そして今度は「あるきゃ?」とコント赤信号の小宮もどきの2年の村松に発した。
「押忍」の返事とともに何やらカバンを探り始めると、同時にこれまた2年の目無し男(異様に目が細い)中島が、
「1年、外に出ろ!先公が見えたら速攻で教えろ!下手うつなよ!」と俺達1年を外へ押し出した。
 すると村松が「おい、西尾と稲本、お前達残れ」と部室に連れ戻された。
 中島が何か手に持ち鉄扉が開かない様にカイモノをした。それを見た瞬間俺に衝撃が走った!?
「ガ〜ン!」さっき、それも数分前吉田団長が観光ガイドかガマの油売りの様に講釈を並べた精神棒が鉄扉のつっかい棒になっていたのだ!

 “なんじゃこりゃ。こんなんじゃ先がおもいやられるわ”と脱力感が体を包み始めた時、今度は隅っこに座り影も髪も薄い、加古という2年から日の丸扇が手渡された。
「扇げ」
 顔はアホの坂田だが声だけは森山周一郎似の渋い重低音バズーカが冷たいコンクリート壁に響いた。
「扇ぐ?」
 両手に持った扇と稲本の顔を不思議顔で見ていると「押忍、失礼します」の声と共に、中島が先輩達のタバコに次々と火を点けて回った。
 W吉田と大塚は恍惚の表情で旨そうにタバコを吸った。俺と稲本は持った扇でなにをするのかが理解出来た。壁に開けられた窓というよりブロック塀をくり抜き鉄筋が立てられている刑務所の窓のようなところを目掛け煙りを扇いだ。「パタ、パタ、パタ」力無く扇ぐ俺達に「もっと扇いだれや」と大塚からの恫喝が!渾身の力を込め扇ぐ扇に「これも練習だぎゃ」とニヤつく吉田団長。
 冷静に観たら、これほどバカで間抜けな絵はない。こんなことなら高校なんて行かずに第一希望のヤクザにでもなっとけばよかった…

 そうこうしていると外で押し問答のような声が。
「あっ、すいません。なんですか?」
 誰か分からんが1年の慌てる声が。すると「サトル〜、おりゃぁすきゃ〜」先刻の番長吉田よりもどぎつい名古屋弁が耳に飛び込んできた。
「ヤスきゃあ〜?今開けるで」と吉田団長。急いで精神棒、いやつっかい棒を外し鉄扉を開ける村松。
「お〜う、なんだぁ、サトシもおりゃぁたかね」声の主を見ようと恐る恐る振り向くと、部室の壁を隠してしまう程の巨体の男がえなり君のようなニコニコ顔で立っていた。

 180センチを余裕で越え120キロはあると思われるその男に隠れて見えなかった、小さいが目つきが超鋭い男も続いて入ってきた。この二人も現中京の顔役で巨体が高橋(通称ヤス)目つきが鋭い方が松本(通称タツマサ)と言った。
 この二人もタバコを旨そうに吸い、W吉田や大塚達と名古屋弁講座のような会話を続けた。その後も続々と部室を訪れる先輩達にビビリながら扇を扇ぎ続けた仮入部のある一日。

 二人(吉田、大塚)が本性を出す日(本入部)まであと3日、ここに入部したら一生恋などできないんじゃないかと本気で悩みはじめた花冷えのする日だった。




<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 四

〜一回生の章〜 四

 週が明けた。今週からは本格的に授業が始まる。だが・・・そんな事より脳裏をよぎるのは部活のこと、授業なんて身が入らない。そんな中、休憩時間になると、コウタロウやマコトが部活の話で盛り上がっていた。
「団長デブだよな〜。デカイ人(副団長)おそがそう〈怖そう〉だし」などなど。
 するとその話の輪に髪の毛をツンツンにおっ立て眉毛をミクロに剃り揃えたセイゴが加わってきた。
「俺も援団入ろうかな?2年のナカシマっていう人が俺の中学の先輩らしいわ」。
 その言葉に反応したのがイナモト。「入れ、入れ!俺んたの組で仕切ったろまいか!」となぜかすぐに辞めると言っていたヤツが息巻いていた。

 結局俺達1年普通科C組からは、マコト、イナモト、セイゴ、ナカムラ、そして俺の元気者5人が参加する事になった。それと同時に、俺はこの悪タレ達が集うクラスの級長に選ばれた。
 放課後・・・教えられたクラブハウスに向かう俺達。ハウスへ向かう通路は野球部の1年達が我先にと重そうな中京バッグを肩に掛け全力疾走し、柔道部や剣道部ではこれまた1年達が道場掃除に余念がない。
 俺達がハウス前に着くと土曜日に見た連中が数人いた。
「おう、イケダ〜」とマコトに声を掛けきたのは顔が人の2倍は有りそうなオッサン顔の厳つい奴。
 この男、マコトと同じ中学の同窓生でタイチ(後の親衛隊々長)という。その横にはこれまた同じ中学出身のベビーフェイスのマサトが笑ってた。
 暫くすると他の1年生部員もゾロゾロ集合し、その数は17人にものぼった。

 ハウス前でワイワイガヤガヤやっていると土曜日に見たチビで細目の男とコント赤信号の小宮もどきの男がやってきた。
「やあ、君達よく来たね。もうすぐ先輩が来られるから整列してくれ」と小宮もどきが仕切りを入れた。次に細目の男が「あの食堂の角を先輩が曲がったら、俺達に続いて押忍っと大きな声で挨拶をしてくれ」と乗っけから応援団の流儀を押し付けられた。

 そして突然!?俺達に能書きをタレていた先輩二人が手を後ろに回し「押忍!」の大声とともに頭を下げ固まった。(なんじゃ?)あまりにも突然、そして見た事もない挨拶にア然とする俺達に「お前等とりあえず頭を下げろっ!」と慌てて怒鳴る小宮もどき。
 全員言われるがまま頭を下げた。すると直ぐに「もとい」の号令。ノソノソ頭を上げると、またまた押忍の声と同時に頭を下げる先輩二人。“何がどうなって、こうなるんや”。混乱する俺達。

 そして・・・あたふたする俺達の前に、あの巨漢男と爬虫類のような冷たい視線を持つ大男が姿を現した!巨漢男は笑ってる、爬虫類男は俺達をイチベツし小動物の獲物を見つけたかのようにニヤリッとした。
 その時だった。「ゴ—ッ、ガラガラガラガラ」いきなり背後の鉄の扉が自動扉のように開いた!

「押忍!失礼します」中にいた別の先輩二人が団長と副団長を迎え入れた。
「おう、ご苦労」
 巨漢男が言った。爬虫類男は外にいる細目と小宮もどきに
「お前等、中入ったれや」と指示を出した。すると頑丈な鉄の扉が閉められ俺達はハウスの外でただただ突っ立っていた。“どうすりゃええんだ?”。なにをしていいのか分からない俺達は雑談に花を咲かせていた。

 中からは僅かな話し声と時折笑い声が聞こえていた。「なあ、ヤニの匂いせえせんきゃ?」。タイチが鼻をひくつかせ小声で言った。一斉に扉に群がる俺達。
 間違いない!中で煙草を吸っている。扉とコンクリート壁の隙間から微かに煙がもれている。するとその隙間から「おい1年、校舎の方から先生らしき者が来たらソッコーで教えろ」と誰とも分からぬが命令が下った。
 俺達は言われるがまま校舎方向を凝視した。ハウス前には物凄い数の他のクラブの先輩や1年達が往来してる。そんな光景を見ていると、いきなり鉄の扉が開き、おそらく二年と思われる少し髪の薄い男が「1年、中に入れ」と超低音の声で俺達に言った。
 とうとう中に入る時が来たのだ。

 部室の中は煙草で少し煙っていた。誰から入るか躊躇していると小宮もどきがイナモトの腕を引っ張り「早く入れ!」と声を荒げた。イナモトに続いてゾロゾロと部室に入る俺達。正面には巨漢男がニコニコし、その横で爬
虫類男が眼光鋭く俺達を見てた。
 真四角の部屋にコの字型の木製のベンチ、ブロック壁には所狭しと落書きが・・・キョロキョロしていると巨漢男が立ち上がり「諸君ようこそ応援団へ。俺は団長の吉田智(サトル)だ、よろしく!ちなみにうちの番長も吉田智と書くが奴は(サトシ)と言う。そんなことで、団長・サトル、番長・サトシのダブル吉田をよろしく!」と挨拶なのかなんなのか分からない自己紹介が終わった。
 続いて座ったままの爬虫類男が「副団長兼親衛隊々長の大塚だ」と前者の団長とは異なり、それらしい挨拶と言えば挨拶だったが、なんだかぶっきらぼうでまるで良くないインパクトを放っていた。

 続いて2年生4人の紹介に入ったが、正直これといってパッとする奴はいなくて、これならすぐシメれるかも?なんて甘い考えが浮かんだが、この連載を読んでる当時の二年生がいつ暴れ出すかわからんので、「それはウソです」ということにしておきます。
 そして俺達1年生の自己紹介へ。名前や出身校だけの簡単な紹介ではあったが、団長のヨシダは「あっこの学校のだれそれは知り合いだ」とか「その学校の番はだれそれだろ」とまるで中学不良図鑑の著者の如く知識をひけらかしていたのを鮮明に覚えている。

 そんな時間が過ぎ先輩達の雑談を数十分ただただ聞かされたのだ。
 話題が途絶えた時「今日はこれまでだ、また明日軽い気持ちで来てくれや」とヨシダ。そしてオオツカが「君達は大事な後輩だ、一週間は仮入部だから遊び感覚で寄ってくれればええでな」と口元を緩めた。
 しかしその視線は冷たく、まるでライオンがシマウマの群れを見つけたように光って見えた。

 本入部(地獄)まで一週間、団長までの辛く険しく馬鹿馬鹿しい応援団初日だった。




<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 参

〜一回生の章〜 参


 入学して数日が経つとクラスの中で仲間の輪が広がりはじめた。そんな中、入学して初めての土曜日に「クラブ紹介」という一大イベントが体育館で行われた。各クラブの主将が壇上で挨拶。ただの挨拶で終わるクラブもあれば、体操やバレーなどは実演までして勧誘に熱を入れていた。そんなイベントを余興のように楽しみながらワイワイガヤガヤ観ていると、舞台の袖になにやら怪しげな一団が・・・・。

 大きな校旗に和太鼓、人相が悪い6、7人の男達、まさに応援団であった。ある意味応援団は「学校の顔」と言われるがおよそ学校の顔と呼ばれるにほど遠い印象であった。

 全てのクラブ紹介が終わり遂に応援団の番に、、、、。

 マイクに向かいしゃべり出したのは0.1トンはあるかと思われる巨漢の男。他のクラブは経歴や内容を話す中この男が発した言葉は「やる気のある者だけを希望する!」とまるで大門団長のような言葉一言だった。その言葉が終わるや否や「ドーン」という太鼓の音に一瞬肝が震えた。続けて演舞が始まった。3・3・7拍子や校歌とその迫力に圧倒され、その日一番の拍手を浴びていたのも応援団であった。

 そしてクラブ紹介の時間も終わり俺たち一年生は体育館から運動場へと移動した。
「硬式野球」「サッカー」「水泳」と各クラブのプラカードが並ぶ。硬式野球にはすでに100人以上の生徒が並んでいた。「すっげぇなぁ〜、さすが中京の野球部やわ」と感心してると同じクラスの不良達が、あっちへフラフラ、こっちへフラフラと浮遊していた。その中の一人、浩太郎(後の副団長)に声を掛けた。「おい浩太郎、おみゃあどこぞに入るんや?」すると「どの道すぐ辞めるで文系でええんだにゃあか」と文科系クラブを物色してた。同じような考えを持つ不良を従えて。
 俺もさして当てが無いままブラブラしていると、およそ高校生とは思えない低くドスの効いた声が背後から襲って来た。「おい兄ちゃん、これ持っといてくれや。わし便所行って来るで」振り向くと185センチくらいで眼光は蛇の様に鋭く冷たく学生服のカラー(襟)が恐ろしく高く、裾はくるぶしまで達していそうなマントの様な学ランを着た御仁が俺を睨んでいた。それこそ俺は蛇に睨まれた蛙の様に固まり返事すらできなかった。「頼んだぞ!動くだにゃあぞ!」と恫喝を入れその男は消えた。渡されたプラカードを恐る恐る覗くと「応援部」と書かれていた。“なな何っ!?応援団?俺の選択肢にこの3文字は無いし考えた事も無い。いや持っているだけでいいはずや”と不安になりながら俺は言われるまま渡されたプラカードを持って街のサンドイッチマンみたいに突っ立っていた。

 5分、10分あの男は帰ってこない。“何処行ったんや?下痢か?バックレか?”色んな思いが錯綜する中俺の前にクラスの不良どもがやって来た。「どしたんニシやん、応援団に入るんか?」と声を掛けて来たのは稲本という元気者。俺は事の次第を説明しているとリーゼントを靡かせたマコトが「ええんじゃないか、どうせすぐに辞めるんだで。どこも一緒やろ」とお気楽な一言。しかしこの一言が周りにいた連中の誘い水となり「ええじゃないか、ええじゃないか」と赤福餅のコマーシャルソングのように馬鹿どもが集まって来た。プラカードを持つ俺の周りには見た事も無い連中も含め15人程の不良が集まっていた。不良とは言い難い場違いな奴もいたが、、、、。

 そんなこんなでガヤガヤしていると、どこからともなくチビで目の細い男とコント赤信号の小宮そっくりの男が声を掛けて来た。「やあ君達!応援団に入部希望かね?いいクラブだよ。歓迎!歓迎!」と何故か舞い上がっている。してその二人の後ろに視線をやると先ほどの大男とクラブ挨拶でマイクに向かっていた巨漢の男が二人して笑っていた。“しまった!嵌められたか?”だがもう遅い。

 小宮みたいな奴が「じゃあ月曜日にハウス(部室)に来てくれ。ハウスはあの並びの1番左だから」とグランド脇の部室群を指差した。教室に戻り仲間たちに「ひょっとして嵌められたぞ」と言うと皆異口同音で「すぐ辞めやええて」と呑気なものだった。後の事も考えずに、、、、。

 地獄を味わうまであと1ヶ月。団長までのカウントダウンがとうとう始まった! 




<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 弐

〜一回生の章〜 弐

 いよいよ初登校の日。どんな先輩や生活が待っているのかという期待と、バスと地下鉄の乗り継ぎがうまくいくかという結構情けない不安が入り混じった俺は、親父に肩を叩かれて玄関を出た。
「気張ってこいや!」そんな激励に、ボクサーでもないのに拳を見せ「ほな、行ってきまっさ!」と返す。普通の家庭なら「がんばれよ」→「はい」だろうが我が家は元来ピントがずれている。
 これは入学までの過程でも表れていた。少し余談にはなるが史実なので書いておこう。

 この頃の中京高校といえば「低学歴、極運動、高血圧」で名高く、言わば運動能力(だけ)が優れ血の気の多いバカ集団。ま、学ランを着た自○隊ってとこか。
 そんな所でありながら月謝の高い私学だから敬遠されがちな学校だった。
 しかし我が親父曰く「中京と言えば昔からの名門やしその名は全国に響いとる。OBもようけ(沢山)おるから就職も有利や、わしの郷里(福井)のもんが聞いたらビビりよるわ」と、俺の入学を大いに喜んだ。
 確かに親父の言葉正しかったが、それを実感したのは社会に出てさまざまな業界にOBが多いと知ってからだったのだが…。

 さて本題だ。家から5分のバス停からバスに乗り10分程で地下鉄の駅へ。人生初のラッシュアワーに多少面食らったが、同年代の女子高生やOLを見ると鼻の下が引きずられるくらいに伸びた。シャンプーや香水の甘い匂いが満員電車を苦にさせない(通学って素晴らしいじゃねえか!ハッピータイムじゃん!)。
 多少のオヤジ臭や生意気な奴なんて気になんないとニヤケている俺に何処からともなく鈍くて渇いたイヤーな音が……
「バッスン、バッスン」(何の音や?)満員電車で音の出何処は解らないが、どうやら座っている奴が何かを殴っているには違いない。
 電車が各鉄道(国鉄、名鉄)の乗り継ぎ駅である金山に着いて乗降客が入れ替わる時、その姿が俺の目の前に現れた。
「なな何〜!?」俺は目を疑うと共にその男の風貌、行動、そしてなによりオーラにフリーズしてしまった、、、。その男は俺を見てニヤッと笑ってる。(なんじゃこいつ?これが高校生か?してなんで学生カバンじゃなくてキャッチャーミットなんや?)
 そう、音の出何処はこのキャッチャーミットだったのだ!
 その男、いや高校生は電車内で右手拳でミットを叩いていたのだ。そしてよく見るとボタンに<中京高>襟章は3年を示すグリーンのピンバッチ、同じ学校の先輩であった。周りには付き人のような後輩がピタリとつき圧倒的威圧感を放っていた。

 電車が乗り換え駅に到着し、俺はトコロテンのように車外に放り出された。そしてキャッチャーミットを持った先輩が外へお出ましになると、駅構内の長い廊下を超がに股で威風堂々の大闊歩。その後ろにはSPのように張り付くいかにも時代劇の番頭のような後輩がニヤけながらピタリ。その2人を見て、まるで決まり事のように挨拶する無数の学生達。
 まるでヤ○ザの親分登場場面だ。
 そして俺はこの日のうちにこの男の正体を知ることになる。

 乗り換えた電車はさっき乗った路線の乗客とは異なり、さながら学生列車である。沿線にある女子校、共学校、男子校の生徒が入り混じり120パーセントの乗客率。立っているのがやっとこさで座る事なんて皆無であった。
 俺達が降りる駅までに2校分の生徒達が降りていき、車内が多少空いてきて俺の目に入った光景は、母校と思われる先輩達が(これでもか!)と足を広げ座席に座っていた姿だった。詰めれば10人は裕に座れる座席にたったの5人。
 皆、「あったりまえやろ」という感じで腕組みをしてバチバチ睨みを利かせている。もちろん俺達1年は目を合わせることもできず、当然他校の生徒達は地面に10円玉でも落ちていないかという感じで下を向いたままである。
 電車は学校の最寄駅に到着し、何百という不良が一斉に降りる。
 ドカン、ドカンとぶつかってくる先輩達にいきなり睨んでくる先輩。“ここ本当に高校か?”と思うほどめちゃくちゃな通学風景。これから毎日コレかよ。えらいこっちゃ、と途方に暮れた。

 教室に入り程なく校庭で行われる全体朝礼へ。するとそこには見たことの無い男の軍団がゴキブリの巣のような真っ黒い絨毯を敷き詰めていた。
 全校生徒1700人の朝礼、まるで黒服を着た北の国の軍時大行進である。
 そんな中、朝電車で一緒だったキャッチャーミットの御仁を発見!クラスメイトの野球部員に聞くと、さもそいつが偉いかのような口調で「あの人は野球部の正捕手であり、中京の番長や」と言った。
「なんやて〜、この学校の番長〜っ!!!」
 俺はそんな方と同じ電車で通学するのかと思うと急に胃が痛くなった。
 応援団入部まであと5日、団長まで1年半を切った登校初日だった。




<続>



『the head・団長への道』〜一回生の章〜 壱

〜一回生の章〜 壱


 昭和56年春。俺は名門中京高校(現・中京大中京)の門をくぐり、中部圏一猛者集団の一員になった。

 約半年前、入学願書を提出しに来た時は校舎のあちこちからコーラの瓶や空き缶、ごみが投げつけられ罵声を浴びた。ガラの悪さと恐怖と不安を感じたが今やその学校の生徒である。当時在校生1700名、教員100名とその全てが男。女の人と言えば事務職に2人(おばはん)と保健室に1人(阿修羅男爵みたいな女)がいるだけの男の館。学校の座右の銘的ものは「学業とスポーツの殿堂たれ・真剣味」と謳っていたが、どちらかというと、というより、思いっきりスポーツ学校で悪の巣であった。

 入学式当日。駅から学校まで延びる長い坂道は無数の学ランで溢れていた。まだ中学を卒業して間もない同期の輩達だが、おっさんみたいな顔の奴やすでに体型が部長クラスの奴、まだ小学生か?と思うような童顔な奴と様々な顔が学校を目指し歩いている。

 そんな中に「おい、ニシオ。おまえもここか?」と声を掛けて来た奴がいた。後の名二塁手<安チビ>ことアンドウであった。こいつとは小学校の頃から幾度となく野球の試合で顔を合わせた奴で、何故か気が合った。「おうアンドウ、おまえもか。特待か?」「いいや一般や。おまえ野球やるんか?」「俺は中学で終わりや。のんびり遊ぶわ」

 会話が終わる頃には正門の前に着いていた。校舎前のロータリーに居並ぶ教師達。新入生を迎え拍手はしているものの、そのどの顔にも笑顔は無かった。逆に苦虫を潰したような、仁王のような顔で俺たちに睨みを利かせている。“なんじゃこいつら、目出度い日やっちゅうのに”

 俺たちは流れ作業のように体育館前へと引率され、並べられたテーブルの名簿から自分の名を探した。

“ニシ、ニシ・・・・あった。1年普通科C組”札だか紙切れだか忘れたがそれを持って体育館へ入った。席の並びは自由らしい。

 適当に腰掛け周りを見ると、おるわおるわ悪そうな奴等が。そしてそんな奴等に限って辺りを見渡し、真面目そうな奴等は目を合わせないように真っ直ぐ一点を見つめていた。

 入学式が始まった。校長や来賓の挨拶と中学や小学校となんら変わりない式であったが、一つだけ明確に違う点があった。それは各教師の紹介の時間の長さだった。なんせ100人もの数だ。それと驚いた事はやたらと体
育教師が多い事、おそらく5分の1強はそうだった、、、。

 どれ位の時間だったか覚えてないが長い入学式が終わった。まだ4月の初旬で肌寒い小雨の降る日だったが、新入生700人プラス教師100人、その他来賓数十人の体育館は熱気というか体温で蒸していた。これが欧米式9月の式典だったら男臭くて倒れているか、この時点で退学していたかもしれない。

 体育館を出て階段を下りているとデカイ男が目に入った。“あいがノナカか?<後のエース>”初対面だったが前年の全国中等学校野球大会で何度もテレビに映っていたので覚えていた。「デケェ〜なぁ〜」思わず声が出た。高1とは思えない体格と風格を漂わしている。

 校庭では各担任になる教師がクラス名を表示した看板を持ちガキどもを集めている。「普通科C組、普通科C組・・・・・」キョロキョロした視線の先に<1普C>と書かれた看板を発見。七三分けで眼鏡の色白のおっさんがそれを持って「1普C、1普Cはこっちだ」と叫んでいた。

 暫くするとそのおっさんの周りに悪そうな奴や真面目そうな奴が40〜50人集まった。おっさんが点呼をとり、揃ったところで教室へ向かった。

 でもこの作業の最中、貰った紙にクラスが明記してあるにもかかわらず間違えて並んだり、いつまでも自分のクラスを探せないでいる奴等が無数いた。クラスは全てアルファベットで分けられているのにそれが解らない、、、(やっぱアホが多いわ)としみじみ考えてしまった。

 教室は東校舎4階。お世辞にも綺麗といえない教室に入り廊下側から出席番号順に座っていった。ここでもアホな奴は自分の席を見つけるのに一苦労してた。“アルファベットやあいうえお順も解らんやつがおる、いったいどんな基準で入学させとんやこの学校は、、、。”

4列目真中に座った俺は周りを見てやんちゃそうな連中を物色してた。リーゼント、坊主、角刈り、七三と床屋の壁写真のような髪型が座る教室。その中でも数人目つきの悪い奴や態度がビッグな奴がいた。そのほとんどが後に応援団に入るとは考えもしなかった。というより自分が応援団に入る事さえ考えてもいなかったし選択肢にも無かった。だが、、、、、、、。

応援団入部まで1週間、団長になるまで1年半の入学式の日だった・・・・。




<続>



最終章・『伝説の武漢〜永久に・・・・・・』

 どれくらい眠っただろうか、、、微かな記憶では昨日の夜中に眠ったはずなのに、起きても外は暗いままだった。不思議な気持ちで時計を覗くと夜の10時過ぎ。眠りに就いたのが10時すぎだったから、かれこれ丸一日は寝ていたことになる。
 ふと頭に手をやると巻かれていた包帯が取れてマフラーのようになっていた。壮絶な記憶に背中を持ち上げるように体を起こすと全身に激痛が走りベッドから転げ落ちるように床に落ちた。
 その痛みから思わず出た大声にお袋が部屋に飛び込んできた。
 床に転がった俺を見て「やっと起きたんかいな、お腹減ったやろ、ご飯食べ」
 俺はてっきり喧嘩の事で小言を言われると思っていたから少し気が抜けた。

 頭を押さえ足を引きずりながらリビングへ行くと笑いながら俺を待っていた親父がいた。
「どや、ようやられたなぁ。まあそんな事もあるわいや」
 バレてた。
「そやけど先輩のアオキって言う奴はえらいやっちゃ。きちんと頭下げて帰ったで、自分の責任や言うてな」
 しかもすべて見抜いてる。
「さあ飯喰えや」
 この男には一生かかっても勝てないだろう。

 翌朝、全身の痛みを引きずりながら学校へ向かった。通学途中で会う連中は俺と目が合うと「どうやった?」「勝ったんか?」と声を掛けてくる。具体的な勝敗の行方が判らなかった俺は「えらい喧嘩やった」と答えるので精一杯だった。
 教室に入ると俺の席にヒトミが座っていた。
「あんた大丈夫?」。半泣きの顔が可愛かった。「よう殴られたて」無言で手を握るヒトミの瞳から止め処なく涙が、、、担任の先生は何も言わず授業に入った。

 放課後になるとユウジとカズがやって来た。カズはサビオをデコと目尻に貼り笑ってた。ユウジは喧嘩に行けなかった事を謝っていたがそんなことはどうでも良かった。またこうして笑えるのだから、、、互いの傷を笑い合っているとハルがこれまた足を引きずりながら登場。しかし、やつの顔には笑顔が無かった、、、。
「どしたんハルよ、元気ねえなぁ」。中々口を開かないハルを問い詰めると、思いもよらぬ言葉が!?どうやら先輩のタキグチが俺とケイゾウに殴られた事を逆恨みして全く違う話をでっちあげ後輩や仲間に吹きまくっていると言う。内容は俺やケイゾウ達が喧嘩に参加せず、後で先輩達に見つかってヤキを入れられたという作り話。どこまでも腐った奴だ。
「気にせんでええやろ、本当の事はすぐ判るで」。そう言って一笑したがこれが後に遺恨を残す事になってしまったのだ。狭い地域のことだ、それも超地元意識の強い土地柄、言った者勝ちみたいな風習がはびこり、後から吠えても受け入れられない土地体質とタキグチの話術と金に流され、真実は数年迷宮に入る事に、、、。
 こんなセコイ奴等と連るむのは御免だ。
 俺はこの時、地元を捨てたかもしれない。
 それから卒業までの日々は学校へ行く事もあまりせず、ほとんど家でボーっとしていた。 
 そんな俺を両親は何も言わずそっとしておいてくれた。

 卒業式があと2日と迫った日、ケイゾウが家に来た。いつもの笑い顔ではなく慌てた顔で息を切らし手からは血を流していた。
「どしたんやケイゾウ、怪我しとるがや」
 部屋に入り事の成り行きを聞くと、公園でタムロしていたヨウスケと後輩達に声を掛けたところ裏切り者呼ばわりされ、ブチ切れてどつき回して来たのだという。そしてその中の一人に一生残る大怪我を負わせ、それが原因でケイゾウは卒業式に出ることなく地元を離れることになった。そして同時にケイゾウはワルの世界からも身を引いていった。

 やりきれない気持ちのまま迎えた卒業式には10台程のパトカー、職員室には私服の刑事、体育館の周りにも警官が陣取り、異様な光景となった。目出たい儀式のはずが精神状態や周囲の状況で最悪の一日に。式が終わり学校を出る俺とユウジ、ハルやカズのもとに一人の刑事が近づいて来て、ケイゾウの居場所や先日の喧嘩について問いただしてきた。
「解らない」「知らない」を繰り返す俺たちに手を焼く刑事。押し問答の末やっと開放された俺達は腹を空かせ、いつもの『かおり』に向かった。
 お好み焼きや玉煎をほおばり、かおりさんと喧嘩の事や今までの楽しかった事をべらべら喋りまくった。そして俺たちは『かおり』からも卒業した。


 高校入学までの春休みに俺は大阪の友達を訪ねた。数年ぶりに大阪弁で喋りガキの頃よく行った駄菓子屋でたこ焼きを喰い、名古屋での嫌な想い出を払拭しようと必死だった。
 とにかく忘れたかった。なんとかして忘れたかったのだ。

 高校入学前のある日、俺とハルがアオさんやモリに呼ばれた。今置かれている俺たちの状況や今後の事をやさしく話してくれた。そこにタキグチも遅れてやって来た。アオさんはタキグチを一喝したが、それ以上こらしめることはせず、俺たちとタキグチに「仲良くやれ」とやや強い口調で言った。
 渋々握手する俺とタキグチ。それを見届けるとアオさんが口を開いた。それはとんでもない言葉だった。
「こないだの喧嘩の代償がどえらい大きいんや。車、事務所、怪我人・・・あれだけの責任を数えたら幾らになるかわからんぐらいや。それでな、それで…俺が奴等の下で下働きするということで許してもらった。だから俺は此処を出て行く。後はモリに任せるでな。とにかくお前等に手打ちしてもらいたかったんや。それが俺からの最後の頼みや」

 突然の話に愕然としたが、俺たちをかばって責任をとるアオさんに涙が止まらなかった。それから間もなくアオさんは地元を離れ、俺たちが牙を剥いて喧嘩した十○夜隊の上部組織<愛国青○会>の一員になり、あの喧嘩の代償として体を張り続ける日を送った。
 俺はといえば、なんともやるせない気持ちのまま高校に入学したものの、所詮15歳のガキのこと、新しい仲間が出来れば辛い想い出などだんだんと頭から離れていき、新鮮で楽しい毎日を始めていた。ただ地元については無関心を通し、集まりや走りにも参加はしなかったた。時折ユウジやハル、カズ達と遊ぶものの心は完全に地元から離れていった。

 高校生活は馬鹿な友達と馬鹿をやり、応援団でしごかれる毎日を有意義に過ごした。そんな毎日が嫌な想い出を忘れさせたのだが、2年夏の甲子園から帰った暑い夜、一本の電話が入り悲しい過去に引き戻された。
「もしもしエイイチか?アオさんがな・・アオさんがな・・・・・」
 声の主はユウジだった。
「アオさんが、アオさんが」
 とてつもなく嫌な予感が走る。「アオさんがどしたんや!ユウジ!」
「……」
 言葉にならないユウジからいつしか兄のノリ君が受話器を奪い取っていた。
「よう聞けよチビッ。アオキが死んだんや!アオキが死んだんや〜!」

「えっ? アオさんが? ノリ君、どういう、事?」
 長い沈黙の後、ノリ君はアオさんが車の事故で死んだと話してくれた。葬儀は身内だけですでに済ましたということも一緒に。

 俺は受話器を落とした。
「アオさん」「アオさん」「アオさん」……。何度も何度もアオさんの名前を腹の底から叫び号泣した。手も口も足も、体中全部が震えていつまでも止らなかった。

 それから数日が過ぎ、ニ学期が始まって間もなくモリ先輩から集合命令が出た。場所は地元の『すかいらーく』。あの喧嘩以来ほとんど顔を出さなかった集会に顔を出すと当時の後輩達が一端のやんちゃに成長していた。
「コンチワッス」。
 あの頃俺やケイゾウを裏切り者扱いしていた連中がどういうワケか頭を下げ挨拶してくる。訳が解らないままとりあえず空いた席に腰を下ろした。
 しばらくするとユウジやハルもやって来た。辺りを見るとあの喧嘩に参加したマサシや他の先輩連中や他校の不良達も顔を揃えた。店内にはさらに続々と猛者が集まり、その数は店のキャパをはるかに超え、総勢百数十人を数えた。
 不思議な事にその中にはどんなに捜してもあのタキグチの姿はなかった。

 百人ものワルを前に、モリ先輩の口が開かれた。
 アオさんの本当の死因やこれまでの話、アオさんの意志ともとれる言葉が、次々に、そして静かに発せられていく。店のあちこちですすり泣きが響く。
 次いでモリの腹心のヨシモトから『送り火走行』をやるという案が出された。アオさんが風を切り、あの頃突っ走ったロードをもういちどだけみんなで走ろうというのだ。もちろん皆は賛同し、友好チームや他のチームにも声を掛け盛大にアオさんを送ることで意見がまとまった。

 集会が終わり、店内が帰る者でごったがえす中、俺はヨシモトにタキグチの事を尋ねた。するとヨシモトは地元から奴が逃げたことを教えてくれた。後輩への執拗な集金(上納金)や先輩達へのウソやでまかせが仇となり、どうにも居られなくなったという話だった。
 俺の居ない一年半余りで状況はかなり変化していたのだ。そんな話をしていると数人の後輩達がやってきて俺に頭を下げた。
「先輩、すいませんでした。タキグチ君の話を鵜呑みにして先輩やケイゾウ君の事を悪く言ったりして。本当にすいませんでした」
 何度も何度も頭を下げて謝り続ける後輩達に俺は言葉を掛けることはしなかった。いや、声を掛ける気がしなかったというのが本音だ。そんなことはもうどうだっていい。ただ真実が判って良かったなと、客観的な感想を持ったぐらいで、これで潔白になったとか、スッキりしたとか、そんな特別な思いなんてなにもなかった。

 一週間後。あの喧嘩の時に集合したボーリング場跡地に無数の単車と4つ輪が集合した。その数は200を超えていただろう。
 驚いた事に、その大群の中にはあの(青○会や十○夜隊)文字が入った車や街宣車もいるではないか!しかもその街宣車の上にモリとヨシモトが立ち拡声器で叫んでいる。

「今日は暴走じゃない、アオキ先輩を送るために、あの凄い先輩を忘れないために走るんだ!ルートは23号を走り鍋田埠頭へ行き海に送り火を流す。わかったなっ!」
「おおお〜!!!」

 合図と共に国道へ流れる200台のマシン。ルート23とゼロヨンの聖地・鍋田はアオさんがもっとも大好きなルートだった。
 唸るようなエンジン音を止め、埠頭には静寂が訪れた。暗く静かな海に200人がそっと送り火を流した。俺は水面に揺れる火とアオさんの顔を重ねながらただただ涙を流し、そして無理矢理アオさんに別れを告げた。他の200人の大半も俺と同じことをしていた。
 その夜のルート23には、アオさんの冥福を祈るようにホタル(テールランプ)が延々と灯り続けた・・・・。


 アオさん、今もどこかで俺を見守ってくれてますか?俺はアオさんが言っていた事を守れてますか?生きていれば45歳ですね。きっと何度も一緒に酒を呑んでるでしょうね。俺は今でも貴方の背中の大きさを忘れません。いつまでも貴方の背中が見えるからつまらん人生は歩きません。ボチボチでいいからしっかり生きて行こうと思います。アオさんの言っていた「武漢道」を貫くためにも、俺らしく、っていうかそれしかできないんで、絶対俺らしく生きて行きます。じゃ、アオさん、また。


最高の武漢、アオキに捧ぐ




実録!武漢道・完結



第7章・大乱闘(後編)

 喧嘩の輪に戻った俺たちの目に移った光景は、まさしく地獄絵図だった。額から血を流し倒れている奴、パイプを振り回し暴れまくっている奴、チョーパン合戦を繰り広げている奴等と名作『仁義なき戦い』がスクリーンから飛び出したような迫力と緊迫感が全身を覆った。

「チビ~、呆けッとしとんなよ~!みんなおるんかぁ」
 特服野郎の胸ぐらを掴みながらアオさんが言った。
<アオさんや!>
 俺達はアオさんの勇姿を見つけ俄然元気が出た。

「よっしゃ~、いったるぞ~!」
 俺たち4人は菱の形で陣を組み火中に飛び込んだ! 所詮不良でも中坊は中坊、大人相手のタイマンにはちと体力不足。それをカバーしようと4人掛かりで1人や2人を殴り蹴りしてなんとか攻撃をかわした。
 が、しかし・・・そんな子供だましの戦術が長く持つはずがなかった。

 ケイゾウが捕まった。
 学校no.1の体格と怪力の持ち主も2人組にボコボコにされ失神状態になった。その光景に、俺は今までにない憤りが全身を突き抜けた。

 <ツレが、ツレがやられた。あんないい奴が、おもろい奴が、、、ケイゾウ~!>

 この時初めて眠っていた別の俺が生まれた。
 今までは自分がやられたり文句を言われた時にしかスイッチが入らなかった俺が、仲間がやられているのを初めて見てそれまで以上に強力なスイッチが入ったのだ。
 今思えば、このときが後年の俺、いや現在の俺の気性を形成したのだろう。

 半死のケイゾウに群がる奴等に突っ込み消火器を振り下ろした。頭を押さえつけ倒れた奴に馬乗りになりフルパワーで殴り続けた。途中他の特服に引き離され、ど突つかれ、蹴られ、出血しながらも、またさっきの奴だけを狙い殴り続けた。
 そいつも反撃を開始した。殴り殴られ蹴り蹴られ、一進一退を続けるなか決定的な一撃が放たれた!

 ガァッツ-ンン!  受けたことのない電流とと激痛が頭に走った、、、、

 <なにが起きた?なんだこの感覚?なんだ背中に伝う冷たいものは?>
 一瞬すべての感覚と感情から解放され、無重力な時間帯が俺を包んだ。

 ドサッ。
 地面に倒れこむ自分がはっきりと判った。その後、蹴りまくられる自分が映った。夢のような、まぼろしのような、経験したことのない時間の中でボコボコにされ続けるオレ。
 死ぬかも……と思った瞬間、息もできないほど苦しくなり、同時に全身に激痛が電流のように走った。
 いっそ死んだ方がよかっ……
 俺に対する攻撃が止んだ。わずかな安堵の中、頭に手をやると、その手が真っ赤に染まった。恐ろしいの量と色とネバネバと……

<ひょっとして、やっぱ、死ぬかも?>

 頭の痛みも体の痛みも感覚が無くなり、おまけに気も遠くなりかけた時、
「どや、いけるか?」と腕を掴み起してくれた男が、、、
 目にも血が入りぼやけて前が見えなかったが、その声からモリ先輩と判った。

「先輩すんません、やられてまったわ」
「ようやったんだにゃぁか?よう暴れとったがや。がんばったな」
 見上げた先輩は笑ってた。
「先輩、ケイゾウは?」
「ケイゾウも大丈夫や、とりあえず生きとる」

 なんだか急に全身の力が抜けた。
 先輩に体を委ねていると、怒声や罵声がいつのまにか止んでいた。地面からはうめき声や小競り合いの声はきこえるものの、、、、。

 どれくらいの時間が経ったかわからないが乱闘は終わったようだ。
 誰に渡されたのか解らないタオルで顔を拭き、それに付着した血に二度驚きながらも喧嘩が終わったという実感が満身に広がった。

 目を凝らすと○翼の親玉らしき連中とアオさんや他の先輩がなにやら話をしていた。その光景や表情からはとても和解の図には見えなかった。

 しばらくして俺達に解散命令が出た。なんとか自力で歩こうと先輩から離れ仲間を捜すと、バスにもたれたケイゾウや顔がボコボコのハルや、血だらけのカズがへたりこんでいた。
 お互いが姿を確認すると声も無く手を揚げるだけだった。
 ケイゾウの横に座りタバコを一服。無意識のうちに肩を組み夜空を眺めていると、カズとハルも寄って来た。
 互いに原形のない顔を見て笑い、「さあ、帰るか」と腰をあげ車の方へと向かった。
 足を引きずり顔面を押さえ、見た目には敗戦兵士だが、俺たちは共に戦った充実感と、大袈裟だが生きてるという安堵感で心が満たされていた。

 車に戻ると何故か罵声が聞こえた。
「馬鹿野郎!」「なにしとるんだ、おみゃぁらは」
 輪の中を覗くと土下座したタキグチとヨウスケがいた。聞けば喧嘩に参加せずずっと車の辺りをウロウロしていたという。
 聞き苦しい言い訳を並べるタキグチに先輩達は拳を振り足を上げ、いわゆる<ヤキ>が始まった。

 しばらくそれが続き、ある先輩が止めに入ってその儀式は終わった。
 しかし俺たちの怒りが収まらない。いつも俺たちをアゴで動かし格好ばかりつけてたタキグチに、怒りと軽蔑を思い切りぶつけ爆発した。

「タッキグチ~」。バッカン、バッカン、ボッコン、ボッコーンッ!!
 気が狂ったように殴り続ける俺をケイゾウが止めに入っている時だった。
「うらぁ~っ、お前ぇ~、死ぃねや~ぁ!」
 ケイゾウが振り下ろしたパイプにタキグチがグッタリした。
 興奮する俺たちにアオさんが怒鳴った。
「もう止めろっ!身内やろ」
 アオさんは続けた。
「ええかお前等、もう喧嘩は終わったんや。こんな事は二度と起すな、いや起こさせん。ええか、仲間を裏切るな!仲間を見捨てるな!信念を持て!何があっても最後まで武漢(おとこ)でおれ!今日を忘れるな!」
 アオさんの言葉に涙が溢れた。
 俺だけじゃない、みんなみんな泣いていた。

 その後、俺たちはアオさんやモリに救急病院に連れて行かれ、治療を受けた。
 ケイゾウは無数の打撲で安静に、ハルやカズは裂傷でおびただしいほどの消毒を、そして俺はパイプで殴られた痕を3針縫う事になった。

 体の傷と心の傷。あの日のことはたとえ死んでも忘れない。いや、そう易々とは忘れさせてくれないだろう。

(続)



第6章・大乱闘(前編)

 俺たちは先輩に指示されたとおり、街宣車やマイクロバス、行動車に攻撃を仕掛けた。
 ハルとカズは赤いスプレーを手に街宣車を塗りたくり、俺とケイゾウ、その他大勢はマイクロのガラスを割ったり、行動車をバットや鉄パイプで原型を無くすほどにど突きまわした。

 暗闇と静寂の夜に凄まじい破壊音が響く、、、
 俺達中坊軍団は物を破壊する快楽に奇声を上げて暴れまくった。
 バットを振り回す奴は「ナイ・バッチン!」を連呼し、スプレーを噴き散らしている奴は、ノッポさんか亜土チャンのようにはしゃいでいた。
 「壊れる」とはまさにこういうことを言うのだろう。

 突如、マイクロが左右に激しく揺れ始めた。
「何だ?」
 暗闇に目を凝らすと、バスの片側に大勢のヤンキーが群がりバスを倒そうとしていた!
「おい、こっち来な潰されるぞ!」
 モリが目をギョロつかせながら叫んでいた。
 割れたガラスからバスの中めがけて無数の爆竹が投げ込まれる。
 パパパパパ~ン!パン、パパパ~ン!
 バスの中は煙で何も見えなくなり、硝煙の匂いが辺りに立ち込めた。

「いったれや~」
 誰が叫んだか解らないが、その号令とともに一段とバスの揺れが激しくなった。
「ウオリャァ~」「行け~」「死ねヤー」「やったら~」

 ズ、ズ、ズ、ズ、ドッシーン、ガッしゃん、ドォーンンン…

 今まで聞いたこともない爆音と地響きが俺たちを包んだ。
 巨大なアフリカ象がハイエナの大群に襲われ、やがて力尽きて大地に倒れていくように、バスはスローモーションでアスファルトに倒れた。
 巨大な象を倒した俺たちハイエナは、狩りの成功に歓喜し、思い思いに気狂いじみた奇声をあげ乱舞した。

 勢いに乗った軍団は行動車のドアを破壊し、街宣車内に乱入し機材や椅子を破壊し続けた。このときは<喧嘩>という名分をわすれ完全に破壊工作員に化けていた。物を壊す事とその破壊音に快楽を感じ、今までに経験したことのない後ろ向きの快感に酔いしれていたときだった。

「き、き、き、来たぞ~、来たぞ~。かかってくるぞ~」

 誰かの叫び声を聞き、敵の事務所の方を見ると、揃いの特服軍団が怒声をあげてもの凄い勢いで俺たちへと向かってきた!
 暗闇でその数は明らかではなかったが、20~30人の狂犬が額に怒りマークモロ出しで向かって来ていたのだ。
「離れるなよ!あいつ等を囲んでまえ!」
 マサシが叫ぶ!俺とケイゾウ、ハルとカズは奴等の背後に回ろうと街宣車を盾に逆走した。

「コッラ~、どこぞの者じゃぁ~!おどれらブチ殺すぞ~!」
 奴等の声がはっきりと聞こえ距離が縮まってきたことを肌身に感じた。
 俺は軍団を離れ、乗ってきた車に走った。
「エイイチ~どこ行くんじゃぁ~」
 ケイゾウの声に「消火器だがや、消火器~」
 その言葉にケイゾウも走った。

 車に戻り消火器を手にすると再び喧嘩の輪へ全力疾走、、、、、このたった数分の間にその場は修羅場と化していた!
 どつきあう者、蹴りを入れる奴、パイプや棒を振りかざす奴、怒声罵声絶叫、色んな音が入り混じりヤクザ映画の乱闘シーンが目の前に広がっていた。

「なんじゃこりゃぁ!?」
 あまりの凄まじさに立ち尽くす俺達。

「どうすんや?突っ込むんか?」 ハルが見せたたこともない顔でみんなに問い掛ける。「・・・・・・・・」
 無言の俺達。お互いが顔を見合わせていたその時、バスの陰から黒い影が飛び出してきた!

「コッラ~、おみゃあらあも仲間きゃぁ~。ガキでもなんでもやってまうぞ~!おお~う」
 特服を着た坊主頭とパンチの大男が余裕をたれながら俺たちの前に立ちはだかった。

(なんちゅうデカイ奴とごッつい奴。勝てるんか?)

 ケタ外れの威圧感と怒声に<蛇に睨まれた蛙>状態の中、奴等の拳がカズに向けられた!
 ボコッ、バッカァーン! 
 秒殺だった。
「カズ~ぅ!!!」。ハルが絶叫しながらカズのもとへ走った。鼻血を出しぐったりしたカズを起そうとしたハルに奴等のパイプが振り下ろされた!
 ガッツ~ン
 頭を抱えもんどりうつハル。

<格が違うのか、場数が違うのか、、、、>。色んな喧嘩や修羅場をくぐってきたが、ツレがこうも簡単に秒殺される姿は初めて見たし、正直やられるとは想像もしていなかった。同時に脳裏に「殺られる」という文字が浮かび始めた時、ケイゾウが怒声とともに奴等にぶっ込んだ!

「なんじゃあ~おりゃあ~!!!」
 奴等もケイゾウ目掛け走った。その動きに我に返った俺も走った。
「こっちこいや~!」
 次の瞬間、俺は手に持った消火器を奴等の顔面めがけ発泡した。
「うわ~、なにするんだ!クソガキがぁ~」
 続けてケイゾウの消火器からも発泡。濃紺の特服が消化剤でピンクに染まり、煙と泡に巻かれて目を覆う特服たち。
 「ケイゾウ、今や!やったれや!」
 ケイゾウはパンチ男の脛を、俺は坊主頭の顔面を消火器でしゃくりあげた。

「うっぎゃあ~」「痛ってぇ~」
 地面に倒れた2人を気が狂ったかのようにどつきまわす。叫べば叫ぶほど、痛みを訴えれば訴えるほどに強く激しく、殴る蹴る。
 それまで倒れていたハルが無表情で起き上がり、俺たちに加勢して、俺たちよりもさらに激しく、感情的に蹴りたくる。

「なめとんかコラ!飛んどけや~!」
 ハルは血走った目でパンチの背中に点火した爆竹を放り込んだ!

 ………特服の中で弾ける爆竹は音がこもって聞こえた。
「熱っちい~、痛ってえ~、ああ~」
 地獄の制裁の中で泣き叫ぶパンチ野郎。未だ目が見えない坊主頭が
「おみゃあら、なにしてくれたんや~」と叫ぶ。
 ハルから取り上げた爆竹に火をつけ「おまえも飛べやぁ!」
 そいつの背中にも爆竹が放り込まれ、あらためて丁寧かつ強烈に顔面を蹴り上げた俺。
 戦況を把握し、ケイゾウは血だらけのカズを抱え合図をおくった。
「もう大丈夫や」

 数分間の地獄絵図に息も絶え絶えの4人。だがどの顔にも精気が戻った。
 しかし集団の輪からは怒声や金属音が勢いを増していた。

 喧嘩はまだ始まったばかり。
 俺たちの顔もまだなんとか原形を保っていた。
 


(続)



第5章・出撃

 とうとうその日が来た。もう迷いは無い、暴れるだけ暴れてあとはなるようになれという気分だった。
 俺は学校に行くふりをして、タバコや食料などを買い込んでケイゾウの家に向かった。ヤツの部屋に着くとあらかじめ用意しておいた援団ジャージに着替え、二人で馬鹿話やゲームをやって時間を潰した。
 夕方6時を過ぎた頃にハルやその他のツレが集まってきた。6畳半の部屋にヤンキーが7人、タバコや香水の匂いが入り混じり、まさしく溜り場・悪の巣といった感じだった。
 そんな中、各々が持って来た武器自慢大会が始まった。ある奴は爆竹、ある奴は3段警棒、中にはメリケン(カイザーナックル)と悪の神器を取出し得意満面。俺とケイゾウのブツは定番というか芸が無いというか小学校の修学旅行で買った木刀であった。当然ブツには「東大寺」の焼印が、、、そんな武器を眺めながら「それは使えん」とか「すぐ折れてまう」とかギャアギャアワイワイ騒いでいた。
 ある奴が「ヨウスケはどうした?」と思い出したようにつぶやいた。しかし誰の口からも「電話せえ」「呼ばって来い」などの言葉は出ず、(多分タキグチや先輩らぁとおるんだわ)という事で意見が一致し、ソコに関しては気にするのをやめた。
 時計を見ると午後9時を少しまわっていた。

 集合時間まで1時間を切った。コンビニで買ったおにぎりやパンをかきこみ慌ただしく動く俺たち。
「ボチボチ行こか」
 俺が立ち上がるのを見て、急かされたように準備をする仲間たちの顔にはまだ笑顔があった。
 さてと。各自ケッタに乗り目指すはボーリング場跡地。狭い町道を蛇行し暴走族気取りで疾走する中学生非行日記。途中で俺とケイゾウは隊列を離れとあるマンションへ、、、木刀だけでは心細い俺たちはどこのマンションにも常設してある消火器をぶん捕りに行った。計4本を手にした俺たちは、俄然強気になってニヤリと笑いながら急いで仲間の後を追った。
 しばらくして仲間たちが待つボウリング場に追いついた。
 以前は賑やかだったその場所も、今では真っ暗な哀しき街角。駐車場には雑草が生え、ボウリング場のガラスは無惨に割れ、スプレーで落書きされた壁が悪の牙城にも見えた。しかし車も単車も人影すら見えない。
「まだ早いか?」などと不安混じりに話しながらタバコをふかしていると、、、あちこちから集合管の音やゴッドファーザー、結婚行進曲などのヤンキー御用達クラクションのけたたましい音が辺り一面に響き渡った!
 あれよあれよ、その数は時間と共に増え、集まった4輪15台、2輪20台越とあっという間に駐車場が暴走族の集会場と化した。
 映画やVシネマではない。生、生、超本番の生臭さである。

 しばらくすると少し離れたところで怒声があがった!

「ええか、絶対負けるな!逃げるな!とことんやったれ〜っ!」
「ウオ〜!!!」
 すごい歓声にアドレナリンが逆流する。興奮したバカどもは、手が千切れるほどの握手やハイタッチ、、、中には抱き合う連中もいた。
 今から思うと、あのエネルギーや覚悟を他の事に使えば、どれだけ充実した人生になっただろうと、、、思ったけど、それはそれで面白かったからタラレバは言うまい。

 そんな中、アオさんが俺たちを見つけ近寄って来た。
「おまえら本当に来たんか?今からでも遅くない、帰れ」
 ……俺たちは無言、いや言葉が出なかった。
「ええかっ、ガキの喧嘩やねえぞ!へたしたら大怪我ですまんのやぞ、わかっとるのか」
 大怪我ですまん。その先を想像し、さらに俺たちは固まる。
 
 しばらく沈黙の後、自分を鼓舞するように俺は言った。
「アオさん、みんな気持ちは一緒やよ、絶対やられえへんから連れてって下さいよ」
「アオさん、アオさん」
 俺の言葉をきっかけにみんながアオさんに詰め寄る。
 すがるような、勇気を確かめるような、そんな蒼さを含んだ気持ち。
 怖さや不安があるから青春なんだ。

「判った。けどな、無理すんな。やばくなったら逃げろ!ええか、絶対やられたり、捕まるな!ええ格好すんなよ、本気の喧嘩やぞ!」
 あまりの迫力に後ずさりした俺たちだったが、アオさんのやさしさと強さと本気さを知っことが、なんか嬉しかった。
「ほんなら後でな、全員帰ってこいよ」
 アオさんはそう言って集団の中へ消えて行った。

 間もなくしてあのパンチ男のマサシが号令を掛けた。
「行くで〜っ!」
 俺たちは先輩達の車に分乗し、敵(十○夜隊)の事務所に向かった。
 車の中では緊張と興奮で声も出ず、ただ黙って外を眺めていた。
 車が事務所付近に近付いた。そこには濃紺の街宣車やマイクロバス、黒塗りの車が数台停まっていた。それらの車を取り囲むように4輪や2輪を停車させ車を降り指示を待った。
 見知らぬ男がやって来て俺たちや他の不良たちに指示を出す。
「おまえらここにあるマイクロと車を倒せ、街宣車は赤のスプレーがあるで消防車みたいにしたれ!ええか!」。

 あ、あ、あ、あ、あ、、、、、も、もうっ、やるしかねーっ!

 俺はケイゾウとカズやハルを見てニコっと笑った。
 奴らもニコっと笑い返した。
 もちろん到底笑える心境ではない、けど、でも、これが、ヤンキー魂っていうか、精一杯の覚悟っていうか、、、 とにかく、その強がってこわばった笑顔が、最後の笑顔となった・・・・
 
「イッたれや〜!!!」
「ウオリャァ〜ッ!」

 遂に決して後戻りできない壮絶な喧嘩が始まった! 


(続)



第4章・安息

 ほぼ1日授業も受けず学校のあちこちでダベっていた俺たちに下校のチャイムが鳴った。丸1日悩んでいても結局結論が出ず、俺たちは学校を出た。
 校舎裏に停めておいたケッタに乗り、フラフラフラフラ走っていると「エイイチ〜」と女子の声が、、、声の主は彼女のヒトミだった。その周りにはヤン姉連合のサトミやトン子もいた。
「なにやっとんだお前等?雁首そろえてよ〜」
 いかにもチェーンやカミソリを持っていそうな女子達に声をかけると
「兄貴(モリ)に聞いたけど、あんたん等も喧嘩行くらしいがぁ〜?マジ?」とヒトミ。
「う〜ん。実際迷っとるんだけどよ〜、タキグチがうるしゃぁで行かなかんだにゃぁかな〜」
 そう答える俺に「ハルも行くの?」と心配顔のトン子がボソッ。
 ハルとトン子は恋仲だった。
「たぶんな。ミチオもカズもケイゾウも行くやろな。あっ、ヨウスケがタキグチの子分気取りで調子こいとるわ」
 そこへ校舎の塀を乗り越えてマリが走って来た。
「ちょっと、ちょっと、ケイゾウに聞いたけどユウジは行かせんの?どうなってまっとるの?」
 チャキチャキ娘のマリが慌ててしゃべる。マリはユウジと恋仲だ。
「ユウジはよ〜、入試もあるしノリ君(兄貴)が行かんでもええって言ったでたぶん行かせんわ」
「なんでぇ、みんな行くんでしょう?ユウジだけ格好悪いがぁ」
 マリは自分の男が喧嘩に参加しない事がカッコワルかったのだろう。
「あのよ〜、行かんで済むならそれが一番ええんだわ。けどそうも言っとれんで行くんだがや」
 俺は正直な気持ちとユウジをかばう気持ちを織りまぜてを話した。
 そんな話が数分続いた後、俺はヒトミを“かおり”に誘った。残りの女子は各々解散しヒトミをケッタの後ろに乗せ俺はかおりに向かった。
 ヒトミをケッタの後ろに乗せて走るのは何日ぶりだろうか?少し前までは毎日こうしていたのに、、、。
 久しぶりの2ケツドライブ。ちょっとだけ嬉しくなってヒトミを茶化した。
「おい、おみゃぁさん、パーマきつ過ぎ(かけすぎ)だにゃぁか?カリフラワーみたいになっとるがや。それとそのメッシュは派手やぞ(笑)」
「あんたが三原順子がええって言うでこうなってまったんだが」
 半分本気でムカついたヒトミのチョークが横腹に入り、その拍子でハンドルが右に左と大きく揺れた。
「キャー、怖いー」「おまえそんな格好してブリッ子すんなや!」
「あんたちゃんと運転しやぁ〜、お兄に言うぞ〜」「ハッハッハッ〜」
 ヤンキー同士だってこんなに可愛い時間はあるのだ。そしてそんな時には、嫌なことなんか忘れて、もちろん喧嘩のことだって頭の中には無い。俺はコイツが好きで、コイツも俺が好き。青春はどんなバカにも平等に与えられる。

 ガラガラガラ。
「いらっしゃい!あれ、エイちゃん今日はアベックだがね」と焼きそばを焼くかおりさん。
「こんちはっす」「先輩こんにちは」横のヒトミもぺこりとお辞儀。
「ヒトミちゃん、ひさしぶりだがね。元気しとった?」
「あっ、は、はい」 
 姉御の一言に固まるヒトミ&ぎこちなく指定席に座る俺たち。
 かおりさんの焼いたお好み焼きは俺たちのぎこちなさを取ってくれる。やっぱりかおりさんのお好みは日本一美味い。
 日本一って言っても名古屋しかしらないから、多分名古屋一。ほんとは名古屋でもかおりさんの店と他に2軒しか知らないけど、そんなことはどうだっていい。要は気持ちだ。ヤンキーに気持ちがなくてどーする? ん? コレって逆ギレ?
 お好み焼きのおかげで止まっていた2人の会話が再開した。
「あの子があーだ、服がどーだ」。機関銃のようにどしゃべるヒトミ。負けじと俺も「どーの、こーの」。はたから見れば学生服とセーラー服着たおばちゃんたちである。
 そんな俺たちを見て「ええねぇ〜あんたら、仲ようて」とかおりさん。
 しばらくして店の外で数人の女子の声が、、、ガラガラガラ。
「こんちは、かおりさん」何者やと振り向いた俺の目に映ったのは、1つ年上のヤン姉たちだった。それもその中に俺の<チェリーボーイ>を奪った先輩(フミエ)の姿が!!!
「先輩、こんちは」席を立ち挨拶するヒトミ。
「あれ、ヒトミだがね。なぁに〜あんたん等付き合っとんの〜?」とニヤリ顔のフミエ。
「フ、フミちゃん、げ、元気しとった?、、、学校、、は?」
 少しバツの悪い俺に「学校?辞めてまったがね。今スナックでバイトしとるで今度来やぁ〜」と、ちょっといじめながら俺に言うフミエ。横にいる先輩女子も冷やかし顔で俺たちを見てた。<いかん、ひじょーに居づらい。いくら俺とフミが昔付き合っていたのをヒトミが知っとってもこういう場面はツラすぎる。一刻も早く脱出せねば、、、>
 緊急事態に頭はパニック!すかさず勘定を済ませ気まずさ全開で店を出た俺たち。
「と、とりあえず家来るか?」
 (居づらかった時間を挽回しようと、ヒトミにゴマをする俺)
「さーね、どーしよーかなっ? ま、ヒマやで行ったげるわ!」 
(ほっ。あーよかった。機嫌直してくれたみたいや)
 なんだかんだ言っても所詮15、6歳のクソガキ。喧嘩の事なんか忘れ、俺の部屋で、今いちばんやりたいことだけしか頭にはないのだ、、、、、

 そんなつかの間のロマンスが、この後起こる大喧嘩の前の最後の安息だった・・・・・・ 

(続)



第3章・葛藤

ここまでの登場人物。               
                                      
かおり
お好み屋の看板娘であり中学の先輩で俺たちのマドンナ的存在当時21歳。この事件の2年後結婚、その後の消息はわからない。

アオキ
3つ上の先輩で当時鉄馬(単車)を乗らせれば天下一品だった伊達男。その後は物語り後半で。

モリ  
2つ上の先輩で絶大な力を持つアオキの腹心。俺の元カノの兄でもある。今でも地元に居るとか。

ノリカズ
親友ユウジの兄。アオキやモリその他の不良、俺たちに多大な影響(単車、4つ輪、音楽)を与えた伝説の不良。

マサシ
かおりの同級生。先輩であったが年が離れすぎていたため詳細はわからない。顔面凶器。

ユウジ
俺の転校後(小5)最初に仲良くなったヤツ。ノリカズの弟で不良発信基地。現在父の家業をノリカズ、コウゾウ(弟)の3人で継ぐ。

ヨウスケ
同級生でちょっとおっちょこちょいなヤンキー。高校進学後も多々揉め事を起こし、その都度助け舟を出し俺たちを困らせた。

ケイゾウ
同級生。見た目は温厚だが喧嘩は強い。7人兄弟の次男坊。ある時相手に大怪我を負わせて以来不良から遠ざかる。

ヨシモト
1つ上の先輩。モリの腹心で義理事や上下関係にうるさい。後輩の面倒見はいい。現鉄工所経営。

そして、

俺(エイイチ)
この事件後中京高校に入学。何故か応援団に入り団長として甲子園も経験。卒業後料理人を目指したが飲食業界が水に合わず鳶職に転職。現在に至る。


第3章からの登場人物。

ヨシカワ
アオキとコンビを組んでいたド不良。2年後弟のマサルと車に同乗中に事故死。

タキグチ
1つ上のパチンコ屋の息子。自分の名声や損得勘定で人を嵌めるカッコばかりのキザ男、いけ好かない先輩。地元から消える。

タケシ
同級生でお人好しの在日韓国人。5つ上の兄が当時の朝鮮高校の総番長。

ハルヒコ、ミチオ、カズヤ
同級生。超悪仲間。

サトミ、マリ、トン子、ヒトミ
同級生のヤンキー女連。ヒトミは当時の俺の彼女でモリの妹。


尚、登場人物の名称はすべて仮名です。(俺を除く)






第3章「葛藤」


 家に戻った俺は何をするでもなくボーっとレコードを聴いていた。ただ腑に落ちない点は先輩のタキグチがエライ剣幕で怒鳴り散らしていたことだった。「アイツが絡むとロクな事がないなぁ〜」とぶつくさ言いながら、、、。

 しばらくすると電話が鳴った。「ピーッピーッピ」
 部屋にあるインターホン(技術の授業で作った物)が鳴る。
「あんたぁ、ユウジ君から電話や、切り替えるからな」
 母親がそう言って親子電話を切り替えた。
「もしもしエイイチか、兄貴にアオさんの事と今日の夜の集合の事話したらよー、『行かんでもええわ』って言うんだけどよー、どしたらええきゃ?」
「うう〜ん。ノリ君が言っとんならええんだないきゃ。それとタキグチが絡んどるで嫌な予感がするんだわな」
 、、、、、、、、「そうやユウジ、この前借りたカセットがあるで取りに来いや」「ほうだな、暇だで行くわ」。
 ガキ同士の長電話より顔見て話す方が早い。
 電話を切ると10分ほどでユウジが家に来た。時刻は6時になろうとしていた。

「こんちは、おじゃまします」
「あれ、ユウジ君久しぶりやなぁ。公立受けるんやろ、がんばりや」とリビングから母親の声。
「まあええて母ちゃん、ユウジ早よ入れ」。話に加わろうとする母親を振り払いユウジを俺の部屋へ強制連行。
「おっ、アナーキーか。銀蝿よりええなぁ」「そやろう、銀蝿はウソッぽいでかん。カッコばっかやろ」「ほんでもおみゃあさん、銀パン(横浜銀蝿の白いドカンズボン)持っとるがや」「あれはファッションだて。アナ−キーの国鉄職員の制服は無理やろ」。
 どこでもある会話で盛り上がる俺たち。そして本題突入。
「ところでどうするんやエイイチ、おみゃあ行くのか?」
「とりあえず行くわ、あとでタキグチが何言ってこすか解らんでなぁ」
「そうやなぁ、あいつ何かと根に持つタイプやで」
「ユウジはええがや、ノリ君が行かんでもええって言っとるんだで。タキグチや他の先輩も文句言わせんだろう、ノリ君が言っとるんだで」
 アナーキー&銀蝿のときとはコロッと変わりしかめっ面の俺たち。
「そや、ケイゾウに電話してみるか」そう言ってリビングに電話を切り替えに、、、。すると親父が「何をコソコソしとんねん、ここでかけたらええやないけ」。
 逆らうとどんなヤンキーよりも怖い親父の言葉は法律よりも厳守である。俺は仕方なくリビングからケイゾウに電話をする。
「もしもしヤマグチさんですか?・・・なんやケイゾウか。おまえさん夜どうすんや?・・・解った、ほな後でな」
 電話を切り部屋へ戻ろうとする俺にまたしても親父のドスのような誘導尋問。
「何を悪さしよ思とんのや、どこ行くねん?」
「別に、ツレとゲーセン行くだけやんけ」
 親父の顔をまともに見れない俺(バレたか?)
「さよか」。鬼の顔が疑いで余計に怖くなる。親父にビビってる暇はない。部屋にいるユウジに電話の内容を話し、またもやどうするこうすると思案する。

 時刻は6時半、刻々と迫る集合時間。
「ぼちぼち行こかな、ユウジおまえさんどうするんや?」
 いまだ迷っているユウジも渋々「とりあえず行こかな」。
 2人が部屋を出て出掛けようとした時リビングから文字では優しそうだが実際はドスの利いた声がした。
「カワダ君(ユウジの苗字)、まだ入試があんのやろ?アホな事には首突っ込んだらあかんで!」。
 頭を掻き決まりがバツが悪そうなユウジ。そして俺には
「エイイチ、何をするのか知らんけど中途半端な事なら端からすなよ、それと友達巻き込むな、ええか!それが出来んのなら家に居れや」
 何かを察するような鋭い言葉が背中を突き刺した。
「なんもないヨ、ちょっと出掛けるだけや」。なんで“ヨ”なん?それだけでバレバレやろと苦い思いをしながら慌てて玄関を出た。
 辺りはすでに薄暗くなっていた。

 ケッタをこぎゲーセンを目指す2人の背後から大きな声が、、、。
「お〜い、エイイチ、ユウジ〜」。振り向くとケイゾウが原付に乗って手を振っている。
 ビ〜ン、ビビビ。「どしたんやケイゾウ原チャリなんか乗って」。
 パッソーラにまたがり得意満面のケイゾウ。
「姉貴のがあったで勝手に乗ってきたった。これで行こまいか」。
 思わずユウジと顔を見合わせニッコリ。ケッタを近くのおもちゃ屋の前に置き、原チャリ3ケツにていざゲーセンへ。
 途中買い物帰りのおばはんや信号待ちの車の運転手がしかめっ面で俺たちを見る。そんな視線が俺たちを余計に熱くさせる。
 オリャー、ドワゥオーッ! アフリカの原住民のような大声で何かを叫びながら、そしてどこかに青春の清々しさを感じながら3ケツ暴走族は風を切った、、、。

 間もなくしてゲーセン前に着くと、さっき病院前で見た4輪が2台と単車が数台停まっていた。
「なんだぁ、さっきのパンチとかアフロがおるんか?」とユウジに言うと「パンチ?アフロ?なんやそれ」とケイゾウ。数時間前の病院前の出来事を説明すると「なんか嫌な感じやなぁ、あっ!あれタキグチの単車やないのか」ピッカピカの単車を指差しケイゾウが言った。
 ゲーセン前でだべっていると、ボーッ、ボンボー、ブォン、ブォンと直管マフラーの凄まじい爆音が、、、。ヨシモト先輩だった。
 「よぉ〜、お前等も来たんか?べつにええんだぞ」「いや、タキグチ先輩に来いって言われましたから・・・・」「そっか、でもなちょっと厄介な事やぞ。お前等高校行くんやろ・・・」と意味深な言葉がヨシモト先輩の口から。
 顔を見合わせる3人。そんな3人に「とりあえず話だけでも聞いて帰るか」と先輩に背中を押されゲーセンの中へ。
 暗い店内に誰が居るか解らずキョロキョロしていると「遅いぞ!おみゃぁら!」とタキグチの怒鳴り声が、、、。
「スンマセン」とペコリ。
「何を苛こいとんだタキグチ、おまえ何を仕切っとんだたわけ!」と後から入ってきたヨシモトが言った。
「おっおお、ヨシやんか」
 喧嘩や統率力でかなわない同期のヨシモトに一瞬怯むタキグチ。

 そんななか「まあええやないか、身内で揉めるなや」とさっきのパンチが割って入った。店内の暗さに目が慣れ辺りを見渡すと、ハルヒコ、ミチオ、カズヤ、ヨウスケの同級生に2つ上のモリ君の同級生が数人、それとアオさんやかおりさんの同期の連中と狭いゲーセンの中に20人程の不良がいた。
 そして店の隅には何故か隣の中学の不良までが4、5人立っていた。
 しばらくするとマサシ(パンチ男)が話し始めた。
「ええかおまえ等よう聞けよ。アオキがやられた事は知っとんな。その相手を調べたら港のヤツ等らしいわ、ほんでなぁ、そいつらは、愛国○○会のイケイケ集団(十○夜隊)や!やられたらやりかえす!ええな!○翼やからってびびるなよ!きっちり仕返ししてわし等の地元がイチバン強いの見せたれ!ええな!」

 アオさんをやったヤツ等が判明した。しかしそれは名古屋南地区(港、南、熱田、中川)で名を轟かせる、○翼二次団体・十○夜隊だった。
 まだ中学生、15歳の俺たちにはとてつもない相手であり恐怖感さえ覚えた。そして当事者のアオさんやモリ、ヨシモトを差し置いてマサシに肩を叩かれたタキグチがしゃべり始めた。
「先輩方が言われたように、やられたらやりかえす!そのやり方やけどなぁ、まずあいつ等の行動、車や事務所を潰す。その後タイマンや集団での喧嘩に持ち込む。他の学区や友好のあるチームにも声は掛けた。けどなぁ俺たち地元が集まらな恥ずかしい。今日ここに居る者はもちろんの事、ツレや仲間に声を掛けてもっと人を集めてくれ」
 マサシに吹かれたのか普段より威張り散らすタキグチ。
 そしてマサシがさらに俺たちを引き締めるために口を開く。
「やるのは明後日の夜。電車道(昔市電が走っていた通り)のボーリング場跡に10時に集合や!わかったな!」
 横にいるタキグチやマサシの同級生は拍手までしていた。当のアオさんやモリは困惑顔、、、そして俺たちも、、、。
 ゲーセンを出た俺たちに「おい、こっち来い」とアオさんが、、、。
 ゲーセン裏の空き地に呼ばれた俺たちに「ええかおまえ等、こんな事になるとは俺もモリも知らなんだ。来たらあかんぞ、高校も就職もパーになってまう。マサシ君やタキグチがああやって言っとるけど俺が言っとくで絶対来たらあかんでな!」
 後ろに立つモリ君も頷いていた。
「さあ、早帰れ。ユウジ、ノリカズ先輩に申し訳ないって言っといてくれや」。
 アオさんやモリ君はまだ中学生の俺たちを巻き込みたくないと説明してくれた。

 俺とユウジ、ケイゾウが原チャリで帰ろうとしていると、タキグチに呼びつけられていたヨウスケがゲーセンから出てきて俺たちに近寄ってきた。
「何を言われとったんや」ケイゾウが言った。
 するとヨウスケからとんでもない言葉が、、、。
「もし、もし明後日来んかったら全員ヤキ入れるらしい。ほんで『地元に居れんようにしたる、関係ないヤツや親には絶対内緒やぞ』って言っとった」
「タキグチがか?」
 ヨウスケを睨みつけ俺が詰め寄ると
「そそ、そうやてタキグチ君もマサシさんもや」。
 アオさんやモリ君の言葉にホッとしていたのも束の間、またまた俺たちは窮地に。
「とりあえず帰ろまい」ケイゾウがポツリと言った。
 3ケツ原チャリの帰り道には言葉も笑いも雄叫びもなかった。

 部屋に戻りベッドで仰向けになり、行くか?行かんか?と悩む俺。
 暫くしてユウジから電話が、、、。兄貴(ノリカズ)にも話せずどうしたらいいか悩んでいると言う。そんな葛藤が続きなかなか寝つけない。
 気がつけば朝。何か情報や動きがあったらと久しぶりに学校へ向かう俺。
 学校に着くと昨日いたユウジを除いた連中が階段下の踊り場でなにやら話していた。ここでも行くか?行かないか?の相談である。
 授業も受けずほぼ丸1日悩んでいた俺たちに、翌日の集合が刻一刻と迫っていた。

(続)



第2章・集結

 かおりさんからもらった水を一気に飲み干したヨウスケが一呼吸おいて話し始めた。
「青さんが竜宮(地名)の交差点で止まっとったら、"マフラーが五月蝿い"って車からヤンキーが2人出てきて、殴る蹴るのボコボコにされて、単車もわや(めちゃくちゃ)にされて、挙げ句に今病院におるらしい、って水口先輩に聞いたんだがや。先輩がみんなに教えろって言ったもんだで、おまえん等(ら)とかケイゾウ捜しとったんだがや」
 一気に捲くし立てたヨウスケはまた水を飲んだ。
 青さんといえば、3つ上の先輩で鉄馬(単車)を乗らせれば右に出る者がいないほどの腕で、喧嘩も負けなしの超シブイ先輩である。その青さんが散々な目に遭ったのだ。
 誰もが耳を疑い、自分がボコボコにされるよりも辛い心境に陥った。
 青さんとは、俺たちのプライドだったのだ。
「何〜!青さんがやられてまったぁ〜。ほんなわけにゃぁだろ、青さんは強えぞ」
 玉煎を喰いながらユウジが言う。
「ほんでもよー、2対1だったらわからんで」
 コテでお好みを切りながら俺がそう言うと、腕組みをして話しを聞いていたかおりさんが眉を吊り上げ口をひらいた。
「ヨウちゃん、アオキは何処ぞの病院におるんやね?それとどんなヤツ等にやられてまったんや!」
「病院は杉山外科やけど、相手ははっきり判らんし何処のヤツ等かも・・・・・」
 困り顔のヨウスケに「まあええ、私病院行くで。あんたん等も行くか?」
 かおりさんはエプロンをはずし、後ろで束ねた黒髪をほどいた。
「お母さん、ちょっと出てくるわ、この子ん達の分は私が払うで」
 どうする? 顔を見合わせる俺たち。
「行くんか、行かへんのかどっちや!」。かおりさんが一喝する。
 その迫力に圧倒された俺たちに許された言葉はひとつだけ。
「い、行きます」
 焼きそばを焼くおばはんにペコリと頭を下げ店の外に出てケッタに乗ろうとする俺たちに「私の車で行くよ、こっちおいで」と駐車場に向かうかおりさん。
 店の横の駐車場には真っ白の<コロナGT・通称コロG>があった。少し車体を落としアドバンの赤い三角ホイルがヤン姉を物語っていた。
 憧れの女性の車の横でもじもじしている俺たち。
「早よ乗りやぁ」。「失礼します」
 先輩がえらい目に遭わされているのに、どこかそわそわ落ち着かない俺たちは、遠慮気味に後部座席へ。狭い座席にギュウギュウ詰めの俺たちに、「1人前乗りやぁて、狭いやろう」とこれまた半ば強制的指導を受ける3人。
「お前行け」「いや、お前が行け」変なところで譲りあうのはガキのせいか。
「ユウジが1番大きいんやろう、あんたが前来やぁて」
 優柔不断な俺たちに苛立ったのか、かおりさんは思い切り重低音を響かせてクルマを出した。
 車内にはディスコソング(アリババ、モスクワ)が流れていたが、誰もそれを聴くでもなく、ほとんど会話も無いままに病院に到着。病院前には、クラウンや豚ケツローレル、230セドリックの4輪集団に、FX、KH、CB、ホークⅡ等の2輪集団が縦横無尽に停車していた。
 クルマを降りると「かおり〜、かおり〜」と怒声が聞こえた。声のする方を見ると、ドカジャンにストライプのスラックス、ドパンチパーマにグラサンの超悪人面の男が・・・
「ああ、マサシ。あんた元気?」と薄ら笑いのかおりさん。
 どうやらかおりさんの同級生らしい。
 かおりさんと同期ということは21歳だろうが、どう見てもおっさんでプラス顔面凶器の男であった。
「かおり、なんだぁそのガキんたは?」顔面凶器はくわえタバコを上下させながら俺たちをイチベツした。
 まるで蛇に睨まれた蛙のように固まる俺たち。
「なにビビらせとるのマサシ、この子ん達は私ん達の後輩だがね。ほんで1番背の高い子はノリの弟だがね」
 かおりさんの一言でその男の表情がいくぶん柔和になり「ほうきゃぁ、ノリの弟と後輩きゃぁ。そりゃ悪かったなぁ、それにしてもええおべべ(服)背負っとんなぁ〜」とニヤリ。顔面凶器は笑っても怖い。
 そんなやりとりをしてる間に、病院前は族の集会のような人種と人数が集まっていた。4輪集団の面々はほとんど面識も無い人ばかり。2輪集団は1つ、2つ上の顔馴染の先輩達。いくら俺たちが最高学年(中3)でツッパッていても此処にいる面子にはとうていかなわない、というか大人と子供であった。
「こんちはっス」挨拶した相手は2つ上で絶大な力と人気があるモリ先輩だった。
「おうっ、おまえ等、元気しとるか?」極短パンチがシビレルほどカッコいいモリ先輩がニヤッと笑った。
「先輩、青さん大丈夫っスか?」心配顔の俺たちに「青ちゃんか?大丈夫や。ちょっと目の上切って縫っただけだて。そう心配しやぁすな」とヨウスケの頭を撫でた。
 それを聞いてひと安心した俺はかおりさんを捜した。かおりさんは4輪集団の輪の中でなにやらしゃべっていた。その輪の中から今度は、ドテラにジャージ、アフロヘアーの男が「モリ〜、モリ〜、ちょー来いや!」とモリ先輩を呼んだ。
「おう、ちょっと行って来るわ」先輩は俺の肩を叩きアフロ男のもとへ・・・
 俺たちの視線はモリ先輩の向かった4輪集団の会話や態度に釘付けになった。始めはにこやかだったモリ先輩の顔が次第に何か思いつめたような表情に変わり、やがてなにか決断を迫られたような苦渋に満ちた顔に変貌していった。
「どうしたんやろ?何言われてんやろ?」 
 ドギマギする3人。あーでもない、こーでもないとボソボソ話していると、
「よっ!坊主達どしたん、俺のお見舞いか?」
 振り向くと左瞼に大きなガーゼを貼られニコニコ顔の青さんが立っていた。
「こんちはッス、大丈夫ですか?」
「おお、ちょっとやられてまった。たいした事にゃぁよ」とにっこり笑う青さん。
 そんな青さんを見てホッとしていると「アオキ〜、アオキ〜、ちょー来いや!!」
とドテラを着た男が叫んでいた。その怒声に引き寄せられるように青さんは先輩集団の中へ・・・・・
 モリ先輩同様、青さんの顔も次第に強張っていった。
「なんなんやろなぁ?」「どしてまったんや?」
 俺たちの不安は募るばかり。
 そんな中、1つ上のヨシモト先輩が俺たちのとこへ近寄ってきた。
「おい、今日の夜皆に集合掛けろや。場所は消防署前のゲーセンや。ええか、なるたけ(できるだけ)人集めろ!時間は7時や、行け!」
 ヨシモト先輩の言葉の意味が解らないまま、かおりさんにペコリと頭を下げお好み焼き屋に戻る俺たち。
「どういう事やろ」「何があるんやろ?」
 頭の中は?だらけ。
 店の前に戻りケッタにまたがった俺たちは、連絡する奴の確認や分担を決め「じゃあ、後でな」と各々別れて行った。
 このときはまだ、とてつもない喧嘩に巻き込まれる事など知る由もなかった。
(続)



『実録!武漢道(おとこみち)』著者紹介

ニシ。職業・鳶。中京高等学校卒業。在学中は応援部団長を勤める。
数々の武勇伝を持つ伝説の不良。胸の奥にはいくつもの傷跡とせつない人間ドラマが隠されている。なぜか業界関係者との縁も多く、人気アーティストの打ち上げに顔を出すことも多い。信じられない話だが小学校中学年時にはゴリラと生活を共にした。趣味は手料理。麻婆豆腐の腕前はプロ級。



第1章・予感

 あれは中学の卒業を1ヵ月後に控えてた時。私学入学が決まっていた事もあり学校へは行ったり行かなかったり、自由というか自堕落にすごしていた頃、授業が終わる頃になるとケッタ(自転車)で学校へ行き暇そうなヤツを見つけては、ゲーセンやお好み焼き屋に入り浸っていた。
 その日のお伴はユウジ。俺が小5の時大阪から転校してきて最初に仲良くなったヤツだ。
 「おお〜い、ユウジ、かおり(お好み焼き屋)でも行くか〜?」
 ダボダボのズボンを靡かせ校門に向かってくるユウジに声を掛けた。
 「おうエーイチ、おまえ気楽でええなぁ〜。俺なんか一応公立受けるでえらいことだわ。俺も私学単願(私学1本)にせやよかったて」とぼやいた。
 「で、かおりは行くんかて?」
 「ほうだなぁ、喰いに行くきゃぁ。おまえさん私服だで俺も着替えてくわ」
 そんないつものやりとりを交わしながら、ユウジをケッタの後ろに乗せヤツの家に向かった。
 学校からわずか2分のユウジの家は当時珍しい3階建て。内装屋を営んでいるため事務所兼倉庫となっている1階にはいつもヤツの雷親父がいて通過するのが恐かった。
「ただいま」。「チワー」。
 入り口を入った俺たちをギョロと見るなり「ニシオ、おまえちゃんとやっとるのきゃ?高校行ったらちったあ真面目にやらな、ええか」と低い声で話し掛けてきた。
「何言っとるのおじさん俺真面目やよ、ちゃんと高校も行くし」とはいえ、真面目とはほど遠い真っ赤なロンスタ(ロングスタジアムジャンパー・膝まであるやつ)にボブソンのボンタンジーンズを着た俺の姿を見て(解った、解った早よ行け)とばかりに雷親父は手を振った。
ペコリと頭を下げ雷親父の後ろを通り過ぎようとした時「おい、おみゃぁさんタバコ臭しゃぁわ。たわけ」と一喝された。
 やべえと思い急いでユウジの部屋へ。着替え途中のユウジに「おみゃぁの親父は恐いなぁ。いつか殴られるて」と言うと「職人やでなぁ、頑固やでなんともならんわ」としかめっ面。
 似たような格好に着替えたユウジと部屋を出ると、向かいの部屋から兄貴のノリカズ君が出てきた。
 「おう、小チンピラ何処ぞへ悪さしに行くんだ?」とリーゼントに皮ジャンスタイルのノリ君がジャブを打つ。(※ノリ君は俺たちより4つ上。この頃箱スカを乗り回して街中に名を轟かせたバリバリの不良。キャロルにクールス、永ちゃんもこのノリ君の影響が大であった)
 「先輩コンチワっす。今からユウジとかおりに行くんすよ」
 「ほう、かおりきゃぁ、ええなぁ。俺も行こっかなぁ?」
 「ええ〜?まじですか?」(うっそだろ〜?)
 「なんだぁ、迷惑なんきゃぁ!なぁ〜んちゃって、行けせんわ。ほうや行くんなら<かおちゃん>によろしくな!」バシッ。
 頭を叩かれ首をすくめた俺を見ながらノリ君は笑って消えて行った。階段を降りてまたまたあの雷親父の後ろを通過。今度は何も言われなかったが顔を見るたびにビビる何ともいえない重圧感が。おーこえー。
 ハンドルを絞り前に倒した改造ケッタでかおりに向かう俺たち。
 「おいユウジ今日は何喰う?」「せやなぁ、やっぱ餅入りやろ!」「玉煎(玉子煎餅焼き)は喰わんのきゃぁ?」とダベリながらケッタは蛇行。
 「コンチワっす」小さな公園から数人の声がした。後輩のヤンチャ連中がタムロしてる。
 「なにやっとんだ?」「今からユニー行くんすわ。ゲーセンにどっかのムカツク奴がおるらしいで見てきますわ」「喧嘩すんなよ〜(笑)」「言われたないですわ〜(笑)」
 その先に何が起こるとも知らず、俺たちはルンルン気分でケッタはかおりに到着。 
 ガラガラガラ。戸を開けると ジューと焼きそばやお好みを焼く音が。
 「いらっしゃい」店のおばはんがいつものように笑った。
 店内は親子連れやおっさんが数人いた。俺たちは毎度座る指定席(テーブル)に腰掛け、喰うものが決まっているにもかかわらずメニューに目を通した。
 「あんたらなんにするんか?」こてを動かしながらおばはんが聞いてきた。
 「俺は玉煎に餅入りね。」
 ユウジは「俺も玉煎と餅入り。あっチーズも入れてって」(餅入りとはお好み焼きに餅を乗せた人気メニュー)
 「なんだおみゃさん、チーズって。リッチやねーか」
 たかがチーズをトッピングするだけで盛り上がる俺達。
 出来上がるまでに一服とポッケからタバコを取り出し火を点けた。馬鹿話や高校の話をしていると「コラッ!中坊がタバコ吸って、警察呼ぶぞ!」と可愛い声だけどドスが入った台詞が・・・振り向くと店の屋号であり看板娘のかおりさんが立っていた。
 「あっ、かおりさんコンチワっす。」真っ黒のロングヘアーを後ろで縛りゴッデスのトレーナーにジーンズ姿のマドンナが。(かおりさんも同じ中学の出身でバリバリのヤン姉だった)
 「あんたらちゃんと高校行けるの?毎日毎日来るのはええけど・・・・」
 「大丈夫っすよ。俺は中京決まっとるし、ユウジやって私学は受かっとるもん」
 口を尖らし答える俺の横でユウジが「かおりさん、アニキがよろしくって言っとったよ」と。「なに〜、ノリが私の事気にしとるの?可愛いねぇ〜。ノリは私の2こ下でツッパリ君やったもんね。ユウジもノリに似てきたがね」とニコニコ話すかおりさん。
 そんな怖(おそ)がいかおりさんは小林麻美に似ていて、俺たちはびんびんに憧れていた。
 「はい、お待ちどさま」
 テーブル鉄板の上に玉煎が。
 「エイちゃんはマヨいるやろ」「はははい」
 かおりさんに話しかけられると緊張する。
 ふーっ、ふーっ。特大海老煎の上に乗った目玉焼きをほおばる俺たち。
 「やっぱ旨めぇなぁ〜」「ああ、かおりの玉煎が1番旨いて」 
 そんな至福の時にとんでもない勢いで店の戸が開いた。
 「こ、ここにおったんか!」。息も絶え絶えに目をギョロつかせたヨウスケの叫びにも似た声・・・・・
 こんな時には予感が当たる。それも悪くて仕方ない予感が。きっと誰かが誰かにヤられたり、、、そしてヤられたのはきっと俺のツレで、、、そしてきっととんでもないことに発展しそうになりそうな、、、そんな予感だ。
 「どうしたんやて慌ててまって、なんぞあったんか?」
 「ハァハァ、今聞いたんやけどよー、青さん(先輩)がえらい事に・・・」
 息継ぎが出来ないヨウスケ。
 「あんた水飲んではっきりしゃべりゃー。アオキがどうしたんや?」
 水を入れたコップを持つかおりさんの顔が、お姉さんから小林麻美からヤン姉に変わっていた。
 単なる予感が真実味をおびた予兆に変わろうとしていた。
(続)




2009/10/05

団長への道 ~特別編~

2009/07/17

『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十六

2009/06/17

『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十伍

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『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十四

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『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十参

2009/02/19

『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十弐

2009/01/08

『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十一

2008/11/20

『the head・団長への道』〜一回生の章〜弐十

2008/11/11

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾九

2008/09/22

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾八

2008/09/02

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『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾四

2008/05/20

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2008/04/28

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾弐

2008/03/14

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾壱

2008/02/29

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 拾

2008/02/19

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 九

2008/01/30

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 八

2008/01/11

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 七

2007/11/28

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 六

2007/11/21

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 伍

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『the head・団長への道』〜一回生の章〜 四

2007/09/05

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 参

2007/06/07

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2007/05/23

『the head・団長への道』〜一回生の章〜 壱

2007/04/20

最終章・『伝説の武漢〜永久に・・・・・・』

2007/03/27

第7章・大乱闘(後編)

2007/03/16

第6章・大乱闘(前編)

2007/02/14

第5章・出撃

2007/02/01

第4章・安息

2007/01/12

第3章・葛藤

2006/12/15

第2章・集結

2006/12/07

『実録!武漢道(おとこみち)』著者紹介

2006/11/30

第1章・予感
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